世界の為に(2/2)
あれから暫く車を走らせ、私達は海王洲公園へとやって来た。車を降り、緩い会話を交わしながら、転落防止の手摺りに肘を預け、海に夕陽が沈んでいくのを、私達は4人で眺めた。


「綺麗…」

「そうだな……。ま、夏希以上に綺麗なものなんて、この世には存在しないけど…」

「もう、またはるかは…」


そう言ってはるかは私を後ろから抱きしめた。そんな私達を見て、まことが小さく笑いを漏らしながら口を開いた。


「こうやって見てると、はるかさんがうさぎちゃんで、夏希ちゃんが衛さんみたい…」

「衛さんって確か、うさぎの恋人よね?」

「はい。うさぎちゃん、衛さんにベタ惚れで……衛さんはそうでもないんですけど、うさぎちゃんはどこでも、誰が見てても、そんな事気にせずに、衛さんに甘えるんです。」


みちるの問い掛けに、まことは優しい笑みを見せながらそう答えた。そんなまことの返答を聞いて、みちるは小さく笑みを浮かべると、先程のまことの言葉に同意の言葉を漏らした。


「そうね……はるかは甘えると言うよりは、夏希を甘やかす方だけれど…。誰が見てても、どこでも構わずに過剰なスキンシップを取りに行く所は同じね。」

「仕方ないだろ?夏希を見てると、構いたくなるんだよ…」


はるかはそう言って私の頬にそっと口付けた。


「ちょ、はるか…!まことが見てるのに…!」


私は恥ずかしさから顔を赤く染め、少し怒った風にはるかを見上げた。そんな私達を見て、まことは再び小さく笑いを零した。その時、どこからかピピッと言う小さなアラーム音が聞こえた。


「あ、ごめん!あたしのだ…ちょっとすみません。」


まことはそう言い残し、私達から離れるとポケットから小さな通信機みたいなものを取り出し、誰かと話し始めた。


「…まだ現れないね…」

「あぁ…妖気はそこら中に漂っていると言うのに…」

「そうね…。一体、敵はいつどこに現れるのかしら…」


私はみちるのその言葉に、海を眺めていた視線を、少し離れた場所に立っているまことへと向けた。私が目を向けると、たまたまこちらの方を向いていたまことと目が合い、私はまことに手を振り微笑んだ。その時、まことの後ろに、今朝まことを襲ったダイモーンが現れた。


「!まこと…!」


私のこの声にダイモーンが現れた事に気付いたはるかとみちるは、ダイモーンを怖がる振りをし、私は近くに落ちていた小さな石を拾うと、ダイモーンに向かってそれを投げ、化け物に捕まってしまった友人を助ける振りをした。


「この化け物!まことを放しなさい!!」

「ダメ!3人とも逃げて!早く!!」


まことはダイモーンに捕まりながらも、私達の心配をし、逃げるように叫んだ。しかし、まことがそう言い終わるや否や、私の投げた石が顔に当たり、顔を押え俯いていたダイモーンが顔を上げ、私達に向かって攻撃を仕掛けて来た。


「っ…石を投げたら、危ないでしょ!!」

「「「あぁあああああ!」」」


いつもの私達ならば、ここで簡単に攻撃を避け、隙を見て変身するのだが今はそうもいかない。私達はわざとダイモーンの攻撃を受け、公園内の林へと吹き飛ばされた。


「はるかさん!みちるさん!夏希ちゃん!!」


林の中へと吹き飛ばされた私達は、まことの姿が見えなくなったのを確認すると、地面へと落ちる際にしっかり受け身を取った。そしてすぐに戦士の姿へと変身すると、木陰からまことのピュアな心が奪われるのを黙って眺めた。


「上手く行ったわね…」

「あぁ…何とかな…」

「…まことには悪いけど、タリスマンを秘めている可能性があるのなら…」


私の言葉に頷いたウラヌス、ネプチューンは、ピュアな心の出現を確認した所で、木陰から飛び出して行った。


「(まこと…ごめんね…)」


そして心の中で静かにまことに謝ると、私も2人に続き、木陰から飛び出した。



―――――



私は飛び出してすぐ、ウラヌスの放った技に驚き、心の結晶を手離してしまったカオリナイトから結晶を奪い、ウラヌス、ネプチューンの元の向かった。


「!お前達は…!」

「悪いな。我々には、どうしてもタリスマンが必要なんだ。」

「っ…スカー!始末してしまいなさい!」


私は2人に心の結晶を預け、カオリナイトの命令でまことを放し、私達へと仕掛けて来たダイモーンの攻撃を防御の技で防いだ。


「シャイン・シールド!」


私がダイモーンの攻撃を防いでる間に、2人は心の結晶を調べ始めた。しかし、それとほぼ同時に、いつものようにセーラームーン達がまことを助けに現れた。


「そこまでよ!」

「スカ!?」


その声に、攻防を続けていた私とダイモーンは、セーラームーン達の方へと視線を向けた。


「純粋な乙女心を、手掴みで奪う取ろうとする悪い奴!美少女戦士の名に懸けて、許さない!月に代わって、お仕置きよ!!」


セーラームーンのお決まりの台詞を言い終わった所で、内部戦士達はモニュメントの上から飛び降り、セーラームーンとセーラーマーキュリーはまことの元へ、セーラーマーズ、セーラーヴィーナスがダイモーンへと向かって技を放った。しかし、ダイモーンを簡単にそれを防ぐと、今度はマーズとヴィーナスに向かって行った。


「シャイン!」


その時、ウラヌスに声を掛けられた私は、後ろを振り返り、彼女達へと視線を向けた。


「これはタリスマンではないわ…」

「そう…」

「待って!お願い!この女の子の心の結晶を返して!!」


セーラームーンの言葉に、私はネプチューンから心の結晶を受け取ると、セーラームーンに向かってそっと投げた。


「早く返してあげて…?」


私から心の結晶を受け取ったセーラームーンはすぐにまことの元へと走り、そっと心の結晶を彼女へと戻した。そして私は、ダイモーンと戦っているマーズ、ヴィーナスの2人に目を向けた。それに続いてウラヌス、ネプチューンも彼女達の方へと視線を向ける。


「…あちらは苦戦しているようね…」

「情けない奴らだ…」

「こら、そんな事言わないの!あの子達だって頑張ってるんだから……って、そんな事より、助けてあげた方がいいかな…?」


私達がこんな会話をしている間に、ダイモーンに捕まってしまったマーズとヴィーナスを見てそう呟いた。


「…どうやら、そのようね……ディープ・サブマージ!」

「やれやれ…シャインがそう言うなら、仕方ないな……ワールド・シェイキング!」


私の言葉に、ネプチューンとウラヌスがダイモーンに向かって技を放った。そして2人の技を食らい、ダイモーンはマーズとヴィーナスの2人を解放した。


「「シャイン!」」

「はいはい!」


私は2人の合図にロッドを取り出すと、ロッドの先をダイモーンへと向け、浄化技を放った。


「シャイン・ハート・キュア・エイド!」

「ああ!?あぁああああ!ラブリぃいい!」


私の放った技により、ダイモーンの卵は破壊され、ダイモーンは消えた。それをしっかりと見届けて、私達はその場から立ち去ろうと彼女達に背を向けた。


「待てよ!!」


私達はその声に足を止め、再び彼女達の方へと振り返った。そこにいたのは、さっきまで姿が見えなかったセーラージュピターだった。


「あら…?あなた…」

「どんなつもりか知らないが、いつも泥棒みたいに現れて、ピュアな心を盗もうとしやがって…!お前達もダイモーンと同じだぜ!!」

「!…っ……」


私達に向かってジュピターはそう怒鳴り付けた。ジュピターのその言葉に、私が顔を俯かせ、傷付いてしまったのを見たウラヌスは、一気に機嫌を損ね、彼女を挑発するような態度で言葉を返した。


「…だったらどうする?」

「今日ばかりは許せない!その根性、叩き直してやる!!」

「ふっ…弱いくせに、意気がるな!!」


そう言ってウラヌスは、殴り掛かって来たジュピターの手を払いのけると、ジュピターの鳩尾に拳を一発決めた。そして痛みに耐えながらも私達を睨み付けるジュピターをウラヌスは見下すような目で見ると、私を連れ、ネプチューンと共にその場から飛び去った。



―――――



「大人気ないわ。手加減くらいしてあげたらいいのに…」

「僕達のシャインを傷付けたんだ。手加減なんてしてやるもんか……それに…」

「!ウラヌス…っ…!」
「…あいつ、結構強いよ…」


ネプチューンとウラヌスはそんな会話をしながら、ダイモーンに吹き飛ばされた場所まで戻って来ると変身を解いた。それに続き私も変身を解き、その場に立ち尽くした。


「…大丈夫か、夏希…?」

「…うん、平気…。それに、あの子の言ってる事、間違ってないし…」


そう言って無理に笑う私を、2人は心配そうな顔で抱きしめた。


「…無理してまで、笑おうとしなくていい…っ…」

「私達が、あなたの悲しみも全て受け止めるから…だから!」

「頼むから、1人では泣かないでくれ…」


今まで泣かないように頑張って堪えてたのに、私の涙腺は、はるかの言葉によって崩壊の時を迎え、私ははるか達に抱きしめられながら静かに涙を流した。

それから暫くして、私達は私達3人を探しに来てくれたまことと合流した。泣いている私を不思議そうな目で見るまことに、はるかとみちるが、気が付いてからずっとまことの心配してたと適当な事を言って誤魔化してくれた。


「夏希ちゃん…ごめんね?心配掛けて…」


そう言って謝るまことに、私は抱き付いた。そして左右に首を振ると、小さく呟いた。


「(私の方こそ…ごめんね、まこと…)無事でよかった…」

「…ありがとう、夏希ちゃん…」


まことはそう言って微笑むと、抱き付いたまま離れない私の頭をそっと撫でてくれた。


「…ところで、さっきの化け物はどうなったんだ?」

「ああ…あれなら、あの後セーラー戦士がやって来て、やっつけてくれました!」

「それじゃ、もうあの化け物はいないのね?」

「はい!」

はるかとみちるの問い掛けに、まことは笑顔でそう答えると、その笑みに、はるかとみちるも笑みを見せた。


「そう…」

「これで安心して帰れるな…」

「ええ、そうね…」

「あ、そうだ。はるかさん、これ…」


はるかとみちるの会話に区切りが着いた所で、まことは何かを思い出したようにスカートのポケットの中を探り出した。だいぶ落ち着きを取り戻した私は、このままでは取り出しにくいだろうと冷静に考え、まことから離れ、はるか達の元へと戻った。


「落ち着いた…?」

「ん…ごめんね、急に泣いたりして…」

「気にするな…。1人で泣かれるより、よっぽどいいさ…」

「そうよ…?あなたは悪い事なんて何一つしていないんだから、謝る必要なんてないわ…」

「…ありがとう、はるか、みちる…」


私はそう言って、2人の手をそっと握った。しかしその時、はるかが小さく呻いて勢いよく手を放した。その行動に、私は彼の手を見る。


「!はるか…血が出てるじゃない!」

「え!?どこ…!?」


目的の物がちょうど見付かり、それをポケットから取り出したまことは、私の言葉に表情を一変させ、すぐに私達の元へと駆け寄って来た。


「はるかさん、ちょっと見せて!」


そう言ってまことは、血が滲んでいるはるかの手を取ると、はるかの手に布を巻き始めた。


「あれ…?これは……」

「ごめんなさい…。このスカーフ、返そうと思ってたんだけど…」

「……いや…ありがとう、まこちゃん。」

「どういたしまして!」


微笑んでお礼を言うはるかに、まことは若干頬を赤く染めながら可愛らしい笑顔を見せた。そんなまことを見て、私はまことに言った。


「…ちょっと、まこと!はるかは私の!彼氏なんだからね?あげないわよ!」

「なっ…そ、そんなのわかってるよ!」


私の言葉に狼狽えるまことに、はるかとみちるはクスクスと笑いを漏らした。


「夏希…今の言い方だと、何だかまこちゃんに妬いてるみたいだったわよ?」

「何言ってるんだよみちる…。だった、じゃなくて、夏希は実際まこちゃんに妬いてたんだよ…」

「な…っ…べ、別に妬いてなんかないし…!」


みちる、そしてはるかの言葉に、私は耳まで真っ赤に染め上げた。そんな私を見て、はるかとみちるは可愛いなんて言って私を抱きしめ、まことはそんな私達を見てクスクスと笑いを漏らした。


「(本当、可愛い人達だな…)」


まことはそんな事を考えながら、私を抱きしめるはるかとみちるを見て微笑んだ。
to be continued...
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