ェー、お寒い中お運びでございまして、有難く御礼申し上げます。
手前ェ沖田総悟と発しまして、これァ手前が初代でございまして。まァ、どッからも襲名してねェんで当たり前なんですけど。名乗ったモン勝ちですからね、こういうのァ。ええ。
エー今日は【連れ合い】というお話をね、ええ、一席、お付き合い願います。


日本という国ァ昔ッから女権が弱ェなんて言われてましてね、家じゃ旦那ァ尻に敷けるが外じゃ敷かれるってンで、それでもここンところやっと男女平等てんですか、流行ってきたようでして。
最近は「ご主人様」「奥様」「旦那さん」「お嫁さん」が男女の上下関係を決めちまってるッてんで、「パートナー」とか言うらしいですねェ。
パーぁトナぁー、ねェ。どーゥも横文字は座りが悪ィや。日本語じゃ何かねえのかってなことになると、「連れ合い」が当たりますかね。加賀のほうじゃァ、「添い合い」とも言うらしいですが。
連れ合い、ツレ、ってェと一般的には同行者ですね。どこそこってェ具体的な場所に一緒に行く、という。じゃァ夫婦モンは何処ィ連れてんだってことンなると、これは人生の途とでも言うんですか。連れ合いってのァ「触れ合い」でもあるんだそうで、手に手をとって生きていこうじゃねェかとそういう、・・・ま、それァ今考えたんですけども。ポッと出したにしちゃァ、上手ェこと言ったでしょう?
とにかくそういう、浄土の蓮の上まで一緒に行こうッてんですから相手探しが大変ンなる。この娘は好かないあの娘もいやだ、誰ならいいんだ、お前がいい・・・なんてェ都都逸が最近作られるくれェですから。
そりゃァ、モトから馴染みならいいんですがね、ドコのダレとも知らねェあの娘に一目惚れ、てなこともたまァに。合縁奇縁たァよく言いますがメンドくさいんでね、手ェ伸ばして掴める範囲の女にしねェと思うんですが、何せ浄土の蓮の上までもあの娘と所帯持ちたいてェ雨蛙みてェな野郎だから、一日中五月蠅く鳴きやがン・・・。


新宿はかぶき町、スナックお登勢の二階の間借り人は万事屋銀ちゃんてェ看板掲げた何でも屋。何でも屋ってくれェだから、犯罪以外は何でもやる。ま、ここの旦那ァ犯罪もしますけどね。住居侵入、器物損壊、傷害・・・コトによっちゃァ内乱未遂。殺しはギリギリ正当防衛ってトコロ・・・それがまァ魚心あれば水心ってンでお上やら警察やらからお目溢しされ・・・ああザキちょっとそこの土方さん摘み出してくんな。五月蠅くってなんねェ。
その日の依頼は人探し。穏やかだが何でも街で一目惚れした娘を探して欲しいってムチャ言いやがる。

「名前も分かんねー女じゃ流石にウチでもどうしようも・・・どんな女なの」
「背は、高かったんです。万事屋さんと同じかちょいと低いくらい・・・かぶき町2丁目のね、あのどん詰まりのあたりで見た女なんで水商売かもしれません。若い小娘じゃぁない、いい大人の女です」
「ツラは」
「そりゃ・・・もう何ていうか、水のしたたるようなね」
「ミカン潰したようなツラってこと?物好きだねアンタも」
「冗談言っちゃいけない。水も滴るいい女ってヤツです。タレ目にきゅっと上がった眉が涼やかな美人でね、色白で、ゆるく結った黒髪がまた見事でね、みどりの黒髪ってああいうのを言うんでしょうなあ・・・もう一目見たときから忘れられず、寝ても覚めても、部屋の掛け軸も茶を淹れる急須も何もかもあの女に見えてくる始末で、・・・困っちまって」
「オイオイまさか俺のこともその女に見えてんじゃねーだろーな」
「いや、万事屋さんの顔は急須に見えます」

まァこんな調子で、女の容姿をベタ褒めするがこれ以上のことがわかんない。しかも惚れた男の目ですからね、8割方ァ引いて見なきゃなんない。旦那もまァ並程度の容姿と定めてその辺りィ探すが、そんな情報じゃァなかなかこれという女を特定できない。も、嫌ンなっちゃって、馴染みの団子屋の外座敷ィ腰かけてね、こう、どう言って依頼主なだめすかすかァ考えてた。
そこへ通りがかったのが、真選組の隊士で沖田という男。こいつが旦那とは馴染みでね、割合とよく懐いてた。

「あり、旦那だ。どうしました難しい顔して、そうやって目と眉くっついてりゃ男前なのになァ」
「この気だるげなカンジが売りなんだよ銀さんは。お前こそ珍しいねこんなトコにいんの」
「さっきまで桂ァ追ってたんですがね、女装なんてしてたんで見つけるの遅れたら逃げられちまった。もうクタクタでさァ1本ください」
「毎回御苦労さん。おばちゃーんみたらし1皿追加で。勘定お前もちな。俺も朝から名前もわかんねー女探させられてクタクタなんだよ」
「ツラもわかんねーんですかい」
「あー、確かミカン潰したようなとか何とか」
「・・・そりゃ気の毒ですねィ」
「大体テメーのつがいなんざテメーで探せってんだ。そこへいくとアレだね、オメーらは偉いよな、ちゃんと地の果てまで自分の足でしつっっこく追っかけてるもんな。アレおたくの局長の教えかなんか?」
「俺ァ別に自分のつがい追っかけてるワケじゃねェんですけどね。近藤さんは確かに身体ァ張って逃げられても張られても挫けない心を俺たちに教えてくれてまさァ」
「天職だな」
「じき転職しそうな勢いですがねェ。まァ警察とストーカーなんてどうきの違い程度のモンで」
「ああ恋心から追っかけるかどうかみたいな?」
「いいえ、こっちゃァ走らされたり斬ったり斬られたり動悸も早くなるってなモンですがねェ、あっちァ惚れた女に何ィされてももうご褒美と肚ァくくってやがるから、落ち着いたモンでさァ」
「・・・くだんねー言葉遊びだな」
「言葉遊びくれェできる心の余裕がないとやってられませんぜ」

腰かけがあってそこに茶と団子なんてあっちゃァ、もう休憩モードってなモンで。2人して他愛もない話なんかしながら団子齧ってた。そしたら向かいの薬種問屋に入っていく女が見える。これがまた滅法いい女。すっと背ィの高い気丈な美人でね、目元は優しげなんだけどきゅっと眉尻が上がって何とも涼しげ。水商売みたいな化粧をしてるのがアレだけど地もいいのは火ィ見るより明らかでいやがる。今時珍しい長い黒髪がまた綺麗で、たっぷりと垂らしてこう・・・肩の下くらいでちょいと結って。色白でね、まァ色の白いなァ七難隠すってんで、色白の女にゃァ少なくとも7つヤベーところがあるなんて言われたりもしますけどね。この女のヤバいのは7つどころじゃねェン。
まず女じゃねェ。アラサーのオッサンが女装してる。そっからテロリスト。しかも攘夷党なんて地球最大規模のテロリストのトップ張ってやがる。あと・・・あと何かありましたっけ?え?人の話聞かねーのと電波なのと馬鹿なのと変なペット連れてる?これで6つかィ、旦那頼みますぜアンタが一番付き合い長ェんだから。惚れた目で見りゃあばたもえくぼってヤツかねェ・・・は?肉球が好きでチャリでサファリパーク行って死にかけた?そりゃ馬鹿に含みまさァ。
まァとにかくそんな女、もとい男が向かいにすぅっと入ってった。それェ見た瞬間沖田の目がスィッと鋭くなってね。そりゃこの男がさっきまで追いかけてたのは女装したアラサーのオッサンで、テロリストの桂なんだから。逃げられたと思ったら今度ァアッチからまた近づいてきたんだから。アレが旦那の馴染み、しかも浅からぬ馴染みだなんてェのは承知だがこっちも仕事なんでね。
旦那もンなこたァとっくに呑み込んでっからやめろなんて野暮ァ言ったことがない。まァ、ホントにいざひっ捕らえて桂が打ち首ンなるなんてことになったら、どうするか知りませんけどね。


「・・・旦那、すみませんが俺ァコレで。屯所までの連れ合いがやっと来たみてえだ」
「ん?・・・ああアレね、いいね屯所までなら近場で」
「旦那ァどちらまで?」
「・・・俺とアイツは地獄の釜ン中までだよ」
「へぇ、おカマでもありゃァ水のしたたるようですぜ。それを地獄たァ贅沢な」
「ああ、ミカン潰したにしちゃキレーなツラしてんだろ」















一目惚れのお嬢さんを探すネタは落語「崇徳院」から借りてきました。




















































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