- 2つの陰
- あれから時が経ち、転入して早一週間が経った。
「では、名前を呼ばれた人から順に、答案を取りに来て下さい。」
今日最後の授業が始まって数分、先生はそう言うと、この間抜き打ちで行った小テストの答案を返却し始めた。
その答案を見て喜ぶ人、落ち込む人、ホッと安心した表情を見せた人など、当たり前だが、人によって反応は様々。
「月野さん。」
「はーい…」
先生に名前を呼ばれ、うさぎちゃんは答案を取りに行った。そして答案を受け取るなり、奇声を上げた。
「うげっ!?」
「月野さん……お願いだから、もっと頑張って…」
「うぅ…はい…」
そう先生に返事を返し、肩を落とししょんぼりしながら、うさぎちゃんは戻って来た。
「うさぎちゃん…?そんなに点数、よくなかったの…?」
「うん……。うぅ…こんな結果、誰にも見せられないよ…」
そう言ってうさぎちゃんは溜め息を吐き、更に沈んだ。
「(そんなに悪かったんだ…)」
「日向さん。」
「あ、はい。」
名前を呼ばれた私は、答案を取りに先生の元へと向かった。
「日向さんにしたら、このテストは簡単過ぎたかしら?」
「まあ、どちらかと言えば…。先生のテストは、基本問題が殆どだったので…」
「ふふ…そうね。私は、皆にしっかり基本を覚えてもらいたいから、基本問題を多く出題してるの。」
「確かに…基本が出来なきゃ、応用も何もないですもんね。」
「ええ。まあ、とにかく!この調子で頑張ってね?」
「はい!」
私は先生にそう返事をし、自分の席へと戻った。そして席に戻って来た私に、うさぎちゃんは声を掛けて来た。
「夏希ちゃん、テストどうだった?」
「余裕!…なんてね。」
そう言って私は私は少しだけおどけたように舌を出すと、うさぎちゃんに手に持っていた答案を見せた。
「…えぇええ!?100点!?はー……夏希ちゃんて運動だけじゃなくて、勉強も出来るんだ…」
「まあ、このくらいはね…?それに、一応毎日予習、復習してるし。」
「ひえー……あたし、お勉強大っ嫌いだからなー…」
「ふふ…知ってる。見てたらわかるよ?うさぎちゃんが、どのくらい勉強嫌いなのか。」
私はクスクスと笑いを零しながら彼女にそう言ったその時、テストの返却を終えたのか、先生が話し始めた。
「今回出来た人も、出来なかった人も、その点数をしっかり胸に留め、次回はもっと上を目指せるように、日々の予習、復習を怠らないようにして下さいね。それでは、今日の授業を始めます。今日は、間違いが多かった問題を中心に、テストの解説をしていきたいと思いますので…」
テストが満点だった私は、そんな先生の話を軽く聞き流し、授業が終わるのをただボーっと空を眺めながら待った。
「(はぁ……退屈……)」
それから暫くし、漸く退屈な授業は終わりを迎えた。そしてそのまま、最後の授業が担任の桜田先生だと言う事もあり、そのまま帰りのHRが行われた。
「夏希ちゃん!帰ろ!」
「うん!帰ろっか。」
HRが終わり、帰る支度をしていた私に、うさぎちゃんがそう声を掛けて来た。それに私も笑顔で答えると、私達は一緒に教室を出た。
―――――
あれから暫くして、私はうさぎちゃんといつものように、火川神社での勉強会の約束をして別れた。
「(今日でこの町に越して来て1週間…。未だに敵の動きも無ければ、ウラヌス、ネプチューンの居場所も、あの子達から感じる不思議な力の正体もわからないなんて……)」
私は自分の住むマンションへの道を歩きながらそんな事を考えていた。
「……とにかく今は、一刻も早く3つのタリスマンを揃え、世界を沈黙から救う救世主を見付けなければ…!」
私はそう言って、自分のやるべき事を確認すると、マンションまでの残りの距離を一気に駆け抜けた。
それから数分後、自分の住む部屋に着いた私は、制服から私服に着替えると、勉強道具と財布を鞄に詰め、部屋を出た。
「さてと…授業聞いてない分、今日も自習頑張ろうかな!」
私は空に向かって両手を伸ばし、背筋を伸ばすと、皆との待ち合わせ場所である、火川神社へと向かった。
私が火川神社へと向かって歩き出したその時、別の場所でまた、2つの陰も動き始めた。
「…海が荒れたわ」
「あぁ…わかってる。今日こそ、タリスマンを手に入れ、あの方と救世主を見付け出す…!」
2つの陰は互いの顔を見て頷くと、その姿を変え、邪悪な気配の漂う場所へと向かった。
―――――
家を出て暫く経ち、私は漸く火川神社の近くまでやって来た。
「もう皆来て…!(何、この妖気…!まさか、敵…!!)」
私は誰もいない路地裏に入ると、左腕のブレスレットにそっと触れた。
「久しぶりだな…。技のキレ、鈍ってなきゃいいけど…」
そう小さく呟くと、私は左手を天に掲げ、変身スペルと唱えた。
「ブライトイノセンスパワー!メイクアップ!」
そして私は太陽を守護に持つ、業火と光の戦士、セーラーシャインへと変身した。
変身を終えた私は、すぐに火川神社へと向かい、私は木の枝に立ち、上から敵の様子を窺った。
「!(やっぱり…!)」
「結果が出るのも時間の問題ね。他に可能性のある、ピュアな心の持ち主でも探しましょう…」
「レイちゃん…!」
「っあぁああああああ!」
「(っ…ごめん、レイちゃん…)」
赤い服の女が立ち去った数秒後、うさぎの叫びも空しく、レイの心の結晶はダイモーンによって抜き出されてしまった。
「後はこれをカオリナイト様に…!」
「(誰がそんな事させるもんですか…!)フレイム・バースト!」
私はレイの心の結晶を抜き取ったダイモーンに向かい、技を放った。それとほぼ同時に、別の方向からも2つの技が飛んで来た。
「!!(あの技は…!)」
3つの技をほぼ同時に食らったダイモーンは、その姿を留めておく事が出来ず、元の木の姿へと戻った。
「…違う、これはタリスマンじゃない。」
「どうやら敵は、ターゲットを見誤ったようね…」
その声に反応し、私はレイちゃん達から視線を逸らすと後ろを振り返った。
そして2つの陰は、そっと心の結晶をレイへと返すと、私の方へと視線を向け、ゆっくりと口を開く。
「…漸く見付けた…」
「私達のプリンセス…」
「……ウラヌス…ネプチューン…」
私は2つの陰、セーラーウラヌスとセーラーネプチューンの名を呟くと、驚きの表情を隠せないまま、ただじっと、2人の姿を見つめた。
to be continued...