≪走る、走る、男、走る!
 必死こいて追いかける
 明日という名の女神に 恋しちまったみたいに・・・≫


『・・・でしたー。さて、10時になりましたここからは花束のように歌を贈ろうミュージック・リザーブのお時間。お相手は引き続きわたくしKANRININがお送りいたします。
このコーナーではリクエスト・ソングをあなたとあなたの大事な人のためにリザーブ。毎週10時から11時のこのお時間に心を込めてお贈りします。
ご希望の方はお名前ご記入のうえ、お相手のお名前を添えて番組までお送りくださいね。お名前はお互いがわかるようなラジオネームでも結構ですよー。
さて今週のミュージック・リザーブは加州森の里の沖桂地に満ちよさんから・・・』

『さてお次のリザーブは、住所秘密のラジオネームドSカイザーさんから住所不定のテロリストさんへ・・・ラジオネームですよねー?
ではドSカイザーさんからテロリストさんへ、ミュージック・リザーブは怒髪天で【男、走る!】。』

きょとん、とした目を見合わせて、我に返ったようにまたチッと背けた。

その日銀時は逃げた飼い猫を探す依頼を受けていて、泥だらけになって何とか見つけたと思えばこんな時間だったのだ。食べはぐれた夕食をとろうとして、夜は飲み屋になっているいつもの定食屋に行けば煙草くさい黒服がカウンターで犬のエサをかきこんでいる。最悪だ。
土方はその日強盗事件の犯人が民家に籠城したので、昼から現場にかかりきりだった。何とか犯人を引きずり出して逮捕し、帰ってみれば食堂は閉まっていて、開いている店でいつものマヨ丼を食べていたら泥に汚れた天パがひとつ向こうの席でおはぎの成り損ないを頼んでいる。厄日だ。
いつもの定食屋にはいつものようにラジオが流れていて、幸いだとばかりに2人してラジオに耳を傾けながら丼をかきこんでいる。血圧上げるようなものをわざわざ相手にするほどの元気はないのだ。
しかしラジオから流れてきたDJが何だか知ったようなラジオネームを読み上げた気がして、2人はふと顔を見合わせた。何せ、こちとらやっと2年後設定の世界から舞い戻って、ドSなバカイザーから解放された記憶もまだ新しかったので。

そういえば、と土方が思い出す。最近総悟が買い換えたipud、アイツ結構気に入ってたな。ラジオが聴けていいとかいって。
そういえば、と銀時も思い出す。最近沖田がいつにも増してヅラ追いかけてたな。モブのオッサンが追いつけないとかいって泣いてた。
で?最近ラジオをよく聴いてる沖田くんが必死こいて追いかけてる桂に何か言いたいって?


≪男まっしぐら まるで夢見る乙女さ
 どうかしてやがる 胸のトキメキなんてよゥ
 今ドキ流行んねェ こんな一途な馬鹿野郎
 イイトシこいてもフられ続けっぱなしさ≫


「・・・意外と職務熱心なのアイツ」
「イヤ・・・え?テロリストって比喩じゃねェのか」
「エロテロリストってこと?確かにヅラはああ見えてエロいけど」
「比喩ならマジモンのテロリストに同定しなくていいだろって言いてェんだよ俺は。確かに桂のことは率先して追いかけてっけどよ・・・」
「じゃァ沖田がまっしぐらな住所不定のテロリストさんに心当たりでもあんの」
「・・・・・・テロリストなんざ大体住所不定だろ」
「オーイ比喩どこいった」


≪男まっしぐら 飯も喉を通らねェ
 日に日に想いは熱く切なくなっちまう
 もうちょっとなのに! またもするり逃げられた
 ここまでおいでと夢が手を振ってやがる≫


「・・・比喩ねェ」
「イヤ違うからコレ絶対違うから桂のことなんかじゃないから」


≪いつか いつの日か いつの日かモノにする
 ギュッと抱き締めて 絶対に離さねェ≫


「・・・・・・比喩ねェ」
「オイ総悟ォォォオオオ!!?」

ドオオオオン!!

土方の慟哭に応えるように、近くで爆撃音が鳴り響いた。
爆撃とは穏やかな話ではない。けれど銀時と土方がバッと扉のほうに目を向けただけで席を立たなかったのは、その音が聞き覚えのあるものだったからだ。聞き覚えのある、バズーカの。そしてこちらへやってくるようなふたつの足音。

「おおっ銀時奇遇だな!貴様それ夕食かもっと野菜もとりなさいよもォ〜!」

だだだだだ・・・と足音が近づいて、スパンッ!と店の扉が開く。飛び込んできた長い黒髪の影に土方が立ち上がる隙もなく、だーん!と土方の背中を踏んづけて桂は店の勝手口から飛び出ていった。

「テメッ桂・・・!」

ぶぎゅるっ!

「あ、土方さんいたんですかィ。人の通り道にアタマ出さねーでくだせぇよもォ〜」

机に叩きつけられた背中を上げたと思えばすぐに第2陣が土方の頭を容赦なく踏んづけて勝手口へ駆けていく。店の外でまたドォォォン!と派手な音がした。
随分軽やかな足取りじゃねーか。丼に顔を突っ込んだまま、どこか楽しそうな沖田の口調を思い出す。マヨネーズがいつもよりもすっぱい。気がする。

「土方くんよォ」
「何だよ」
「・・・アイツちゃんと目ェ付けてろよ」
「・・・・・・そーね・・・・・・」


≪走る、走る、男、走る!
 必死こいて追いかける
 明日という名の女神に恋しちまったみたいに
 恋しちまったみたいに・・・≫


遠くの夜空に、またドォォォン、と青春の狼煙が上がった。






















































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