『・・・でしたー。さて、10時になりましたここからは花束のように歌を贈ろうミュージック・リザーブのお時間。お相手は引き続きわたくしKANRININがお送りいたします。
このコーナーではリクエスト・ソングをあなたとあなたの大事な人のためにリザーブ。毎週10時から11時のこのお時間に心を込めてお贈りします。
ご希望の方はお名前ご記入のうえ、お相手のお名前を添えて番組までお送りくださいね。お名前はお互いがわかるようなラジオネームでも結構ですよー。
さて今週のミュージック・リザーブは加州森の里の沖桂地に満ちよさんから・・・』

春はあけぼの。なんて言い出した奴はセンスが悪い。
鼻歌でも歌いだしてしまいそうな春の宵だった。
もちろん、実際は大人しく足音さえ殺して夜道を歩いている。
少し前を行く後姿は、ひとり。長い黒髪、白い肌、気の強そうなタレ目、几帳面に伸びた背筋。ターゲット同定。傍にいつもの白いオバQ、なし。


≪マイクチェック1,2,アーアーアー 始めましょうか
 これから言うのは独白だから ここだけだから≫


攘夷党党首の夜は遅い。
ケバケバしいかぶき町の喧噪を抜けて舗装もままならない下町へ。そのしなやかな若竹の背を見失わないように、気配を消して、距離をあけつつ付いていく。
損な見た目だよなァと思う。低俗なネオンの下じゃ浮くし、かといって月明かりの城下町を歩いてりゃ画になりすぎて目立つだろう。変装の名人、なんて言われてるのも半分くらいはシュミなんだろうが、やっぱりそれ以上に必要に迫られるものがあったに違いない。こんなふうにストーカーまがいのことをする奴もいるのだし。

仕事熱心かと言われたら割と熱心なほうだと思うが、土方さんあたりには鼻で笑われるだろう。だけどこんなふうにして夜遅くまでテロリストの追跡なんてしてるわけだし、してるわけだし・・・いや、やっぱこれァ半分くらいプライベート。

『さてお次のリザーブは、住所秘密のラジオネームドSカイザーさんから住所不定のテロリストさんへ・・・ラジオネームですよねー?
ではドSカイザーさんからテロリストさんへ、ミュージック・リザーブは吉澤嘉代子で【未成年の主張】。』

古い民家の窓が開け放されていて、そこからラジオが流れてくる。
22時を過ぎたというのに宵っぱりな江戸っ子たちの明かりは消えない。隣の部屋のラジオだのテレビだの、色んな音の入り混じる騒々しい長屋。野良犬の遠吠え。2階から垂れ下がる朝顔の蔓。
他人のプライベートが丸裸になっているようなこんな場所じゃ、黒い隊服も窮屈になってくる。だから、なんて言い訳をするほどもう幼くはないけど。


≪マイクチェック1,2,ピーピーピー 自主規制音
 今だけ禁止を廃止にさせて お好きにさせて
 3,2,・・・1!≫


夜風に靡く滑らかな黒髪。機嫌が良さそうに鼻歌なぞ歌って、上品に薄い唇が笑んでいる。
こちらの背筋も伸びるようなしゃんとした背中をして、そのくせいつも突っ込んで行きたくなるような挑発的な目つきをする。もう最近追いかけすぎて後姿も覚えてしまったし、しまいには夢にも見るし、しかも夢だと何かちょっと仲良かったりなんかして、
・・・あーあ、


≪わたし あなたが あなたが あなたが
 す、す、す・・・≫


くっと桂が細路地に入りこみ、古い民家の前で足を止めた。
鍵を開け、中に入っていく。居間の電気が付いたのが窓から知れた。
桂が玄関を閉めたのを確認して扉の前へ。チャッ、とバズーカを構え。


≪夢で逢えたってしょうがないでしょう
 電線を綱渡り あなたの部屋の窓を コン、コン、≫


ドオオオオン!!

居間ひとつ平気で吹っ飛ばす程度の威力はあった筈なのだが。爆炎が消えないうちに、桂はぴょいっと知れた足取りで掛け出していった。もとよりこんなもので仕留められる相手なら苦労していない。その足を追いかけてもひとつドォォン。
しばらく追えば桂は定食屋の扉を開け、客の背中を踏んづけて窓からまた出て行った。見ればいつもの犬のエサをかきこんでいる土方さんだったのでそのまま頭を踏んづけて窓からまた追いかけた。
夜風に乗って、距離をあけたまま声が届く。桂はひときわ高い屋根の上に飛び乗って、満月を背にこちらを見下ろしてニヤリと笑った。

「・・・ふ、」
「なんでェ」
「随分しつこく付け回してくると思えば」
「分かってて大人しく隠れ家潰されたのかィ。随分悠長じゃねーか」
「なに、他の目的でもあるかと思ったのさ」
「テメーの首とる以外に何の目的があるってんでェ」
「ふん、貴様自分の顔を鏡で見てみろ」
「!」
「こういうのは私情を挟むとモロバレだぞう、童」

ドォン!

反射的に打ち鳴らした一発を桂は余裕の微笑で軽々と避けて、するりと住宅街の暗闇へと消えていった。
残されたのは頭に血の上った小童ひとり。ふん、と小馬鹿にしたような去り際の微笑みを目に焼き付けて。
気付いていたのか。いつから?恐らくはもう、最初からだ。
知っていて見せたのか。あの無防備な背中を。ご機嫌な足取りを。吊り上がる唇を。調子っぱずれの鼻歌を。熱に浮かされたようなこの視線を受けて?
知っていて告げたのか。お前の目は仕事のそれじゃないと。
なァ、じゃあ、「他の目的」であの扉ノックしてたら、どうしてたってんでェ。


≪わたし あなたが あなたが あなたが
 す、す、す・・・≫


「・・・とんでもねーのに惚れちまった」





















































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