「もう行くのか」
「おん。・・・なんじゃーそげな顔するんじゃなか!行けなくなってしまうろー」
「元々こんな顔だ。さっさと行け」

蓮蓬の宇宙船を見送り、レギュラーエリザベスの件で銀時たちにぼこぼこにされた桂が回復するまで何だかんだと居ついてしまった。陸奥が無意識に改造していた快臨丸はいつの間にかもとのフォルムに戻っていて、桂はカワイかったのにと少し残念がっている。
宇宙と繋がるターミナル、テロの標的にもってこいだからと厳重警備が敷かれるそこに、宇宙キャプテンになりすました現役テロリストがお見送り。なかなか刺激的でいい。
母艦のなかで誰かがラジオを聴いているのが洩れてきた。またしばらく地球のラジオも聴けなくなるからと名残を惜しんでいるのだろう。ポッドキャストでは配信してもらえないような、とりとめのない地域型のラジオ番組だった。

『・・・でしたー。さて、10時になりましたここからは花束のように歌を贈ろうミュージック・リザーブのお時間。お相手は引き続きわたくしKANRININがお送りいたします。
このコーナーではリクエスト・ソングをあなたとあなたの大事な人のためにリザーブ。毎週10時から11時のこのお時間に心を込めてお贈りします。
ご希望の方はお名前ご記入のうえ、お相手のお名前を添えて番組までお送りくださいね。お互いがわかるようなラジオネームでも結構ですよー。
さて今週のミュージック・リザーブは陸前仙臺の坂桂増えろさんから・・・』

音は聞こえるが、何を言っているのかは聞き取れない。その程度のノイズなど気にならないというように、整備完了のアナウンスが降ってきた。
桂が手をふって一歩下がる。

『さてお次のリザーブは・・・あらっ宇宙からですね!宇宙のラジオネーム大人のオモチャさかもっさんから住所不定の自爆装置ヅラさんへ、ミュージック・リザーブはスピッツで【8823】。』

「ではな。宇宙でエリザベス達に会ったら、よろしく」
「そうじゃな。・・・ヅラ、寂しいがか」
「うん?そうだな・・・、やっぱり声の大きいのがいるのに慣れるとな」

エリザベスが去ったことを寂しいかと聞いたつもりが、思いがけず嬉しい言葉が返ってきた。折角なので聞き直すことはしなかった。
後ろ髪をひかれる思い、というのはこういうことか。不意に可愛らしい本音を覗かされればこちらだってついつい、やっぱもうちょっといようかな、なんて言ってしまいそうになる。
けれどそれを振り払って宇宙へ飛び立っていくのだ。昔も、今も。

「まあ、しばらくは静かに過ごせるということだ」
「可愛いことを言ったと思えばいけずを言いゆう。ワシがおらんでもおんし静かにしちょりゃせんじゃろ」
「ふふん、幸いこの国もまだ手の打ちようは色々あるからな」
「おん。・・・おんしは苦労はしゆうが、不幸にはならん。気張りぃ」
「そうか・・・お前に言われると何だかそんな気がするな、根拠もなく」
「根拠?ワシがおんしを不幸にすると思うがかえ」
「・・・うん、それもそうか」

一呼吸置いて、桂は照れくさそうに微笑んだ。
船長、そろそろ、と声がする。
さあさっさと行け、とさっきまでの柔らかさが嘘のように、桂が背中を蹴り飛ばした。


≪誰よりも速く駆け抜け LOVEと絶望の果てに 届け
 君を自由にできるのは 宇宙でただ1人だけ≫


窓から手をふる桂が遠くなる。
見慣れた星々の瞬きが海になるころ、愛しい影像はおろかあんなに大きなターミナルでさえ見えなくなっていた。
けれどいつも見えている。地球に灯る美しい理想の炎だけは、彼のシルエットのままに、このサングラス越しにも何より眩しく。
あの日地球を放ってこられたのは他でもない彼と、それから彼の傍にあの男たちがいたからだ。
桂はいつかこの国を変える。この男に人生を投資して惜しくは無いと、思わせる力がある。
あの戦争は泥仕合だったが、それでも彼らに会えてよかった。出会えたからこそ行くべき道が見えたのだ。
銀時や高杉も巻き込んで、桂は改革を成し遂げるだろう。何だかんだ言いながらあの3人の縁は最後まで切れやしないだろうから。
けれどいつか桂がこの国の社会制度をひっくり返したとき、それだけでは足りない。海千山千の天人たちと渡り合っていかねばならないのだから、やはり地球の外から彼をサポートできる存在が必要だ。地球の枠にとどまらず、宇宙の様々な星と信頼関係を結んできた存在が。地球の友を増やすために、その橋渡しのできる存在が。桂が理想を成し遂げる最後の最後に役に立てるのは、きっとそういう人材だ。
どこまでだって行ってやる。どんな縁だって繋げてやる。
己を投資して、最後に桂の手をとるのは自分だ。この手はそれに相応しい。
だからどれだけ後ろ髪をひかれても宇宙へ行くのだ。彼が存分に羽ばたける未来のために。


≪荒れ狂う波に揺られて 2人トロピコの街を目指せ
 君を不幸にできるのは 宇宙でただ1人だけ≫


なみなみ注いだ友情と愛情のカップの中に、ひと匙の寂しさをすっかり溶かして桂は背中を押してくれる。いつかは笑って、いつかは憎まれ口をたたきながら。
辛辣な言葉も信頼の裏返しだ。桂は時々そういう甘え方をする。言ってみれば子猫が爪を出してじゃれついてくるようなもので、それも可愛いと思うのだが、何でもなく突き放す仕草の端に見える僅かの寂しさが、こちらの寂しさも巧妙に誘いだす。まるで何かを試されているような気分だ。
けれど、ああけれどけれど。

(仕事より恋をとるような男はおんし好かんじゃろ)



≪今は振り向かずハヤブサ クズと呼ばれても笑う
 そして君を自由にできるのは 宇宙でただ1人だけ≫


「・・・・・・早うおいで」


≪今は振り向かず君と・・・≫






































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