- 理想と現実(2/2)
- それから暫くして、亀田さんの作業を見ていたはるかが、私の隣へとやって来た。
「もう作業見なくていいの?」
「あぁ。それに、これ以上夏希を1人にしておけないしな…」
「別に気にしなくていいのに…」
「気にするさ……それより、子猫ちゃん。いつまで隠れてるつもりだい?」
そう言うとはるかは、ゲームセンターを出てからずっと私達の後を追って来る2つの陰に声を掛けた。
「あ、バレてたんですか…?」
「バレバレだったよ?2人が後付けて来てる事…」
はるかの言葉に漸く姿を現した2人に、私はそう言うと、クスクスと笑いを零した。それからはるかと私は建物の外に出ると、建物の向かい側にある堤防の所まで向かった。私は堤防の上に座り、はるかはその横に肘を置き、簡単な自己紹介を始めた。
「天王はるか。高校1年。」
「「え?」」
「知りたかったんだろ?僕の事をさ…」
はるかはそう言うと、2人の方へと振り返った。
「「!はい!!」」
「そうなんですー!」
「ですー!」
はるかの問いに、素直に答える2人を見て、私は再びクスクスと笑いを漏らした。
「他に君達が知りたがってる事と言えば…」
そう言ってはるかは、2人が聞きたそうな事を考え始めた。それに対し、美奈子ちゃんが元気よく手を上げ、はるかに質問を始めた。
「はい!さっきまで一緒にいた人は、はるかさんの何ですか!?」
「何ですか!?」
「え?」
「どう言う関係なんですか!?」
「ですか!?」
「恋人、じゃないですよね!?」
「ですよね!?」
そう元気よく、そしてテンポよく問い掛けて来る2人に、私もはるかも、きょとんとした顔を見せた。
「恋人…?」
「みちるが、僕の…?」
「みちるって……呼び捨てにするような関係なんですか!?」
「なんですか!?」
ハンカチ片手に、涙を拭く真似をしながら問う彼女達に、私達は小さく笑いを漏らすと、はるかが質問に答えた。
「……そうだな。それ以上の関係、かな…?」
はるかの冗談混じりの答えを素直に受け取ってしまった2人は、ヘナヘナと地面に崩れ落ちた。そんな彼女達にはるかは近付くと、片膝を地面に付け、彼女達を見つめながら言った。
「でも、諦めちゃダメだ。君達にもまだ、チャンスはあるよ…」
「は、はい…!」
「はるか…?チャンスって、何の…?」
私は再び目の前で友人達を口説き始めたはるかに、満面の笑みを浮かべ、そう問い掛けた。
「いや、ほら…!生きていれば、これから先、いくらだって出会いがあるだろ?だから、まだチャンスはあるって…」
「ふーん…」
私はそう声を漏らすと、ジト目ではるかを見つめた。そんな私の視線に、はるかは苦笑を漏らす。
「やっぱりはるかは、一途なんかじゃないわね。可愛い女の子を見ると、すぐにそう言う事を言うんですもの…」
その声に、私とはるかは声のした方へと顔を向けた。
「みちる!」
「おい、そりゃないだろ…」
「あら、いいのかしら?私にそんな事言って…」
「はるかの分の差し入れ、持って帰っちゃえば?」
「おいおい…」
みちるの姿を確認した私とはるかは、みちるの元へと移動しながら、そんなやり取りをした。一方で、そんな私達のやり取りに、美奈子ちゃんとうさぎちゃんは立ち上がると、はるかと同じ質問をみちるにも投げ掛けた。
「質問!あなたは、はるかさんの恋人なんですか!?」
「イエスかノーでお答え下さい!」
元気よく問い掛けて来る2人に、最初は少し驚いていたみちるも、少し間を開け小さく笑うとその質問に答えた。
「ノーよ。」
そのみちるの返答に、2人は目をキラキラとさせると、私達から少し離れた所に立ち、小さくガッツポーズを取った。
「ねぇ、確かに、みちるははるかの恋人じゃない、とは言ったけど…」
「僕に恋人がいない、とは言っていないな…」
「だよね…?何でガッツポーズしてるんだろ…。あの2人…」
「…さあ、どうしてだろうな…」
「ふふ……可愛い…」
私とはるかは、みちるの側まで行くと、そんな会話をしながら、少し遠くでガッツポーズをする2人を見つめた。
―――――
それから少しして、私達の元へと戻って来た2人を連れ、堤防の辺りまで戻った。そして私とはるかは揃って堤防の上に座り、みちるは私の隣に、うさぎちゃんと美奈子ちゃんははるかの隣に、堤防に背を預けて立った。
「あの亀田さんは、自分のチューンしたマシーンが、世界のレースでも通用するようなメカニックマンを目指してる。だから、ここに来るのは好きだ。この場所の先には、蜃気楼に揺れるサーキットが、薄っすら見えて来るような気がする……」
そう言ってはるかは目を閉じるとサーキットの様子を、その目の奥に思い浮かべる。
「…サーキットに吹く風は、とてもいい香りがするんだ…」
はるかのこの言葉に、はるかの事を知らない美奈子ちゃんは苦笑を漏らし、はるかに向かって再び問い掛けようと口を開いた。
「…あの、はるかさんって…」
「はるかはレーサーなの。現役のね。」
「そして、モータースポーツのトップドライバーになる事が、はるかの将来の夢なのよ。」
「いや、それは違う。夢じゃなくて、夢だったんだ…」
「夢だった…?」
「じゃあ、今の夢は何なんですか?」
そんな2人の問い掛けに、はるかは真剣な表情を見せると、ゆっくりと口を開いた。
「…大切なものを守る為に、二度と失わないように、自分にしか出来ない事をするって事だ。その為になら、どんな犠牲でも払ってみせる…。大切なものを守れるのなら、何を失っても、後悔はしない…」
「(はるか…)」
私ははるかの手にそっと自分の手を重ね、儚げに空を見上げるはるかの横顔を見つめた。
「何だか、本当にかっこいい…」
「うん……まもちゃんには、負けるけど…」
「…そのまもちゃんって、うさぎちゃんの恋人?」
「え?う、うん…あたしの、一番大切な人…!」
私の問い掛けに、うさぎちゃんは少し照れたような表情を見せ、そう答えた。その時、車の整備を行っていた亀田さんが突然声を上げ、亀田さんが整備していた車が、邪気を放ちながら光り出した。
「!」
「ぎゃああああ!」
「何なの…!?」
「亀田さん…!」
「はるか…」
堤防から降り、亀田さんの元へと向かおうとしたはるかを、みちるが引き止めた。
「っ…わかってる…」
「…はるか、みちる。」
私が2人に小さく声を掛けると、2人は小さく頷いた。そして、恐れる事なく、亀田さんを救おうとダイモーンへと立ち向かってうさぎちゃんと美奈子ちゃんの目を盗み、私達2人はその場から静かに立ち去った。
「2人とも、変身よ!」
私達3人は人目の付かない場所へと身を隠すと、それぞれ変身アイテムを取り出し、スペルを口にした。
「ウラヌス・プラネットパワー!メイクアップ!」
「ネプチューン・プラネットパワー!メイクアップ!」
「ブライトイノセンスパワー!メイクアップ!」
そして変身を終えた私達3人は、互いの顔を見て頷くと、行動に出た。
「ウラヌス、あなたはバイクで先に敵を追って!私達は、あの2人を助けに行って来る!」
「わかった!」
そして私達は別れ、ウラヌスは敵を、私とネプチューンはKAMEDAモータースへと戻り、うさぎちゃんと美奈子ちゃんの救出へと向かった。
―――――
「うさぎちゃん、美奈子ちゃん…!」
KAMEDAモータースへと戻って来た私達は、2人の姿を探すがどこにも見当たらず、そこに残っていたのは、心の結晶を奪われ、ぐったりとしている亀田さんだけだった。
「いない…無事に逃げられてるといいんだけど…」
「そうね…それより、急ぎましょう!ウラヌスが待ってるわ!」
「うん!」
私とネプチューンはKAMEDAモータースを後にすると、急いでウラヌスの後を追った。それから暫く走って、私達は漸く堤防の陰に隠れ、敵の様子を窺っているウラヌスの姿を目に捉えた。
「ウラヌス!」
「!遅いぞ、シャイン、ネプチューン。」
「仕方ないでしょ!?これでも、全力疾走で来たんだからね!!」
「それより、敵の様子は?」
「今さっきバイクぶつけて事故らせた。伸びてるわけじゃないけど、隙の多い今の内に心の結晶を…!」
ウラヌスがそう呟いた時、どこからか自転車のベルの音が聞こえ、私達は音のした方へと目を向けた。
「やっと追い付いたわよ!」
「夢を追う男性のピュアな心を!」
「悪い奴には渡さない!愛と正義のセーラー服美少女戦士!セーラームーン!月に代わって、お仕置きよ!」
「ちょっと!人に自転車漕がせておいて、自分だけいいかっこしないでよ!!」
「っ…これ以上、私の交通妨害をする者は許さん!!」
そう言ってダイモーンは攻撃態勢へと入った。
「ちっ…あいつら、余計な事を…」
「とにかく、彼女達の手に渡る前に、心の結晶がタリスマンかどうか確認しなきゃ!」
私の言葉に2人は頷くと、私達は水路の中に降り、敵と対峙するセーラームーン達に声を掛けた。
「「「お待ちなさい!」」」
「「!?」」
「今度は誰だ!?」
私達の声に反応し、ダイモーンとセーラームーン、セーラーヴィーナスは、私達の方へと視線を向ける。
「新たな時代に誘われて、セーラーウラヌス!華麗に活躍!」
「同じく、新たな時代に誘われて、セーラーネプチューン!優雅に活躍!」
「そして、太陽系最強の光と業火の戦士!セーラーシャイン!優美に活躍!」
「我ら、訳あってタリスマンを探している!」
「心の結晶は、渡しませんわ。」
「我らの邪魔をする者は、誰であっても容赦はしない…!」
「!謎の戦士…!」
「セーラー戦士だったの!?」
私達の登場に、セーラームーンとセーラーヴィーナスは驚きの顔を見せた。
「貴様達も私の進路を妨害する気か!これ以上、私の邪魔をするのは許さん!!」
そう言うとダイモーンは、私達3人に向かって攻撃を仕掛けようと、針の突き出たタイヤを回し、私達の方へと体を向けた。
「ワールド・シェイキング!」
「ディープ・サブマージ!」
しかし、そんな敵の攻撃よりも先に、ウラヌス、ネプチューンの2人が技を放ち、ダイモーンにダメージを与えた。
「!チャンスよ!セーラームーン!」
「「シャイン、今だ(よ)!」」
「「わかった!」」
それぞれ掛けられた言葉に、偶然にも私とセーラームーンの声が重なった。そして私達はロッドを取り出すと、敵に向かってそれぞれ浄化技を放った。
「ムーン・スパイラル・ハート・アタック!!」
「シャイン・ハート・キュア・エイド!!」
「!?うわぁああああ!!ラブリぃいいいい!」
私達の浄化技により、ダイモーンは元の車の姿へと戻り、車に寄生していたダイモーンの卵は破壊された。
私は敵を浄化し終えると、心の結晶を調べているウラヌスとネプチューンに近付いた。
「ウラヌス、ネプチューン、心の結晶はどう?」
「…違うわ。これもタリスマンじゃない…」
「そのようだな…」
「そう…セーラームーン!」
「は、はい!」
「この心の結晶を、持ち主に返してあげて…」
私はそう言うと2人から心の結晶を受け取り、セーラームーンに向かってそっと投げた。
「それじゃ、またね。」
そしてそう言い残し、私達はその場を後にした。
―――――
翌日の放課後、今日も私は、はるかとみちるの2人に会う為、待ち合わせ場所となっているクラウンへと向かった。しかし、そこにいたのは、はるかとみちるの2人ではなく、今頃レイちゃんの家で勉強会をしているはずの面々だった。
「それでね、その夏希ちゃんの知り合いの男の人が、これまたかっこよくて!」
「つまり、やっぱり2人とも、かっこいい男の子を追い掛けて、昨日の勉強会をサボったのね…」
「「う゛…っ……」」
レイちゃんの鋭い突っ込みに、バツが悪そうな顔を見せたうさぎちゃんと美奈子ちゃんを見て、私は小さく笑いを漏らした。
「美奈子ちゃん、はるか、そんなにかっこよかった?」
「「「「「!夏希ちゃん!?」」」」」
突然の私の登場に、皆は驚いた顔を見せた。そんな中、少し間を開けてうさぎちゃんが私に問い掛けて来た。
「…夏希ちゃん、どうしてここに…?」
「私、今日もここで、はるか達と待ち合わせしてるから…」
この私の言葉に、美奈子ちゃんがいち早く反応を見せた。
「!はるかさん、今日もここに来るの!?」
「うん。さっき学校出たって言ってたから、多分もうすぐ着くんじゃないかな…?」
「夏希!」
「ほら、噂をすれば…」
「!はるかさん!!」
私がそう美奈子ちゃんの問いに答えたその時、私を呼ぶはるかの声に反応した美奈子ちゃんは、私の後ろへと視線を向けた。
「どこ!?かっこいい人はどこどこ!?」
「どこだ!?先輩に似てるって言う人は!?」
美奈子ちゃんを押し退け、レイちゃんとまこちゃんは、はるかへと視線を向ける。そんな彼女達の視線も気にせず、はるかは私に近付くと、私をそっと後ろから抱きしめ、私の頬に小さくキスを落とした。
「お待たせ、僕のお姫様…」
「「「「「へ……?」」」」」
「……夏希ちゃん…これ、どう言う事…?」
私を抱きしめ、頬にキスを落とすはるかに、美奈子ちゃん達は驚きの表情を向けたまま、私にそう問い掛けて来た。そんな美奈子ちゃんの問いに、みちるが答える。
「恋人同士なのよ。はるかと夏希はね…」
「「「「「え…?えぇええええ!?」」」」」
みちるのその言葉に、その場にいたメンバーは全員驚きの声を上げた。
「はるかもみちるも、はるかの恋人は、みちるじゃないとは、確かに昨日言ったけどさ…」
「僕に恋人がいない、とは言った覚えはないけど?」
「そ、そんなぁ……」
そう言って美奈子ちゃんは崩れ落ちた。
「残念だったわね。」
「ちゃんと確認しないから…」
「まあ、まだチャンスはあるさ。もちろん、僕以外の人ならね…。僕の恋人は、永遠に夏希だけだ。僕はもう、彼女以外愛せないから…」
そう言ってはるかは、更に私を抱きしめる腕の力を強めると、私の首筋に顔を埋めた。
「どんなに可愛い子が寄って来ようと、僕の目には君しか映らない。永遠に、夏希だけを愛してる…」
「……バカ…」
私ははるかの台詞に、顔を真っ赤に染め、照れ隠しに小さくそう呟いた。
to be continued...