≪最近体調は悪かないが 心臓が高鳴って参っている・・・≫


「じゃ、俺たちはそろそろお暇する。行くぞエリザベス」
『はい桂さん』

えー、と不服の声があちらこちらから上がる。
政務の間を縫うようにして、夜にふらりと真選組のもとを訪う桂を近藤さんをはじめ新選組の連中は快く迎え入れた。
少し前なら頭がくらりとする光景だな、と思う。真選組が「解散」して、革命軍として桂らと連絡しあうようになってから、あの頃目指した「新時代」のもとでもこうして桂の近くにいる。互いに「身内」とみなしてからの近藤さんと桂の互いへの影響力は凄まじいもので、いまではウチの隊士も桂んトコの党員も、もうどっちがどっちだったか忘れるほどに馴染んでたまにこうして井戸端会議やUNOに興じていたりする。いつもは近藤さんと桂が同じくらい弱くて泥仕合になるのだが、今日は何故だか調子の良い桂に近藤さんはひとり負けで、もう何度目になるかわからない再戦を申し込んでいたところだった。
難しい顔をしながら睨むように桂を見る俺を、総悟が呆れたような顔をして通り過ぎる。

『・・・でしたー。さて、10時になりましたここからは花束のように歌を贈ろうミュージック・リザーブのお時間。お相手は引き続きわたくしKANRININがお送りいたします。
このコーナーではリクエスト・ソングをあなたとあなたの大事な人のためにリザーブ。毎週10時から11時のこのお時間に心を込めてお贈りします。
ご希望の方はお名前ご記入のうえ、お相手のお名前とメッセージを添えて番組までお送りくださいね。あなたとお相手とのエピソードなどもお待ちしております。お名前はお互いがわかるようなラジオネームでも結構ですよー。
さて今週のミュージック・リザーブは武州横濱のラジオネーム土桂一線越えろさんから・・・』

あんな革命のあとだ。今更桂をどうこう警戒するつもりもないのだが、組のなかで桂から妙に距離をとっているのは今や俺1人で、ハタから見れば強情者に見えるのだろう。
だがしかし、ああしかし、ホントにそんな理由ならどんなにマシだったか!

『・・・桂さん、すみませんが野暮用を思い出したのでワタシはここで』
「おおそうか、気を付けろよ」
『そこのマヨキチが途中までお伴するそうなので』
「子供じゃあるまいし伴なぞいらんが・・・うん?土方?」
「・・・・・・煙草買いに行くついでだ」

重い足を引きずって、野ウサギくらい殺せそうな目をして玄関の桂たちに声をかけ、ようとした。実際は口をもごもごさせたまま、何だか分からなかったと思うが。
察して、助け船を出してくれたのはエリザベスで、ちらっと俺のほうを見たあとプラカードを翻してどこかへ去って行ってしまった。凄いなお前兄弟って呼んでいいか。今度是非土方スペシャルをご馳走させてほしい。

じゃり、と桂の下駄が音を鳴らす。靴が、靴が緊張してうまく履けない。
あんな革命のあとだ。今までそれどころじゃなかったが、落ち着いてしまえばあの光景が脳裡から離れないのだ。近藤さんも、真選組の誇りも、何もかも失うかもしれない絶望。そんな閉塞を吹き飛ばすような爆風に、靡く漆黒の絹糸。お伽噺のヒーローのようだったその男は女神のように美しく背筋を伸ばして、艶やかな着物で華々しく反撃の爆竹をブチ鳴らした。
あのインパクトが今更ながら強烈すぎて、有事でもなけりゃ桂の顔なんかマトモに見れやしないのだ。桂のほうはてんで飄々としてやがるくせに、万事屋、お前ここまで含めて詐欺師っつったんじゃねェだろうな。

「・・・足に怪我でもしているのか?」
「イヤ・・・」
「ふん、今更そう警戒するな。まあ貴様らには散々痛い目見せてやったからムリもないが」
「ぬかせ。テメーもさんざ痛ェ目見ただろ」


≪要は有言実行、・・・できるなら苦労はしねェ
 実際そうはいかんよ? 君を前にしちゃきっと固まってる・・・≫


何か、何か話さなければと思うのに出てくるのは手汗ばかりで、ただじゃりじゃりと速足で歩いていく。のを、決してこちらに歩調を合わせない桂は後ろからゆったりと付いてきて、それでたまにバツの悪い顔で桂が追いつくのを待ったりする。
待っている間にも、月明かりに照らされた桂の姿は相変わらずしゃんと背筋が伸びていて、あの日の姿とふと重なって苦しくなる。刷り込みなのか何なのか、もうあの一撃で俺の脳ミソは桂を女神のように美しい何かだとしか認識できなくなっている。大丈夫かおい。いや明らかに大丈夫なんかじゃない。


≪肝心なトコでいつだって 臆病の虫が鳴きだして
 一歩前に踏み出せずに 情けないぜ、何してんだ!
 伝わんないさどうせムリだって 決めつけているその前に
 カッコばっか気にしなくていいや・・・この思いを止めるな!≫


その圧倒的な希望にひれ伏したことが何度あったことか。あの美しい瞳を、手を、何度請うたことか。理想通りに桂の手の甲に従順な口づけができるのは夢の中ばかりで、そんなことまでした日の昼間には俺はまた桂をじろりと睨みつけている。
いや、しかし、今日は、今日こそは。
女々しいようだが焚きつけるようにラジオで曲を流してきたのだ。俺も桂も聞いちゃいないが、街のどこかで今日こそ何とかしろと俺の背中を蹴っとばす。


≪追い求めた理想を現実に変えていくんだ
 ビビるんじゃねーぞ エンジン全開だ!≫


『今週のミュージック・リザーブは住所秘密のラジオネームマヨラ13さんから、同じく住所秘密の革命家さんへ・・・えーとメッセージは、
「付き合ってください」
おおーっときました!!きましたよー自分で言えってハナシですね!
ではマヨラ13さんから革命家さんへ、ミュージック・リザーブはスキマスイッチで【ガラナ】。』

「・・・かた、土方」
「あ!?」
「自販機。貴様煙草買いに来たんだろう」
「あ、ああ」
「何だ、最近どうも気を張っていると思ったが・・・どうかしたのか?」
「い、いや、何でもねェ」
「・・・そうか。では気を付けて帰れよ」
「あ、おい」
「うん?」
「・・・っ・・・・・・」

口が、口の中がカラカラだ。体温という体温が顔に集まったかと思うほど頭が熱い。
目の奥で火花のようにパチパチと閃光が散ってもう真っ白だ。手も足も動かない。
一丁前にコワいじゃねェか、畜生!

「・・・言いたいことが無いなら俺はもう行くぞ」


≪肝心なことが何かって、心臓の奥に問いただして
 一歩前に踏み出したら 今しかないぜ、叫ぶんだ!
 最高潮の恋は熱く実って君の中で弾けんだ
 カッコなんかもうどうだっていいや・・・この想いを止めるな!≫


「・・・桂!!」


≪この想いよ、負けるな!≫




















































人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -