「「「おはようございます桂さん!!」」」
「うん、おはよう」

そうして桂は上座に座るのだが、特にそこで有益な会話がなされるわけではない。


【あまやかにあつく、 2】


「御用改めである!てめーら神妙にお縄につけーい」
「ちっ、では今日はこれで解散!」

腐裸衣出−に載ってるような芸能ゴシップの話題に終始していた攘夷党朝の会合は、総悟の一声で解散した。あいつら解散させがてら桂とランニングすんのが朝の日課なんでさぁと総悟が毎日出かけていくのは知っていた。毎日同じ場所でやってんなら張り込むとか何とか策の練りようがあると思うのだが、楽しそうに一番隊を引き連れていくものだから言い出せずにいたのだ。
トッシー、ついてこいと桂が俺を呼ぶ。警察相手に逃げる勝手を教えてくれようとしているらしい。

「おや新入りですかい。ムカつくツラしてやがらァそーれィ」

どかーんどかーんちゅどぉぉおんっ!!

総悟テメエ!!!
明らかに桂ではなく俺を狙って撃ってきやがる。ほええええ、とか情けない声をあげつつ桂についていくついで、ニヤニヤしている総悟をギラリと睨み付けた。
とんとん、と往来を走っているうち、隊士のひとりが俺たちを見つけた。俺を見て躊躇いがちに突っ込んでくる。

「はわわわわ、か、桂たんっ」

桂を守るようなそぶりで突っ込んできた隊士をとりあえずみねうちで転ばせると、桂が俺の腕を引いた。ついていくと桂の白いペットが車を用意して待っていて、俺は桂に引き上げられるようにしてトラックの荷台に座る。腰を下ろすのが早いかぐんっと車は急発進して、駆け付けた総悟たちが遠くなっていくのが見えた。

「・・・と、まあこんなふうにちょろまかすのだ」
「こんなことを毎日やってるなんて・・・僕桂さんの足を引っ張って」
「何をいう。沖田の集中砲火を逃げ切ったな、さっきも隊士をひとり見事にあしらった。お前はなかなか腕がたつな」
「そ、そんなこと・・・あれはただ夢中で」
「丁度いい。トッシー、お前は暫く俺と一緒にいるがいい。エリザベスに頼みごとをしていてな、その間手すきになるから」
「ぼぼぼ僕が桂さんと!?こっ光栄でござる」

桂は身内に向ける優しい目で俺を褒めたあと、予想外の提案をした。これは、本当に願ってもない光栄だ。エリザベスという白いオバQが留守にするというのは件の要人暗殺の情報収集だろうか。
桂の傍で集まってくる情報を仕入れることができるというのだから有難い。この捜査、意外とアッサリ済んじまうんじゃねぇのか。



それからというもの、俺はおはようからおやすみまで一日中桂と行動を共にした。
希望的観測は結局アッサリと挫かれて、一週間は桂と一緒にバイトに出たり、変装用の小道具を見に行ったり、キャッチボールしたりしていた。オイほんとにコイツは攘夷党の党首か?攘夷活動いっこもしてねーぞ!!
結局集まるのは朝のあのぐだぐだしい井戸端会議程度で統率も何もあったものではないし、あれから白いのはたまに桂に寄ってくるが、何しろ求人雑誌とか評判の和菓子とか持ってくるものだから。お前は桂に一体何を頼まれてんだ。

「どうしたトッシー。夏バテか?ちゃんと食わねば身体がもたんぞ」

求人雑誌でバイトを探す桂を見て、どうしたもんかと頭を抱える俺のもとにA定食が運ばれてくる。
俺に食えという割に、こいつは食わない。いや一応一人前は食べているのだが、成人男性の、しかもあれだけ運動量のある男の摂取カロリーではない。
もそもそと飯をかきこみながら、ちらりと箸を動かす桂を盗み見る。
華奢な体躯。飄々とした態度。強力にリーダーシップをとっていると思いきや、ぐだぐだとよくわからない遊びに興じたりする。
コレか?ホントにコレなのか?攘夷党の党首ってホントにこんなんで務まってんのか?
攘夷組織における桂の求心力は抜群だ。市井の評価も高いと聞く。攘夷の暁、狂乱の貴公子―――、煌びやかな称号と目の前の男とはいまいち結びつかない。まあ、「攘夷のカリスマ」「白夜叉」が今やあの天パだと思えば、意外とそんなもんなのかもしれないが。
貴公子然とした美しいツラと女顔負けの艶やかな黒髪だけのお飾りではないことは、刃を合わせてきた身として知っている。本気を出したこいつは俺が敵わないだろう相手だと認めているからこそ、語弊を恐れずにいえば、理想を壊さないでほしい。ちゃんと党首やっててくれ。俺が惨めじゃねーか。



午後、桂がバイトをしている間に遣いをひとつ頼まれて(といっても切れた電球の買い出しだ)、往来を歩いていたら声をかけられた。
紹介を受けるために近づいた党員だ。確か鈴木とか佐藤とか山田とか。どうだ生活に慣れたか、桂さんは突拍子もないとこがあるから一日中一緒にいるのは大変だろうなどと気遣ってくれる。そうなんだよ聞いてくれるか、と肩を抱きたくなったところをこらえてこの際聞いてみたかったことをぶつけてみた。

「お陰様で何とかやってるでござる。でもあの、桂氏は思ってた以上にその・・・フリーダムで」
「まあ、うん」
「すっ鈴木(仮)氏はそのぉ〜・・・桂氏のどこに惹かれて、この党に」
「(仮)って何だ思い出せないなら聞けよその中途半端な気遣い逆に辛いよ。
そうだなあ桂さんは飄々としているようだが、あれで目が離せないだろう。やるぞ、と言うときの桂さんはなんていうか、こうちょうど日の出のようでさ、あの眩しい背中を見たら誰でも付いていきたくなっちゃうんだよ」
「・・・まあ、色んな意味で目は離せないけども」
「何しろついていって大丈夫、と思わせる頭と腕があるからな。何手も先を読んで上手に事態を回収してくる。冷静で堅実で合理的なのにエンターテイナーばりに大胆。手段のなかに目的を組み込んでプラスアルファの地点に着地するもんだから理解が追い付かない。でも凡人が理解できないものに惹かれるのは摂理だろ」

鈴木はひとしきり桂の魅力を熱弁して去っていった。
付いていきたくなる朝日のような。冷静で合理的で大胆。それらはいずれも桂の称号に似つかわしいものではあったが、一週間隣で暮らした桂が朝日のようかと言われると、どうか。むしろ南中した真夏の太陽だ。木陰に避難したくなる。
張り込んでいれば桂はいつか違う顔を見せるだろうか。その気高い党首の顔を。
首を捻って党員の後ろ姿を見送りながら、何を買うんだっけと遣いの用事を思い出している。














『普段は静かなお前が随分喋ったな』
「エリザベスさん・・・ダメですね、こういうの緊張してしまって」
『自然にしていてくれ、鈴木(仮)』
「・・・田中です・・・」









 




































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