機械人形少女
「光、もう朝。起きて?学校遅刻しちゃうよ?」

「んぅ………まだ眠い…」

「ダメ。起きて?朝ごはんも出来てる」

「っ、ふぁ〜……はいはい…」


私が光に拾われて、もうすぐ2年が経つ。

もう何人目かも判らないご主人様に捨てられ、行く当ても、お金も持っていない私は、どうする事も出来ず、ただただ空から舞い落ちる真っ白な雪を眺めていた。

そんな時、偶然近くを通り掛かったらしい光に拾われた。

あの日から、光が私のご主人様。

ご主人様と呼ばないのは、本人が嫌がるから。

敬語も使っちゃダメだって、最初に言われた。

彼の嫌がる事は、絶対にしたくない。

何故そう思うのかは不思議だけれど、そう思ってしまうのだから仕方ない。


「今日の朝ごはん何?」

「今日は洋食。パンとサラダと目玉焼きとベーコンとスープ。あと、デザートにフルーツヨーグルト」


顔を洗い終え、下ろしていた髪を1つに纏めた光が寝間着姿のままリビングダイニングへとやって来た。

そんな彼の姿を確認すると、私は彼の質問に答えながら、用意していた朝食を彼の前に並べていく。

朝食を全て並べ終えた所で、私も彼の前に座り、朝食を食べる彼を眺めながら、今日も学校へ行ってしまう彼との束の間の会話を楽しむ。


「あ、そうだ。そう言えば氷麗、今日学校終わった後マネージャー達と打ち合わせあるから帰り遅くなるかも…」

「何時くらいになりそう?」

「早くて6時半、遅くて8時くらいだと思う。それ以上は星野のお腹が我慢出来ないし…」

「わかった。帰る前に一応連絡くれる?光には、温かいご飯食べて欲しいから、それに合わせてご飯の準備するね?」

「ん。ありがと、氷麗」

「ありがとうなんてそんな……機械人形(にんぎょう)の私には、これくらいしか光の役に立てないし…」


私がそう言えば、光は朝食を食べていた手を止め、突然立ち上がると、私の隣まで移動し、血の通わない、冷たい機械作りの私の体を抱きしめた。


「光…?」

「人間だろうが、機械人形だろうが関係ない。氷麗は氷麗じゃん。僕の為を思って、いつも僕に尽くして、僕を支えてくれてるのは氷麗だから…。だから、ありがとう…」

「……うん…私も、ありがとう光…」


光の言葉を理解し、私も光にお礼と共に微笑んでみせると、光は口元に小さく笑みを浮かべ、私の体を離した。


「(あれ……?)」


その瞬間、私の中(胸の奥)に存在する核…人間で言う所の心臓が、締め付けられるような感覚がして、何だか少し息苦しくなった気がした。

機械の私が、そんな事感じるはずないのに…


「…………?」

「どうかした?」


不思議に思って首を傾げていると、光がそう尋ねて来た。

しかし、自分でも原因不明のそれを何と伝えていいのか判らず、私は更に首を傾げた。

そんな私に光も首を傾げ、私が理解出来ていない事を悟ったのか、残りの朝食を綺麗に平らげた。


「ご馳走様。美味しかった」

「お粗末様です」


私は光の食べ終わった食器を持ってキッチンへと下がり、光は着替えと身支度を済ませに向かった。

キッチンに戻った私は、さっきのは一体何だったのだろうと考えながら食器を片付け、光に渡すお弁当とおやつのクッキーを包んだ。


「光、お弁当鞄の横に置いておくね?」


歯を磨いている光に向かって声を掛ければ、光は手を挙げ答えてくれた。

そんな彼の行動に自然と口元から笑みが零れる。

不思議だ。

光と出逢う前は、こんな事なかったのに…

私は光と出逢って、どうやら壊れてしまったらしい。

そりゃ、もう何百年も動き、雑な扱いされてれば故障の1つや2つあるもので…

自己修復機能が付いてたから今まで大事には至らなかったけど、もしかしたら、もうそろそろメインシステムが寿命なのかも知れない。

だからきっと、こんな不思議な事が毎日のように起こるんだ。


「(私が動かなくなるその日まで…)」


私は自分が出来る限り、精一杯大切なご主人様である光を支えようと静かに誓った。



あの方以上に大切に思う人が現れるなんて



一体、誰が想像出来た…?
to be continued...

夜天が偽物過ぎる上、時間軸、世界観全く掴めない\(^q^)/
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