inzm | ナノ



廊下ですれ違って、ふ、と香る彼女の匂いに胸がときめく。

目が合っただけで身体が火照る。

一言話すと世界が薔薇色に染まる。





深めの緑髪に、凛とした瞳。まるで向日葵のように微笑むは私の恋した木野秋さんその人である。


風にその艶やかな髪を靡かせ、皆をその真っ直ぐな眼差しで見つめ、ふわりとこの世の何よりも優しく微笑む。
あぁ、考えただけで口から心臓が飛び出しそうになってしまう。


いっそ私が男ならば、何に咎められる事なく思い切り木野さんを好けたのに。しかし生憎私は女の子。同性愛というやつだ。
自分でも気持ち悪いと思う。けど好きになっちゃったんだもん。仕方ないじゃん。


好き好き好き。報われなくったって、やっぱり好き。

そうして今日も気持ちだけを膨らませていく。


こんな最低で、気持ちが悪くて、弱虫な私に貴女を愛することをどうか許して。


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なまえちゃんをただの友達としてだけでじゃ見れなくなってしまったのはいつ頃からだっただろう。


いつの間にか、心が彼女を求めていた。
会いたい、見つめたい、触れたい…
その深く黒い瞳に私だけを映して欲しい。

なまえちゃんはこんな強欲で気持ちの悪い私を知らない。
純粋で、純白なのだ。まだ誰にも描かれていない、キャンバスみたいに。

それを守らなくちゃ、と同時に、私が汚してしまいたい。そう考えている私はなんて浅はかなのだろう。



もしも、もしもこんな私を知っても。なまえちゃんは笑顔で許容してくれるだろうか。
またあの鈴のように澄んだ声で、「木野さん」と呼んでくれるだろうか。
一瞬でも、あの汚れを知らない黒い瞳に、私を映してくれるだろうか。



……なんて…私って本当に馬鹿よね。




恋う
 
(報われなくとも、純情でなくとも)
 
(私達は恋をしている。)