inzm | ナノ

私には好きな人がいる。私と同じクラスの、音無春奈ちゃん。いつも真っ赤なメガネをかけていて、笑顔が魅力的な子だ。聞いた話だとサッカー部の鬼道先輩の妹らしい。


「なまえちゃん!」


じっとグラウンド(正確には春奈ちゃん)を見ていると、私の視線に気付いたのか春奈ちゃんが駆け寄ってきた。


「春奈ちゃん、」

「練習見に来てくれたの?」

「あ、うん」


曖昧な返事を返すと、春奈ちゃんはこっち!と私の手を取って、他のマネージャーさん達がいる場所まで引っ張った。触れている手に熱が集まる。心臓はバクバクと脈打ち、爆発寸前。

私が春奈ちゃんを好きになったのは、つい最近だ。サッカー部の練習を見ていた時にたまたま春奈ちゃんを見つけて、元気に動き回るその姿が可愛いなと思った。気付けば春奈ちゃんだけを目線で追うようになっていて、これが恋だと、気付いた。敵わない、いけない恋だとも分かっていた。


「なまえちゃん、凄いでしょ」


春奈ちゃんの声で、はっと現実に引き戻された。春奈ちゃんはサッカー部の先輩達を指差し、嬉しそうに自慢している。握られていた手は、いつの間にか離されていて、少し寂しかった。


「わぁ!豪炎寺先輩すっごい!」


無邪気に笑う春奈ちゃんの手を、私は思わず手に取った。春奈ちゃんがこちらを振り返る。


「なまえ……ちゃん?」

「えと、春奈ちゃんの手、あったかいね」


誤魔化すように言えば、春奈ちゃんはぱっと笑った。そしてぎゅうっと力強く握り返してくれる。


「なまえちゃんの手もあったかいよ」


この気持ちを伝えられないなら、せめて触れる事だけは許して。