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※新聞部3年と1年春奈



「なまえせんぱいなまえせんぱい」
「なあに、春奈ちゃん」


春奈ちゃんはわたしの可愛い後輩だ。
いつもこうやってカメラ片手のわたしにくっついて歩いたものだ。
でも、それはもう過去のおはなし。

彼女は帝国学園サッカー部と我が校の弱小サッカー部(活動してないみたいだけど一応あったのよね)が練習試合をした次の日、退部届を持ってわたしのところへやってきた。一応副部長ということになっているわたしは、その時とても驚いた。春奈ちゃんは楽しんで活動してくれていたみたいだったのに。



春奈ちゃんがサッカー部へ入部し、マネージャーを始めて早三ヶ月。あの弱小部が中学生サッカー日本一を決める大会、フットボールフロンティアにて優勝し、宇宙人と名乗る日本人が悪事をはたらき、この雷門中を破壊した相手をサッカーで懲らしめた。そしてフットボールフロンティアの世界大会もあるのではないかとの情報が入る。



わたしは相棒のレンズを優しく拭いた。
わたしのスクープを一番に喜んでくれた可愛い後輩はもういない。
この雷門中を去る時期が刻一刻と近づいてくる。




「あら……」
「あなたに話がある」



帝国学園からの転校生、鬼道くん。
確か帝国学園のサッカー部のキャプテンだった人で、春奈ちゃんのお兄さん……だったはず。



そのまま着いて行くとそこは屋上……とかってロマンチックなはずはなく、サッカー部が練習している最中のグラウンドだった。



「鬼道くん、一体何のつもり?」
「新聞部なら知っているかもしれないが、オレは音無春奈の兄だ」



春奈ちゃんの名前が出てくるってことは、告白ではない。
用件はきっと、春奈ちゃんに関することだろう。


「あなたが新聞部の副部長だということは知っている。だが、一週間だけでいい。サッカー部のマネージャーをしてもらえないか」
「わたしが、サッカー部のマネージャーを?」




一週間という期限つきだったし、何より新聞部の部長もサッカー部のキャプテンもオーケーしているとのことだったので、マネージャーの話を受けた。




「……というわけで一週間だけお手伝いすることになりました、新聞部3年、みょうじなまえです」



鬼道くんの話によると、春奈ちゃんはわたしについて、兄である鬼道くんに相談していたらしい。それで、わたしも卒業間近だし、しばらく喋ってないので想い出づくりにもいいだろうと思ったらしいのだ。



「一週間だけど、よろしく春奈ちゃん」
「はいっ! よろしくお願いします、なまえせんぱいっ」


その一週間は楽しく、過ぎ去るように終わり、今日この日で最後だ。


「なまえせんぱい、一週間ありがとうございました」
「ううん。わたしも楽しかったし、お互いさまよ」



春奈ちゃんが急にわたしに抱き付いた。
わたし達は結構同性同士で抱き付いたり抱き付かれたりは普通なので、特に気にはしなかった。


「わたし、なまえせんぱいに言いたかったことがあるんです」


わたしがなあに、と聞くと、春奈ちゃんはまっすぐとわたしを見つめ、



「なまえせんぱいのことが、好きです」


そう言ったのだ。
すると、わたしは忘れていた記憶を取り戻したかのように、心が溢れた。
ああ、そっか。

春奈ちゃんが、新聞部を退部して、寂しかったのも。
慕ってくれる後輩がいなくなっただけじゃなかったんだ。



「わたしも春奈ちゃんに言いたいことができたわ」




新一年生として、春奈ちゃんが新聞部に入部した時から。
いつも、想い出のどこかに、春奈ちゃんの姿があった。
振り返れば、いつだってそこには、春奈ちゃんの笑顔があった。


「好きよ、春奈ちゃん」




振り返る





(お兄ちゃんに相談してみてよかったな)



2010.10.30 霜月七瀬