inzm | ナノ



私には、とても大切に思っている人がいます。
それは後輩で、女の子で。私にはもったいないくらい、とびきり可愛くて素敵な子。

「なまえ先輩!」

キラキラの笑顔、眩しいけど愛しい。駆け寄ってきてくれたのがうれしくて、名前を呼び返す。

「春奈」

「先輩、私に何か用事ですか?」

「ん…春奈と、鬼道くんに」

練習が終わったら3人で話す、と約束を取り付けてもらった。それまで、私はサッカー部の練習風景をぼんやり眺める。春奈の兄、鬼道くんをときたま目に入れて。
ボールが地を滑り、皆がそれを追いかける。流れる時間はゆっくりなのに、やけに心臓が早くビートする。ああ、これはもしかしなくとも緊張しているの。
それもそうか、なんたって私は今日、お兄さんの鬼道くんから春奈を攫っていくんだもの。


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練習が終わり、皆もう帰って、私たちはさんにんぼっちになった。心臓が刻むリズムは一定、だけどさっきより速度は落ちた。

「急にごめんね、鬼道くん」

「いえ、構いませんよ。それで話とは何ですか、先輩」

ふぅ、と一呼吸おいて。伝えたいことを一気に吐き出す。

「……鬼道くん。いえ、春奈のお兄さん。私に春奈をください!!」

「「…は?」」

口をぽかんと開けた兄妹。その様子がそっくりで、可笑しい。

「なまえ先輩、あの」

「春奈が私に飽きるまで。いや、私が卒業するまででいい。春奈の時間を私にちょうだい」

「え、あの、私はずっと先輩と一緒に、いるつもりですけど。お、お兄ちゃん…」

鬼道くんは、呆然としたのちに、頭を抱えた。妹をとられたことがやはりショックだったらしい。かなりのシスコンと有名だったし。

「………まさかとは思ったが。女に、みょうじ先輩に盗られるとは…」

どうやら大打撃を与えてしまったらしい。ごめんね、鬼道くん。
春奈をもらっていきます。

女同士だから、私は2つ年上だから。いつか飽きられる日がくるとは思う。それでも、春奈が私を必要としてくれる間だけでいい、私は春奈の傍にいたいの。

「先輩がお兄ちゃんに言ってくれて、よかったです。これで晴れて公認の仲ですね!」

「ふふ、私も嬉しいよ」





(君の大事な妹を頂きます)