新たな始まり(2/2)
「力を解放します!2人とも、この星に影響が無いようサポートを…!」

「OK…!」

「任せて!」


サターンと共にファラオ90の中心部へと入り込んだセーラームーンと私は、サターンの声を合図に、彼女のサポートに付くべく、それぞれロッドを取り出し、力を解放した。


「ムーン・コズミックパワー!」

「ブライトイノセンスパワー!」

「デス・リボン・レボリューション…!」


私達の力の解放に続き、サターンが技を発動したその瞬間、サターンの持つ沈黙の鎌が、ファラオ90の負の力を内側から吸収し始めた。


「な、何だ…っ…力が、抜けて行く…!!」


サターンの技に驚き、戸惑いの声を上げるファラオ90に、サターンは静かに己の持つ沈黙の鎌に付いて口を開いた。


「私の持つ沈黙の鎌は、相手の力を吸収し、それを破壊力に変える鎌…」

「!何、だと…!?」

「デス・バスターズ、ファラオ90…!私と共に、消滅してもらうわ…!!」

「!サターン…!?」

「一体何を…!?」


サターンの言葉に、今度は私達が驚き、戸惑いの言葉を口にすると、サターンは私達に向かって微笑み、再び静かに口を開いた。


「…あなた達がいて本当によかった…。これで、星に影響を与える事なく、この星を救える…。ファラオ90を倒した後の世界を、どうかお願いします……私の大切な、プリンセス達…」

「「!!サターン…!!」」

「さようなら、セーラームーン、セーラーシャイン……!」


サターンはそう言うと、力を吸収し終えた沈黙の鎌を、ファラオ90の核目掛け、一気に振り下ろした。その瞬間、眩い光がサターンとファラオ90を包み、ファラオ90は呻き声を上げながら消滅して行った。


「諦めない…!」

「絶対に…!」

「「サターンを…ほたるちゃんを、救ってみせる…!!はぁあああああ…!!」」


私達2人の、ただ純粋にほたるちゃんを、セーラーサターンを救いたいと言う思いに反応したのか、私達の目の前に突然聖杯が現れた。


「!聖杯が…!」

「これは、一体…」

「無限の力を持つ聖杯が、救世主の力により目覚めたのです…。あなた方2人が、この星を救う救世主だったんです…」

「!私達2人が…」

「救世主…?」


サターンの言葉に、私とセーラームーンは聖杯を手にし、光に包まれたサターンを見つめた。


「あなた達の温かい心が、この星を沈黙から救った…」

「私達の、心…」

「…あなた達に出逢えて、本当によかった……さようなら…」


そう言って今にも消えようとしているサターンに、私達は互いの顔を見て頷き合うと、聖杯に願いを込めた。


「お願い、聖杯…!ほたるちゃんを…セーラーサターンを助けて…!!」

「セーラーサターンを、この悲しい運命から、救ってあげて…!!」

「「彼女にもう一度、新たな生命を…!」」


私達が聖杯にそう強く願った瞬間、聖杯は光り輝き、セーラーサターンを包み込んだ。


「!…何て、温かい光………ありがとう…2人の、救世主…」


サターンのそんな声が聞こえた瞬間、彼女を包んでいた光が一気に弾け飛び、気が付けば、私達は元いた場所へと戻っていた。


「ここ…」

「戻って、来たの…?」

「「「シャイン…!!」」」

「!ウラヌス、ネプチューン、サン…!」

「「「「セーラームーン!!」」」」

「!皆…!!」


それぞれを呼ぶ声に私達が振り向けば、私達の帰りを待っていた皆が、私達2人の元へ掛け寄り、私達2人をきつく抱きしめた。


「もう、あんな無茶をするなんて…!」

「心配したんだぞ…!!」

「…ごめん…心配掛けて…」

「おかえり、ママ…」

「ただいま、希望…」


私達がこんな会話をしている間、セーラームーンも似たような話をしながら、彼女を心配していた皆に、きつく抱きしめられていた。しかし、何かを思い出したサンの声に、私達2人は顔を見合わせると、小さく笑みを浮かべた。


「そうだ…!そう言えば、ほたるちゃんは…?」

「大丈夫…」

「ちょっと、待ってね?」


私達は彼女にそう言うと、抱きしめられていた腕の中から抜け出し、それぞれがプリンセスの姿へと変わった。そして、皆から少し離れた所に立つと、ロッドを片手に、先程のように、2人で聖杯に手を翳し、力を解放させた。


「ムーン・コズミックパワー!」

「ブライトイノセンスパワー!」


私達の声を合図に光出した聖杯は、銀水晶、クリアトパーズの力を増幅し、ファラオ90により傷ついた星の修復を始めた。それと同時に、私達の目の前に、キラキラと淡い光が集まり出し、それが1つの大きな光になると、私はセーラームーンに聖杯を預け、その光に手を伸ばした。


「……この星を救う救世主は…」

「彼女達、だったのか…」

「「「「「え…?」」」」」


私の腕の中で、光はゆっくりとその輝きを失い、代わりに、先程聖杯に願った小さな生命が、元気な産声を上げた。

「今まで辛い思いをさせてごめんね……もう、あなたを1人にはしないから…」


私が再びこの時代に転生したセーラーサターンを腕に抱きながら、彼女にそう声を掛ければ、赤子となったセーラーサターンは、ニコッと可愛らしい笑みを見せてくれた。



―――――



あれから数日、私達は奇跡的に助かった土萠教授の意識が再び戻るまで、赤ん坊になったほたるちゃんを預かり、生活していた。


「はい、御馳走様…」

「ママ!ほたるちゃん、のんが抱っこしたい!」

「いいけど…落とさないように気を付けてね?」


ソファーに座ってほたるちゃんにミルクを飲ませていた私は、ミルクを飲ませ終えると、軽く背を叩き、ミルクを吐き出さないようにげっぷを出させると、そっと希望にほたるちゃんを渡した。


「ふふ…普段は甘えん坊な希望だけれど、こうして見ると、もう立派なお姉さんね…」

「そうなの!はるかももちろん手伝ってはくれるけど、希望の方が率先して、ほたるちゃんの面倒見てくれるからびっくりしちゃった…」

「だって、ほたるちゃん可愛いんだもん!」

「ふふ…そうね…」


みちるや私の言葉に希望がそう返すと、希望の腕の中でほたるちゃんがキャッキャと楽しそうな声を上げた。そんな中、別の部屋で荷物の準備をしてくれていたはるかが、私達のいるリビングに顔を覗かせた。


「随分楽しそうだな…」

「はるか!準備終わったの?」

「ああ…いつでも出発出来る」

「それじゃ、そろそろ行こっか!いつまでもここに居たら、別れたくなくなっちゃうし…」

「そうね…」


私達はソファーから立ち上がると、最低限の荷物だけを持ち、家を出た。それからはるかの車に乗って、土萠教授が入院してる見原台総合病院まで行くと、意識を取り戻した土萠教授にほたるちゃんを返し、私達は病院を後にした。


「……ほたるちゃん…元気でね…」

「夏希…」

「……大丈夫。行こう…!希望を、見送らなきゃね…」

「ママ……」


私は希望に向かって微笑むと、そっと希望の手を握った。そして私達は病院から少し歩いた所にある公園へと向かった。



―――――



あれから少しして公園に辿り着いた私達は、水と木に囲まれ、あまり人目の付かない場所まで来ると、静かに立ち止まった。


「…ここでいいよ。ありがとう、パパ、ママ、みちるお姉ちゃん…」

「希望…」

「短い間だったけど、凄く楽しかった!本当に、ありがとう…」

「…未来に帰ったら、未来の私達によろしくね…?」

「うん!わかった!」

「またいつでも遊びに来いよ…」

「うん…ありがとう、パパ」

「…またね、希望…」

「うん…未来で待ってるね、ママ…」


そう言うと希望は、私達から数歩離れた場所に立ち、時空の鍵を空に掲げた。


「時の衛人よ…時空の扉、天空を裂き、我に開け放て!我は汝の真の名を呼ぶ、全能なる時の神、衛人の父“クロノス”よ、我を導きたまえ!我を守りたまえ!光の道を我に!!」


希望がそう言霊を唱えた瞬間、空から光が差した。その光は希望を包み込むと、ゆっくりとその体を宙に上げ、未来へと繋がった扉へと導いて行った。


「っ、ママ!パパ!みちるお姉ちゃん!大好き…!!」

「!希望…!!」

「…さようなら!」


希望はそう言い残し、未来へと帰って行った。


「希望……っ…」

「夏希…」

「泣かないで…」

「ごめ…っ……泣くつもりなんて、なかったのに…」


そうは言いつつも、私の涙が止まる事はなく、私は暫くの間、はるかとみちるに抱きしめられながら、静かに涙を流した。



―――――



暫くして、漸く落ち着いた私は、手の甲で涙を拭い、はるかとみちるの2人に笑い掛けた。


「……落ち着いた?」

「うん……ごめんね、はるか…みちる…。全てが元通りになっただけの筈なのに…何だか、寂しくて…」

「寂しくて当然よ……短い間だったとはいえ、ずっと一緒にいたんだもの…」

「うん……」

「……夏希、前にも言ったけど、僕達は希望や、夏希の両親の代わりにはなれない。けど、僕達は夏希の家族にはなれる。…これからは、僕達がずっと、夏希の側にいるよ…」

「!はるか…」

「そうね…。これからは、私達家族3人…ずっと一緒よ、夏希…」

「みちる……っ…ありがとう、2人とも…」


はるかとみちるの言葉に、嬉しさから込み上げた涙を目に溜めつつも、私は2人に笑顔を向けた。


「はるかもみちるも、大好き…!」
to be continued...
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