ピンチを乗り越えて(2/2)
拘束されてしまった私達は、何とかギリギリのところでダイモーンの攻撃を避けるも、私達2人の動きとセーラームーンの動きがバラバラな為、私達は互いに互いの足を引っ張り合う形となり、上手く避ける事はおろか、ほんの少しの移動すらも儘ならない状況に陥った。


「くそ…っ!…シャインだけなら、こんなの屁でもないのに…!」


攻撃を避けようとして、引っ張り合いになった私達は、背中合わせでその場に尻もちをついてしまった。その時にウラヌスが呟いた言葉を聞いたカオリナイトは、高笑いをしながら私達の前へとゆっくりと下りて来た。


「自分の思い通りに動けない相手は憎いでしょう…?そのまま憎しみ合いながら死んで行くといいわ。」

「っ…誰が死ぬもんですか…!」

「…だが、このまま戦い続けるのはあまりにも危険だな……どうする、シャイン…?」

「っ……少し考えさせて…」


ウラヌスの言葉に、私が次の行動を考えていたその時、倒れていたネプチューンが何とか体を起こし、私達に向かって叫んだ。


「っ…シャイン!ウラヌス!あなた達は逃げて!!何としても生き延びて、目的を果たすのよ…!」

「っ…でも…!」

「行きなさい!!シャイン、ウラヌス!!」

「っ…!」


私とウラヌスは、彼女の言葉に歯を食い縛り、セーラームーンの手を掴み立ち上がると、そのままセーラームーンを手を引っ張り、その場から立ち去ろうと動き出した。それとほぼ同時に、カオリナイトは高笑いしながらネプチューンの首に髪を巻き付けると、ネプチューンを滝壺に向かって投げ飛ばした。


「!きゃあぁあああああ!」

「!」

「「ネプチューン…!!」」


私達は滝壺へと落ちて行くネプチューンを助けに行く事も出来ず、ただその場でじっと見ている事しか出来なかった。


「…っ……ウラヌス、行こう…」

「っ…あぁ…」


私達は悔しさを噛み締めながらも、今はとにかく身を隠す事を優先しようと、再びセーラームーンの腕を引っ張り、森の中へと逃げ込んだ。



―――――



それから暫く走り、小さな洞窟を見付けた私達は、その中にあった大きな岩の陰へと身を隠した。


「ねぇ、ネプチューンを助けに行こう?ネプチューンは生きているかも知れないのよ?あなた達、心配じゃないの?まさか、本当に仲間を見捨てて逃げるわけじゃないわよね…!?」

「っ…外れない…!」

「痛っ…ちょっと、2人して引っ張らないでよ!」

「喚くな!」

「ちょっとくらい我慢して!」


私とウラヌスは、セーラームーンを己を繋ぐ鎖を何とか切り離そうと、リングと鎖を繋ぐ部分を引っ張ってみたり、石で鎖を叩いてみたりと色んな事を試してみたが、鎖が切れる気配は全くなかった。


「くそ…っ…ダメか…」

「ねぇ、助けに行こう?ネプチューンが死んでもいいの!?」


私とウラヌスが鎖を切ろうとしている間も、私達に向かってずっとそう必死に呼び掛け続けるセーラームーンに、私はついに我慢の限界を迎え、彼女に声を上げた。


「っ…死んでいいわけないでしょ!?」

「!だったら…!」

「この状態で出れば、ネプチューンを助け出す前に僕達が死ぬ…」

「薄情者!ネプチューンは、あなた達の仲間なんでしょ!?それなのに…っ……酷い人達…!」


セーラームーンの言葉に、私は握った拳を震わせ、勢いよく立ちあがると彼女を見下ろし、声を荒げた。


「っ…あんたに…あんたなんかに、私達の何がわかるって言うのよ!!」

「!」


突然声を荒げた私に、セーラームーンは驚きの表情を見せた。


「僕達は前にネプチューンと約束したんだ…っ……僕達に万が一の事があっても、情に流されて助けたりせずに、僕達の中の誰か1人でも確実に生き残り、タリスマンを探し出す使命を全うすると…!」

「そんな…っ…そこまでして見付けださなきゃいけないタリスマンって、一体何なの…?」


ウラヌスの話を聞いたセーラームーンは、私達にそう尋ねて来た。しかし、私達は彼女の質問に答える事はなく、ウラヌスが彼女を冷たく突き放した。


「…お前に話す必要はない。」

「なっ…何よ何よ!ピュアな心を奪われた人はね、苦しんで…死んでしまうのよ…!?どうしてそんなに冷たくしていられるのよ!!」


セーラームーンは涙を目に溜め、私達を睨むような目で見ながら声を上げた。


「…甘いな。」

「!…っ…」

「…今、世界には沈黙が迫ってる…」

「…沈黙…?」


私の言葉に、セーラームーンは反抗の言葉を呑み込むと、私達の話に静かに耳を傾けた。


「…間もなく、何か恐ろしい事が起きる…それを防ぐ為には、タリスマンが必要なんだ!」

「私達だって、別に犠牲者を出したいわけじゃない…。救えるなら、全員を救いたい…!だけど、少しの犠牲で…それで全世界が、人々が、未来が、救われるのなら…!!」

「セーラームーン、お前ならどうする?犠牲を生まず、世界を沈黙に晒すのか、犠牲を生み、世界を沈黙から救うか……選択肢は2つに1つだ。」

「あたしは…っ…」


ウラヌスが彼女に掛けた問いに、セーラームーンは小さくそう呟くと、顔を俯かせ、黙り込んでしまった。

それから少しして、このままいても仕方ないと、私達は元いた場所にそれぞれ腰を下ろした。その間、私達の間に会話はなかった。


「(…みちる…っ…)」


私は顔を俯かせ、滝壺へと落ちて行ったネプチューンの無事を祈っていると、セーラームーンを庇った時に出来た傷の上に、雫が滴り落ちて来た。


「ぅ…っ…」


私は痛みに顔を歪め、怪我をした右肩に手を当てた。その時に強く引っ張ってしまったのか、セーラームーンが私の方へと倒れて来た。


「あ…ごめん…」

「!シャイン、あなた…血が出てるじゃない!傷見せて!」

「だ、大丈夫よ…!こんなの、かすり傷…っ…」


私が全てを言い切る前に、セーラームーンの言葉を聞いて近付いて来たウラヌスが、私の肩を掴み、傷の具合を見た。


「うわぁ…っ……痛そう…」

「…酷い傷だな…何でもっと早く言わなかったんだ?」

「だって…心配掛けたくなかったんだもん…」


私の言葉を聞いたウラヌスは、小さく溜め息を1つ漏らした。


「黙ってられる方が心配する…」

「…ごめんなさい…」


私の肩の傷を見たセーラームーンは、どこからかハンカチを取り出すとそれを水に浸け、しっかり絞ると濡れたハンカチで私の傷口を拭き始めた。


「痛…っ……ちょっ、痛い!痛いから、触んないで…っ!」

「ばい菌が入ったら大変でしょ?痕が残ったりしたらどうするの……あなたも女の子なんだから、もっと自分の体大切にしなきゃ…」


セーラームーンはそう言うと、再びハンカチを水に浸け、軽く洗うとそれを絞り、私の肩に巻き付けた。


「はい、出来た!」

「…ありがと…」

「どういたしまして!」

「…シャイン、帰ったら医者に連れてくからな…」

「え……いや、別にそこまでしなくても…」

「何なら、怪我が治るまで外出禁止にしようか?」

「…医者に行きます…」

「ふふ……いつもは、シャインがウラヌスとネプチューンの2人を引っ張ってるって印象があるけど、ウラヌスの方が強い時もあるのね…」


私達のやり取りを見ていたセーラームーンはクスクスと小さく笑いを漏らした。そんな彼女に、私とウラヌスも自然と笑みが零れ、小さく笑った。


「セーラームーン…あなた、不思議な人ね…」

「いつもは邪魔ばかりされて、煩わしく思ってたが…」

「何だか、一緒にいると……っ…!」


敵の気配に気付いた私は、そこで言葉を切ると、2人に息を潜めるよう合図を出した。私は岩の陰から少しだけ顔を出すと、敵の動きを窺った。


「!2人とも避けて!!」


その言葉とほぼ同時に、私達が今まで身を隠していた岩は、ダイモーンの突進によって砕け散った。


「ちっ…見付かったか…!」

「やっぱり、ネプチューンを探しに行こう!」


セーラームーンはそう言って立ち上がると、私達2人の腕を引っ張り、滝壺がある場所へと向かって走り出した。


「…漸く出て来たな…殺せ!」


カオリナイトの命令で、ダイモーンは私達に向かって再び突進して来た。しかし、私達はそれを難なく避けると、滝壺の前まで一気に走り抜けると、敵に余裕の表情を見せた。


「一体、どこを狙ってるの?」

「そんなんじゃ、僕らは倒せないぜ…」

「ほーら、こっちこっち!」


私達はダイモーンを挑発するように誘い、三度突進して来たダイモーンの攻撃を息の揃った動きで避けた。


「!さっきまでのバラバラな動きではなくなっている…!あいつら、この短時間で一体何を…っ!」

「「チェーンリング!!」」


ダイモーンは拘束具を増やそうと、再び私達に向かって光のリングを放って来た。私達はそれをチャンスとばかりに腕を上げると、ダイモーンの放った光のリングで、拘束していたチェーンを切り離した。


「ああっ!バカ…!でも、何故奴らはこの短い時間で、これ程息の合った動きが出来る…!」


カオリナイトは、木の上から悔しそうな表情を浮かべ、私達3人を見下ろした。


「おばさん!そんな所に突っ立ってないで、下りて来たらどう?」

「っ…小娘の分際で生意気な…!」

「生意気で結構よ!おばさん!!」


私は木の上から飛び降りて来たカオリナイトの蹴りを腕で受け止めると、体勢を立て直す為に一度離れた女に向かって、すぐに技を放った。


「フレイム・バースト!」

「!ちっ…!覚えてらっしゃい!!」


私の放った技が当たる寸前に、カオリナイトはそう言い残すと姿を消し、それとほぼ同時に、ウラヌスがダイモーンに向かって技を放った。


「ワールド・シェイキング!」


ウラヌスの放った技を食らったダイモーンは消え、残ったもう1匹の方を、セーラームーンが浄化した。


「ムーン・スパイラル・ハート・アタック!!」

「ぎゃあぁああああ!!ラブリィイイイイ!!」


セーラームーンの技によって浄化されたダイモーンは、元のバイクの姿へと戻り、ダイモーンの卵は破壊された。


「やったわね…」

「ええ…。少しだけ、あなたを見直したわ…」

「え…?」

「僕もだ…。…だが、我々の使命は、誰にも邪魔させない!」


私とウラヌスはそう言い残すと、上手く岩を伝って崖を下り、自力で岩場へと上がって来ていたネプチューンの元へと向かった。


「ネプチューン!」

「!シャイン!ウラヌス!何故、危険を冒してまで私を…!」

「…お前を助けたのは、あいつだ…」


そう言ってウラヌスは、崖の上に立つセーラームーンを見上げた。それに続き、私とネプチューンも崖の上にいる彼女に視線を向けた。


「!セーラームーンが…?」

「そう、セーラームーンが、ネプチューンを助けてくれたの…」

「…とにかく、無事でよかった…」

「っ…おかえり、みちる…!」


ウラヌスは安堵の意味を込めて、彼女に向かって微笑み、私は目に涙を溜め、無事に帰還した彼女に思いっきり抱き付いた。


「…心配掛けてごめんなさい…。ただいま、はるか、夏希…」


そう言って彼女は優しく微笑むと、私をしっかりと抱きしめ返してくれた。
to be continued...
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