- ピンチを乗り越えて(1/2)
- 5月最後の休日、私とみちるは、はるかが参加するモトクロスレースの応援に来ていた。
会場に着いた私とみちるは、観客席に当たる場所に立ち、1番のゼッケンを付け、スタート位置に並ぶはるかを見つめた。
「あー…ドキドキする…。別に私が出るわけじゃないのに…」
私がスタートラインの前に並ぶはるかを見つめながらそう零すと、隣に立っていたみちるがクスクスと笑いを漏らした。
「ふふ…夏希は初めてですものね。はるかのレースを生で見るのは…」
「うん!…はるか、大丈夫かな…?」
「大丈夫よ。今日のはるかには、勝利の女神が付いているもの…。むしろ、いつもよりずっと調子がいいと思うわよ?」
「そうなの…?」
「ええ…だから安心なさい。」
「うん…!」
私の問い掛けに、みちるは私の頭を優しく撫でながら微笑み、そう答えてくれた。そんな彼女の言葉に、私は緊張の糸が一気に解けて笑みを見せた。その時、ついにレース開始の合図が会場中に鳴り響いた。
「!始まった…!」
スタートの合図と共に、はるかは他の選手と共に私達の前から走り去って行った。
「(はるか…頑張って…!)」
私は祈るように手を組み、モニターに映されるはるかの様子を目で追った。
レースが始まって数分、はるかは絶妙な運転テクを披露し、最初はさほどなかった他の選手との距離をどんどん開き、その距離を最後まで保ったまま、ゴールであるスタート地点まで戻って来た。
「戻って来た…!」
「やっぱり、はるかの優勝ね…」
みちるがそう零した瞬間、はるかはゴールし、ぶっちぎりで優勝を勝ち取った。
「やったー!みちる、はるかが優勝だよ!!」
「ふふ…そうね。」
私は喜びのあまり、隣にいたみちるに抱き付いた。そんな私にみちるは小さく笑いを漏らし、私をそっと抱きしめ返した。
それから暫くして、レースを最後まで見届けた私達は、レース後のはるかに会いに、選手専用の駐車場へと向かった。
「はるか!」
「ん…?」
私の声に気付いたはるかは、バイクを降り、ヘルメットを脱ぐとすぐに私達の方へと振り返った。
「夏希、みちる!」
そんなはるかの姿を確認した私は、すぐに彼に抱き付いた。はるかはヘルメットを持っていない方の手で私を抱き留めると、小さく笑みを零した。
「っと……急にどうしたんだ…?いつもは、人前じゃこんな事絶対にしないのに…」
「ふふ…あなたの優勝が決まった瞬間から、夏希ったらずっとこうなのよ…?」
みちるは小さく笑いながらはるかにそう言うと、はるかへと持って来ていたタオルを差し出した。
「サンキュ。」
はるかは短くみちるにお礼を言うと、ヘルメットをバイクのサドルの上に置き、タオルを受け取り汗を拭った。
「レース中のはるか、最高にかっこよかったよ?」
「惚れ直した?」
「うん!もっと、もーっとはるかの事好きになった!」
はるかの優勝が決まった瞬間の興奮が未だ冷め切らない私は、いつもなら恥ずかしがって絶対に言わない台詞も、人目も、今回は微塵程にも気にせず、思いっきりはるかに抱き付き、素直にそう伝えた。
「……普段もこれくらい素直だと嬉しいんだけどな…」
私がはるかの胸に顔を埋めた瞬間、はるかはポツリとそう呟いた。しかし、タイミング良くバイクのエンジンを吹かす音がその声に重なり、はるかのその言葉が私の耳に入る事はなかった。
―――――
「はるか、優勝のお祝い、何が欲しい?」
「別にいらないよ。夏希が側にいてくれれば、僕はそれでいい…」
「それじゃ、ダメなの!何か…」
「はるかさーん!」
私とはるかが抱き合いながらそんな会話をしてると、突然はるかの後ろから、はるかを呼ぶ声が聞こえ、私達3人はその声の方へと視線を向けた。
「!あら…」
「お団子頭…!」
「それに、皆も……どうしてここに…?」
「皆、まもちゃんに連れて来てもらったの!」
私達から少し離れた所に立っているうさぎは、自分の数歩後ろに立つ衛さん達を見ながら、私の問いにそう答えた。その時、さっきのレースではるかに負けた数名の選手達が、レンチを片手にゆっくりと私達3人を取り囲むように迫って来た。
「…何か僕に用かな?」
「天王はるか!ガキのくせに優勝しやがって…生意気だぞ!」
「レースに大人も子供も関係ない。速い者が勝つ…!」
「おじさん達、わざわざそんな負け犬の遠吠えを聞かせる為に来たの?暇人なのね…」
「何…!?」
「あなた方、そんな物片手に、はるかを脅しに来る暇があるのなら、1秒でも自分のタイムを縮める努力をしたらいかがかしら?」
「ま、おじさん達がいくら努力したって、はるかには一生勝てないと思うけど……レーサーとしても、人としてもね!」
「っ…このガキ…!!」
私達の言葉を聞いて逆上した男達は、私達に殴り掛かろうと、レンチを振り上げた。それに対して、私とはるかも構えを取った所で、彼らの背後から制止の声が掛った。
「止めろ!」
「!山田さん…」
「お前達、何やってるんだ!」
「あ、いや…これは…!」
「バカな真似は止めろ!」
「っ…しかし!」
「次のレースで勝てばいい…それだけの事だ。行くぞ。」
そう言い残すと、山田と呼ばれた男の人は私達に背を向け、去って行った。
「ちっ…怪我をしないように気を付けな!」
「…何なの、あいつら…」
「負け犬達の事なんて気にするな…」
はるかはそう言って、山田と呼ばれた男の後を追い、去って行った男達を睨み付ける私を後ろから抱きしめた。
「あの人は…?」
去って行った男達を見ながら、まことはそんな質問を私達に投げ掛けた。
「彼は、山田勝利…」
「今のレースで、2着になったライダーだ。」
「モトクロスレースに情熱を燃やしていてね、とても純粋な人なの…」
「へー…そうなんだ…」
「……純粋な人、か…」
私はみちるの言葉を聞いて、はるか達にしか聞こえない程度の声で小さくそう呟いた。
「彼は、ピュアな心を持っているタイプの人間ね…」
「あぁ…マークしてみる必要があるな…」
「…私がやる。」
「それじゃ、私もお手伝いするわ。」
「…2人とも、気を付けろよ。」
「「うん(ええ)…!」」
それから暫くして、はるかは着替えに向かい、それを機にうさぎ達も帰って行った。その場に残された私とみちるは、互いの顔を見て頷くと、自分達の取るべき行動へと移った。
―――――
あれからシャインとネプチューンへそれぞれ変身した私とみちるは、草の陰や、木の陰なんかに上手く隠れながら、山田さんの回りを張った。
「…妖気がどんどん濃くなってる…」
「そうね…。やはり、今回のターゲットは彼…」
「!ネプチューン!あれ…!」
「!ダイモーンの卵…!」
私はダイモーンの出現をはるかに知らせるべく、通信機を取り出すと、すぐに彼へ連絡を取った。
「はるか!敵が現れたわ!すぐにモトクロス練習場に来て!!」
『了解!』
はるかの返事を聞き、通信を切った私は、ネプチューンと共に山田さんのピュアな心の出現を待って、ダイモーンの前へと出た。
「お前のピュアな心の結晶、確かに貰っタイヤン!」
「「あなたの思い通りにはさせないわ!」」
「誰だ!?」
「海王星の潮騒ぐ時、新たな時代に誘われて、セーラーネプチューン!優雅に活躍!」
「同じく、セーラーシャイン!優美に活躍!フレイム・バースト!」
私は名乗ってすぐにダイモーンに向かって技を放った。
「!うわぁあああああ!」
私の放った技を食らい、ダイモーンはピュアな心を手放した。その隙に、ネプチューンがピュアな心を拾い、タリスマンかどうかを調べた。
「違う…これもタリスマンではないわ!」
「それじゃ、早く戻してあげなきゃ!」
私の言葉にネプチューンは頷くと、すぐにピュアな心を山田さんの中へと返した。
「…っ……」
「早く安全な所に逃げるのよ!」
ネプチューンが彼にそう言った瞬間、私達の頭上から高笑いが聞こえ、私とネプチューンは声のした方へと視線を向けた。
「!お前は…!」
「待っていたわ、セーラーシャイン、セーラーネプチューン!その若者の心の結晶が、タリスマンであろうとなかろうと、どちらでもいいの。私達は、お前達が来るのを待っていた!」
「何ですって…!?」
カオリナイトの言葉に、私とネプチューンは驚きの表情を見せた。それとほぼ同時に、ダイモーンが分身し、2体に増えた。
「ちっ…ネプチューン、私は右側の奴何とかするから、もう1体の相手、任せてもいい?」
「ええ…よくってよ!」
ネプチューンのその言葉と同時に、私達はそれぞれダイモーンへと向かって行った。しかし、素手で攻撃しようにも、ダイモーンの動きが速過ぎて、私達の攻撃は全て避けられてしまった。
「っ…速過ぎて全然当たらない…!」
「シャイン、退いて!ディープ・サブマージ!」
私はネプチューンの言葉に、すぐにその場から退くと、ネプチューンがダイモーンへと向かって技を放った。
「やったの…!?」
私はダイモーンの様子を探るにも、場所が悪く、私の立ってる所からは、砂煙の影響でダイモーンの姿どころか、向かい合うように立っているはずのネプチューンの姿すら確認する事が出来なかった。その時、煙の向こう側から、ネプチューンの驚くような声と同時に、彼女の悲鳴が聞こえた。
「!そんな……きゃあぁっ!」
「!?ネプチューン…!」
私はすぐに煙の向こう側へと向かい、彼女に何があったのか確認しに行った。
「!ネプチューン!!」
私が煙の向こう側へ行くと、ダイモーンの攻撃によって、木に拘束されたネプチューンの姿が目に入った。しかし、助けに行こうにも、近付けば私も彼女同様拘束されてしまうかもしれないと考えると、私は助けに行くにも行けず、2体のダイモーンと睨み合った。
「さあ、どうするの?セーラーシャイン…このままセーラーネプチューンを見捨て、この場から逃げ去るか、それともネプチューン共々ここで命を落とすか…!」
ダイモーンと睨み合う私に、ネプチューンが拘束された木の上に座って、高みの見物しているカオリナイトが私にそう問い掛けて来た。
「そんな事は僕がさせない!」
「「!」」
私とカオリナイトはその声に反応し、声のした方へとすぐに視線を向けた。
「ウラヌス!」
「お待たせ、子猫ちゃん。」
「もう!急いで来てって言ったのに、来るのが遅い!」
「ごめんごめん…」
ウラヌスは私の隣に立つと、ダイモーンに向かって構えた。
「セーラーウラヌスも来たか…ちょうどいいわ。3人纏めて、あの世へ送ってあげる!お前達、やっておしまい!」
カオリナイトの命令により、ダイモーンは私達へと向かって突進して来た。私とウラヌスはそれを避けると、コース内にある大きな岩の上へと移動した。
「セーラーシャイン、セーラーウラヌス、逆らうな!逆らえば、仲間の命はないわよ。」
「っ…ちょっと、やる事が汚いわよ!おばさん!!」
「おばっ……この小娘…っ…!」
私とカオリナイトが睨み合っていたその時、どこからか飛んで来た光の円盤が、ネプチューンを拘束していた紐を切り放し、ネプチューンは解放された。
「!」
「卑怯な真似はいけないわ!」
私達はその声に反応し、すぐに後ろを振り返り、声の主が誰なのかを確認した。そこにいたのは、予想通りの人物で、私とウラヌスは驚きの表情を見せた。
「この、愛と正義のセーラー服美少女戦士、セーラームーンが!月に代わってお仕置きよ!」
「セーラームーン…!?」
「どうして、ここに…」
セーラームーンは立っていた岩の上から下りると、カオリナイトに向かって叫んだ。
「戦いは正々堂々とやるべきよ!どっちの味方でもないけれど、卑怯な手を使うなんて許せない!」
「ふん…許しなんか必要ないわ!お前達、あの小娘も一緒に片付けてしまいなさい!!」
カオリナイトの命令で、ダイモーンは再び私達に向かって攻撃を仕掛けて来た。私とウラヌスはそれを軽々と避け、セーラームーンも何とか敵の攻撃を避けると、私達に向かって言った。
「シャイン、ウラヌス!早くネプチューンを連れて逃げて!」
「それはこっちの台詞よ!」
「余計な事はするな!これは僕達の…っ!」
「!セーラームーン、危ない!!」
私はセーラームーンを突き飛ばし、敵の攻撃から彼女を庇った。
「っ……」
「シャイン!!」
敵の攻撃を避けたウラヌスが、セーラームーンを庇って地面へと伏せてしまった私の元に、すぐに駆け寄って来た。
「シャイン、大丈夫か!?怪我は…っ…!」
「っ…大丈夫…こんなの、かすり傷だから…」
私は地面に倒れた体を起こし、右肩を押えると、心配させまいとウラヌスに向かって微笑んだ。そしてウラヌスに支えられながら立ち上がると、再び敵に向き直った。
「奴らを、倒さなきゃ…!」
私がロッドを取り出し、敵に向かって構えたところで、私の前にセーラームーンは立ちはだかった。
「ダメよ!あなた達は早くネプチューンを連れて逃げて!!」
「退け、セーラームーン!奴らは僕達が倒す!お前こそ早く逃げろ!!」
「嫌よ!!あたしだってセーラー戦士だもの!戦えるわ!!」
「そりゃ、誰かと一緒ならまだしも…あなた1人じゃ無理よ!!」
そんな言い合いをする私達を見て、カオリナイトは再びダイモーンに向かって命令を出した。
「ウラヌス、シャインの2人は別として、セーラームーンとあの2人のコンビネーションはバラバラだわ!今の内に一気に叩いておしまいなさい!!」
「「チェーンリング!!」」
ダイモーンはそう叫ぶと、私達3人に向かって光のリングを放った。しかし、言い合いをしていた私達は、敵の放ったリングの存在に気付くのが遅れてしまい、それを避ける事が出来なかった。
「!しまった!!」
そしてセーラームーンの左手と、ウラヌスの右手、セーラームーンの右手と、私の左手がそれぞれチェーンで繋がった光のリングで拘束されてしまった。