※10000HIT御礼企画、リクエスト【銀桂前提終桂】





「ははあ・・・貴様、さてはラブレターでも書いていたな?」
『!!!?』



【イパネマの男へ】


敵対関係が消滅してからこっち、桂はたまに真選組屯所に顔を出す。
友好関係にある組織とのコミュニケーションは大切だ。かつて敵対関係にありわだかまりが多少なりとも残る組織同士であれば、なおさらのこと。
その日もふらりと屯所に立ち寄った桂は、斉藤が何やら悩んでいるようだと近藤から相談を受けた。内輪のことは身内でするのがいいだろうと最初は渋っていた桂だったが、あの手この手で聞いても何でもないの一点張りだと近藤に泣きつかれて結局折れた。組織に関わる秘密を抱えたのならば幹部連中に隠し立てはしないだろう。斉藤自身が真選組を裏切らないことは何より桂が証明してみせたことである。プライベートな悩みだろうから放っておけ子供じゃあるまい、大方ウンコの切れが悪いとかだろうと桂は近藤を宥めたのだが、どうにも深刻そうだというので仕方が無かった。

そうして斉藤の部屋の前まで来てみれば、お誂え向きに斉藤は在室していて、書き物をしているらしい影が障子越しに伺える。ので、

スパンッ!

『!?』

お悩み相談室桂小太郎は渋っていた割には勢いよく斉藤の部屋の障子を開けたのである。
突然の来客に驚いた斉藤はべりっと今まで書き物をしていた紙を破って咄嗟に背中に隠した。これはいけない。いかにも何か疚しいことをしていますと言わんばかりだ。
桂は斉藤の隠した紙を取り上げようとはしなかった。そんなことをする必要はなかったのだ。机の上に残った用紙のほうに目を落とす。
肌理の細かい上質な和紙、端には控えめに水彩の紫陽花が咲いている。明らかに、個人が書きなぐるメモ用紙の扱いではない。手紙を書いていることは明らかだった。そしてそれは心配する仲間にも何でもないと言わざるを得ない、誰にも見られたくない内容なのだ。そしてこんなに愛らしい用紙を使う配慮をしたい相手なのだ。答えはおのずとひとつである。そして冒頭の台詞に戻る。

「そうかそうか、なに、貴様も人の子だったというわけか。少し安心したぞ。どんな娘だ?」
『いやその、あの、これは』
「分かっている、みなまで言うな。貴様そんなに悩んで手紙のひとつも出せんでいるのだろう。1人で煮詰まっていても筆は進まん、この俺がナウでヤングな口説き文句を一緒に考えてやろう」
『・・・それはちょっと』
「そうだな、本来他人に知られたいことではなかろう。でも俺は近藤に斉藤が悩んでるみたいだって相談されてるからな。言うぞ。言っちゃうぞ貴様の恋煩い。多分沖田あたりが釣れるだろう、結局あのへんに首突っ込まれて根掘り葉掘り聞かれた挙句代筆とかされるぞ」
『・・・・・・』
「俺がこの部屋を出るまでに書き上げてしまうことだ。そうすれば代筆の余地もなかろう」

突然私室に押し入られてラブレターなどという、プライベート極まりない色恋沙汰に首を突っ込まれる。しかもバラすと脅される。イヤだろうなーというのは子供でもわかる。俺はこの男に嫌われることしかしていないな、と桂は心の中で苦笑した。
とはいえ、桂がここで斉藤の悩みを聞けなかったと言えば、まだ悩み続ける斉藤に近藤たちは焦れるだろう。で、結局こうして突撃して同じ結果になるに違いない。狭い組織内、人の噂は風より早い。惚れた女のことなど職場いっぱいに知られるよりは、ここで悩み自体を解消して、あとは部外者の自分がひとつ心の裡に秘めておけばいいだけだ、と桂は思っていた。
またそれを抜きにしても、ちょっと興味を惹かれたのだ。
恋はままならぬものだ。それゆえにロマンだ。人生の無駄ばかり詰め込んだようなナリをしているくせに、それを知らぬ者を随分味気ないものにさせる。結局、人の滋味はまさにその人生の無駄によってこそ涵養され、それを凝縮したような恋などというものはいつの時代も人々にきらきらしく映るのだ。
無口で何を考えているかわからぬ男と思っていたが、恋に頭を悩ませ翻弄されるなど。屍でできた沈黙の部隊、仲間の血に塗れて無言を貫くその姿は、ともすれば人の情などというものから縁遠い得体の知れぬところがあった。それがこんなにあからさまに戸惑うような素振りを見せて、ままならぬ自身の心に助けを求めるように。なんだ、結構カワイイところがあるではないか。
そうして、桂小太郎による斉藤終ラブレター指南が始まったのである。


「恋文も手紙だ、ある程度の定型というものがある。その女子とは何度か手紙のやりとりをしているのか?え?ない?会話もあんまりしてない?じゃあまず「突然のお手紙失礼します」からだな。それから自己紹介。簡単でいいぞ、ペラペラ自分語りする男はペラペラだと思われるからな」
「そうしたらまずはその女子を見初めたきっかけだな。向こうは知らんことが多いだろう」

桂の声につられるように、斉藤はいつものノートを取り出した。最初こそ戸惑いを見せていた斉藤だったが、肚をくくるのは早いのか、諦めるのが早いのか、意気揚々と「指南」を始める桂に割と大人しく従う気があるらしい。
どこで出会ったんだ、と近所の少年の初恋を応援するお兄さんのような気安さで桂は訊ねる。こういう仲間内で当然あるようなくだらないはしゃぎ合いが、斉藤の場合は無かったのだ。職務上隊士たちとあまり仲良くなり過ぎることもできないのかもしれないが、桂がするなら問題はないだろう。今となっては。

『始めは、道場で・・・。私と試合をしたのです。とても真っ直ぐな、綺麗な太刀筋で』
「貴様と!?・・・よほどの女子だな」
『社交的なひとで、私に対しても遠慮なく話しかけてきてくれました』
「貴様に!?・・・肝は据わっているということか」
『それ以来街でみかけ次第追いかけるのですが、逃げられてしまって』
「貴様が!?・・・忍者なのかその女子は。さっさんに聞いてみるか」

友達になりたいと、最初はそう思っていたのです。
もはや昔を懐かしむような目に、桂は戸惑いつつもその人間味にますます興を惹かれた。友人を求める感情が斉藤のなかにあったことにも、それが恋に変わったことを自覚できることにも。これは、斉藤の人間像を随分改めねばなるまい。

「どんな女子なのだ」
『・・・真っ直ぐなような、すごく捻じ曲がっているような・・・。何本ものいとをぐりぐり捻じって紙縒って、結果的に一本の真っ直ぐで頑丈な縄になっているような人です』
「どんな人だそれは!」

まあ、そんなフクザツな女子ではその魅力を簡潔にまとめろというのも難しいのだろう。悩むのもわかる、ような気がしないでもない。もっとわかりやすいところ、外見はどうだと聞くと、綺麗な長い黒髪で、不敵な笑みの素敵な涼やかな美人でとこう言うものだからますます桂は混乱した。華やかな話題の大好きなこの江戸だ。そんなに美人で手練れならば余程評判が立ちそうだがと呟けば、はいとても評判です色んな意味でと言う。そんな女子の話は聞いたことがないが、俺の情報網もまだまだということかと桂は内心少し落ち込んだ。

「ま、まあ、恋文などいかに相手のいいところを見つけてそこに惚れたと言うかだからな。そこまで惚れているならば全部書け。そして好きです付き合ってくださいだ。これだけで十分だ」
『・・・、けれどその人にはもう恋人がいるようで』
「何!?・・・まあそんなに良い女子だというならば不思議でもないか。しかし「いるようで」というのは曖昧だな。確かな情報なのか」
『いいえ。・・・けれど仲のいい男性がいます。たまに話をするようになったのですが、・・・幼馴染だと聞きました。もう熟知しているからと』
「む、むう・・・。幼馴染とはまたベタだな。しかも熟知とは・・・貴様、その男に牽制されているではないか!」
『やっぱり?』
「当たり前だ!反撃のひとつもしてやれば良かったんだ。そんなに好いている女子を恋人だと公言もできぬような男では掠め取られても文句は言えんくらい言ってやれ」
『しかし私も、告白ひとつできないおしゃまな男子です』
「だからするんだろうが。いいか、断言してやるがその男とお前の惚れた女子は付き合っておらん。付き合っているならば牽制にしても俺の女だと言えるからな。熟知程度のことしか言えんというのはつまり、その男も女子に惚れているがそこまでだということだ。あるいは惚れあっているかもしれんが、決定打はまだということだ。
チャンスだぞ斉藤、まだ貴様らはイーブンだ。先制攻撃をしかけてやれ。真正面から告白して手にいれるならば誰も文句は言えまい」

がしっと斉藤の肩を抱いて熱弁する桂の頭に、何故か銀髪の彼の幼馴染の顔が浮かんでは消えて、桂はいよいよ肩を抱く手に力を込めた。自分たちのことを考えれば、別に決定打などあってもなくても似たようなものではあるが、男女の仲はそうもいくまい。
俺たちだって、銀時が女子と恋愛や結婚をするという未来がありうるのだ。その時銀時を引き留める術はない。何より銀時の幸せを願っている身だ、引き留める気も、ない。銀時に対して、斉藤のように真正面からぶつかってくる女子がいるなら、それも仕方あるまいと思っている。
掠めた思考を知ってか知らずか、斉藤は何かを探るように近づいた桂の顔をじっと眺めている。

『・・・・・・』
「何だ、煮え切らん奴だな。女子がその男に惚れているなら心変わりさせてみせるだけの気概を持て。まさか貴様・・・」

すっと桂の目が細められる。何かを探るようなその目つきは鋭利で、何もかも見透かされそうだ。そしてその琥珀色の瞳の中に閉じ込めてもらえたら、と、斉藤は静かに息を呑んだ。
がしかし。

「まさか貴様も人妻好きか!?わかるぞ斉藤、アレは自分のものにはならんところが燃えるからな。しかも人のものだと思えばこそミステリアスな魅力は否応にも増し妄想も膨らむというものだ!絶対振り向かんと分かってるのをぐらぐらさせるのがイイのか!?」
『イヤそういうのじゃないです』

「なんだ。自分のものにならないから良い、というものではないのか」
『それは、できるなら、自分のものにしたい』
「・・・フン、言えるではないか。ではこの後に及んで煮え切らぬでもあるまい。できるなら、ではない。「してみせる」のだ」
『・・・』
「ガツンといっとけ。俺が言っても何だが、貴様はなかなかいい男だと思うぞ」
『私が告白したら、せめて揺らいでくれるでしょうか』
「当たり前だ。自信を持て」
『良かった』
「うん?」

暫く無言で桂を見ていた斉藤は、やがて決意の一言を桂に見せた。ノートを持つ斉藤の瞳は悩みなど吹っ切れた、肚を括った静かな目だ。これならば何も心配する必要はあるまい。
若人よ、グッドラック。親指をつき出す桂の微笑みに向けて、斉藤は“ノートを”めくり、指南のとおりに書き出した。


『突然のお手紙失礼します。
私は都内で治安維持組織真選組の三番隊隊長をしております、斉藤終と申します。
・・・いいえ、下書きじゃない。でも折角あなたに似合うと思って選んだ用紙だから、二通目からはちゃんとそれで手紙を書きます。

始めてあなたがこの屯所に乗り込んできた時から、その太刀筋に惹かれていました。
思えば、私の一目惚れだったのです。
私を謀殺する意図とはいえ、あなたが私に話しかけてくれたこと、とても嬉しかった。友達になりたいと、思っていました。
あなたが万事屋さんと仲が良いのは知っています。万事屋さんがあなたを好きでいることも。万事屋さんから牽制を受けたとき、私は私であなたへの気持ちが恋に変わってしまっていることに気づいたのですから、皮肉なことです。
でも、万事屋さんと私はまだイーブンなんでしょ。真正面から掠め取るので、万事屋さんにも文句は言わせません。

・・・そんな「えっ」みたいな顔をしないで。
私は江戸で評判の想い人が女性だなんて一言も言っていない。
あなたの強い瞳が好きです。真っ直ぐな背中が好きです。私を呼んでくれた声が好きです。美しい太刀筋が好きです。何を考えてるのかわからないところも好きです。外見だって髪も顔も身体も全部好きです。付き合ってください。』

『あなたも万事屋さんのことを好きなら、私の気持ちなど迷惑だと思って、ずっと踏ん切りがつかなかったけれど、』

『アドバイスしてくれてありがとう桂さん。おかげで決意が固まりました。』






『あなたを私のものに「してみせる」。』






















































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