10000HIT御礼企画・リクエスト【桂さんが嫉妬する銀桂・甘め】


酔っ払い2人に絡まれている。
いや、乱入者はもともとこちらのほうだったのだ。河川敷の屋台の横を通り過ぎたら見慣れた背中がふたつ赤い暖簾の向こうで揺れていた。
丸まった背中と、すっと伸びた背筋。これがホームレスとホームを襲撃される指名手配犯のツーショットだと思えばなかなかシュールだ。
もっとちゃんとした店だったらあるいは遠慮したかもしれない。けれどこんな赤提灯がところどころ破れて暖簾も煤けているようなボロ屋台ではどうせ流れのままに呑んでいるのだろうとアタリをつけて、ぬっ、と向かい合っている顔と顔の間にもひとつ顔を追加させたのだ。そして今に至る。

「ちょっと銀さーん、こないだゴールデン街で女と腕組んでたじゃん、あの娘どーしたの」
「何ィィィそれはマジでか長谷川さん!銀時貴様俺というものがありながら!!」
「はぁ?ンなイイ思いしてねーよここんとこ・・・アレッゴールデン街?いつ?」
「1週間くらい前。ちょっとヅラっち、コレヤベーよ身に覚えがあるカンジだよ。やるねー銀さん結構オッパイ大きい女だったじゃん」
「む、むぅっ・・・」
「ヅラっち!胸寄せんのやめて何か物悲しいから!ツラはアンタの圧勝だったから!!」

左からこのこの〜と小突かれ、右から銀時貴様ァァァとぐりぐり押しくらまんじゅうされ、この酔っ払いどもの真ん中に割り込んだことを心底後悔した。桂は比較的酔ってないと思っていたが、結構キている。こいつは酔うとたまに人を巻き込んで冗談劇場をおっ始めるのだ。
1週間前ゴールデン街で、という情報の端切れからその女というのが浮気調査の依頼人だったことを思い出したが、そんな面白味のない答えは誰も聞いちゃくれないだろう。ゴールデン街のラブホ通りで腕も組まずに歩く男女が不自然なのと同じように、夜更けの屋台で酒を飲みながら冗談に対してノリの悪い答えをする男もまた不自然だ。

「何だよヅラァ、あのオンナとはちょっとした遊びだよ。オメーだけだから俺」
「出たァァァ!アヒルの羽根より軽い銀さんの口説き文句!」
「男のカラダは上半身と下半身別のイキモノなんだって、ココロはちゃァんとオメーに預けてっから。なァ?」
「ふん、どうせ他の女子にも言っているのだろう。B55.5,W99.9,H88.8のむちむちボディに鼻の下を伸ばしおって」
「バストとウエスト逆ゥゥウウウ!俺ァそんな不二子認めねーからな!!」
「で、銀さんその遊びのオンナとはどーだったの」
「そりゃァもうアハンがウフンでイヤンバカンだよ」
「貴様ァ舌の根も乾かぬうちから!!見損なったぞ銀時!俺はこんなにお前に一途だというのに!」
「だからさァ俺言ったじゃんヅラっち、悪い男だよって。もう俺にしとけよ」
「長谷川さん・・・いや!いいや!もう一度だけ信じさせてくれッ」
「ヅラっち・・・アンタって奴ァ・・・!」

ガシッ!と人の背中越しに酒臭い男がふたりしっかと抱き合う。経験則上、大体このへんがひと区切りのはずだ。
案の定、間もなく離れていった2人の腕はそのままひーひー笑いながら猪口に伸び焼き鳥に伸び、その後は今までの寸劇など忘れたと言わんばかりに近所の鯛焼き屋の鯛が店のおじさんと喧嘩して海に逃げ込んだことなどについて話している。
暫くとりとめもない話をして飲んでいた。鯛焼きをどこから食べるかで大激論したりして。昔ッから思っていたが、桂の「背ビレから」は絶対おかしい。けれどあいつは「串刺しの魚とか背中から齧るだろう。それと同じだ」と言って譲らないのだ。
しかし所詮は酔っ払い談義、段々争点が逸れていく。何について話してたんだか3人ともが忘れたころ、桂が俺はそろそろ、と言って帰っていった。そしていつものマダオ2人が取り残される。

「銀さんいいの?ヅラっち帰っちゃったけど」
「イヤむしろ何で俺がヅラと一緒に帰んないといけないの」
「だってさっきヅラっちヤキモチ焼いちゃってたじゃない」
「あーアイツのアレは毎回ヒネリがねーんだよな。大体本来ヤキモチ焼かない奴なのにキャラ作りにムリがあんだよ。設定ミスなの気づいてねーのアイツは」
「え?ヅラっちって妬かないの?・・・イヤこないださぁ人から嫉妬を上手く隠す方法教えてもらったんだけど」
「ほー。まあ嫉妬とか重ーいとかいう奴いるからなァ」
「なんかアレって逆に素直に出しちゃうほうがわかんないらしいね。冗談のテンションで言っちゃえば本音が混じってても気づかれないんだってさ。酒が入ってりゃなおさら」
「あーまーそりゃそーかもね。・・・ん?」
「まあ、ソレ教えてくれたのヅラっちなんだけどね」
「・・・えっ?」
「行ったほうがいいんじゃないかなー銀さん」








こいつの隠れ家の建て付けが良かったことなんかない。
その方が踏み込みにくくなるだろうから桂にとっては好都合なのだろうが、毎回毎回ガタピシゴトンとやらねばならない善良な訪問者の身にもなってほしいというものだ。
と、言ったら、善良な訪問者は家主がガタピシゴトンとやるのを待つのだ、と言われそうなので実際文句を言ったことはないのだが。

「銀時?長谷川さんはどうした」
「あ?あー・・・なんか明日バイトあるって」
「アレッマジでか。今日も明日もその日暮らしとか言って泣いてたのに・・・気分転換にと思ったが、酒など誘って悪かったかな」
「えっ、あー・・・イヤそのアレだよ、酒は飲みてーモンだろ。バイトとかイチイチ言うの野暮だと思ったんだよ長谷川さんの粋な心遣いだよ」
「そうか。ではまた休みに誘うとしよう」

あの白いのはいなかった。今日は月曜日で、江蓮という蓮蓬が抜けたシフトの穴を桂は特に埋めていないらしい。永久欠番だ、といって懐かしげに夜空を見上げていたことがあった。
月曜の夜にひとりになる桂が、長谷川さんを誘って飲みに行く。今日が初めてではないのだろう。俺に黙って嫉妬していることをそっと洩らすくらいには、何度も。

「・・・オマエ長谷川さんとは仲良いよね」
「何だ銀時、ヤキモチか」
「ヤキモチやいたのはお前なんだろ」
「・・・そうだったな」

ここで長谷川さんに聞いたことを暴き立てるのは簡単だ。お前の冗談がマジだって知ってる、そんなの隠さなくていいと本音をぶつけりゃ楽だろう。
事実俺はちょっと嬉しかった。互いに特別大事に想っていることを知っていてなお、桂は嫉妬を俺に見せない。俺が遊郭で女を抱いても、町娘を口説いても、キャバクラで遊んでも。さっきのように酒の席で銀時ぃぃぃと冗談めかして拗ねるばかりで、誰も本気で妬いてるなんて思わなかった。それはこの関係が嫉妬などするに値しないと言われているようで、腹立たしくなかったといえば嘘になる。だってこちらは桂に近づく男に女に、いややっぱり男に、全方位いちいち気にしていたのだし。
そのわだかまりが解けたのだ、そりゃあ嬉しい。けれどそれを暴いてしまえば、桂はもう嫉妬を表に出せなくなる。冗談を装うことすらできずに、心の奥の澱みに沈めることしかできなくなる。隠さなくていいと言ったって、何故だかこいつは嫉妬を表に出すのが嫌らしいから聞きやしないだろう。こいつの頑固はよく知っている。
だから、布団を敷いて寝る準備をしていた桂の肩に、すり、とはなを擦り付ける。

「ヅラァ」
「ヅラじゃない桂だ。どうした銀時、お前は酔うと甘えたになるな」
「オメーだけだよ」
「、」
「・・・・・・・・・オマエだけだから、俺」

だからお前は俺に黙って嫉妬していい。素面で言えない本音と俺のほうが知っているから、それでいい。待ち望んでいたそれを、暴き立てて隠されたくはないのだ。
知らないフリくらいしてやるから、ささやかなそれを見せてくれ。

「何だ銀時、さっきの続きか?」
「・・・ウンそう」
「じゃあコレはアレなのか、ヒヨコの羽根より軽い何とやらなのか」
「バッカお前俺のコレはアレだよ、定春のウンコより重いんだから」
「それ重いのか。もっとやる気を出せやる気を」

優しさや思いやりなんかで桂を暴かないワケじゃない。ホントだよ。
桂が冗談でヤキモチ焼くなら、俺もその度に冗談で桂を口説けるだろ。お前だけだよ信じてって必死でさ。俺だって素直じゃないので、冗談の衣ができるのは万々歳だ。
そんでお互い本音で拗ねてノロケてんだから、いいトシして恥ずかしいったらねぇな。

だからそれは俺だけの秘密にしておくわ。恥ずかしいからさ。



「オメーのヤキモチなんざ可愛いモンだ。・・・ちゅーしてイイ?」
「銀時・・・。・・・だ、騙されんぞ、どうせ他のヅラにも言っているんだろう!」
「オマエ何人いんの!?」

















【love sceneが嗤う】


















































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