希望の悲しき決意
「はるかー、希望ー!ご飯だよー!」

「わかった、今行くよ!…希望、行こう。」

「…うん……」


あれから暫く経って、はるかの住むマンションへと帰って来た私達は、これ以上希望に不安を与えないようにと、己の心の奥底に不安や焦り、色んな感情を隠し、出来る限りいつも通りにと、自分達に暗示を掛けながら行動していた。


「お、美味しそうだな…」

「えへへ…今日は、希望とはるかの好きな物いっぱい作ったの!これだけ、ちょっと焦げちゃったけど…」

「これくらい、焦げた内に入らないいよ…。さ、せっかく夏希が作ってくれたんだ。冷めない内に食べよう…」

「そうだね!ほら希望、座って!」


私は顔を俯かせたまま、元気のない希望を席に座らせると、はるかの向かい側、希望の隣に腰を下ろした。


「…それじゃあ、頂きます。」

「頂きます!」

「………ねぇ、ママ…パパ…」

「何…?」

「どうした?」

「…ほたるちゃん…どうなるの…?」

「「!!………」」

「…私…どうしたらいいのかな……?」


漸く顔を上げたと思えば、希望の目には溢れんばかりの涙が溜まっていて、スカートの裾を握る手は震え、希望は必死に泣くのを堪えている状態だった。

そんな希望を見て、私は誤魔化すだけ、逃げるだけじゃダメだ。ちゃんと希望と、この現実に向き合わないと思った。


「……希望、あなたはどうしたいの?」

「私…?」

「そう。沈黙の戦士云々は抜きにして、ほたるちゃんの事、どう思ってるの?」

「ほたるちゃんは……体は弱いけど、凄く優しくて…可愛くて……私の大切な、お友達だよ…?」

そう言った希望の目は、どこか悲しさを、運命の残酷さを嘆いているようにも見えたけど、それよりも優しくて、ほたるちゃんを想う気持ちが溢れていた。


「……そっか、わかった。…それじゃあ、何とかして、ほたるちゃんの沈黙の戦士としての覚醒を阻止して、ほたるちゃんを助けてあげなきゃね…?」

「!本、当…?」

「うん、本当…約束する。」


私がそう言えば、希望は嬉しそうな表情を見せ、はるかは焦ったような、少し怒ったような、何とも複雑そうな表情を見せ、勢いよく立ち上がると同時に、反論の言葉を口にした。


「何を言ってるんだ夏希…!!土萠ほたるを生かすと言う事は…っ!!」

「どれだけ危険な事かはわかってる。だけど、希望の悲しむ顔なんて、私は見たくない…。それは、はるかだって同じでしょ?」

「っ…しかし…!!」

「大丈夫。無理にクリアトパーズの力を解放しようってわけじゃないから…。クリアトパーズの力を解放しなくても、1つだけ方法はあるの…。…ただ、それには3つのタリスマンに封印した力が…はるか達の協力が必要になる。」

「僕達の協力…?」


そう私の言葉を繰り返し、尋ねて来たはるかの言葉に、私は静かに頷いた。


「……タリスマンは元々、初代の太陽系のクイーンが、その大き過ぎる力の暴走を防ぐ為…自分の力の制御の為に、力を3つの神器に封じ込め、少しでも戦いの助けになるようにと、自分を守る3人の守護戦士に渡した物…。その封印を解く為には、3つ鍵……つまり、3つのタリスマンを揃えなければならない…」

「…簡単に言えば、聖杯を出現させた時と、同じ状況にしたらいいのか…?」

「まあ、そんな感じね…。…タリスマンが真の力を解放したその時、現太陽系のプリンセスである私の中に、強大な力が戻るわ。聖杯の力がなくても、救世主なんていなくても、容易くこの星を救えるくらいの大きな力が…」

「!それじゃあ…!」

「…だけど、これには1つだけ問題があるの…」

「…その問題って何…?」

「…この力は、言わばセーラーサターンの沈黙の鎌と同じ、諸刃の剣…。確かに、救世主や聖杯の力なしでも、全てを守り、ほたるちゃんを救う事は出来る。だけど、まだ完全に太陽系のクイーンとして覚醒し切っていない今の私には、この力はまだ大き過ぎる…。…今までの戦闘で多少は強くなってるから、何とかギリギリのところで制御出来るとは思うけど、気を抜けば、力は暴走し、制御が出来なくなる…。そうなれば……」

「…そうなれば、例えデス・バスターズを倒せたとしても、世界は破滅する…か?」


私ははるかの言葉に、静かに首を縦に振った。


「…力が暴走しなくても、少なからず、私には何かしらの影響はあると思う…。それがいい方に影響するか、悪い方向に影響するかはわからない…」

「…そんな…っ…!」

「だから2人とも、覚悟だけは…」

「ダメだ。希望には悪いが、夏希にそんな危険な賭けをさせるわけにはいかない…」

「っ、はるか…!」

「絶対にダメだ!!沈黙の戦士を救うのに、どうして夏希が危険を冒してまで頑張らなきゃならないんだ…!!」

「…パパ…?」

「…僕はもう、君を失いたくないんだ…。…わかってくれ、夏希…」


そう口にしたはるかの表情は、今にも泣きそうなくらい歪んでいて、それを見た私は、言葉を失った。

「はるか……」

「…沈黙の戦士は、死を司る死の戦士…。彼女が目覚めれば、星を、たくさんの人々を殺す…。そうなる前に、セーラーサターンの力は僕達が永遠に封じる…!」

「!それって、まさか…!!」

「覚醒する前に、土萠ほたるを叩く…!」

「そんな…!!ダメよ!!確かに、ほたるちゃんは沈黙の戦士の生まれ変わりだけど、ほたるちゃんには何の罪もないのよ…!?それなのに…!!」

「だが彼女は、あの土萠創一の実の娘だ!」

「土萠創一…?そう言えば、帰りの車の中でも言ってたよね…?ほたるちゃんのパパがどうかしたの…?」


はるかの漏らした言葉に、土萠創一の存在を知らない希望は、不思議そうに首を傾げた。


「…っ…土萠創一は、私達がデス・バスターズの1人じゃないかと疑っている人物よ…。表向きは、無限学園の創設者兼、現理事長を務めているけど…」

「無限学園には、そこら中に妖気が漂ってる。あそこが敵のアジトと…もしアジトじゃなくても、敵と何かしらの関係があるのは、間違いない。」

「!まさか……そんな…っ…!」

「だから、娘である土萠ほたるも、デス・バスターズと何かしらの関係があると僕は思っている。奴らが土萠ほたるの中にセーラーサターンの力が眠っていると知れば、それを悪用しかねない。それを阻止する為にも、土萠ほたるは消去すべき対象なんだ…!」

「……ほたるちゃんのパパが…デス・バスターズの、1人…?」


私達の話を聞き終えた希望は、目を大きく開き、その事実に驚いていた。


「そうだ。…土萠ほたるを生かすと言う事がどれだけ危険な事なのか、これで希望もわかっただろ?」


真剣な表情のはるかがそう問えば、少しの間を開け、希望もただ静かに首を縦に振った。


「!希望…!!」

「…ほたるちゃんは大好きだよ?…っ…でも、デス・バスターズと何かしらの関係があるなら、それは………!私の使命は、この時代に来れないママやパパの代わりに、未来の世界を守る事…!!友達だからって……っ…敵かもしれない相手に同情して、憐れんで、情けを掛けるなんて…して、られない…っ!!」


そう強がって言いながらも、希望の目からは次から次へと涙が溢れ、何も出来ない悔しさからか、体を小さく震わせていた。


「未来を…大切なものを守る為に、犠牲を惜しんでちゃ…っ…何も守れない…!!」

「希望……」


強がりながらもボロボロと涙を流す希望を見ていると、何だか昔の自分を見ているようで、私は胸が締め付けられるような思いになった。


「(…昔の私だ…。強がってるけど、何も出来ない自分が腹ただしくて、悔しくて……)希望……」


私は希望の体を強く抱きしめ、優しく頭を撫でた。


「……すまない、希望…」

「…っ…パパは、悪くないよ……謝らないで…?」


はるかの謝罪の言葉に、希望は首を横に振り、そう言葉を漏らした。


「(……私が何とかしなきゃ…。皆が笑って暮らせる、そんな幸せな未来を創る為に…!)」
to be continued...
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