- タリスマン出現
- 動揺したユージアルによって、心の結晶を抜き出されてしまった私を見て、ウラヌスとネプチューンの悲痛な叫びが、マリン・カテドラル内に木霊した。
「そ、んな…」
「夏希…っ…!」
力なく項垂れる2人を余所に、ユージアルは私から取り出した心の結晶を手に取ると、それを片手に再び2人に向き直った。
「さあ、ウラヌス、ネプチューン!この心の結晶を壊されたくなければ、大人しく貴様達のピュアな心を渡せ!!」
「……僕達がタリスマンを秘めた、ピュアな心の持ち主だって…?」
「そんな事、ある筈ないじゃない…っ…!」
「それがそうでもないんだな…。タリスマンを手に入れる為、己の手を汚す事すら恐れなかった純粋な心…。貴様達のそんなピュアな心の中に、タリスマンがあるのだ!」
ウラヌスとネプチューンの力ない言葉に、ユージアルは余裕の笑みを見せると、2人に向かって銃を構えた。
「…だったら取れよ…。もし本当にそうなら、僕達は喜んで犠牲になってやる…!」
「…そうね…。タリスマンを…世界を救う為なら、何を犠牲にしても、私達は後悔しない。…そう、決めたものね…」
「あぁ……ユージアル!取り引きだ…」
「私達の心の結晶を奪うなら奪ってもいい!だけど、その前に…今すぐその心の結晶を、その子の中に返して!」
「…いいだろう…」
そう言うとユージアルは、手に持っていた心の結晶を、ユージアルの足元に倒れている私の中へと戻すと、再びウラヌス、ネプチューンの2人に視線を向けた。
「さあ、戻してやったぞ!貴様達の心の結晶を寄越せ!」
ユージアルの言葉に、ウラヌスとネプチューンはゆっくりと立ち上がると、両手を広げ、じっと前を見つめた。
「…ユージアルの言ってた事が本当で、もし、僕達が命を落としたとしても…」
「私達の意志は、きっと夏希が継いでくれる…」
2人は小さくそう呟くと、覚悟を決め、目を閉じた。
「よし…いい子だ…」
それを見たユージアルがそう小さく呟き、2人に向かって銃を構えたその時、ウラヌスでも、ネプチューンでもない、別の人物の声が、この礼拝堂の中に響き渡った。
「待ちなさい!!」
ウラヌス、ネプチューンは、背後から聞こえたその声に驚き、後ろを振り返った。
「!…あれは…」
「…救世主…」
「っ……うさ、ぎ…」
ウラヌスとネプチューンが振り返り、そう小さく呟いたその時、意識を取り戻した私は、礼拝堂の入り口に立つ少女を見て、その子の名前を消えそうな声で呟いた。
「!ちっ…もう、目を覚ましたか…」
「「!!」」
足元で何かが動く気配を感じたユージアルは、視線をうさぎ達から離し、痛む体に鞭を打ち、何とか起き上った私へと視線を向けた。
そして、ユージアルの呟きに、私が目覚めた事に気付いたウラヌスとネプチューンは、私に駆け寄ろうと足を踏み出した。
しかしすぐに、それに気付いたユージアルの制止の声に、ウラヌス、ネプチューンの2人はその踏み出した足を止めざるを得なくなった。
「動くな!」
「!ぅ…っ…」
「「シャイン!!」」
ユージアルは私の髪を掴み、引っ張り上げると、私に再び銃を突き付け、ウラヌスとネプチューンの2人を脅し始めた。
「大人しくピュアな心を渡しなさい…。さもないと、今度こそ、本当にこの子の心の結晶を砕いちゃうわよ?」
「く…っ……」
「っ……大人しく、従うしかなさそうね…」
「!?ダメ…!そんなボロボロの状態で、ピュアな心を抜かれたりなんかしたら、2人とも死んじゃう…!」
私の必死な叫びに、ウラヌスとネプチューンは優しい笑みを、私に向かって浮かべると口を開いた。
「大丈夫…。私達は死なないわ…」
「夏希を1人になんかしないよ。約束しただろ?ずっと一緒にいるって…」
「はるか…!みちる…!」
「…もう言い残す事はないかしら…?」
「あぁ…」
「いつでもよくってよ…」
そう言うと2人は、再び両手を広げ、静かに目を閉じた。
「では、貰うぞ!貴様達の2人のピュアな心…!!」
「ダメぇええええええ!!」
そして、私の叫びも空しく、ユージアルの放った銃弾が、ウラヌス、ネプチューンの体を貫いた。
心の結晶を抜き出されたウラヌスとネプチューンは、先程の私同様、膝から崩れ落ちるように、ゆっくりと地面へと倒れた。
そして無情にも、ウラヌス、ネプチューンから抜き取られた心の結晶は、その姿を結晶から鏡と剣へと変化した。
「!!」
「やった…!遂にタリスマンを見付けた!これで次期幹部の椅子は私の物だ…!」
「そんな……っ…はるか!みちる!」
1人歓喜に沸くユージアルを余所に、私は2人の中から現れたタリスマンに驚きながらも、体の痛みなんか忘れて、すぐにはるかとみちるの元へと駆け寄った。それに続き、礼拝堂の入り口に立っていたうさぎも、2人の元へとすぐに駆け寄った。
「はっ…はぁ…っ……本当に、僕達の…っ…中に…」
「タリス、マンが…っ…はっ…秘められて…いたなんて…」
一方で、ウラヌスとネプチューンは、己の中から出現したタリスマンに、苦しそうに呼吸を繰り返しながらも、驚きの表情を見せた。
「はるかさん!みちるさん…!」
「2人とも、しっかりして…!死んじゃやだよぉ…!!」
泣きながら倒れてる2人に向かってそう言う私に、ウラヌスとネプチューンは優しく微笑むと、苦しさからか、それとも別の感情かはわからないが、目に薄っすらと涙を浮かべ、ゆっくりと口を開いた。
「っ…夏希……っ…泣か、ないで…?」
「せっかく…っ……僕らの…探し、求めていた…タリスマンが…はぁ…っ…見付かったんだ…」
「っ…でも…!…こんなの…酷いよ…っ…!!…どれだけ頑張っても…こんなの、報われないじゃない……っ…!…いつだって神様は、私から大切なもの…全部…全部、奪ってく…」
そう言って静かに涙を流し続ける私に、うさぎは2人の中から現れたタリスマンを手に取ると祈り始めた。
「お願い、タリスマン…!元の心の結晶に戻って!!」
そう言ってタリスマンに祈るうさぎに、ウラヌスが制止の声を掛けた。
「っ…止め、ろ…!」
「!どうして…!?このままじゃ、あなた達死んじゃうのよ!?」
うさぎのその声に、ウラヌスとネプチューンは、苦しそうに、短く呼吸を繰り返しながらも、彼女に向けて言葉を発した。
「はぁ…っ…言った、だろ……僕達は…っ…使命の、為なら…」
「っ…はっ…どんな犠牲を…っ…払っても…後悔、しないって…」
「だけど…あなた達が死んだら、夏希ちゃんはどうなるの!?約束したんでしょ!?ずっと、一緒にいるって…っ…」
誰よりも優しい彼女は、今まで散々酷い事をして来たのに、私達の事を想って、私達の為に泣いてくれた。
そんなうさぎに、ウラヌスとネプチューンは口元に小さく笑みを浮かべると、彼女に変身ブローチを返し、私とタリスマンを託す言葉を掛けると、そのまま意識を手放した。
「はるかさん!みちるさん…!!」
「っ…嫌…やだよ…!!はるか!みちる!!2人とも起きて!1人はやだよぉ…!!」
私の悲痛な叫びが礼拝堂内に響き渡ったその時、うさぎを追ってこの教会へとやって来た内部戦士達が、私達の姿を目に捉えると、すぐに私達の元へと駆け寄って来た。
「「「「うさぎ(ちゃん)!」」」」
「!皆…」
私達の元へと駆け寄って来た内部戦士達は、タリスマンの下に倒れているウラヌスとネプチューンを前に、顔を俯かせ、静かに泣き続ける私を見て、驚愕の表情を見せた。
「これは、一体…」
「まさか、ウラヌスとネプチューンが…」
「タリスマンを秘めた、ピュアな心の持ち主だったの…?」
「そんな…っ…それじゃあ、はるかさんとみちるさんは…!!」
内部戦士達が私達を前に、驚愕の表情と共に、そう言葉を交わしたその時、漸く落ち着きを取り戻したユージアルが、私達に向かって炎を放ち、その一瞬の隙を付いて、ウラヌスとネプチューンから取り出したタリスマンを奪って行った。
「「「「「!!」」」」」
「2つのタリスマンは確かに頂いたわ…!」
「そんなの、ダメ…!ムーン・コズミックパワー!メイクアップ!」
そして、セーラームーンへと変身したうさぎは、ユージアルから2つのタリスマンを取り戻そうと、勇敢にユージアルへと向かって行った。
「そのタリスマンは、はるかさんとみちるさんの…夏希ちゃんの大切な人達の心の結晶なの!!返して…!!」
そう言ってユージアルへと向かって行くセーラームーンに、私は俯かせていた顔を上げた。
「ファイアー・バスター!!」
「きゃっ!」
「!!」
「「「「うさぎ(ちゃん)!!」」」」
私の為に…私達の為に、ユージアルからタリスマンを取り返そうと向かって行ったセーラームーンは、ユージアルの放った炎が体を掠め、その勢いで、後方へと吹き飛ばされてしまった。
「っ…タリスマンを…はるかさんとみちるさんの心の結晶を、返せぇえええ!!」
そう言って私達の為に、自分が傷付く事も恐れず、再びユージアルへと向かって行ったセーラームーンを、ユージアルの放った炎で、再び吹き飛ばされる彼女を見て、私はスカートの裾を強く握り締め、彼女へと問い掛けた。
「…どうして…?どうして、関係のない私達の為にそこまで…!」
私のこの問いに、セーラームーンは痛む体を何とか起こしながら、私に言葉を返して来た。
「っ…関係なくなんか、ないよ…」
「え……?」
「関係なくなんかない…!だってあたし達、同じセーラー戦士だもの…」
「!」
セーラームーンのこの言葉に続くように、彼女を囲んでいた内部戦士達は、私へと言葉を掛けて来た。
「それに、夏希ちゃんも、はるかさんも、みちるさんも……皆、あたし達の大切なお友達だし…?」
「…友、達…?」
「そうよ…。目の前でお友達が困ってたら、助けてあげるのは当たり前でしょ?」
「それにさ…例え、今は解り合えなくてもさ…」
「いつかきっと、解り合える時が来るって、あたし達信じてるから…」
「皆……っ…!」
皆のこの言葉に、私は再び立ち上がり、逃げずに戦う勇気を取り戻した。
そして私は、意を決し、涙を拭うと、先程受けたダメージにより、若干ふら付きながらも、ゆっくりとだが再び立ち上がり、ユージアルを睨み付けた。
「何…!?貴様、まだ立ち上がれるだけの力が…!ちっ…ファイアー・バスター!!」
立ち上がった私を見て、ユージアルは一瞬顔色を変えると、私に向かって炎を放って来た。
「シャイン・シールド!」
私はすぐにシールドを張り、ユージアルの炎から自分の身を、私の後ろに倒れているウラヌス、ネプチューンの身を守った。
「っ…くそ…!ならば、これならどうだ!ファイアー・バスター!!」
その言葉を共に、ユージアルは私達を全員を取り囲むように、炎を放って来た。
「!?」
「「「「「きゃあっ!」」」」」
ユージアルの放った炎は円形に燃え広がり、倒れているウラヌス、ネプチューンと共に、私達はその中心に閉じ込められてしまった。
それを見たユージアルは、余裕の笑みを取り戻すと、炎の向こう側から、私達を見下すように見つめて来た。
「どう?更にパワーアップした、実用新案特許出願中、ファイアー・バスター2の威力は…」
「シャインアクアイリュージョン!」
ユージアルの問いには答えず、水属性の技を持つマーキュリーが、私達を囲んでいる炎へと向かって技を放った。
しかし、マーキュリーの技により一瞬炎が弱まりはしたが、すぐに勢いを取り戻し、更に炎の勢いを強くした。
「っ…シャインアクア・イリュージョンが、効かないなんて…!」
「それなら、目には目を!火には火を…!バーニングマンダラー!」
マーキュリーに続き、マーズも炎に向かって技を放つが、同じ火属性のマーズの技は、炎の勢いをより強くしただけで、何の効果も果たさなかった。
「マーズ、ダメだ!反って炎が大きくなっている!」
更に強まった炎の中に閉じ込められた私達を見て、ユージアルはおかしそうな笑い声を漏らした。
「お前達の技などで、あたしのファイアー・バスターの炎は消えはしないわ。みーんな焼けて、黒焦げの、焦げっ焦げになっておしまい!じゃ!」
炎の中に閉じ込められた私達にそう言い残すと、ユージアルはさっさとこの場を走り去って行った。
そんなユージアルを見た私は、すぐに頭をフル回転させ、全員でこの炎の中から助かる為の打開策を考え始めた。
「っ…(私だけならどうにでも出来たけど、皆も、はるか達も一緒となったら、やっぱりこの炎を何とかして消さなきゃ…!)」
私が炎に囲まれながら、消火方法を思案していたその時、礼拝堂のステンドガラスの割れる音共に、タキシード仮面とセーラーちびムーンが現れた。
「「「「「「!!」」」」」」
「ルナP、消火!」
そう言ってセーラーちびムーンの投げたルナPボールは消火剤へと変化し、私達を取り囲んでいた炎は無事消火された。
「「「「セーラーちびムーン!」」」」
「タキシード仮面様!」
「はぁ…間に合ってよかった!」
そう言ってタキシード仮面と共に着地を果たしたセーラーちびムーンは、私達の無事を確認して安堵の笑みを漏らした。
「ありがとう、セーラーちびムーン、タキシード仮面様…」
「礼はいい。早くタリスマンを!」
「「「「「はい!」」」」」
タキシード仮面の言葉に頷いた内部戦士達とセーラーちびムーンは、急いでユージアルの後を追い、礼拝堂を後にした。
「はるか、みちる…もう少しだけ待ってて…?私が必ず、タリスマンも、はるか達のピュアな心も、取り戻してみせるから…」
私はそう言って目を閉じたままのウラヌスにそっと口付け、小さく笑みを零すと、セーラームーンと共に、急いで皆の後を追った。
―――――
それから少しして、皆へと追い付いた私達は、ユージアルが放ったねばねばの液体により、廊下にへばり付くようにして動きを封じられている彼女達を見て、驚きの表情を見せた。そんな私達を見て、マーキュリーとマーズが私達に注意の声を掛けた。
「セーラームーン、シャイン、気を付けて!!」
「ユージアルが…!」
「わぁあああ、どうしよどうしよどうしよどうしよ…っ!」
2人の言葉と、皆の姿を見たセーラームーンは焦り始めた。そんな彼女に対し、私は助走を付ける為に少し後ろに下がると、軽々と彼女達の上を飛び越え、向こう側へと渡った。
「セーラームーン、先行ってるわよ!」
そして無事、着地に成功した私は、セーラームーンにそう言い残すと、1人先に、ユージアルの後を追った。
「(はるか達の心の結晶は…タリスマンは必ず取り返す…!絶対に、死なせたりなんかしない!!)」
それから暫く走って、広間へと出た所で、私はユージアルの姿を目に捉えた。
「ユージアル!今すぐタリスマンを渡しなさい!さもなくば、お前を浄化する!!」
「ふん…そんなボロボロの状態のお前に何が出来る!!あたしを浄化するだと…?やれるものならやってみろ!ファイアー…!」
「「待ちなさい!」」
ユージアルが再び私に向かって炎を放とうと、ファイアー・バスター2を構えたその時、2つの制止の声に、私とユージアルは、声のした方へと視線を向けた。
そして私達とは別の方向から現れた2つの陰に、ユージアルは疑問の言葉を投げ掛けた。
「何だ貴様達は…!?」
「…誰…?」
私がそう小さく声を漏らした所で、私達のいる広間に、セーラームーンが姿を現した。そして、私達とは別の場所に立っている2人の人物を見て、驚きの表情を見せた。
「!せつなさんに、希望(のぞみ)ちゃん!?どうしてここに…」
驚くセーラームーンを余所に、せつなと希望と呼ばれた人物は、ユージアルに向かって言葉を投げた。
「ユージアル…!」
「タリスマンは、返して頂きます!」
「何だと…!?」
2人の言葉に、ユージアルがそう叫んだ時、床に張り付けにされていた戦士達が、漸く私達の元へと辿り着いた。
それとほぼ同時に、2人はそれぞれ何かを取り出すと、それを掲げ、叫んだ。
「プルート・プラネットパワー!メイクアップ!」
「サン・トパーズクリスタルパワー!メイクアップ!」
「「「「「「!?」」」」」」
「なっ…また、セーラー戦士だと…!?」
「セーラープルート!セーラーサン!」
そして、セーラープルートと、セーラーサンにそれぞれ変身した2人を見て、セーラーちびムーンは嬉しそうな声を上げた。
「久しぶり、スモール・レディ…」
「お久しぶりです、皆さん。」
「!プルート、あなた、どうしてここに…?それに、その子…」
「説明は後で!それよりも今は…!」
セーラームーンの言葉にそう返したサンは、隣に立つプルートを見上げ、その視線に気付いたプルートは、手に持っていたロッドを掲げた。
「!あれは、まさか…!」
「ユージアル!あなたの達のような邪な者達に、タリスマンは渡しません!」
プルートがそう言った瞬間、プルートの持っていたロッドの先に付いているオーブが光り出した。
そしてそれに伴い、ウラヌス、ネプチューンの中から抜き取ったタリスマンも、それとリンクするかのように光り始めた。
「な、何だ…!?」
「…3つ目の、タリスマン…」
「「「「「え…!?」」」」」
「あれが…3つ目の、タリスマン…?」
「それじゃ、もう1つのタリスマンの持ち主って…!」
「セーラープルートの事だったのか…!」
私が小さく呟いた言葉に、セーラームーン達は驚きの表情を見せた。その時、ユージアルの元にあった2つのタリスマンは、プルートの持つタリスマンに引き寄せられるように、ユージアルから離れて行った。
そして、プルートを中心に、三角形を作るようにそれぞれが並ぶと、礼拝堂にいたはずのウラヌスとネプチューンの姿が現れた。
「!ウラヌス!ネプチューン…!」
「サン、今です!」
「うん!」
プルートの言葉にサンは頷くと、私の持っているロッドと似たようなロッドを取り出すと、それを掲げ、言霊を唱え始めた。
「我が守護、太陽よ!時空を超え、今こそネオ・クイーンの力を我に…!」
サンがそう言うと、ロッドの先に付いたクリアトパーズが光り出し、ウラヌス、ネプチューンから抜き出された2つのタリスマンから、心の結晶だけが分離し、それぞれの体内へと戻って行った。
「!ピュアな心の結晶が…」
「戻って行く…」
「やった…!よかったね、シャイン!」
「っ…うん…!」
セーラームーンの言葉に、私は嬉しさから涙ぐみながらも、笑みを浮かべ、頷いた。
それから少しして、ウラヌスとネプチューンは目を覚ました。そして、目の前にあるタリスマンを見て、驚きの表情を見せた。
「っ…!真のタリスマンは…」
「犠牲者を出す事はなかったのね…!」
その言葉と共に、ウラヌスとネプチューンは小さく笑みを見せると、己のタリスマンに手を伸ばし、掴んだ。その瞬間、辺りは眩い光に包まれ、光の中心から、聖杯が姿を現した。
「「「「「「「!」」」」」」」
「扱う者によって、世界を破滅にも平和にも導くと言われる、無限の力を持つ聖杯です…」
「あれが…聖杯…」
タリスマンを揃えた事で現れた、神秘の力が溢れる、美しい聖杯を見て、私達は言葉を詰まらせた。
「聖杯は……私が貰う!!」
そう言うとユージアルは、再び私達を取り囲むように、私達へと向かって炎を放って来た。
「「「「「「「きゃあ…っ!」」」」」」」
「「「「うわぁ…っ!」」」」
短く悲鳴を上げ、炎に囲まれてしまった私達を見て、ユージアルはおかしそうな笑い声と共に、聖杯へと向かって走り出した。
「!お前なんかに…!」
「その聖杯は…」
「「渡しはしない…!!」」
私とセーラームーンはそう言うと、炎の中へと飛び込み、私達を囲んでいた炎の中から抜け出した。そんな私達を見て、ユージアルは再び私達に向かって炎を放って来た。
「っ…邪魔だぁああ!!」
「「きゃあぁあああ…っ!」」
ユージアルの放った炎をまともに食らい、後方へと吹き飛ばされた私達を見て、ユージアルは再び聖杯へと向かって走り出した。
「…っ……聖杯は、渡さない…!」
そう言うと私は痛む体を無理矢理起こし、ユージアルの後を追った。それに続き、セーラームーンも何とか立ち上がると、私達の後を追って来た。
「セーラームーン!私がユージアルを押さえる!その隙に…!」
「わかった…!」
私はそうセーラームーンに声を掛けると、一気にユージアルへと間合いを詰め、ユージアルを押さえ込んだ。
「!くそ…っ…離せ!!」
「っ…セーラームーン!!」
私のその言葉に、セーラームーンは高く跳び上がると、聖杯を手に取った。その瞬間、辺りは再び眩い光に包まれ、皆を取り囲んでいた炎が消えた。
純粋な心を持つセーラームーンが聖杯を手にした事で、聖なる力がこの教会を包み、ユージアルの攻撃によりボロボロだった私達の傷が、一瞬にして癒えた。そして、それと同時に、セーラームーンが、スーパーセーラームーンへと二段変身を遂げた。
「!セーラームーン…」
「っ…離せ…!!」
「きゃっ…!」
私がセーラームーンの二段変身に驚きを隠せず、一瞬の隙を見せたその時、ユージアルが私の拘束を力尽くで解き、その反動で、私はその場に尻もちを付いてしまった。
「「!シャイン…!!」」
そんな私を見たウラヌスとネプチューンは、すぐに私の元へと駆け寄り、私の体を支えると、再びセーラームーンへと視線を向けた。
一方で、尻もちを付いた私には一切構う事なく、ユージアルは二段変身を遂げたセーラームーンへと炎を放った。
しかし、神秘な力に守られたセーラームーンに、ユージアルの炎が届く事はなく、逆に炎を押し返され、その勢いの良さに、ユージアルは教会の外へと吹き飛ばされてしまった。
「!この力…」
「まさか、セーラームーンが…」
「世界を沈黙から救ってくれる、救世主なの…?」
新たな覚醒により、今までよりも遥かに強い、神秘の力を持つセーラームーンに、私達は驚愕の表情と共に、小さくそう呟いた。
しかしそれも束の間で、ユージアルを吹き飛ばしてすぐ、セーラームーンの二段変身は解け、聖杯を使う事で、激しく体力を消耗したセーラームーンは、気を失うとまでは行かずとも、ゆっくりとその場に膝を付き、倒れてしまった。
「!セーラームーン…!!」
タキシード仮面はすぐにセーラームーンへと駆け寄り、彼女の体を支え、心配の声を掛けた。その後すぐ、彼女を守る内部戦士達も駆け寄り、ぐったりとしているセーラームーンへと声を掛けた。
「大丈夫か…?」
「…まもちゃん…」
「セーラームーン…!」
「しっかりして…っ…」
「……何だか、体が重くて…もう、よれよれだよ…」
心配する彼女達に、セーラームーンは力ない笑みを浮かべ、今にも消えそうな程小さな声でそう告げた。
そんなセーラームーンを見て、ウラヌスはポツリと言葉を漏らした。
「…セーラームーンは、救世主ではないのか…?」
ウラヌスのこの言葉に、疑問の声を上げ、内部戦士達は、セーラームーンから、私達へと視線を向けて来た。
「真の救世主は、無限の力を発揮する…。この程度で疲れ果ててしまうセーラームーンは……」
「それでは、真の救世主は他に…?」
「…その可能性も低くはない、かな…」
ネプチューンの問い掛けに、私はそう言って立ち上がると、ウラヌスとネプチューンの2人を見つめ、口を開いた。
「ウラヌス、ネプチューン……タリスマンは見付かり、聖杯は現れた。私達の次の使命は、その聖杯を委ねる、救世主を探す事…」
私の言葉に2人は頷くと、私達の後ろに立っている2人へと視線を向けた。
「……ところで、彼女達は…?」
「あ、そうだった…!」
ウラヌスの言葉に、私は後ろに立つプルートとサンへと視線を向けた。そんな私の視線に気付いた2人は、口元に小さく笑みを浮かべると、私が質問するよりも早く、自己紹介を始めた。
「セーラーシャイン、お初にお目に掛かります。私は時空の扉の番人、そして、時空の星、冥王星を守護に持つ変革の戦士、セーラープルート…。ウラヌス、ネプチューンと共に、あなたの守護する者…」
「皆さん、初めまして。私は、未来の太陽を守護に持つ戦士、セーラーサン。太陽王国、シャイン・モナルの第一王女です。」
「ちょっと待って…!シャイン・モナルの第一王女は、ここにいるシャインのはずじゃ…!」
「それに、未来って……一体、何の事を言っているんだ?」
セーラーサンの言葉に、ウラヌス、ネプチューンの2人が疑問の言葉を投げ掛けた。それに対し、サンは私達に向かって可愛らしく微笑むと、とんでもない事を口にした。
「セーラーウラヌス、セーラーシャイン。私は30世紀の未来から来た、未来のあなた達の娘です。」
「「…………は…?」」
そしてこの言葉に、この事実を知っている、プルート、セーラーちびムーン以外の全員が、数秒の間を空け、驚愕の声を上げた。
「「「「「「「「「えぇえええええええ!?」」」」」」」」」
「……セーラー、サンが…」
「僕と、シャインの…」
「「未来の、娘……?」」
私とウラヌスは、互いの顔と、セーラーサンの顔を交互に見比べ、その事実を確認した。
「…確かに、言われて見れば……はるかそっくりの顔に…」
「夏希と同じ、綺麗な赤い目と髪…」
「…私の言う事、信じてくれる?パパ、ママ。」
私達を見てそう言うサンに、私とウラヌスは、互いの顔を見つめたまま、耳まで真っ赤に染め上げた。
to be continued...