温かな時間
秋もすっかり深まったある日の昼下がり、午前中に干していた洗濯物を取り込んでいると、電話を知らせる音に、私は急いで家の中に戻った。


「はい、夜天です」

「あ、もしもし氷麗?」

「光?どうかしたの?」

「僕の部屋の机の上に数学のノート置いてない?」

「光の部屋の机の上?今確認してみるね」

「うん」


光の言葉に、私は電話を一度保留にすると光の部屋へと向かった。

光の部屋の扉を開け、机の上を確認すると、光が言った通り、一冊のノートが置いてあった。


「もしもし光?あったよ、数学のノート」

「やっぱり?氷麗悪いんだけどさ、それすぐに学校まで届けてくんない?次の授業で使うんだよ。今日は順番的に僕が指名される番だし…」

「うん、わかった。じゃあ、今から届けに行くね?」

「うん、ありがとう。校門の所で待ってるから」

「はーい。じゃあ、後でね?」


私はそう言うと電話を切り、急いで残りの洗濯物を取り込むと、出掛ける時はいつも持ち歩いてる鞄に携帯と財布、家の鍵、そして光のノートを入れ、玄関を潜った。

オートロック式の扉の施錠を確認すると、エレベーターで1階のエントランスまで降り、マンションの外へと出た。

家の中に居た時は然程思わなかったが、外に出ると太陽の光が当たり少し暖かく感じる。


「本当、いい天気…」


小さくそう呟いて、私は光の通っている学校までの道のりを急いだ。

暫くして学校が見えて来た頃、最早見慣れた銀髪が、先刻の電話で言っていた通り学校の入口付近の柱に背を預け、私の到着を待っていた。

その姿を見付けた瞬間、何故だか私は胸の奥が温かく感じ、先程よりも足取りが軽くなった気がした。


「光!」


私の呼び掛けに気付き、こちらを振り向いた光に、私の頬は自然と緩む。


「お待たせ。これでよかった?」

「うん、このノート。わざわざありがとね、氷麗」

「ううん。光の為だったら、私は何処にでも行くよ?」

「!…そっか」


私の言葉に一瞬驚いたような顔をするも、すぐにいつもの優しい笑みを浮かべ、光は優しく私の頭を撫でてくれた。



優しい温度



それは、大切なあなたの手の温度。
to be continued...
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