≪あのとき優しくできたなら 
 皮肉だけど 憎んで
 さよなら ありがと≫


『・・・でしたー。さて、10時になりましたここからは花束のように歌を贈ろうミュージック・リザーブのお時間。お相手は引き続きわたくしKANRININがお送りいたします。
このコーナーではリクエスト・ソングをあなたとあなたの大事な人のためにリザーブ。毎週10時から11時のこのお時間に心を込めてお贈りします。
ご希望の方はお名前ご記入のうえ、お相手のお名前を添えて番組までお送りくださいね。お名前はお互いがわかるようなラジオネームでも結構ですよー。
さて今週のミュージック・リザーブは加州森の里の案ずるより萌えるが易し高桂さんから・・・』
『さてお次のリザーブは、住所不定の黒い獣さんから同郷の電波バカさんへ・・・、ミュージック・リザーブは一青窈で【さよなら ありがと】。』


最近、昔の夢をよく見るようになった。
「昔の夢」だけでは少し語弊があるだろう。正しく言うなら、昔の桂の夢だ。
何か特別な思い出があった訳ではない。心に残る出来事があったわけでも。
しかし自発的に思い出せる記憶以上に、無意識で脳は色んな映像を記録していたらしい。はじまりは、まだ先生や銀時に会う前の桂で、今になって見るとやっぱり随分幼かった。
高杉、高杉と世話を焼きに来るところはよくよく覚えがある。こいつ、こんなに目が大きかったか。
時に睫毛が触れるんじゃないかというほど近距離で、聞いているのか、と、怒った。
懐かしい高い声は大体俺の名前か文句ばかりだったが、最後に必ず苦笑するように口角を上げる。ああその癖、こんな小せぇ頃からあったのか。こんなに近くで見ていたはずなのにな。
きっとそんなもの見つけられなかったんだ。あの時俺は、桂の世話焼きに何でもない風な顔をするのに必死で。


≪また少しだけ君のこと 無断で好きになったけど
 指折りした夢路愛し
 今でもきっと 僕、の方が≫


次の日、桂は少し育っている。
先生のところに来たあたりの頃だ。起きろ、貴様らは寝汚いと早朝に起こしてくる。見た目はあまり変わらないが、変わったことといえば、貴様「ら」と複数形になったことと、笑顔が少し増えたことだ。
次の日、また少し育っている。銀時とめちゃくちゃに打ち合いをして、体中青あざだらけになった腕を、まったく貴様らはと手当をしている。目が、少し大人びた。
睫毛は、もう、触れない。
次の日、高杉、と、耳元で不安げな声がした。
また少し育った桂は、高杉、先生は・・・、と、喉の奥を詰まらせた。ああ先生が連れて行かれた頃の桂だ。このころから、また少し笑顔が減った。
耳の形が綺麗だと気づいた。この頃の横顔ばかり、よく覚えているらしい。
次の日、大分記憶に近い桂の顔になった。長い髪を一つに結わえて、戦場を駆ける。高杉、と、この頃もうすっかり声変わりが終わって、覚えのある声になる。気が立っているのは俺のほうなのだろう。宥めるように桂が腕を伸ばす。
しなやかで美しい腕だと気づいた。
次の日、高杉、高杉と縋るような声がした。
この頃から視界が狭くなっている。桂は俺の首に腕を回して泣いている。
肩ごしに桂の背を支える自分の両腕が見える。清らかな背中だと気づいた。
次の日、高杉、と静かに呼ぶ声がした。戦のころの装束を捨て、和服を几帳面に着ている。
行くのか。と、言った。流した黒髪がさらりと靡いた。こいつの髪、この頃にはもうこんなに伸びていたのか。
悲しみに耐えるような居ずまいが悲愴で美しいと知った。

次の日、街の雑踏のなか、白い化け物の隣に桂がいた。
高杉、と、声はしなかった。当然だ、気づいていない。
笑顔が少し戻っている。凛と伸びた後ろ姿が綺麗だ。
・・・これは、昨日の桂の姿だ。


≪また明日が言えなくても 綺麗に笑う君がいる
 指切りした日々 添い星
 今でもきっと 僕、の方が≫


桂の綺麗な場所を知るたび、やがて気づく。
桂の顔はだんだん遠くなっていく。
それに気づいて踏み込んでいれば、あるいは、と、考えかけてやめた。お互い頑固だ、いずれはこうなっていた。
次に桂を綺麗だと思うのはどこだ。消えてしまったその影を美しいと思うのかもしれない。
それでもいい。
積み重ねた記憶のなかで桂は睫毛の触れそうな距離のまま、高杉、と呼ぶ。


≪今ならきっと、僕の方が・・・≫































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