月夜にワルツを
8月某日の昼下がり、私ははるかの家で、久しぶりにはるかと2人っきりの時間を楽しんでいた。


「久しぶりだね…。2人っきりになるの…」

「あぁ、そうだな…」


私達は特に何かをするのではなく、ただ彼の部屋のソファーに座り、はるかに抱きしめられながら、束の間のゆっくりとした時を過ごしていた。


「夏希、今日は泊まって行くんだろ?ま、僕としては、夏希を家に帰すつもりはないんだけど…」

「何それ…」


私ははるかの言葉に小さく笑みを零しながら、彼の背に腕を回し、はるかの胸へと顔を埋めたその時、来客を知らせるチャイムが、はるかの部屋に鳴り響いた。


「あ、誰か来た……はーい!」

「……残念…」


私は聞こえて来たチャイムの音に、はるかから離れると来客者を迎えに玄関へと向かった。


「Good afternoon, young lady.」
[こんにちわ、お嬢さん]

「あー…Who is it?」
[どちら様ですか?]

「I'm Edwards. Is Haruka at home?」
[エドワーズと申します。はるかさんはいらっしゃいますか?]

「Yes, there is it... Is it any business for Haruka?」
[ええ、いますけど…はるかに何か御用ですか?]

「夏希?誰が来たんだ…?」


私がエドワーズと名乗ったおじさんに、そう聞き返したその時、なかなか戻って来ない私を不思議に思ったのか、はるかが顔を出した。そして訪問者を目に捉えたはるかは、驚きの表情を見せると、すぐに私達の元へとやって来た。

「!エドワーズさん!どうしてここに…」

「やあ、はるかくん…久しぶりだな。」

「…お知り合い…?」

「あぁ…。彼は、レーサーとしての僕の腕を高く評価してくれていて…僕のスポンサーの1人なんだ。エドワーズさん、彼女は僕の恋人で…」

「初めまして、日向夏希です。」


はるかの言葉に続いて、私はエドワーズさんに向かって微笑み、簡単な自己紹介をした。そんな私の自己紹介を聞いて、今度はエドワーズさんが驚いた表情を見せた。


「日向……?もしかして君は、瑞希(なおき)と夏帆さんの…?」

「!父と母の事、御存知なんですか…?」

「あぁ、2人とも昔からよく知っているよ…。…そうか、君が…言われて見れば、2人によく似ている…」


エドワーズさんは私の問いに、切なそうな表情を浮かべ、そう答えてくれた。


「そう、ですか…」


エドワーズさんの返答を聞いた私は、顔を俯かせてしまった。そんな私を見て、はるかは話の流れを修正しようと、エドワーズさんに訪ねて来た用件を問いた。


「…ところで、エドワーズさん、何か僕に用があったんじゃないんですか?」

「おお、そうだった…。突然ですまないんだが、明日の夜、若い人達が家に集まって、パーティーを開く事になってね。是非君と、夏希さんにも、そのパーティーに参加して欲しいんだよ。」

「パーティー、ですか…?」

「私も…?」


エドワーズさんの言葉に、私は俯かせていた顔を上げると、首を傾げ尋ねた。


「あぁ…海王みちるくん、は…知ってるね?」

「ええ…」

「僕達2人の、共通の友人ですから…」


私達の返事を聞いたエドワーズさんは、微笑みを浮かべながら、驚くべき言葉を口にした。


「その彼女に、明日のパーティーで1曲演奏してもらえないかと頼みに行ったら、君と君の恋人も一緒ならとの事でね…。聞けば君達は、みちるくんの演奏について行けるくらいのピアニストと、ハーピストらしいじゃないか…!是非、君達の演奏を、明日のパーティーで聞かせて貰えないだろうか?」

「…またみちるは、勝手な事を…」

「はるか、どうするの…?」


はるかは私の問いに、少し悩むような素振りを見せるも、お世話になっているエドワーズさんの頼みを無下にする事も出来ず、口元に小さく笑みを浮かべると返事を返した。


「…わかりました。是非、参加させて頂きます。」

「!そうか、ありがとう。それじゃあ、明日の夜、楽しみにしているよ。」


はるかの返答を聞いて、エドワーズさんはそう言うと、嬉しそうな顔を見せ、自宅としている屋敷へと帰って行った。



―――――



そして翌日、私はいつものように、みちるの部屋でドレスアップを済ませると、迎えに来てくれたはるかの車に乗り込み、エドワーズさんが待つ、丘の上の洋館へと向かった。


「エドワーズさん」

「今夜は、御招き頂き、感謝致しますわ…」

「やあ、はるかくん、みちるくん!ようこそ、我が屋敷に…。夏希さんも、突然のお誘いなのに、ようこそ御出で下さいました…」


そう言ってエドワーズさんは、私の手を取ると、そっとその甲に口付け、微笑んだ。


「いえ、こちらこそ…こんな素敵なパーティーに御招き頂き、ありがとうございます。」

「ははっ…お礼なんて結構ですよ。…さて、堅苦しい挨拶はこの辺にして、今夜は思う存分、楽しんで行って下さいね。」

「はい、ありがとうございます!」

「では、エドワーズさん、私達は、演奏の準備がありますので、これで失礼致しますわ。」

「御話しは、また後程改めて…」

「あぁ、楽しみにしているよ、君達の演奏をね…」


私達はエドワーズさんに軽く会釈をして、彼の前を後にすると、一度みちるのヴァイオリンを取りに、会場となっている部屋を後にした。

それから少しして、みちるがヴァイオリンのチューニングを済ませ、準備が整った所で、私達は会場となっている部屋へと戻り、ステージの上に立った。

そんな私達の姿を横目に捉えたエドワーズさんは、会場の中央に立つと、来客者全員に向かって私達の紹介を始めた。


「皆さん、今宵は新しい3人を御招待しています。ステージに御注目下さい!左から、天王はるかさん、海王みちるさん、日向夏希さんです!」


エドワーズさんの紹介に、私達は来客者に向かって一度お辞儀をすると、演奏の準備に入った。そして私のOKの合図に、遂に演奏がスタートした。

私は目を閉じ、昔の感覚を思い出しながら、はるかとみちるの演奏に合わせ、音を奏でた。


「(…転生してから1回も触った事なかったけど、体がちゃんと覚えてる…)」


それから暫くし、無事に演奏を終えた私達は、会場中から聞こえる拍手に包まれながらステージを下りた。


「ふー……無事に終わってよかった…」

「あら、緊張でもしてたの…?」

「だって、転生してから1回もハープ触った事なかったのに、みちるの演奏に付いて来れるハーピストだなんて……どれだけハードル高いと思ってるの?」


そんな事を少し不満そうに言う私に、はるかとみちるはクスクスと小さく笑いを漏らすと、はるかはそっと私を抱きしめ、みちるはヴァイオリンをケースに仕舞った。


「まあ、いいじゃないか。無事に演奏出来たんだから…」

「そうよ……それに、そんな顔をしていたら、せっかくの楽しいパーティーが台無しよ?」

「そんな事言ったって…」

「夏希ちゃーん!」


私がボソッと不満気な声を漏らしたその時、私を呼ぶ声に、私達は声のした方へと視線を向けた。そして、駆け寄って来る人物達を見て、私は驚きの表情を見せた。


「!皆…!」

「やあ、君達…」

「こんばんわ。」

「「「「「こんばんわ!」」」」」

「君達の演奏、とても素敵だったよ…」

「…ありがとう、衛さん。」


演奏を褒められ、私が少し照れたような顔で衛さんにお礼を言ったその時、会場中にワルツの調べが響き渡った。


「ワルツが始まったわ…。衛さん、1曲踊って下さるかしら?」

「ダメ!まもちゃんは、あたしと!」


衛さんを誘うみちるの言葉に、うさぎはいち早く反応すると、衛さんの前に立ちはだかった。そんなうさぎに、私達はクスクスと笑いを零した。


「はるか、うさぎと踊ってあげたら?」

「?いいのか…?」

「だって、そうでもしなきゃ、みちるが衛さんと踊れないでしょ?」

「確かに……では、お団子ちゃんは僕と踊ろう。」

「はい!喜んで!」


私の言葉に、はるかがうさぎをダンスに誘うと、うさぎは面白いくらいのスピードで返事を返した。そんなうさぎを見て、私達は再び小さく笑いを零した。



―――――



あれからダンスへと向かったはるか達を見送って、私は夜風に当たりにバルコニーへと出た。


「はぁ……疲れた…」

「ははっ…お疲れ様。」

「!エドワーズさん!」


バルコニーの手摺りに寄り掛かり、月を見上げていた私に声を掛けて来たエドワーズさんは、先程の私達の演奏を褒めながら、私の隣へとやって来た。


「先程の演奏、とても素敵だったよ…」

「ありがとうございます。……あの、エドワーズさん…」

「ん?何かな?」

「…私の両親って、どんな人達でした…?」

「……そうだな…」


私の言葉に、エドワーズさんは一度目を閉じ、思い出すような素振りを見せると、月を見上げながら、ゆっくりとその口を開いた。


「…君の両親は、2人ともとても優秀で、美しい人達だったよ…。見た目はもちろん、人としてもね…」

「人としても…?」

「あぁ…。誰にでも分け隔てなく接し、誰からも愛されるような、そんな温かい人達だった…」

「…そっか…。そんなに素敵な人達だったんだ…」

「あぁ…とても素敵な人達だったよ…」


それからエドワーズさんは、ワルツが終わるまでの間、私に両親の事について色々教えてくれた。

私はそんなエドワーズさんの話に静かに耳を傾け、今は亡き両親を想いながら、夜空に輝く白い月を見上げた。


「…誰からも愛される、温かい人か…。…皆から恐れられ、ずっと1人だった私とは、大違い…」


私はエドワーズさんが去った後も、バルコニーに残り、彼から聞いた話を思い出しては、自嘲の笑みを浮かべた。


「探したぞ、お姫様…」

「!はるか…」

「どうしたの?こんな所に1人でいるだなんて…」

「みちる…」


私は1人考え込んでいたせいか、私に近付いて来るはるかとみちるの気配に全く気付かず、驚きの表情を見せた。

そんな私を、はるかは後ろから抱きしめ、みちるは私の隣に立つと、そっと私の手を握った。


「何か考え込んでいたようだけど…悩みでもあるの?」

「ううん、そう言うのじゃないの…。ただちょっと、両親の事思い出そうとしてただけ…」

「両親の事…?」

「うん…。2人が踊ってる間、エドワーズさんに両親がどんな人達だったか聞いてたの…」

「それで、両親が恋しくなった…?」

「…ちょっとだけね…。…でも、もう会えないってわかってるから…だから、両親の事、思い出してみようかと思って…」

「それで、思い出せたのか…?」


私ははるかの言葉に、静かに首を左右に振ると、再び空に懸かる白い月を見上げながら、口を開いた。


「全然ダメ…。顔も、声も、温もりも……何一つ、思い出せない…」

「夏希…」


切な気な表情で、月を見上げる私を、はるかはきつく抱きしめると、耳元でそっと囁いた。


「僕達がずっと側にいる…。夏希の両親の代わりにはなれないけど、でも、夏希の家族として、ずっと夏希の側にいる…」

「!家、族…?」

「そうね……あなたの親にはなれないけれど、でも、家族にならなれるわ…」

「はるかとみちるが…私の、家族…?」

「あぁ…僕達が、夏希の家族だ…」

「それとも、私達では不満かしら?」

「ううん……嬉しい!」


私は冗談混じりにそう問い掛けて来るみちるに、首を左右に振ると、微かに目に涙を浮かべながらも、はるかとみちるに満面の笑みを見せた。



―――――



あれから少しして、私ははるかとみちるの2人に手を引かれ、バルコニーから会場の中へと戻った。


「プリンセス、僕と1曲踊って頂けますか?」

「…喜んで…」


そして会場に戻るなり、私の前に跪き、私に手を差し出すはるかに、私は微かに頬を赤く染めながらも、差し出されたはるかの手を取り、はるかと共にフロアーへと出た。


「これでやっと、夏希の視線を独占出来るな…」

「ふふ……何それ…もしかして、妬いてくれてたの…?」

「いけなかった?」

「ううん……嬉しい…」


私がはるかの言葉に、そう微笑んで返すと、はるかも優しく微笑み返し、私達は終始見つめ合ったまま最後までワルツを踊り切った。

そして曲が終わると、私達の周りにはいつの間にかたくさんの人がいて、その人達から発せられる拍手と感声に包まれた。


「あの…次は私と、踊って頂けますか…?」

「あら、狡い…是非私と…」

「お嬢さん、次は私と…!」

「いや、僕と!」


そう次々とダンスの相手にと迫って来る人達に、私は困った表情を浮かべ、この状況をどう打開しようかと頭をフル回転させ始めた所で、はるかが私を引き寄せ、余裕の笑みを浮かべると口を開いた。


「…悪いけど、彼女は僕のもので、僕もまた然りだ。」

「なっ……はるか…!?」

「僕はもう、彼女以外と踊るつもりはないし、彼女を君達に渡すつもりもない…」


私ははるかの言葉に、顔を真っ赤に染めながら、私の腰に腕を回し、私を引き寄せるはるかを見上げた。


「僕に勝てる自信があるのなら、いつでも挑戦は受けるけど…僕は、そう簡単に負けてやるつもりはないよ…。じゃ、そう言う事で…」


はるかは私達を取り囲んでいた人達が呆気に取られている内に、私を連れ、みちるの元へと戻った。


「あら、もう片付いたの…?」

「あぁ……それよりみちる、気付いてるか?」

「ええ……海が荒れ始めたわ…」

「!」


みちるの言葉に驚く私に対し、はるかは小さく頷くと、さっきまでの優しい目付きとは打って変わって、強い意志を宿した目に変わった。


「きっとこの近くにユージアルもいる…用心しておいた方がいいな…」


私とみちるははるかの言葉に頷くと、会場全体を見渡せるように、会場の端の方へと移動した。


「…邪気がどんどん濃くなってる……ユージアルが動き出したのかもしれない…!」


私のこの言葉に、はるかが小さく頷いたその時、みちるが小さな異変に気付き、私達2人に声を掛けた。


「!はるか、夏希!」

「!!あれは…!」

「催眠ガスか…!」


ユージアルが仕掛けたと思われる催眠ガスに気付いた私達は、すぐに鼻と口をハンカチで覆い、静かに廊下へと出ると急いで戦士の姿へと変身した。


「ネプチューン・プラネットパワー!メイクアップ!」

「ウラヌス・プラネットパワー!メイクアップ!」

「ブライトイノセンスパワー!メイクアップ!」


私達が変身を終えて会場に戻ると、既にユージアルの手によって、今回のターゲット…エドワーズさんのピュアな心が取り出され、ユージアルがそれを手にしていた。それ見たネプチューンが、ユージアルに向かって技を放った。


「ディープ・サブマージ!」


ネプチューンの放った技は、ユージアルの手を掠め、その反動でユージアルの手を離れ、ゆっくりと私達の方へと飛んで来た心の結晶をウラヌスが掴んだ。


「残念だけど…!」

「これを渡すわけにはいかないな。」

「っ…出でよ、ダイモーン!!」


ユージアルの一言で、屋敷の壁を突き破って来たユージアルの車のトランクから、ダイモーンがゆっくりと姿を現した。


「ちょっと!何やってんのよ!?」

「ドレスが、重くて…!」

「…あー…頭痛が……帰りたくなって来たわ…」


車から降りる際に、ドレスの重さに耐え切れず、顔面から落ちて行ったダイモーンを見て、ユージアルは頭を抱えた。


「そうはいかないわ!」

「ん?」

「まだ12時の鐘も鳴らないのに、帰るなんて言っちゃってるあなた!」

「シンデレラではなさそうね!」

「招かれざるお邪魔虫!」

「眠り姫の魔女だって、白鳥の湖の魔王だって、パーティーを邪魔する悪役は、必ず倒されるんだ!」

「シンデレラと、眠り姫と、オデット姫と、えーっと……」

「皆に代わって、お仕置きよ!」

「あー…また頭痛の種が…」


ユージアルは突然現れた内部戦士達の姿を見て、再び頭を抱え、溜め息を吐いた。そして私達は、彼女達がやりとりしている隙に、エドワーズさんの心の結晶がタリスマンかどうかを調べた。


「どう?ウラヌス、ネプチューン…」

「違う…タリスマンではないわ…」

「…と言う事だ。無駄足だったな、ユージアル。」

「予感的中ってわけね……チクオーン!」

「チクオーン…!」


ユージアルの声に反応し、倒れたままだったダイモーンは何とか立ち上がり、セーラームーン達に向かって構えを取った。それを見たユージアルは、ダイモーンに後の事を任せ、早々にこの場を後にした。


「チクオーン……アン、ドゥ、トロワ!」


ユージアルが立ち去ってすぐ、ダイモーンはセーラームーン達に攻撃を放ち、セーラームーン達はそれをギリギリの所で避けるも、続けて放たれた攻撃に対応し切れず、セーラームーンはダイモーンの攻撃により吹き飛ばされてしまった。


「ありゃりゃ…」

「見てられないな……ワールド・シェイキング!」


エドワーズさんに心の結晶を戻し、セーラームーン達の押されっ放しの戦闘を見て、珍しくウラヌスが助け船を出した。

ウラヌスの放った技はダイモーンに直撃し、ダイモーンは爆発した。


「!ウラヌス!」

「おっと、余計な事だったかな…?」

「私達に手を出されたくなきゃ、もっと強くなる事ね。」

「御機嫌よう。」


私達はセーラームーン達にそう言い残すと、さっさとその場から飛び去った。



―――――



あれから屋敷の外へと出た私達は、屋敷のすぐ側にある木の枝の上に立ち、内部戦士達とダイモーンの戦いを観察していた。


「あのダイモーン、ウラヌスの技食らって爆発してたから、てっきりやられちゃったのかと思ってたけど…」

「意外としぶとかったな…」

「ほら、ウラヌス…あなたがちゃんと止め刺さないから、あの子達苦戦してるわよ?」

「おいおい…僕のせいなのか?どう考えても、あいつらが弱いだけだろ…?」

「まあ、それはあるわね…」


ネプチューンがウラヌスの言葉に同意の言葉を漏らしたその時、タキシード仮面が現れ、彼女達をダイモーンの攻撃から救った。


「今だ、セーラームーン!」

「はい!」


セーラームーンはロッドを取り出すと、それをダイモーンに向けて浄化技を放った。


「ムーン・スパイラル・ハート・アタック!」

「っ…ラッパを投げるんじゃなかった…!ラブリィイイイ!」


タキシード仮面の手助けにより、セーラームーンは何とかダイモーンの浄化する事に成功した。


「うーん……やっぱり、あの子達の力自体はそんなに弱くないはずなんだけどなー…。特にセーラームーンは、銀水晶があるから、私と同じくらいの力を持ってるはずなのに…」


彼女達の戦いを見て、私は小さくそう呟いた。そんな私の言葉に、ウラヌスとネプチューンは、口元に小さく笑みを浮かべると、私の言葉に言葉を返して来た。


「セーラームーンとシャインじゃ、決定的な差があるだろ…?」

「?何…?」


私はウラヌスのその言葉に、視線を屋敷の中からウラヌス達へと変えた。


「身体能力の差よ…。体力、腕力、瞬発力、その他諸々…」

「どう見たって、セーラームーンより、シャインの方が上だろ?」

「…それは、確かに……」


私は2人の言葉に苦笑を漏らし、再び視線を屋敷に戻した。


「あ、エドワーズさん、気が付いたみたい…。他の人達も皆、続々と目を覚まし始めた…」

「…それじゃ、僕達もそろそろパーティーに戻るか…」

「そうね…」


ウラヌスの言葉に、私達は音を立てないよう静かに木から下りると、人目がない事を確認し、変身を解いた。


「ね、どうせすぐ戻ったって、パーティーは再開しないだろうし、ゆっくり散歩でもしながら戻ろ…?」

「そうだな……それじゃ、エドワーズさん自慢の薔薇でも見に行くか。」

「うん!」


それから私達は、はるかの案内で中庭へと向かった。

そして、中庭へと着いた私の目に映ったのは、柔らかい月の光に照らされた色取り取りの薔薇と、キラキラと光る夜の街だった。


「すごい……太陽宮の中庭みたい…」

「本当…。何だか、懐かしい気持ちになるわね…」

「プリンセス、お気に召しましたか?」

「うん!……本当、綺麗…」


そう呟き、私は口元に小さく笑みを浮かべながら、そっと美しく咲き誇る薔薇に触れたその時、いつの間に取りに行ったのか、みちるがヴァイオリンの演奏を始めた。

そしてみちるが優雅に奏でるワルツの調べに、はるかは私に手を差し出すと、優しく微笑んだ。


「僕の愛しいプリンセス…。是非1曲、お相手を…」

「ええ…喜んで…」


私はそう言うと、みちるの奏でるヴァイオリンの演奏を聴きながら、月夜の下、美しい薔薇の花と景色に囲まれた中庭で、最愛の人の手を取った。
to be continued...
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