何だか大体こうなってしまう。
坂本が地球に立ち寄ったタイミングで桂がちょうどつかまることは少なくて、また銀時の居所が知れてからは坂本が銀時を訪ねることは恒例となっていた。銀時が坂本の財布目当てで酒を飲みに誘うものだから、地球に来ると大体銀時と酔いつぶれるまで飲んでいる。今日などひどくて、今から銀時を引っ張ってすまいるに行こうと思っていたのに、珍しく朝からの依頼で1日中動き回っていた銀時はいつもの1/3の酒量で机に伏して寝てしまった。せめて桂がいてくれたら銀時を任せられたのに。

「金時ィそりゃないぜよ!起きとうせー」
「ん〜〜〜Zzz・・・」
「アッハッハーよう寝とるのう・・・おりょぅちゃ〜〜ん・・・」

昔だったらキャバクラに行くといえばどんなに疲れていても食い付いてきたのに。もうトシじゃと銀時が聞いたら青筋たてて否定しそうなことを考えながら、ヨダレを垂らして寝ている銀時の頭をぼんやり眺めている。まあ、居酒屋の机で突っ伏して意識を飛ばしているだけだ。そうそう何時間も寝てしまうようなものではない。2,30分放っておけば起きるだろうと、坂本は諦めてハイボールを追加注文した。

『・・・でしたー。さて、10時になりましたここからは花束のように歌を贈ろうミュージック・リザーブのお時間。お相手は引き続きわたくしKANRININがお送りいたします。
このコーナーではリクエスト・ソングをあなたとあなたの大事な人のためにリザーブ。毎週10時から11時のこのお時間に心を込めてお贈りします。
ご希望の方はお名前ご記入のうえ、お相手のお名前を添えて番組までお送りくださいね。お名前はお互いがわかるようなラジオネームでも結構ですよー。
さて今週のミュージック・リザーブは遠州浜松の銀桂結婚しろさんから・・・』

有線放送ならまだしも、時間がわかってしまうようなラジオ番組など居酒屋は敬遠すると思っていたのだが。この時間に流してくるのはむしろ客を早く帰したいのかと邪推してしまうが、だからといって周りの酔っ払い客が帰る気配は微塵もない。土曜の夜はこれからなのだ。
そういえば、前回ここに来たときもこの店でこのラジオを聴いたな、と、不意に坂本は思い出す。そうだ、ちょうどこの時間にミュージック・リザーブというのをやっていて、おりょうに贈ろうかとか考えたのだ。やめとけサムいと銀時に一蹴されたのが酔っぱらった脳みそに冷たくて、おんしはそういうジョーネツが足りんのじゃとひとしきり論争になった覚えがある。史上最高にくだらない論争だった。酔っ払い同士の戯言ともいう。
銀時の場合は相手が桂だ。甘い雰囲気を作るとか、口説きやすいムードがどうとか、そういうことに心を砕く相手ではないといえばそれまでだ。しかしあのときの銀時の恋愛に対するやさぐれた物言いの数々は愛に生きる坂本にとって論争レベルだったのだ。おんしホントにヅラを好いちゅうがか、と何度か言ったような気もする。それで乾いた喉を潤すためにジョッキが何杯も干されていったのだから、店側がこれを狙っていたなら大成功だ。そんなギャンブルなことをするほどロックな店にも見えないが。

『さてお次のリザーブは、新宿かぶき町のラジオネーム銀子さんから住所不定の電波バカさんへ・・・仲良しさんなんですかねー?あっ幼馴染って書いてありますね。いいですねーこういう遠慮のない関係みたいなの。
それではラジオネーム銀子さんから電波バカさんへ、ミュージック・リザーブは怒髪天で【ラブソングを歌わない男】。』

「・・・おん?」

目の前で突っ伏す男に目を落とす。ぐおおと相変わらず起きる気配のない白髪頭は、確か新宿かぶき町に住んでいて金時と呼んでいるがほんとは銀で、住所不定で電波バカの幼馴染がいる。そしてこの男は以前この店で、ラブソングをラジオで贈るなんてサムいと言い放ち坂本に向かってやさぐれた恋愛観をスパーキングしてきた男だ。
そして人一倍素直でない男だ。


≪不器用を絵に描いたこの俺にギターが弾けたって そよ風みたいにさりげない歌などムリだろなァ
 何しろ単刀直入でムードのない野郎 スイッチひとつで熱くなる瞬間湯沸かし器≫


「・・・いやそこまで言ってないじゃろ・・・」

ジョーネツが足りんくらいのことは言ったかもしれないが。だがまあ、銀時は割と器用なほうで、女相手にムードを作れといえばソツなく作るが、桂に対しては確かに不器用だしムードもない。しょっちゅう熱くなってどついてもいる。銀時がギターを弾いて桂にラブソングを歌うさまを想像したら、似合わな過ぎて笑えた。きっとギターが1本あったら、桂が変てこな歌詞とともにギターを弾いてそれに銀時が茶々を入れるのだろう。そして結局2人して変な歌を歌っているのだ。そういう2人だった。器用さもムードもすっとばして楽しそうにはしゃいでいる。


≪胸が締め付けられる夜だって 飲んで寝ちまいやがれコンチクショー!
 愛だとか恋だなんて 人前で歌えるかよ!
 バカ言うなィ!照れ隠しの裏に
 嗚呼 男の純情・・・≫


切実な叫びに、坂本は思わずブハッとハイボールを噴いた。
なんじゃ金時、ヅラに愛情疑われでもしたんか。それともヅラへの愛情を誰かに疑われでもしたか。ワシか。大丈夫じゃ今度はおんしの援護にまわってやるぜよ。
銀時に情熱がないなどと詰ったことをすっかり忘れて、坂本は目の前でイビキをかいて寝ているこの男が急に可愛く見えてきた。男は永遠の少年とは確かによく言ったものだ。惚れた相手を前にしては、青々しい思春期がいつまでも続いている。

「金時ぃー」
「・・・んー・・・んがっ・・・お?」
「おお、やっと起きたがか」
「あー悪ィ寝てた?どんくらい・・・」
「なに、ほんのちっくとじゃ」


≪愛だとか恋だなんて 人前で歌えるかよ!
 バカ言うなィ!照れ隠しの裏に
 嗚呼 男の純情・・・≫


「しっかしほどほど素直にならんと、じきにワシがとっちゃうぜよ」
「はあ?何のハナシしてんのお前・・・あっその唐揚げ俺んだからとるなよ」


















































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