戦士の運命(2/3)
ミストレス9は、光の道を見て高らかに笑い、ファラオ90をこの星へと導いた。


「さあ、こちらです!ファラオ90!」

「っ…ムーン・コズミックパワー!!」


沈黙の光を目の前に、セーラームーンは立ち上がり、ロッドを取り出すと、迷わず沈黙の光に向かって、浄化技を放った。しかし、聖杯の力を取り込んだファラオ90に、二段変身すら出来ないセーラームーンの力では叶うはずもなく、ファラオ90の攻撃に、セーラームーンは再び、呆気ない程簡単に吹き飛ばされてしまった。


「きゃあ…っ!」

「ふふっ……セーラーシャインならまだしも、二段変身すら出来ないお前に、この沈黙を止める事など出来ない…。マスターと、私の世界が始まるのだ…」


ミストレス9がそう呟いたすぐ後、ファラオ90の力に耐えきれなくなった機械が壊れ、制御し切れなくなった力が暴発し、ミストレス9を襲った。


「っ…!バカなぁあああああ…!」


暴発した力に、ミストレス9は吹き飛ばされた。しかしそんな彼女を土萠創一が受け止め、更にセーラームーンが2人を守る盾となり、ミストレス9を守った。


「…っ……」


膨大な負のパワーを全身に受け、傷だらけとなったセーラームーンは膝から崩れ落ち、その場に座り込み、荒い呼吸を繰り返した。


「セーラームーン…っ…!!(くそ…っ…!動く事さえ出来れば…!!)」


私がどうにかしてこの拘束から抜け出そうともがいていたその時、今までずっと体を支配していたミストレス9ではなく、元の人格…ほたるちゃんが目を覚ました。


「パパ…」

「!ほ、ほたる……っ…!」


ほたるちゃんの目覚めに、その場にいた全員が驚きの眼差しで彼女を見た。だがそれも束の間、すぐに意識を戻したミストレス9に、彼女を抱きしめるように支えていた土萠創一は、ミストレス9に突き飛ばされ、後方へと吹き飛んだ。


「っ…ぅあぁあああああ!ハァ…ッ…ハァッ…来るな…!虫けらめ……ハァ…ッ…消滅してしまえ…!!お前など生きて…っ…生きていても…ハァッ…無意味だ…!我々の邪魔を…ハァ…ッ…ハァ…ッ……するな…!!滅びろ!滅びろ…!!」

「嫌よ!絶対嫌!!」

「ハッ…おのれ……!」

「何だ…?ミストレス9の様子がおかしい…」

「……戦ってるのよ…。目を覚ましたほたるちゃんの意識と、ミストレス9の意識が…」


ウラヌスの言葉に、私がそう言葉を返したその時、ミストレス9とほたるちゃんの戦いに、終止符が打たれた。


「私には…っ…私には……!大切な人達がいるわ!!」

「!ぅわ…っ…あぁあああああああ!!」


ほたるちゃんの意志の強さに、彼女の中に眠るセーラーサターンの力が遂に覚醒した。それと共に、今まで彼女の体を支配していたミストレス9は滅び、ほたるちゃんは私達の前から姿を消した。


「!ほたるちゃんが…!」

「…セーラーサターンの、復活…」

「!?それじゃあ…!!」

「…終わりだ……僕達にはもう、この沈黙を止める手立てはない…っ…!」

「そんな…っ…!!」


絶望と悔しさに打ちひしがれるウラヌスとネプチューンに、私は声を荒げた。


「まだ終わってない!!」

「っ、しかし!聖杯は奴らの手に消え、破滅の戦士は復活、結局救世主も見付からなかった…!これ以上僕達に、何が出来るって言うんだ…!!」

「私が!!私が命を懸けて、この星を…皆を守る…!!」

「な…!?何バカな事言ってるんだ…!!」

「もし私達皆が助かったって…あなたが死んでしまったら、何の意味無いじゃない…!!」

「そうだよ!!お願いママ、止めて…!!」

「でも!でももう、それしか…この星を守る術はない…っ!!」


ウラヌス、ネプチューン、サンの声に、私がそう言葉を返したその時、遂に地球へと辿り着き、勢いを増したファラオ90の負の力に建物が耐えられず、私達は建物諸共、地面に崩れ落ちた。


「…っ……!」


結構な高さから崩れ落ちたにも関わらず、奇跡的に一命を取り留めた私は、ボロボロになりながらも、再び立ち上がった。それに続き、ウラヌスやネプチューン、サンもボロボロになりながらも、痛みに耐えながら、ゆっくりと立ち上がった。


「私は、諦めない…!っ…最後まで戦うって……この星を、皆を守るって…決めたから…!!もう誰も、犠牲になんかさせない!!」

「「シャイン……」」

「っ…(やっぱり、ママは強いや…。…過去(むかし)も未来(いま)も、全然変わらない…。のんのママは最強で、最高の…宇宙で一番素敵で、かっこいいママだ…)」


私はウラヌス達に背を向け、ゆっくりファラオ90へ向かって足を進めた。その途中私は、私達と同じく一命を取り留めたセーラームーンの横を通り過ぎる際、一度だけ足を止め、セーラームーンに声を掛けた。


「…セーラームーン、これでわかったでしょう?甘い事ばかり言って、簡単に人を信じた結果がこれよ…。こうなったのは、あなた1人のせいだなんて言わない……私達にだって非はある。でもね…あなたの取った行動が、この星を…この星に住む全ての命を、危険に晒してる…!目先の事だけで、この後の事なんて全然考えないあなたの行動が…!!」

「……………」

「…っ……お願いだから、これ以上私達の邪魔をしないで……この星は、私が守る…!」



私の言葉に何も言わないセーラームーンに、私は拳を強く握り、悔しさ、悲しさ、辛さに震えながらも、再びファラオ90の元へ向かおうと足を踏み出した。


「待って下さい。我らが主、プリンセスエリカ…」

「!」


私が足を踏み出したその瞬間、私を呼び止める声に、私は再び足を止め、声のする方へと顔を向けた。


「セーラー、サターン…」

「!…ほたる、ちゃん…?」


私の声に反応し、セーラームーンがずっと俯かせていた顔を、ゆっくりと上げた。


「…私はもう、ほたるではありません…。私は破滅の星、土星を守護に持つ沈黙の戦士、セーラーサターン…。この世界から、太陽系を統べる光(シャイン)を失うわけにはいかない今、この星を沈黙から守れるのは、私だけです…」

「!ダメよ…!!そんな事をしたら、あなたは…!!」

「わかっています。…ですが、それが私の戦士として使命であり、また生れ持った運命(さだめ)なのです…」

「そんな運命、私が変えてみせる!!だから一緒に…!!」


私がそう言えば、サターンは静かに首を振り、彼女の武器である沈黙の鎌を取り出した。


「言ったはずです。この世界から、あなたと言う光を失うわけにはいかないと…」

「っ…けど…!」

「いけません。…お願いです、プリンセス…。ここは私に任せて…?」

「ダメ…ダメよ…っ…!!…あなたはいつも1人で全て抱え込んで…いつもいつも、生まれた事を誰にも祝福されないまま、静かに消えて逝く……そんなの、悲し過ぎる…!」

「……いいんです。それが、私の運命だから…。…それに、たった1人だけ…私を思い、私の為に悲しんで、泣いてくれる人がいる…。それだけで私は、目覚めてすぐに死ぬ運命にあったとしても、幸せなのです…。シャイン……私の大切なプリンセス…。あなたがいるから…あなたを守れるのなら、私は迷いません。……さようなら、シャイン……」

「待って…!サタァアアアアアン…!!」

「さようなら……」


そしてサターンは、ファラオ90を倒すべく、ファラオ90の中へと消えて行った。


「…っ…サターン…!」


ファラオ90の中へと消えたサターンを思い、私は涙を流しながら、その場に崩れ落ちた。


「結局私は…っ…またサターンを犠牲に……っ、これじゃ…前世(あの時)と何も変わらないじゃない…!!」


私は涙を流しながら、地面を強く叩いた。何度も何度も、手に血が滲む程強く…。そんな私を見て、再び目に輝きを取り戻したセーラームーンは、己の胸にある、銀水晶の付いた変身コンパクトを握りしめ、スーパーセーラームーンになる為のスペルを叫んだ。


「っ…クライシス!メイクアップ!…っ…クライシス!メイクアップ…!クライシス!メイクアップ…!!っ…変わってよぉ…!!このままじゃ、ほたるちゃんが死んじゃう…っ……そんなの…絶対、ダメだよ……」

「セーラームーン……っ…」


私同様泣き崩れるセーラームーンに、サターンを思ってくれる、優しい彼女の心に、私は再び立ち上がると、目を閉じ、クリアトパーズを取り出した。


「!?シャイン…何をする気だ!!止めろ…!!」
「タリスマンの力がない今、そんな事をしたらあなたは…!」

「……わかってるよ…。でも、私は…やっぱりサターンを…仲間を救いたい。太陽系を統べる者として、プリンセスとして……私はあの子を、幸せにしてあげたい…。だから、ごめんね……はるか、みちる…約束、また守れないや…」

「マ、マ……?」

「…ごめんね、希望…。…本当は、あなたをこの世界に生んであげたかったんだけど、出来そうにないや…ごめんね……。でもまた、いつの日か…あなたに会える日が来るのなら…その時は、絶対、幸せにしてあげるから…」


私はそう言ってはるか達に向かって一度微笑むと、再び真っ直ぐファラオ90へと視線を向け、プリンセスの姿へと変身した。


「夏希、ちゃん……?」

「…うさぎ、サターンの為に泣いてくれて、ありがとう…。サターンは、私が命に代えても、絶対に助けるから…」

「!そんなのダメだよ!!もう誰も、犠牲になんかしたくない……っ…誰かの悲しむ顔なんて、もう見たくない…!!」

「…でも、こうするしか、サターンを救う方法はないの…。私がファラオ90の中へと入り、クリアトパーズの力を解放するしか方法が…」

「そんな……っ…」

「……さっきは酷い事言ってごめんね……さよなら…ありがとう、うさぎ…」


私はセーラームーンにそう言い残すと、サターンを救う為、ファラオ90へと向かって、再び歩き出した。


「だめ、だ……やめろぉおおおおおお!!」

「……ごめんね、はるか……さよなら…私はずっと、あなたを愛してるから…」

「夏希ちゃああああああん…!!」



―――――



シャインは…夏希は僕達の制止の声も聞かず、沈黙の戦士を救う為、ファラオ90の中へと消えて行った。


「っ…僕達はまた、彼女を失うのか……!」

「私達は今まで、一体何の為に……っ…これじゃ、前世と何も変わらないじゃない…!」

「…マ、マ……?」


僕やネプチューンが悔しさ、悲しみに震えながら涙を流せば、サンは抜け殻のように、ただ茫然と、彼女が消えて行った方を静かに見つめた。そんな中、再びセーラームーンが動き始めた。


「…っ…(お願い銀水晶…!あたしに力を貸して…!皆を守る力を……誰も犠牲にせずに済む力を…!!)…クライシス!メイクアップ!」


セーラームーンがそう叫んだ瞬間、彼女の持つ強い輝きを放つピュアな心の結晶が、彼女をスーパーセーラームーンへと変身させた。そしてスーパーセーラームーンは、サターンや夏希の後を追うようにして、ファラオ90の中へと消えて行った。
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