彼女の存在
※夜天視点



氷麗と出逢って、もうすぐ2年が経つ。

あの日、氷麗に声を掛けたのは本当に気紛れだ。

だけど、あの日彼女を一目見てから、心惹かれたのもまた事実で…

あのまま放って置いたら、二度と逢えなくなるような気がして、僕は彼女の手を引き、最近一人暮らしを始めた自宅へと連れて帰った。

家に着いてまずは、彼女の体を温めなければと家中の暖房を点け、お風呂を沸かし、温かいココアを淹れ手渡した。

すると彼女は、少し驚いたように僕を見つめ、その後ふにゃりと笑ってお礼を言った。


「ありがとうございます。色々、気を遣わせてしまったみたいですみません。私、秋月氷麗と言います。失礼ですが、お名前をお伺いしても…?」

「僕は夜天光。今お風呂沸かしてるから、溜まったら入って来なよ。着替えも貸すから」

「いえ、私なら大丈夫です。お気持ちだけ…」

「は?こんなに冷え切ってんのに、何処が平気なのさ」


そう言ってどさくさに紛れ彼女の頬に振れれば、せっかく温まって来ていた手の熱が一気に奪われるくらい冷たくて、僕は眉を寄せた。

そんな僕を見て、彼女は苦笑を漏らすと、次の瞬間、信じられない言葉を口にした。


「本当に平気なんです。私、人間じゃないから…」

「は……?」


彼女の言葉に僕は間抜けな声を漏らすと、彼女は小さくクスリと笑みを零した。


「私、機械人形(にんぎょう)なんです。もう何百年も前に作られた機械(カラクリ)…」


そう言って困ったように笑う彼女に、遠くでお風呂が溜まった事を知らせる音が鳴ってるのに気付きつつも、一歩も動けないでいた。


「機械人形って…」

「信じられないですか?まぁ、見た目は普通に人間ですからね…。でも、本当に機械人形なんです。だから人は、最初は興味本位で私を拾っても、暫くすると人間のココロが解らない私を気味悪がり、面倒に思い、悪態を吐き、そして捨てる。あの方と…私を作り出した最初のご主人様が亡くなってから今日まで、ずっとそれの繰り返しです…」

「!じゃあ、まさか…君があそこにいた理由って…」

「はい。もう何人目かは判りませんが…またご主人様に捨てられ、あそこに居たんです」


僕は彼女の言葉に目を見開き、自分の耳を疑った。

また、捨てられたって……どうして…?


「…どうして、そんな平気でいられるわけ…?」

「私にココロはないから…。永い間人の中で生きて来て、人間の感情について色々覚えたつもりです。でもやっぱり、私には感じる事が出来ないから…」


そう言って微笑む彼女の顔が、寂しそうに見えた。

悲しそうに見えた。

これのどこが、ココロのない機械人形なんて言える?

どこも僕ら人間と変わらないじゃないか…


「……君さ、氷麗って言ったっけ?」

「はい。氷麗です」

「何処か他に、行く宛はあるの?」

「ありません。私の帰る場所は、もうずっと昔に無くなってしまったので…」

「そう…。じゃあさ、今日からここに住めば?」

「え……?いいんですか…?」

「いいよ。どうせ部屋余ってるし」

「…では、あなたが今日から私のご主人様ですね。ご主人様、私に出来る限りの事は、何でもやらせて頂きます。何なりとお申し付け下さい」


そう言って座っていたソファーから降りると床に手を着き、頭を下げる彼女に、僕は彼女の前まで移動すると、顔を上げさせた。


「ご主人様とか、そう言うの必要ない。って言うか、僕が嫌だから止めてくれる?あと、敬語もなしね。僕は、別に君を召使にしようと思ったわけじゃないから…」


何故そう思ったのかは解らないけど、

僕はただ、君を放って置けないと…

守ってあげたいと思ったから。

だから…


「っ、でも…!」

「でもじゃない。君と僕は対等。僕の事は光って呼んで?」

「こ、う…?」

「そ、光。いい?」


そう僕が尋ねれば、彼女は…氷麗は、とても綺麗な顔で笑ったんだ。


「ありがとう…」



君を守りたいって思った理由は…



きっと、あの白銀の世界で君を一目見た瞬間から


君の事が愛おしくて仕方なかったから
to be continued...
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