- 喧 嘩(1/2)
- 6月末日、まだ梅雨は明けていないと言うのに、今日は気持ちのいいくらい空は晴れ渡り、私の星である太陽が、その存在を堂々と輝かせていた。
学校を終えた私は、まだ待ち合わせの時間に余裕があるからと、一旦家に戻り、暑苦しい制服から、私服へと着替えを済ませ、財布などの必要な荷物だけを持つと、マンションを出て、はるか達と待ち合わせをしている喫茶店へと向かった。
今日はるか達と待ち合わせている場所は、十番商店街のど真ん中にあるビルの2階にある、紅茶が美味しいとみちるお薦めの喫茶店だった。
「はるか達、もう来てるかな…」
私は喫茶店への道を歩きながら、腕時計で時間を確認し、待ち合わせ場所へと急いだ。それから暫くして、待ち合わせ場所の喫茶店に着いた私は、窓際の席に座る2人の姿を見付け、2人に近付くと声を掛けた。
「はるか、みちる!」
「やっと来たな…」
「あ、ごめん……やっぱり待たせちゃった…?」
私ははるかの言葉に、謝罪の言葉と、そんな問いを2人に掛けた。
「大丈夫よ、私達もさっき来たばかりだから…。ただはるかが、早く夏希に会いたいって、ごねてただけよ?」
「おい、みちる…僕は別にごねてなんかないだろ?」
「あら、そうだったかしら?」
そんな2人のやり取りに、私はクスッと笑いを漏らし、いつものようにはるかの隣の席へと腰を下ろした。
そしてちょうどお冷を持って来た店員さんに、冷たい飲み物を注文し、再びはるかとみちるの2人へと視線を戻した。
「やれやれ……みちるには敵わないな…」
「あら、今頃気付いたの?」
「ふふ…はるかはみちるみたいなタイプと結婚したら、一生尻に敷かれるわね…」
「なら僕は、夏希がみちる化するのを阻止したらいいわけだ…」
「へ……?」
「僕の結婚相手は、夏希だって言ったんだよ。僕の奥さんになる人は、未来永劫、夏希しかいないよ…」
はるかはそう言うと、私の左手を取り、そっと薬指の付け根に口付けた。
「!な、何言って…!」
私ははるかの言動に、顔を真っ赤に染め上げ、はるかはそんな私を見て小さく笑みを零すと、喫茶店内だと言うのにも関わらず、私をきつく抱きしめた。
「耳まで真っ赤だぞ…?全く、可愛いな…夏希は…」
「っ……み、みちるぅ…!」
恥ずかしさやら、嬉しさやらで頭が真っ白になってしまい、何をどうしていいのかもわからなくなった私は、向かい側の席に座っていたみちるに、目に若干涙を浮かべながら咄嗟に助けを求めた。
そんな私を見て、みちるは小さく溜め息を吐くと、呆れたような口調で、はるかに話し始めた。
「(全く、しょうがない人ね…)…はるか、冗談はその辺にして、夏希を離しなさいな…。このままじゃ、夏希が熱にやられて壊れちゃうわ。」
「冗談のつもりはないんだけど…まあ、いいさ。その内、また改めて言う事にするよ…」
みちるの言葉に素直に従い、はるかは私を離すと、ティーカップを手に持ち、既に冷めてしまっただろう紅茶を口にした。
「夏希、あなたも少し落ち着いて…?はるかの悪ふざけに一々反応していては、身が持たなくってよ?」
「そ、そりゃそうだけど…!で、でも、今のは…!!」
「まあ、今のは確かにはるかが悪いけれど…。…純情な乙女心を弄ぶなんて、いけない人ね…」
小さく口元に悪戯な笑みを浮かべ、紅茶を口にするみちるに、はるかはティーカップを置くと、反抗の言葉を口にした。
「人聞きが悪いな…。僕はただ、愛する夏希に、自分の素直な気持ちを伝えただけなのに…」
「なら、これからは時と場所を考えて言う事ね。いつでも、どこでもそう言う事を言ってると、いつか夏希に厭きられちゃうわよ?」
はるかの言葉に、みちるはバッサリとそう言って退けた。そんな彼女の言葉に、はるかはちょっとだけ不安になったのか、珍しく彼女の言葉に大人しく従った。
「夏希、これでいいかしら?」
「ん……ありがとう、みちる…」
私は彼女にお礼を言うと、未だ引かない顔の熱を下げようと、手で顔を仰いでみたり、運ばれて来たジュースを飲み、平常心を取り戻そうとしたりと必死だった。
―――――
それから暫くして、漸く落ち着きを取り戻した私は、追加で注文したアイスティーを飲みながら、穏やかな時を過ごしていた。
「静かだねー…」
「そうだな…」
「あら…」
「「ん?」」
私とはるかが何気ない会話を交わしていたその時、窓の外へと視線を向けていたみちるが漏らした声に、私とはるかも、彼女と同じく窓の外へと視線を向けた。
「お、お団子頭…」
「あ、あっちに衛さんもいる!」
私の声に、2人は衛さんの方へと視線を向けた。
「デートかしら?」
「そうかもな…」
「今日天気いいし、最高のデート日和だもんねー……あーあ…羨ましい…」
私がボソッと漏らしたこの言葉に、隣に座っていたはるかがいち早く反応した。
「何なら、今から僕達もデートするか?」
「!べ、別にはるかとデートしたいなんて言ってないでしょ!私はただ、その……えっと…」
私は上手い言い訳が見付からず、言葉を詰まらせ、顔を俯かせてしまった。そんな私を、はるかは小さく笑みを零すと、再び店内だと言うのにも関わらず、ギュッと抱きしめた。
「本当、可愛い…」
「……可愛くない…」
私は耳まで真っ赤に染めながら、小さくはるかに言葉を返した。その時、みちるが再び窓の外を見ながら声を漏らした。
「!あら……」
「みちる?どうかしたのか?」
「あの2人、喧嘩でもしたのかしら…」
「え…?」
みちるのその言葉に、私とはるかは窓の外へと視線を向けると、泣きながら走り去るうさぎの姿が目に映った。
「泣いてるな…」
「心配ね…。一体、何があったのかしら…」
「……うさぎの所行って来る!」
私がそう言って席を立ち上がると、はるかとみちるの2人も席を立ち、伝票を手に持った。
「僕達も一緒に行くよ。」
「私達だって、あの子の事心配だもの…」
「…2人とも、結構うさぎの事好きだよね。」
私は2人の言葉に小さく笑みを零すと、さっさと会計を済ませ、2人を連れて喫茶店の外へと出た。
「うさぎ、向こうの方に走って行ったよね?」
「あぁ、そのはずだ!」
「向こうには確か、大きな公園があったわよね…?」
「あぁ…行ってみよう!」
私達は、はるかのこの言葉に頷くと、うさぎの後を追い、近くにある公園へと向かって走り出した。
―――――
それから少しして、公園に辿り着いた私達は、ベンチに座り、鞄を抱きしめながら、顔を俯かせて泣くうさぎの姿を見付けた。
そんな彼女に私達は静かに近付くと、そっと彼女の肩に手を置き、優しく声を掛けた。
「うさぎ」
「どうしたんだ…?」
「あなたに、涙なんて似合わないわ…」
そう言ってみちるは、持っていたハンカチをうさぎへと差し出した。
「ありがとう…」
うさぎはお礼を言うと、みちるからハンカチを受け取り、それで思いっきり鼻をかんだ。
「「「あ…」」」
私達はそれを見て、声を揃え驚いた表情を見せたが、すぐにクスクスと小さく笑いを零した。
それから私はうさぎの隣へと腰を下ろし、はるかとみちるは蔓棚の柱に背中を預け、落ち着きを取り戻したうさぎから、衛さんと何があったのか話を聞いた。
「へぇ…そうだったのか…」
「恋人の誕生日を忘れるなんて…」
「随分ね、衛さんったら…」
「あんな奴…もう恋人じゃないもん!」
うさぎのこの言葉に、またはるかの病気が顔を出し、はるかはうさぎの肩に手を乗せ、少し顔を近付けさせると、うさぎを口説き始めた。
「へぇ…それじゃ、僕にもチャンスは出て来たって事かな?」
「へ…?」
「またはるかは…」
はるかの病気に、みちるは呆れた表情を言葉を漏らし、溜め息を吐いた。そんな彼女に、悪ふざけしたはるかは、私が目の前にいるのにも関わらず、言葉を続けた。
「冗談じゃないさ…。僕はお団子頭に御執心でね…」
「へー……そう…」
「呆れた……。そんな事言って、後でどうなっても私は知らないわよ…?」
はるかのこの言葉に、みちるは頭を抱え、私はキレた。もちろん、はるかが冗談で言って事はわかっている。だけど冗談にしても、言っていい事と悪い事がある。今の冗談は、どう考えても悪い方…
「あ、あの、えっと…その……お、そうだ!あたし、レイちゃんの所に行かなくっちゃ!さようなら!」
はるかの言葉に戸惑いながらも、うさぎは上手く逃げる口実を見付けると、私達にそう言い残し、脱兎の如く、この場から逃げ去った。そんな彼女を見て、はるかは笑いを漏らすと口を開いた。
「やっぱり可愛いな…。…ま、夏希程じゃないけど…」
そう言ってはるかは、ベンチに座る私を後ろから抱きしめようと、腕を回して来た。そんなはるかの腕を私は払い除け、立ち上がるとはるかに向かって満面の笑みを浮かべた。
「天王さん、そんなにうさぎの事が好きなら、私となんて付き合ってないで、うさぎと付き合ったらどうかしら?」
「え?お、おい…夏希…?」
「別れましょ。さようなら、天王さん。行こう、みちる。」
「ほら…言わんこっちゃない…」
私ははるかに向かってそう言うと、はるかに背を向け、呆れた様子のみちるの手を引くと、戸惑うはるかを残して公園を後にしようと歩き出した。
「!お、おい…!待てよ、夏希!」
そんな私をはるかはすぐに追い掛け、みちるの手を引いてる方とは反対の私の手を掴み、公園を出て行こうとしている私を引き止めた。
「あら、まだ何か用でも?あぁ、そうだ…。うさぎの所に行くのは構わないけど、今みたいに目の前で他の女の子口説いて、私の大切な友達を泣かせたら、許しませんから…」
「あ、あれは冗談で……夏希だって、それくらいわかってるんだろ?」
淡々と、余所余所しく話す私に対し、はるかは焦りからか引き攣った笑みを浮かべながらも、私にそう問い掛けて来た。そんなはるかに、私はまたもや淡々と、そして余所余所しく言葉を返す。
「ええ…それが何か?」
「だったら何も、別れるなんて笑えない冗談…」
「誰が冗談だなんて言ったのかしら?」
「え…?」
はるかの声を遮るように発した私の言葉に、はるかは一瞬過ぎて理解出来なかったのか、疑問の声を漏らした。
「私、冗談なんて言った覚えはないんですけど?」
「!本気で、言ってたのか…?」
「そうよ?」
「っ…そんな……どうして…!?」
はるかのこの言葉に、私の怒りは頂点へと達した。そんな私に気付いたみちるは、被害を食わないように、そっと自分の腕を私の手から離すと、私達2人から距離を取った。
「どうして…?恋人の目の前で、散々他の子口説いて、あまつさえ、その子に…私の友達のうさぎに御執心だとか言っておいて、どうしてですって……?」
「だから、あれは冗談で…!」
「っ…冗談でも、言っていい事と悪い事があるでしょ!?いつもいつも我慢して来たけど、もう無理!!何よ御執心って!?普通彼女の目の前で、他の女の子にそんな事言う!?私はっ…私は…っ…いつでも、はるかだけしか見てないのにっ……はるかは…はるかは!!」
悔しさやら、怒りやらで、はるかを睨む私の目からは、泣きたくもないのに、次々と涙が溢れ出し、怒りから震える拳を強く握った。
「っ…はるかなんか…はるかなんか大っ嫌い!!」
私ははるかに向かってそう叫び、制止の声を掛けるはるかやみちるの声を無視し、泣きながら公園を走り去った。
―――――
夏希の拒絶の言葉と共に、公園に取り残された僕は、彼女の後を追う事も出来ず、ただ茫然とその場に立ち尽くした。
「夏希…」
彼女の出て行った公園の入り口を見つめたまま、小さく愛しい彼女の名前を呟く僕に、少し離れた所から見ていたみちるが、説教の言葉を口にしながら僕に近付いて来た。
「だから言ったのに…。いつまで経っても、その悪い癖を直さないあなたがいけないのよ?まあ、今回のはそれだけではないけれど…」
「みちる…」
「悪ふざけが過ぎたわね…。普通、冗談でも言わないわよ?自分の恋人の前で、他の女の子に御執心だなんて……衛さんの恋人の誕生日を忘れるより、ずっと残酷な事よ?」
そんな彼女の言葉に、僕は何も言えず、さっきまで彼女の手を掴んでいた自分の右手を静かに見つめた。
「はるか?聞いてるの?」
「……みちる…僕はこれから、どうしたらいいのかな…」
「そんなの、私にわかるわけないじゃない…。これは、あなた達2人の問題でしょ?手を貸してあげたいけれど、私にはどうする事も出来ないもの…」
「…だよな…」
僕はそう言うと、自分のしてしまった事へ対して、自嘲の笑みを零した。
「…僕が傷付けたんだよな…夏希を…」
「……反省してる?」
「夏希に大嫌いなんて言われたら、例え嫌でも反省するさ…。…これでも、死にそうなくらい凹んでるんだぜ?」
「……どうやら、そのようね…」
軽い口調でそう言いつつも、目に涙を溜め、痛々しい顔で笑うはるかに、私は溜め息を吐いた。そしてはるかの目をじっと見つめると、再び口を開いた。
「はるか…あなたは、これからどうしたいの?」
「どうって…何が…?」
「このまま夏希と別れるのか、それとも夏希に謝って、仲直りするのか…」
「……謝ったところで、許してもらえるのかな…」
「そこは許してもらえるまで、何度でも謝って、愛してるって気持ちを伝え続けるの!もう…いつも強気なあなたが、何弱音なんて吐いてるのよ…」
「弱音を吐きたくもなるさ…。夏希は、僕の全てなんだ。…そんな夏希に…嫌いなんて言われたら…弱音だって、吐きたくなる…っ!」
「あー…もう!そりゃ、はるかも辛いかもしれないけど、一番辛いのはあなたじゃなくて、夏希なのよ!?あなた今まで、夏希の見てる前でどれだけの女の子に声掛けて来たと思ってるの!?それなのに、あなたって人は…!」
私はただでさえ、妹のように可愛がっている夏希を傷付けたはるかに怒っていたのに、うじうじと弱音を吐く彼に、今まで抑えていた怒りがついに爆発し、私は声を荒げた。普段の私なら、絶対にこんなはしたない真似しないのに…。
「!っ…み、みちる…?」
「夏希の後を追って、許してもらえるまで謝るか、このまま夏希と別れるのか、どっちにするの!?男ならハッキリなさい!」
突然声を荒げた私に、驚きの表情を見せるはるかに、私は構わずそう問い掛けた。そんな私の問いに、はるかは漸く自分の気持ちをハッキリと口にした。
「……このまま別れるなんて、死んでもごめんだ…」
「…なら、今すぐ夏希の後を追いなさい!いい?何度も何度も謝って、誠心誠意、好きだって気持ちを伝えるのよ?」
「…ありがとう、みちる!」
私の言葉に、はるかは頷くと、漸く夏希の後を追って走り出した。そんな彼の背中を見送って、私はまた1つ小さく溜め息を吐いた。
「…全く、世話の焼ける人ね…」
私は小さくそう言葉を漏らすと、はるかの後に続き、走り去った夏希を探すべく公園を後にした。
―――――
あれから、公園を後にした私は、当てもなく街の中を走った。
「(はるかのバカ…!追い掛けても来ないなんて……本当にもう知らないんだから…!)」
そんな事を考えながら、角を曲がろうとしたところで、同じく角を曲がろうとして来た誰かとぶつかった。
「うわぁっ!」
「きゃ…っ!」
勢いよくぶつかったせいか、私はバランスを崩し、その場に転んでしまった。
「ぃてて…っ…」
「!すまない!大丈夫か?」
私とぶつかった相手は、転んでしまった私へと近付き、すぐに手を差し伸べて来た。
「いえ……私の方こそ、余所見してて…って、衛さん!?」
「!君は確か、うさこの友達の…」
衛さんはそこまで言うと、転んでしまった私の手を引き、立ち上がらせてくれた。
「すみません、ありがとうございます…」
「いや…そんな事より、怪我はないか?」
「えっと……ちょっと膝擦り剥いたくらい、かな…?後は全然平気です!御心配、ありがとうございます。」
私は心配してくれた衛さんにお礼を言うと、彼に向かって微笑んだ。
「そうか…それより、どうしたんだ?泣いてたみたいだけど…」
そう言って衛さんは、私にハンカチを差し出し、優しく微笑んだ。私はそれを受け取り、彼にお礼を言うと、それで涙を拭いた。
「俺でよければ話くらい聞くぞ…?」
「……はるかと、喧嘩しちゃって…。…本当は別れたくもないし、はるかの事大好きなのに…私…っ…はるかに、大嫌い、別れてやるって…っ…」
そこまで言うと、先程の事を思い出し、私の目からは再び涙が溢れて来た。私はそれを衛さんから借りたハンカチで拭い、ハンカチを握りしめた。
「…一体、何が原因で、そうなったんだ?」
「っ…はるかの、悪い癖が出て…。何回言っても、全然直らないし……それで、私も頭に来て…」
「その悪い癖って言うのは…?」
「…可愛い女の子見ると、所構わず、誰が見てようとすぐ口説くんです。私の前でも、何度も…」
「……それは確かに、フォローの仕様がないな…」
私の言葉に、衛さんはそう言うと苦笑を漏らした。しかしすぐに衛さんは、優しい表情を浮かべると、私にある事を問い掛けて来た。
「夏希ちゃん、だっけ…?それでも君は、彼の事が好きなんだろう…?」
私は衛さんのこの問い掛けに、本人が近くにいないからか、いつもは照れて絶対に言えない言葉も、素直に答える事が出来た。
「…はるかは、私の運命の人だから…。例え、はるかがどんなに酷い人でも、私は…今も、昔も、そしてこれからも…絶対に、はるか以外の人を好きになる事はないです…」
「本当に彼の事が大好きなんだな…」
私は衛さんの言葉に、微かに頬を染めながら、小さく頷いた。そんな私を見て、衛さんは小さく笑みを浮かべると、私の頭に手を乗せ、言った。
「その想いがあれば大丈夫だよ…。きっと彼と仲直り出来るさ…」
「ありがとう、衛さん…」
「夏希!!」
私が衛さんに微笑んでお礼を言ったその時、背後から私を呼ぶ声が聞こえ、私は後ろを振り返った。
「!ごめんなさい衛さん、今日は失礼します!ハンカチ、洗って返しますね!」
私ははるかの姿を目に捉えると、早口で衛さんにそう告げ、はるかから逃げるべく、再び走り出した。