あなたの頁を捲る指、
口の端だけのわらいかた
あなたの襦袢にかかる髪、
小首を傾げるその仕草

思い出すだに狂おしく、
落ちた火種はわたしのなかでじゅくじゅくと、


【あまやかにあつく、】



「じゃあ頼んだぞトシ。くれぐれも気をつけろよ」

隣で総悟がつまらなそうにしている。
今朝、幕府のお偉方から真選組に警護と捜査の命令が下った。将軍の御側御用取次である甲岡氏の・・・要は幕府の要人の暗殺計画が、攘夷浪士によって企てられているとの情報が入ったからだ。幕府の上層が信用した情報であり確からしいというので、計画の全貌の捜査及び阻止を目的として対テロ特殊対策部隊真選組が動くことになった。
幕府の耳に入り、また警戒されるほどの情報となると、攘夷の名を使って悪さをしたいだけのチンピラや末端の小さな攘夷組織の計画ではないだろう。そしてそれなりの規模の計画であれば、攘夷最大派閥である桂の耳に入っていないはずはない。首謀しているか、穏健派として事態の回収にまわるかは読めないが、まず桂が無関係でいることはなく、情報が集まっているはずだ。
そういうことで、まずは桂の攘夷党に潜入して暗殺計画の情報を集めるべきとの運びになった。
問題は、人選だ。
本来ならば山崎の職務内容なのだが、生憎山崎は以前桂の組織に潜入しようとして失敗している。それにもしや桂が動くとなれば、場合によっては桂と一戦交えなければならない。そこで、少なくとも桂を足止めできる程度には腕がたつ奴ということになる。まあ、俺か総悟か終だ。
大将放り込むワケにはいかないから、近藤さんは除外だ。
内偵外に出すワケにもいかないから、終も除外だ。
相手が桂と聞いて、総悟が行くと言い出したのだが。

「小回りきくほうが便利ですぜ。若いほうが何かと聞きやすいってこともあるしよう」
「オメーは関心にまかせて突っ走るから結局目立つんだよ」
「じゃァ何ですかィ、土方さんは潜入中個性を消して禁煙禁マヨ禁ヲタできるってんですか。録画頼まれてもいいですけど全部世界ドゥルルン滞在記で埋めますぜ」
「いい番組じゃねーか!!大体オタクなのは俺じゃねェ!」


まあ、そんな具合で、消去法で俺が行くことになった。





「うん君か、ようこそ我が攘夷党へ。肘方トッシーというのか?変わった名だな。ハーフか?」

そうして俺は桂の攘夷党に潜入した。
山崎が単身で突っ込んで玉砕しているので、今回は党員のひとりを洗って近づき、攘夷活動に興味があるふうを装って紹介というかたちで入党した。
桂は件の党員を介してアッサリと俺に会い、入党を許可した。正直ネチネチと身元を調べられ、山崎がボロを出したという入党試験とやらを受けさせられると思って色々と準備してきたのだが、肩すかしだ。

「最近は攘夷といっても気骨のある若者が少なくてなあ。君はいい目をしている。うん。是非攘夷活動に新風を送り込んでくれ」

内心はどうか知らんが、桂は俺を微塵も疑っていないように見える。確かに俺は名前のみならず振る舞いもトッシーのそれに似せて、攘夷志士の荒々しい男らしさに憧れている若干気弱なオタク青年を装った。そして一時期の攘夷戦争の熱狂から一転、犯罪者扱いされるアウトロー集団としての攘夷浪士にわざわざなりたいという青年もそうそういないだろう。人材不足は深刻なはずだ。

「我らは理想を成し遂げ、天人の支配を覆し真に侍の国となるべくこの身を攘夷に投じるのだ。トッシー、ともに日本の夜明けを見るぞ。その道決して安きものではないが、付いてこられるな」
「・・・はい」
「返事が小さい!そんなことで攘夷志士が務まると思うのかァァ!!」
「ハイィィ!!」

だがしかし、お上に反対派閥、反目した高杉の一派、敵には事欠かない桂の組織がこんなに人物調査が甘くていいのか?あるいは、党員と話をつけた時点で既に秘密裡に調査されていたのだろうか。まあ、それは虚偽の経歴だ。それならばむしろ今入党が許可されているのはその目を欺いたからに他ならない。そうだといいが。
なにぶん、報告を受けていた山崎のときとの対応の差に戸惑う。

「桂・・・さん。あの、僕、憧れの桂さんの攘夷党に入党できて嬉しいでござる。でもあの、以前入党には面接とか筆記試験があるとか聞いたことがあって、僕はいいのかなって」
「筆記試験?そんなのあったかな・・・あっ一回だけやったな、うん。
真選組のカスが生意気に潜入捜査なぞしてきたものだから、ちょっと揶揄うためにでたらめをやってみただけだ。まあお遊びだ。あのころちょっとヒマでなあ」
「へ、へぇ〜・・・さすが桂さんんんん」

殺す、コイツ絶対殺す!!
ビキビキッ!とさっそく額に青筋を作り、ひきつる頬を無理に上げて笑顔ようなものを作ってみせた。くそっ、やっぱり血圧上げずにコイツと会話できる気がしねェ。
トッシーってご両親の国はどちらだ?とかなんとかのうのうと歩く桂の無駄に艶やかなロン毛とぴんと伸びた背筋を知られぬように睨み付け、俺の潜入捜査はぐらぐらと煮え立つ心のまま不穏にスタートした。


















『桂さん、いいんですか』
「うん?ああアレな。手間が省けて丁度いい。暫く頼むぞエリザベス」
『はい』









 





































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