「ヅラって、銀ちゃんの」

どこが好きアルか。と、神楽が唐突に聞いてきた。

「・・・はぁ?」
「だって銀ちゃん天パだし地位も名誉もお金もないし天パだし糖尿だし面倒くさい男ヨ。モテる要素がいっこも無いネ。ヅラは銀ちゃんのドコがよくてそんなに銀ちゃん大好きアルか」
「うむ、リーダーよくぞ聞いてくれた。銀時は確かに天パだしすかんぴんだし死んだ魚のような目をして自堕落な生活を送っているがな、これでいて意外と・・・意外と・・・アレッ?」
「アレッ?じゃねェェエエエ!!なんか言え!!!」

これが、数時間前の話。


『・・・でしたー。さて、10時になりましたここからは花束のように歌を贈ろうミュージック・リザーブのお時間。お相手は引き続きわたくしKANRININがお送りいたします。
このコーナーではリクエスト・ソングをあなたとあなたの大事な人のためにリザーブ。毎週10時から11時のこのお時間に心を込めてお贈りします。
ご希望の方はお名前ご記入のうえ、お相手のお名前を添えて番組までお送りくださいね。お名前はお互いがわかるようなラジオネームでも結構ですよー。
さて今週のミュージック・リザーブは遠州浜松の銀桂結婚しろさんから・・・』

「おいヅラ、オマエ泊まってくんなら風呂・・・」
「シーッ、さっき気づいたら寝てたアル。風呂ワタシが先に入るネ」
「おー、湯流しちまっていいからな。コイツマジ寝入ってやがる」

濡れた頭もそのままに出てきたら、ソファに凭れたまま桂が眠っていた。
起きていたときはそんな素振りを見せなかったのに、余程疲れてでもいたのだろうか。いつもの眼球カッ開いてぬ゛ーぬ゛ー言う仮寝ではなく、瞼を閉じて呼吸をしているのかどうかすら怪しい沈黙を保ったガチ寝である。寝るなとは言わないが、こんなふうに眠り込むときの桂は生きているのか死んでいるのか分からなくて心臓に悪い。
冷蔵庫からキリッと冷えたいちご牛乳を取り出してキューッとイッキ。嗚呼、このために生きてる。
軽くなったパックを手にどすんと桂の隣に腰かける。ソファが沈み込んで、ぐらっと桂の身体がこちらへ傾くのに、桂は一向に起きる気配がない。
ちら、と顔を覗き込む。目が開いていれば気づかない程度に、少しクマができていた。
見慣れた寝顔。相変わらず睫毛が長い。鼻筋もすっと通っていて、薄い唇がほのかに桜色をしているのが可愛らしい。ほどよく白い肌は黒い髪によく映えて、ゆったりした毛束がわずか、頬にかかって首筋に流れているのが計算された人形のようなバランスで色気のあるコントラストをつくる。
ずっと見ていて飽きない。もうかれこれ30年弱、出会うまでの期間と離れていた期間を除いても10年以上見ていたのだが、結局飽きないままずっとそんなことを思っている。
ヅラって、銀ちゃんのどこが好きアルか。
先ほどの神楽のセリフが蘇る。本当に桂が答える気になったらそれはそれで死ぬほど恥ずかしいだろうからあれでよかったけれど、それよりあの質問が自分に向かなくて良かった。
いつから付いているのか、テレビの代わりに和室にあったはずの古いラジカセがラジオを流している。

『さてお次のリザーブは、新宿かぶき町のラジオネーム銀子さんから住所不定の電波バカさんへ。ミュージック・リザーブは斉藤和義で【君の顔が好きだ】。』


≪僕が僕であることを人に説明することの無意味さを、君の表情はいつでも教えてくれる
 言葉はいつも遠回り空回り風に乗って消えちまう
 形あるものを僕は信じる≫


桂のどこが好きかと言われたら、たぶん悩む。そんなものはないと意地を張ったり、言葉で説明できるようなモンじゃないと逃げを打ったりするだろう。
けれど最近思うのだ。見ていて飽きないってずっと思っているということは、やっぱりそれが好きなんだろうなと。
桂は綺麗だ。けれど美人は3日で飽きるというし、造形が整っているから好きなワケじゃない。もっとこう、内面というか、そういうものが現れている気がする。
美人でも性格悪いのがいれば、その逆もいる。けれど桂の場合はコイツの内面をそのままカタチにしたらこういう姿かたちになるよなぁというフォルムをしている。だからというのは少し恥ずかしいのだが。


≪君の顔が好きだ 君の髪が好きだ
 性格なんてものは僕の頭で勝手に作りあげりゃいい
 君の肩が好きだ 君の指が好きだ
 カタチあるものを僕は信じる≫


桂に夢を見ている自覚はある。その外見=内面だと信じ切っているせいで、あんまりにあんまりなことをされるとついイメージがどうとか口を出してしまうのだ。いやだってこの顔で野グソとかあんまりだろ。
いつだったか新八がゲームの中の女に惚れたとき、愛が足りないと説教したことがある。思い通りにいかないこともすべてひっくるめて背負うこと、現実すら霞ませる幻想が愛なんだとか言ったような気もする。
それを言うならこの幻想は確かに愛なんだろう。知り尽くしたコイツが思い通りじゃないのなんてそれこそ知り尽くしているのにまだ夢を見られるのだから、童貞の虚妄よりあるいはよっぽどタチが悪い。
右手で触れれば頬の柔らかさが軽く指を押し返してきて、ん、と桂が小さく身じろぎをした。


≪君の顔が好きだ 君の髪が好きだ≫


「・・・・・・銀時、俺は寝てたか」
「おーもう寝ちまえ。風呂の湯抜いちまったから」
「ああ、そうする・・・・・・」

少しばかり瞳が開いたと思えばまた閉じる。顔を見て安心したとでもいうように、目尻が柔らかく下がっていった。
桂の顔はとてもきれいだ。ずっと見ていて飽きない。
めちゃくちゃに喧嘩をしたあの日も一緒に悪戯を仕掛けて怒られたあの日も、笑い倒したあの日も泣き通したあの日も、俺と桂を繋ぐすべての記憶がこの顔に残っているからだ。色んなあの日を生きてきた桂の心が、この顔を見れば思い出せるからだ。
だからこの顔はとてもきれいだ。きっとこの先一生飽きることはないだろう。



≪君の声が好きだ 君の顔が好きだ・・・≫


























































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