戦士の運命(1/3)
土萠創一にとり憑き、操っていたダイモーン、ゲルマトイドを倒した私達は、暫くして建物の最深部であろう、ある一室に辿り着いた。そこには、どうやって中に入ったのかは不明だが、セーラームーンと、沈黙の救世主であるミストレス9、その奥には、異次元空間へと繋がった巨大な機械が見えた。


「漸く見付けたわよ…!」

「この星の未来の為…!」

「愛する人達を守る為!」

「僕達はお前を倒す!!」

「!待って!!シャイン、ウラヌス、ネプチューン、サン…!!」


ミストレス9を視界に捉え、戦う構えをとった私達を前に、セーラームーンがミストレス9を庇うように、私達の前に立ちはだかった。


「そこを退け!セーラームーン!!そいつはもう、ほたるなんかじゃない…!!」

「嫌!!もう誰も、犠牲になんかさせない…!!」

「っ…お前のその甘さが、この結果を招いたのに……まだわからないのか!!」

「わからないわ!!どうして…どうして誰かを犠牲にして、世界を救わなきゃいけないの…?誰かを犠牲に何かを守ったって、そんなの…本当の意味で救ったなんて言えないじゃない…!!ほたるちゃんは絶対に助ける!あたしが、守ってみせる…!!」

「ほたるを助ける…?あははははは!無駄だ…ほたるは消滅した…」

「!?そんな…っ…」


セーラームーンの絶望的な顔を見て、ミストレス9は楽しそうに声を上げて笑った。


「マスターファラオ90、今暫くお待ちを…」

「!ファラオ90!?沈黙の救世主が、最後の敵なんじゃないの…!?」

「っ…どうやら、違うみたいね…(何…この巨大な負の力は…っ…どんどん近付いて来る…!)」

「…セーラーシャイン、太陽系を統べる貴様なら感じているだろう…このタウ星系の中を、今正に近付いて来る、我らデスバスターズのマスター、沈黙の支配者であるファラオ90の力を…」

「っ、それが…?」


私の声に、ミストレス9は再び笑みを零すと、私達に背を向け、異次元空間に向き直った。


「この機械に私が聖杯を取り込めば、ファラオ90は出現し、この世界は沈黙の時代を迎える……太陽系は、我らデスバスターズの物となるのだ!」

「そんな事させるものか…!ワールド・シェイキング!」

「ディープ・サブマージ!」

「フレイム・バースト!」

「アジュール・ブレイズ!」


ミストレス9の言葉に、私達は一斉にミストレス9に向けて技を放った。私達4人の放った技は1つの大きな力となり、威力の増したそれが、ミストレス9へと真っ直ぐ向かって行った。


「!ダメぇええええ!!」

「!セーラームーン…!!」

「っ…きゃあぁあああ!!」

「御苦労…」


ウラヌス達の放った技を、セーラームーンは自らが盾になる事により、ミストレス9…ほたるちゃんの体を守った。


「!バカ…!」

「邪魔しないで!!」

「ミストレス9を倒さなきゃ、ほたるちゃんも、ちびうさちゃんも助けられないの!!」

「ほたるちゃんを、ちびうさを助けたいなら…お願い!!」

「無駄だ……ほたるは消滅した。もう遅い…」

「「「「「!?」」」」」


サンの言葉の後、私達を包む負のオーラが一気に増すと、辺りは闇に包まれ、それに気を取られてしまった私達は、忍び寄るミストレス9の髪に気付く事が出来ず、体を拘束され、部屋の中にあった沈黙の救世主像に捉えられてしまった。


「「「「!!」」」」

「!しまった…っ…」

「シャイン!ウラヌス!ネプチューン!サン!」

「さあ、セーラームーン…。目の前で4人を殺されたくなければ、聖杯を出せ…」

「ダメ…!」


私がセーラームーンに向かってそう叫んだ瞬間、私達4人の首に、ミストレス9の髪が巻き付き、死にはしないギリギリの力で、私達の首を締め上げた。


「…っ…セーラー、ムーン……聖杯を…っ…渡しちゃ、ダメ…!!」

「煩い奴だ…。まずはお前から片付けてやろう…」


ミストレス9がそう呟いた瞬間、私の首を締め上げていた髪は、更に締め上げる強さを増した。


「ぅ…!……っ…」

「!止めてぇ!!」


苦しさに顔を歪める私を見て、セーラームーンはミストレス9に向かって叫んだ。


「ダ、メ…っ……セーラー…ムーン……」


首を締め上げる苦しさに、私は蚊の鳴くような声しか出せず、何とか意識を保つのに必死だった。そんな私の姿に、セーラームーンは意を決したような顔を見せると立ち上がり、ミストレス9に向き合うと、両手を出し、その手の中に、聖杯を出現させようと構えた。しかしその瞬間、この空間に新たな人物の声が響いた。


「ほたる……っ…」

「!ほたるちゃんの、パパ…」

「ほたる……私だ…っ……パパだ…」


土萠創一はふらふらとした足取りでミストレス9に近付くと、ミストレス9の腕を掴み、痛みや苦しさに耐えながらも、ほたるちゃんに謝った。悪かった、こうなってしまったのは、全て自分のせいだと…。


「…ゲルマトイドの抜け殻か……器の分際で触るな。汚らわしい…」


そう言うとミストレス9は、土萠創一を吹き飛ばし、私たち同様、髪で土萠創一の首を締め上げた。


「…っ…ほた、る…」


苦しそうに土萠創一が再びほたるちゃんの名を呼んだその時、ミストレス9の様子に変化が起きた。


“パパ…”

「「「「「!!」」」」」

「っ…バカな……」


ほたるちゃんの声が聞こえたその瞬間、私達の首を締め上げていた髪が緩み、離れて行った。そしてミストレス9は胸を抑え、苦しそうな呼吸を繰り返しながら、膝から崩れ落ちた。


「ハァ…ッ…ハァッ……身体が…拒絶、反応…!」

「止めを刺せ!セーラームーン!!」

「嫌!!ほたるちゃんが、生きてる…!」

「騙されちゃダメよ!!」

「ハァ…ハァッ…言った、でしょ…!?ミストレス9を倒さない限り、ほたるちゃんは助けられないって…!!」

「でも…っ…!」

「お願い!セーラームーン…!!」

「でも…(あれは、ほたるちゃんの身体……ミストレス9に攻撃すれば、ほたるちゃんは…!)」


私達の言葉に悩むセーラームーンを余所に、土萠創一は身体を引き摺って、膝を着いたミストレス9へと近付いて行った。


「ほたる…っ……苦しいのか…?」

「ハァッ…ハァ…ッ……パパ…助け、て…」

「ほたる…!」

「ハァ…ッ…ハッ……聖、杯を…」

「聖杯…?」

「ハァ…ッ…聖杯が、ないと……ハッ……私は…っ…」


ミストレス9はそこまで言うと、更に苦しそうに、静かに悶え始めた。


「しっかりしてくれ、ほたる…っ…!その聖杯と言うのは、何処にあるんだ?」

“パパ…”

「ぅ、ぁあああああ…っ!」

「ほたる…!!」


苦しみ、悶え、突然叫び声を上げたミストレス9に、セーラームーンは遂に、その手の中に聖杯を出現させてしまった。


「あれを…っ…」

「!あれが聖杯か…?」

「聖杯、を…早く…っ…!」

「わかった…!待ってろ…っ…今、助けてやるからな…」


そう言うと土萠創一は立ち上がり、ゆっくりとセーラームーンへと近付いて来た。それと同時に、セーラームーンも聖杯を手に、ゆっくりと彼へと近付いて行った。そんな彼女の姿に、私達は必死に彼女を呼び止めた。


「何をする気だ…っ…止せ!セーラームーン…!!」

「聖杯を渡しちゃダメ…!!」

「聖杯を渡したら、この星は…未来の世界は…っ!!」

「でも!!これ以上苦しんでるほたるちゃんを、見てらんないよ…!!」

「あれはほたるちゃんじゃない…!!騙されないで!!っ…セーラームーン!!」

「頼む……それを、ほたるの為に…!」

「っ…ダメぇえええええ!!」


私の叫びも空しく、セーラームーンは、聖杯を土萠創一へと渡してしまった。


「ありがとう…っ!さあ、ほたる……聖杯だ…!これが欲しいのか…?」


土萠創一はセーラームーンにお礼を言うと、聖杯を手に、ミストレス9の元へと戻って行った。そして遂に、聖杯は沈黙の救世主、ミストレス9の手に渡ってしまった。その瞬間、ミストレス9は嘗てない程の力を見せ、土萠創一、セーラームーンを後方へと吹き飛ばした。


「あははははは…!セーラームーン…ファラオ90をお迎えした後、お前は特別にダイモーンの器として生き延びる道を与えてやろう…」

「ほたるちゃん!ほたるちゃん、聞こえるんでしょ!!ほたるちゃん…!!」

「っ…無駄…!もう何をしても…っ…手遅れだ…!」

「ほたるちゃんも、この世界も…あなた達の思い通りにはさせないわ!!」

「諦めろ…。この聖杯は、愛情も、憎しみも、喜びも、怒りも、悲しみも…全てを最高レベルまで高めた、ピュアな心の純結晶体…。聖杯を取り込んだファラオ90に勝つには、それを越えるピュアな心の結晶を作るしかない…。お前達に勝ち目はないのだ!!」


ミストレス9はそう叫んだ後、異次元空間へと繋がる機械に、聖杯を取り込んだ。その瞬間、機械から強大な負のパワーが溢れ出すとほぼ同時に聖杯は砕け散り、ファラオ90を呼び込む為の光の道となった。
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