動き始めた秒針
「それじゃ、行って来ます!」

「行ってらっしゃい!あんまり遅くなっちゃダメよ?」

「はーい!」


ある平日の放課後、私が学校を終えて家に帰ると、既に帰宅していた希望が、こっちで出来た友達と遊ぶ約束でもしているのか、出掛ける準備をしていた。

そんな希望に行き先と、念の為に持たせた携帯をちゃんと持ったか尋ね、彼女の返事を聞いて安心した所で、冒頭の台詞に戻る。


「…さてと、私も早く着替え済ませて、はるか達と合流しなきゃ!」


希望の背中を見送り、私は持っていた鞄を机の上に置くと、急いで制服から私服へと着替え、手持ちの小さなバッグに携帯と財布などの必要最低限の物だけを入れ、家を出た。


「はるか、みちる、せつな…!」

「お、来た来た…」

「皆、遅くなってごめん…!」


家を出て暫く経ち、待ち合わせをしていた公園ではるか達と合流した私は、遅れてしまった事を3人に謝った。


「私達が早く来過ぎただけですので、どうかお気になさらず…」

「ありがとう、せつな…」


せつなの言葉に、私が笑みを漏らした時、みちるが疑問の声と共に、私にある事を尋ねて来た。


「あら…?今日は希望と一緒じゃないの…?」

「うん。何でも、ちびうさちゃんと一緒に、こっちで出来たお友達の家に遊びに行くんだって!救世主の事はあるけど…希望まだ小学生なんだし、救世主探しばっかさせるのも可哀想でしょ?」

「確かに、ね…」

「僕は別にそれでも構わない。希望が遊びに行っていれば、僕が夏希を独り占め出来るわけだし…」


そう言うや否や、はるかは私を後ろから抱きしめると、頬やら耳やら、あちこちにキスを落とし始めた。


「ちょっ…はるか、擽ったい…!」


そんなはるかに、恥ずかしさやら、擽ったさから軽く抵抗する私、抵抗をものともせず、キスを落とし続けるはるかを見て、みちるがはるかに言葉を掛けた。


「まあ…はるかだけずるいわ。私だって夏希不足なのよ?あなたはいつも夏希と希望の3人で一緒にいるんだから、たまには私に夏希を譲って下さってもいいんじゃないかしら?」

「…いくらみちるの頼みでも、それだけは聞けないな…。夏希は誰にも渡さない。みちるにも、せつなにも、もちろん、希望にもね…」


そう言うとはるかは、私の左手を取り、薬指の付け根にキスを一つ落とすと、その手を握ったまま、更に強く私を抱きしめた。


「ねぇ、はるか…今の台詞、捉え方によっては、何だか希望に嫉妬してるみたいに聞こえるよ…?」

「そんな事ないさ…。ただ君が、いつも希望ばっかり構うのが、少し気に入らないだけでね…」

「はるかさん?人はそれを嫉妬と呼ぶのよ?」


私ははるかの方へと向き直り、はるかの頬に両手を添えると、軽く首を傾げながらはるかを見つめてそう言った。

するとはるかは、ちょっとだけ拗ねたような表情を見せた。どうやら、本当に希望に嫉妬してたみたい…

そんな私とはるかのやり取りに、みちるとせつなは再びクスクスと笑いを零した。


「…昨日までは、立派なパパだったのに…」

「希望の父親の前に、僕は夏希の恋人なんだ…。夏希の目に映るのは、僕だけでいい…」


そう言うとはるかは、正面から改めて私を抱きしめ、首筋に顔を埋めて来た。


「もう、独占欲だけは強いんだから…」

「それだけ夏希の事が好きだって事だよ…。……愛してるんだ。本当に、誰よりも…」

「……寂しかった…?」

「………寂しかった…」


私のこの問いに対し、普段なら絶対返して来ないような答えを、はるかは私にしか聞こえない程度の声で呟き、私を抱きしめる腕の力を、少しだけ強めた。

そんなはるかに、私は何とも言い表せない愛しさと、申し訳なさを感じ、彼の背中に腕を回すと、ギュッとはるかを抱きしめ返した。


「…ごめんね、はるか……でも、忘れないで…?どんなに希望が可愛くたって、私の一番はずっと、はるかだけだから…」


私はそう言うと、少しでも多く、私の気持ちがはるかに伝わるようにと願いを込め、苦しくない程度に、力一杯、はるかに抱き付いた。


「…ありがとう、夏希……愛してる…」

「うん…私も、はるかの事が一番好き…。誰よりも愛してるよ…?」


私の言葉に、漸く笑みを見せてくれたはるかに、私も微笑み返すと、私達はここが公園で、人目があるのにも関わらず、数秒見つめ合った後、ゆっくりと静かに唇を重ねた。



―――――



あれから少しして、みちるは私達2人に気を遣ってくれたのか、私達に「今日は二手に別れて行動しましょ?」そう言い残し、せつなを連れ、さっさと救世主の捜索と敵についての情報収集にと、公園を出て行ってしまった。


「…2人っきりになっちゃったね。」

「僕と2人じゃ嫌…?」

「何?嫌だって言って欲しいの?」

「まさか。冗談でも言われたくないな…」


私は、そう小さな笑みと共に言葉を漏らしたはるかの腕に抱き付くと、少しだけ背伸びをして、彼の頬にそっと口付けた。


「嬉しいよ?大好きなはるかと、2人っきりになれて…」

「…全く…夏希には敵わないな…」


そう言うとはるかは、私の額にキスを一つ落とし、私に向かって優しく微笑んだ。


「…お姫様、このまま僕の車に乗って、海までドライブなんていかがですか?」

「…救世主は探さなくていいの…?」

「そりゃ、救世主は探さなきゃいけないけど…。今はそれよりも、せっかくみちる達が気を利かせて作ってくれた、夏希とのこの時間を…僕は大切にしたいんだ……ダメか?」

「…戦士としてはダメだけど、恋人としては最高!すっごく嬉しい…っ!」

「それじゃ、決まりだな…」

「うん!」


話が纏まった所で、私達は互いの指を絡め合って手を繋ぐと、みちる、せつなの2人にだいぶ遅れ、漸く待ち合わせ場所だった公園を後にした。

それから暫く経ち、はるかの車で近くの海までやって来た私達は、路肩に停めた車に寄り掛かり、2人寄り添って、特に何をするでもなく、他愛のない会話を交わしながら、海に沈む夕日を眺めた。


「……夕日、綺麗だね…」

「僕は夏希の方が、よっぽど綺麗に見えるけど?」

「またそう言う冗談言う…」

「冗談じゃないさ…。僕はいつだって本気だよ…?この宇宙に存在するどんな美しいものだって、夏希の美しさには敵わない…」


そう言って私の手の甲にそっとキスを落とすはるかに、私は顔を真っ赤に染め上げ、隠した所で、どうせすぐにバレるんだけど…それでもやっぱり照れてるのを隠したくて、素っ気なくはるかに言葉を返した。


「……バカ…」

「…それだけ愛してるんだよ、夏希の事をね…」


夕日に照らされてるとは言え、下手したら夕日よりも赤いんじゃないかと思ってしまう程赤くなった私の顔を見て、はるかは小さく笑みを零すと、私にそんな言葉を掛けた。

そしてその瞬間、鞄の中に仕舞ってあった私の携帯が、着信を知らせる音を鳴らした。その音に気付いた私は、鞄の中から携帯を取り出し、ディスプレイに表示された着信相手の名前を確認した。


「あ、希望だ。…どうしたんだろう……もしもし?」

「…恋人同士の甘い時間は終わりか…」


私が希望の名前を出した瞬間、はるかは少し残念そうにそう呟くも、その表情はどこか優しさを含んだような、柔らかい表情をしていた。しかしそれも束の間、希望と電話をしている私の様子がおかしい事に気付き、はるかの表情は、すぐに訝しげなものへと変化した。


「うん…うん……わかった、すぐ行くそっちに向かうから、ちょっとだけ待っててくれる?ん?……もう発作も落ち着いてるんでしょ?だったら大丈夫。暫くしたら目を覚ますわ…。私達が行くまで、ちびうさちゃんとその子の側にいてあげて…?…うん、じゃあまた後でね…?」

「…どうした?」


電話を切った私を見て、はるかがそう尋ねて来た。そんなはるかに、私は携帯を鞄に仕舞いながら、希望から聞いた話を、彼に話した。


「…友達が発作を起こして倒れたんだって…。たまたま近くを通った亜美とうさぎが助けてくれて…今、亜美のお母さんが働いてる病院にいるって…」

「!?どこの病院だ!?」

「十番第二総合病院…!」

「わかった…急ごう!」


はるかの言葉に頷くと、私達はすぐに車に乗り込み、希望達のいる病院へと向かった。



―――――



あれから暫く経ち、私達が病院の近くまで来た頃には、すっかり日が沈み、辺りは暗くなっていた。

私達が病院の前まで来ると、ちょうど中から出て来る希望達の姿が目に入り、私はすぐに車から降りると、希望達へと駆け寄った。


「希望!!」

「!夏希お姉ちゃん…!」

「希望、お友達は無事だったの?」

「うん!もう大丈夫だって!ね、ほたるちゃん?」

「うん!」


そう言って希望は、自分の隣に立つ、希望より少し背の高い女の子へと視線を向けた。そしてその少女は、希望の問い掛けに対し、微笑んで肯定の言葉を口にすると、今度は私に視線を向け、挨拶の言葉を口にして来た。


「初めまして、土萠ほたるといいます。」

「土萠…?……あ!もしかして、土萠創一教授の娘さん…?」

「はい。」

「そうなんだ…(土萠創一の、ね…)!あ、私は日向夏希。よろしくね、ほたるちゃん。…さて、今日はもう遅いから、皆で一緒に家帰ろうっか?はるかに家まで送らせるよ。車乗って?」

「「はーい!」」

「行こう、ほたるちゃん!」

「あ…待って、ちびうさちゃん、希望ちゃん!」


私の一言に、希望とちびうさちゃんはほたるちゃんの腕を引き、はるかの待つ車へと向かって小走りに駆けて行った。

そんな彼女達の背中を見つめ、私はその顔から笑みを消し去ると、小さく呟いた。


「……土萠ほたる、ね…(あの子、不思議な力を秘めてる…。それも不安定で、微妙な力…。あの子が力を秘めているだけの無害な少女か、それとも、私達を破滅へと導く者か……暫く様子を見た方が良さそうね…)」

「夏希お姉ちゃーん!」

「!今行く!」


私は希望の呼び掛けに、急いではるかの車へと戻った。そして私が助手席に乗り込み、シートベルトを装着したのを確認すると、はるかは彼女達を家に送り届ける為、病院前から車を出発させた。



―――――



「この道でいいんだね?」

「はい。」


車を発進させてから暫く経ち、はるかはほたるちゃんに道を確認しながら、まずは彼女を家に送り届ける為、彼女の家へと向かって車を走らせていた。

そんなはるかに、希望やほたるちゃんと一緒に後部座席に座るちびうさちゃんは、お礼の言葉を掛けた。


「はるかさん、ありがとう!」

「気にしなくていいさ。いつも希望と仲良くしてくれてるお礼だよ…これからも、仲良くしてあげてくれるかな?」

「うん!」


はるかのこの言葉に、ちびうさちゃんは可愛らしい笑顔を私達に向けて来た。しかし、それもほんの少しの間で、彼女はすぐに自分の隣に座るほたるちゃんへと視線を向けると、ほたるちゃんに私達の関係を説明し始めた。


「あのね、はるかさんはのんちゃんのパパ…じゃなくて、お兄さんで…」

「夏希お姉ちゃんは、お兄ちゃんのお嫁さんになる人なの!」

「っ…!?」


ちびうさちゃんの言葉に続くように発された希望の台詞に、助手席で静かにペットボトルに入った紅茶を飲んでいた私は、噴き出す事はなかったものの、盛大に咽込んだ。

そんな私を心配したはるかは、公園前の少し広めの路肩に一時停車し、私の背中を優しく摩ってくれた。


「夏希、大丈夫か…?」

「うん…。何とか……」


盛大に咽た事により、暫く荒い呼吸を繰り返す私を心配そうにはるかが見つめていたその時、この辺り一帯を包む妖気が高まったのを感じ、私とはるか、そして希望の3人は、視線だけを公園の方へと向けた。


「?どうしたんですか…?」


様子のおかしい私達に気付いたのか、ちびうさちゃんがそんな事を尋ねて来た。そんな彼女に、私は咄嗟に適当な事を言って、公園の中へと足を運ぶ口実を作った。


「え?あー…その、咽た時に、服にちょっと紅茶溢しちゃったみたいで…。そこの公園で、さっと洗って来てもいいかな?紅茶のシミって、すぐに洗わないと中々落ちなくてさ…」


そう苦笑を漏らしながら、申し訳なさそうな表情を浮かべる私に、後部座席に座る、希望を除いた2人の少女は、静かに頷いた。


「どうぞ、行って来て下さい。その素敵な服に、シミなんて出来たら大変ですから…」


そう言って微笑むほたるちゃんに、私は微笑み返すと、小さくお礼を言い、はるかの車を降りた。そんな私に続き、はるかも適当な事を言って、私と一緒に車から降りた。


「僕も一緒に行くよ。夏希が変質者に捕まったりしたら大変だからね…。…お姫様を守るのは、王子様の役目だろ?」

「のんも一緒に行く!」

「はいはい…それじゃ2人とも、悪いけどちょっとだけ待っててくれる?洗ったらすぐ戻って来るから。」

「はい。」

「行ってらっしゃーい!」


車にちびうさちゃんとほたるちゃんの2人を残し、私ははるかと希望を連れ、ダイモーンがいるであろう公園内へと足を進めた。



―――――

公園内に入った私達は、人目がない事を確認するとすぐに変身し、妖気の発信源である、ミメットとダイモーンへと向かって技を放った。


「ワールド・シェイキング!」

「フレイム・バースト!」

「「!!」」


私達の放った技に気付いたダイモーンとミメットはそれをギリギリのところで避け、私達へと視線を向けた。


「力尽くじゃ、男心は奪えないぜ?」

「誰!?」

「風の星、天王星を守護に持つ、セーラーウラヌス!」

「業火と光の星、未来の太陽を守護に持つ、セーラーサン!」

「同じく太陽を守護に持つ、太陽系最強戦士、セーラーシャイン!」

「「「我ら、外部太陽系戦士!」」」

「っ…セーラー戦士…!ウ・トモダチ!そいつらもお友達にしちゃいなさい!」



ミメットのこの命令に、ダイモーンは棘の生えた縄跳びを取り出すと、縄跳びをしながらすごいスピードで私達へと向かって走って来た。


「ウラヌス!サン!」


私の合図に2人は頷くと、私達はそれぞれ別方向に飛び、ダイモーンの攻撃を避けた。そしてサンは、体勢を立て直すとすかさずダイモーンへと向かって技を放った。


「アジュール・ブレイズ!」


しかし、ダイモーンは軽々それを避け、再び私達に向かって来ようと構えをとったその時、ダイモーンの少し後ろから、ダイモーンに向かって、怒りの言葉が投げ掛けられた。


「こら、ダイモーン!いい加減にしなさいよ!愛と正義の、セーラー服美少女戦士見習い、セーラーちびムーン!未来の月に代わって、お仕置きよ!」

「「「「「あたし達、セーラーチームもお忘れなく!」」」」」

「!いつの間に…」

「っ…ぞろぞろと…!ウ・トモダチ、後は任せたわよ!」

「!ミメット様…」


この人数相手じゃ勝ち目がない事を理解したのか、ミメットはそうダイモーンに言い残すと、そうそうにその場から逃げ去った。

そして、ミメットに見捨てられたダイモーンは、目一杯に涙を溜めると、私達を睨み付けるように見つめ、再び棘の付いた縄跳びをしながら、すごいスピードで向かって来た。


「っ…せっかくお友達になってあげようと思ったのに…もう止めた!!あなた達なんて…っ…絶交よぉおおお!!」

「!皆、避けて!」


私の声に、一部を除いて、私達は難なくその攻撃を避けると、ダイモーンの向かって行った方向を若干呆気に取られながら静かに見つめた。


「…何だったの…?」

「さあ…」

「!しまった…!」

「!あっちには…!!」

「ほたるちゃん…!」


私、ウラヌス、サンの3人は、車で待っているほたるちゃんの存在を思い出すと、セーラームーン達をその場に残し、すぐに車のある場所まで走った。


「いた…!」

「!ほたるちゃん…!!」


私達の視線の先には、発作に苦しむほたるちゃんとダイモーン。ほたるちゃんは発作の苦しさから、ダイモーンの存在には気付いていないようだった。そんなほたるちゃんを見て、サンが彼女の名前を叫ぶように呼んだその時、突然、彼女を包むオーラが変わったのを感じた。

そして次の瞬間、彼女、ほたるちゃんを包む強大な力によって、ダイモーンは瀕死に近いダメージを食らい、その場に倒れた。


「「「!?」」」

「っ…今の…何……?」

「あの力…まさか、彼女は…っ!」

「……沈黙の、戦士…?」


私が小さく呟いた言葉が聞こえたのか、ウラヌス、サンは驚愕の表情と共に、ほたるちゃんから私へと視線を移した。


「そんな……ほたる、ちゃんが…?」

「…っ…とにかく今はダイモーンを!」


私はウラヌスの言葉に頷くと、ロッドを取り出し、ダイモーンへと向けて浄化技を放った。


「シャイン・ハート・キュア・エイド!」

「!?ラブリィイイイイイ!」


私の放った浄化技で、ダイモーンが浄化されたその時、私達の後を追って来たセーラームーン達が漸く追い付き、姿を見せた。


「ウラヌス、シャイン、サン…!!」

「ほたるちゃんは…!?」

「…大丈夫、無事よ。」


私がロッドを仕舞い、彼女達にそう伝えた時、いち早く変身を解いたちびうさちゃんが、車に寄り掛かるようにして気を失っているほたるちゃんへと駆け寄って行った。


「ほたるちゃん…!ほたるちゃん!!ほたるちゃん、しっかりして…!」

「っ……ちびうさちゃん…?」

「大丈夫…?」


ちびうさちゃんの本当に心配そうな目を見て、ほたるちゃんの目が一瞬揺れた。そして次の瞬間、ほたるちゃんは苦しそうな、辛そうな表情を隠すように顔を俯かせ、小さな声でちびうさちゃんに言葉を発した。


「!…っ…私には…もう会わない方がいい。このままでいたらきっとあたし、ちびうさちゃんを…希望ちゃんを、傷付ける…」

「どうして…?」

「…っ……ごめんなさい…ごめんなさい!!」

「!ほたるちゃん…!!」


それからほたるちゃんは、必死に呼び掛けるちびうさちゃんの制止の声も聞かず、そのまま走り去ってしまった。


「ほたるちゃん……」


そんなほたるちゃんの行動に落ち込むちびうさちゃんを見ていると、胸が痛んだ。彼女は本当に、ほたるちゃんの事が大好きなんだって、伝わって来たから…


「(本当、運命って残酷……でも…っ!)セーラームーン…」

「?はい…」

「…暫くちびうさちゃんを、ほたるちゃんに近付けない方がいい…」

「!どう言う、事…?」

「……理由は言えない…」

「シャイン…っ!!」

「とにかく!!…そう、言い聞かせて…」


私の突然の大声に、セーラームーン達は驚愕の表情を見せ、口を噤んだ。

一方で私は、そんな彼女達を横目に変身を解き、隣で顔を俯かせ、震える小さな体を抱きしめ、優しく声を掛けた。


「希望、帰ろう…?」


そんな私の声に続くように、いつの間にか変身を解いていたはるかが、優しく希望の頭を撫でながら言葉を発した。


「…大丈夫だ。僕達は、ずっと側にいる…」
 
「!……パ、パ…ママ…」

「帰ろう、希望…。ずっと希望の側にいるから…ね、はるか?」

「あぁ…」


私達のその言葉に漸く顔を上げ、変身を解くと同時に、私の服の裾を掴んで小さく頷いた希望を見て、私とはるかは小さく微笑んだ。


「それじゃ、行こっか…」

「あぁ……」


私達が踵を返し、セーラームーン達に背を向けた所で、セーラームーンが小さく私の名前を呼んだ。


「…夏希ちゃん…」

「……ごめん、うさぎ…。……それじゃ、また明日学校でね…!」


私はそう言い残すと、彼女達をその場に残し、はるかの車へと乗り込み、公園前を後にした。


「(…あの様子だと、沈黙の戦士の……セーラーサターンの覚醒が近付いてる。サターンが覚醒する前に、何としても世界を救う救世主を見付けなきゃ…!私達に残された時間は、少ない…!)」
to be continued...
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -