epilogue〜また会えるその日まで〜
沈黙から世界が救われて数日…

あの日を境に、夏希ちゃん達があたし達の前から姿を消した。学校はもちろん、夏希ちゃんの家や携帯に電話を掛けてみても繋がらず、夏希ちゃんや、はるかさん達が居そうな場所を中心に、街中探し回ってみても、あたし達は何の手掛かりも掴む事は出来なかった。

そんなある日の朝、いつものように学校に登校してみると、昨日まで何処を探しても見付からなかった夏希ちゃんの姿があった。


「!夏希ちゃん…!!」

「おはよう、うさぎ」

「夏希ちゃん、今まで一体何処にいたの…!?学校も来ないし、電話にも出ないし…皆で街中探したんだから!」

「…ごめんね?ほたるちゃんを土萠教授の元に返したり、希望を見送ったり…色々やらなきゃいけない事があって、暫くこの町を離れてたの…」

「そっか……よかった…何処か具合でも悪いのかと思って、心配しちゃったよ…」

「ごめんね、心配掛けちゃったみたいで…」

「ううん…何にもないならいいの…。……希望ちゃん、未来に帰っちゃったんだね…」

「うん……つい、この間ね…。はるか達と一緒に見送ったんだ…」

「そっか…寂しくなっちゃったね…」

「まーね…。でも、私にははるか達がいるし、平気だよ…?」

「…そうだね。はるかさん達、希望ちゃんに負けないくらい、夏希ちゃんの事大好きだもんね?」

「ふふ…確かにね…」


そう言ってクスクスと笑みを零す夏希ちゃんに、あたしは何故か、言い知れぬ不安を感じた。何だか、夏希ちゃんが何処か遠くへ行ってしまうような…そんな気がしてならなかった。


「ねぇ、夏希ちゃん……」

「はーい、皆さん。朝礼を始めますので、席に着いて下さい!」


あたしはこの不安を解消したくて、夏希ちゃん本人に尋ねようとしたその時、担任の春だ先生が教室へと入って来て、あたしの声は掻き消されてしまった。


「……以上が今日の連絡事項です。日向さん、こっちに来てもらえる?」

「はい」


いつもなら出席を取って、連絡事項を伝え終わったら教室を出て行くのに、今日は何故か、連絡事項の後に夏希ちゃんの名前を呼び、夏希ちゃんをクラス全員の前に立たせた。そして次の瞬間、あたしが感じていた不安は、物の見事に的中する事となってしまった…


「皆さん、突然ですが、日向さんが転校する事になりました。日向さんから皆さんへお別れの挨拶があるので、皆、しっかり聞いてあげてね…。それじゃあ、日向さん…お願いね…」

「…今桜田先生が仰った通り、私はこの学校を去る事になりました。4月にこの学校に転校して来たばかりで、卒業の時期も近いですが、皆さんとは、今日でお別れです。短い間だったけど、皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。今日まで、私をこのクラスの一員として受け入れてくれてありがとう……このクラスで過ごした日々は、一生忘れません。またいつの日か、何処かで会えたら、気軽に声を掛けて下さい。今日までの約半年間、本当にありがとうございました」


そう言って夏希ちゃんは、クラス全員に向かって頭を下げると、クラスの皆は彼女に拍手を送った。


「…桜田先生も、短い間でしたが、お世話になりました」

「こちらこそ…あなたには色々助けられたわ…。ありがとう、日向さん…」

「いえ……それじゃあ、あまり時間もないので、私はこれで失礼します」

「ええ……元気でね」

「はい…」


夏希ちゃんは春だ先生に頭を下げると、あたしの隣にある自分の席まで戻って来た。そして机の横に掛けていた鞄を手にすると、教室を出ようと、ゆっくりと歩き出した。あたしはクラスの皆や先生がいるにも関わらず、教室を出ようとする彼女の名を呼び、夏希ちゃんを呼び止めた。


「待って!夏希ちゃん…!!」


あたしの呼び止めに、夏希はあたしに背を向けたまま、その場に立ち止まった。


「あたし達、やっと解り合えたのに……っ…本当に、これでお別れなの…?」

「…うん……私達は為すべき事を全て終え、目的を果たした…。私達がこの町にいる理由は、もう何処にもないの…」

「だからって…!」


夏希ちゃんの言葉に、尚も引き留めようとするあたしに、夏希ちゃんは静かに首を振ると、漸くこちらへと振り返った。そんな彼女の目には、薄っすらと涙の膜が張っていた。


「約束したの…。全てが終わったら、この町を出ようって……この町を出て、今度こそ、幸せになろうって…」

「夏希ちゃん……」

「…短い間だったけど、うさぎ達と過ごした時間は、本当に楽しかった…。今までありがとう……それから、たくさん傷付けて、酷い事してごめんね…っ……さようなら…」

「!待って…!!最後に1つだけ聞かせて…?あたし達…また、会えるよね…?」

「…必ず…。…だからその日まで、バイバイ…うさぎ…」


そう言って、目に涙を溜めながらも、夏希ちゃんは綺麗に微笑み、静かに教室を後にした。



―――――



「お待たせ、はるか、みちる…」


学校を後にした私は、学校のすぐ近くの駐車場に車を停めて待っていたはるか達と合流した。


「お別れは済んだの…?」


私が車に乗り込むと、みちるがそんな事を私に尋ねて来た。


「一応、ね…。教室に皆いたから、凄くうやむやな感じになっちゃったけど…言いたかった事は言えたし、うさぎ達に手紙残して来たし…まあ、いいかな…?それに…いつかまた、絶対に会えるって信じてるから…」


みちるの問い掛けに私がそう答えれば、みちるは小さく微笑んだ。


「そうね……今はお別れだけど、きっとまたいつか、うさぎ達に会えるわ…」

「うん…」

「そろそろ出発するぞ。もう思い残す所はないか?」

「大丈夫!」

「みちるは?」

「私もよくってよ」

「それじゃ…」


私とみちるの返事を聞き、はるかが車のエンジンを掛けた。


「僕達の新たな時代の始まりだ…」

「前世では為し得なかった、明るい未来への旅立ちね…」

「今度こそ、絶対幸せになってやるわよ…!」

「「ああ、そうだな(ええ、そうね)…」」


そして私達は、この十番町から旅立った。まだ見ぬ未来へ向かって…
fin...
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