エピローグ
もしも願いが叶うのなら

私はもう一度、彼に逢いたい。



もしも願いが叶うのなら

僕はもう一度、彼女に逢いたい。



もしももう一度、彼に逢えたなら

もう二度と、彼との約束は違わない。



もしももう一度、彼女に逢えたなら

例えどんな事が起ころうとも、もう二度とその手を離さない。



もしも神様がいるのなら

私(僕)達を、もう一度……



―――――



機械人形の少女と、人間の少年の甘くも儚い恋が終わり、

何百、何千と言う、永い時が過ぎた年のある冬の夜…

偶然か、いつか2人が出逢ったあの場所に立ち、雪が降り続ける空を見上げるのは、青みがかった長い黒髪に、大きな蒼い瞳が印象的な美しい女性。

そして、そんな彼女に引き寄せられるかのように、彼女の居るその場所へと足を進めるのは、月灯りにも負けぬ美しい銀色の髪に、吸い込まれそうな程澄んだ翡翠色の瞳を持つ青年…


「傘も差さずに、こんな所で何してんの?しかも、そんな薄着で…」

「!輝…」

「風邪引くつもり?」


そんな言葉と共に、青年…輝(ひかる)は、手に持って来ていたコートを彼女の肩にそっと羽織らせた。


「ありがとう、輝…」

「どういたしまして。で?何で雪の日に、傘も差さずにこんな所に居るわけ?」


輝の言葉に、彼女は傘で遮られた空を再び見上げ、数秒の間を空け、彼の問いに答えた。


「……夢を見たの…。遠い昔の…切なくて、幸せな夢を…」

「切なくて、幸せな夢…?」

「うん…。漸く相思相愛になって、幸せな時を過ごしていた2人に、突然別れの時がやって来るの。幸せな毎日が、突然消えて…2人は離れ離れになっちゃうの…」


あまりにも切なげな声でそう答える彼女に、輝は彼女の横顔を見つめ、優しく彼女に問い掛ける。


「不安?」

「え……?」

「僕達も、その夢の中の2人のように、離れ離れになったりしないか、って…」

「ううん…。そうじゃないけど…夢の中の2人がね、私達にそっくりだったの…。だから、もしもあの夢の2人が私達だったらって思ったら、胸が押しつぶされそうに苦しくって……」


そう言って俯いてしまった彼女があまりにも儚げに感じられ、輝は堪らなく彼女をきつく抱きしめた。


「……確かに、そう思ったら辛いけど…でも、夢の中の2人は僕らに似てるってだけで、僕ら自身じゃない。僕達2人は、絶対に夢の中の2人のように、離れ離れになんかにならないから…!」

「…どうして絶対なんて言えるの…?人生、何が起こるかわからないじゃない…」


輝の言葉に、彼の背中に腕を回し、震える声でそう問い掛ける彼女に、彼は更に彼女の体をきつく、絶対に離さないと言う思いを込めて抱きしめる。


「大丈夫だよ。この先どんな事起こったとしても、僕は絶対にこの手を離さないって、あの日、氷麗…君に誓ったんだから…。例え絶対に不可能な事でも、可能にしてみせるよ…」

「輝……」

「だから、僕を信じて?絶対に、僕達は離れ離れになんかならないから…」

「うん…!」


漸く見る事が出来た彼女の笑顔に安堵し、輝は釣られて小さく笑みを零すと、そっと触れるだけのキスを彼女の額に落とした。


「…さ、そろそろ帰ろう?体もすっかり冷えちゃったし、癒來(ゆら)が泣いてるかも知れないしね」

「そうだね…そろそろ帰ろっか」

「帰ったら一緒にお風呂ね」

「え゛……一緒に…?」

「何?嫌なの?」

「嫌って言うか……その…恥ずかしい…」

「何言ってんのさ今更…。結婚して何年経ってると思ってるの?」

「そうだけど……でも…!」


そんな何気ない会話を交わしながら、2人はしっかりと手を繋ぎ、愛娘の待つ自宅へと向かって歩き出した。



何度でも



巡り巡りって


僕(私)達は出逢い


そしてまた、


僕(私)は君(あなた)に恋をする―…
fin...
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