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「多分、似てるんだと思います」

わたしと守くんは。水のように彼の名を呼ぶその人は、木野さんでも私でもないものだからいよいよ文節に惑ってしまう。びいどろの瞳が律儀にニつ。確かに、彼女だった。夢見るふうに話す人だと思った。

「同じものを見て、同じことを思って」

相槌はさして望んでいないのだろう、不思議な質感を滑らせていた。物腰、爪先、睫毛の落とす長い影。似ているだろうか。砂埃の似合わない白い肌だった。あるいは認めたくないだけかもしれない。わからない。ローファーを一瞥、日傘の持ち方など変えてみる。例え無意味なディティールであるとわかっていても。

「同じ相手を好きになる」

グラウンド端の木陰にいた。穏やかな木漏れ日にそぐわない、矢にも似た、「つまり、」もう唇が乾いている。同じ相手を。つまるところ久遠さんと彼は、お互い想い合っているということで違いないのかしら。声、いいシュートだったぜ、なんて貴方、人の気も知らないで。陽が揺れる。春の終わりに散ってしまう花びらを思い出していた。若葉とじゃれる日和は優しい。余すほどに、初恋だった。

「自慢かしら、牽制?」
「いいえ」
「知らない訳じゃないでしょう」
「ふふ。もちろん」
「貴女、私が嫌いなの」
「まさか」
「じゃあ、」
「告白です」

透き通った笑みにまばたきを忘れる。彼女は静かに息を吸う。

「守くんに負けませんから」

いたずらな明かりを目尻に引いて、久遠さんは軽々とスカートを閃かせた。華奢な後ろ姿がひどく眩しい。すん、と、俄かにくしゃみをしたく思った。太陽と似ていた。