- 世界の為に(1/2)
- ある朝、私はみちると共に、みちるの住むマンションの最上階に設置されている屋内プールへと来ていた。しかし私は、プールに入って泳ぐのではなく、ただプールの水に足を浸け、そして目を閉じ、昨晩のやり取りを思い出していた。
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「救世主を探さなきゃならないな…。どうしても…」
「救世主を見付け出す鍵となる3つのタリスマンは、誰かのピュアな心に封印されている…」
「…何としても、必ず3つのタリスマンを揃え、救世主を見付け出さなきゃ…!」
「…いいの、夏希?…タリスマンを揃えると言う事は、そのピュアな心の持ち主を犠牲にすると言う事よ…?」
「…わかってるよ……。…でも、そのピュアな心の持ち主を犠牲にしても、この世界を沈黙から救う為には、救世主を…3つのタリスマンを揃えるしかない…。私には、この世界を…太陽系を守ると言う使命がある!それが例え、どんな結果に繋がろうとも…この世界を守れるのなら、プリンセスの私が、諦めるわけにはいかない…!」
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そこまで思い出して、私は閉じていた目を開けた。
「(…世界を守ると言う使命の為に…封印されし3つのタリスマンを揃え、救世主を見付ける…。その結果、誰かの命を奪う事になろうとも、この世界を救える可能性が残っているのなら…っ……プリンセスの私が、諦めるわけにはいかない…!)」
私はそんな事を考えながら、タイルの上に寝転がり、窓から見える朝日に向かって左手を伸ばした。
「…輝ける未来を、愛する人のいるこの世界を、皆を、守る為に……っ…」
私はそうポツリと零し、朝日に向かって伸ばした手を強く握り締めた。その時、みちるがプールから上がり、私に声を掛けて来た。
「夏希、そんな所で寝転んでると制服が濡れちゃうわよ?」
「…そうだね…」
私はみちるの言葉に体を起こすと、プールに浸けていた足を出し、立ち上がった。
「みちる、気付いてる…?」
「ええ…」
みちるは私の問い掛けに頷くと、通信機ではるかに連絡を取った。
「…海が騒いでる…」
『あぁ…この辺りだ。気配は感じるが、まだ動きはない。』
「この辺りって…はるか、今どの辺にいるの?」
『十番町の中心…商店街の辺りだ。』
「わかった、すぐにそっちに向かう。」
私ははるかにそう返事を返すと、みちると一緒にプールを出て、みちるの着替えが終わるのを待つと、変身してみちると共に、マンションを出た。
それから暫くし、ウラヌスへと変身を済ませたはるかと合流した私達は、急いで妖気の元へと向かった。そして妖気の元へと辿り着いた私達は、建物の屋上から、残酷だが、今回のターゲットから心の結晶が抜き取られるのを静かに待った。
「スカー!」
「!」
「シャインアクア・イリュージョン!」
ダイモーンが今回のターゲットであるまことを捕まえた所で、セーラーマーキュリーがダイモーンへと向かって技を放った。
「スカ!?」
「こんな朝っぱらから何やってんの!!その子から、離れなさい!」
「っ…もう邪魔者が入ったか…ここの所は引きなさい、スカー!」
「!あいつ…!」
前回の戦いで取り逃がしてしまったカオリナイトがダイモーンにそう命令すると、ダイモーンはそれに従い、心の結晶を取り出す前にその場から逃げてしまった。
「まことが、今回のターゲット…」
「…タリスマンの持ち主かどうか、わからなかったわね…」
「ちっ……セーラームーン達、余計な事をしてくれる…」
セーラームーン達を見下ろし、ウラヌスはそう呟いた。そんなウラヌスに、ネプチューンは問い掛ける。
「いっその事、全てを話して一緒に戦ったら?」
「沈黙が迫って来る。それを阻止する為には、誰かを犠牲にしなきゃならない!」
「そんな事、あの子達には出来ないよ…。…きっと…」
ウラヌスの言葉に、私は言葉を続けた。そんな私を、ウラヌスとネプチューンは少し心配そうな顔で見つめた。
「…シャイン…」
「無理をしないで…?あなただって、本当はこんな事…!」
私はネプチューンの言葉を途中で止めると、2人を安心させる為に、小さくだが笑って見せた。
「ダメだよ、ネプチューン…それ以上言っちゃ。…この世界を守るのが、太陽系を統べるプリンセスである私の使命なの…。だから、どんな結果が待っていようと、世界を救う為に、これはやらなきゃいけない事なの…」
「「…シャイン…」」
2人にそう言って俯いてしまった私を、ウラヌスとネプチューンはそっと抱きしめた。
「…どんな時も、いつだってシャインには僕達が付いてる…」
「1人で全てを抱え込もうとしないで…?もっと私達を頼ってくれてもいいのよ…?」
「…うん。ありがとう、ウラヌス、ネプチューン……いつも私の側にいてくれるのが、あなた達2人で本当によかった…」
私は2人にお礼を言い、そっと2人を抱きしめ返した。
それから暫くの間抱き合い、私達は離れた。
「…それで、これからどうするの?」
「このまま奴らが大人しく出て来るのを待つしかないだろ…。きっとまた、あの子を襲って来るさ…」
私はウラヌスの言葉に頷くと、後からやって来たうさぎや亜美と一緒に、再び学校へと向かって歩き出したまことの後姿を見つめ呟いた。
「…暫く、まことをマークしておかなきゃね…」
そして私は変身を解き、はるかやみちると別れ、学校へと向かった。
―――――
「あ、おはよう日向さん!」
「おはよー。」
「おはようございます、日向さん!」
「おはようございます!今日も最高に美しいですね!!」
「そう?ありがと。」
学校に着き、教室に入ると私の姿を見たクラスメイトが朝の挨拶を掛けてくれた。そんな皆に挨拶を返しながら、自分の席まで行くと鞄を置き、私はうさぎ達を探しに教室から出た。
私がまず最初に向かったのは、亜美の在籍する5組の前、そして次に今回のターゲットとなったまことが在籍する6組。しかし、そのどちらにもうさぎ達の姿はなく、私は暫く学校内を探した後、大人しく教室へと戻った。
「(いつ、再びダイモーンがまことを襲って来るかわからないのに…っ……うさぎ達ったら、一体どこに…!)」
教室へと戻る道のりの中で、そんな事を考えながら歩いていると、私は突然後ろから声を掛けられた。
「あれ?夏希ちゃんだー!おっはよー!」
私はその声に反応して、後ろを振り返った。
「!うさぎ!それから、亜美とまことも…!」
「おはよう、夏希ちゃん。」
「おはよう…あ、そうだ!夏希ちゃん、はるかさんの家の住所とか知ってる?」
「え…?ま、まあ…これでも一応はるかの彼女だし…それくらい知ってるけど…」
「あ、あのさ…!も、もし、よかったらなんだけど…はるかさんの家の住所、教えてくれないかな…?」
まことは少しもじもじしながら私にそう問い掛けて来た。そんなまことに、私は首を傾げ問い掛けた。
「何で…?はるかに何か用でもあるの?」
「え?あ、いや…実はさ、昨日たまたま町で会った時に、手怪我してたあたしに、自分の首に巻いてたスカーフ、貸してくれてさ…」
「へー…珍しい、はるかがそんな事を…」
「それで、スカーフ返すついでに、お礼も兼ねて、あたしに何かしてあげられる事があるなら、したいなー……なんて…」
「そっかー…。でも、はるかあんまり他人を家に上げるの好きじゃないからなー…んー……あ!そうだ!それじゃ、今日学校終わったらはるか達とドライブ行くんだけど、まことも一緒に来る?」
今の話を聞いて、私は出来るだけ自然な流れで、今回ターゲットとなった彼女を誘い出した。
「あ…でも、学校終わってからじゃ、お礼用意する暇はないか…」
「あ、あの…それでも、お礼の言葉とスカーフを返すくらいの事なら出来るし!出来ればその…一緒に、行きたいんだけど…」
「(!掛かった…!)うん、それじゃ、一緒に行こ!はるか達には、私から連絡しておくから」
私は嘘の笑みを張り付け、まことにそう告げた。これがはるかやみちるなら、こんな私の罠には引っ掛からない。長い時間、共に過ごす事の多い2人には、私の嘘は通用しない。しかし、はるかとみちるの2人と違って、うさぎ達とはまだ出会って1ヵ月ちょっと…。彼女達相手なら、私の嘘がバレる心配はない…
「!ありがとう、夏希ちゃん!」
「どういたしまして」
可愛らしい笑顔で私にお礼を言うまことに、私は少しだけ心が痛んだ。しかし、そんな事を表情に出すわけにはいかず、私はただ笑って、彼女に言葉を返した。
「えー!まこちゃんずるーい!!あたしもはるかさん達とドライブ行きたい行きたい行きたーい!!」
まことがドライブに参加すると聞いて、うさぎはまたいつものように駄々を捏ね始めた。そんなうさぎに、亜美とまことは苦笑を漏らし、私も少し困ったような表情を見せ、うさぎに告げた。
「うさぎはまた今度ね?まことが乗ったら、今日はもう定員オーバーだから…」
「えー……まこちゃんだけずるーい…!あたしだって、昨日あの場所にいたのに…」
そう言ってうさぎは唇を尖らせ、拗ねてしまった。
「あはは……昨日何があったのかは知らないけど…はるかにはちゃんとうさぎの事も言っておくから、今日は我慢して?」
「…本当?」
「うん、本当。ちゃんと伝えておく。」
私が笑ってそう伝えると、うさぎも笑顔になり、私の言葉に頷いた。それと同時に、HRを知らせる予鈴が学校中に響き渡った。
「げっ…」
「もうそんな時間…?」
「とにかく、急いで教室に戻りましょう!」
亜美の言葉に、その場にいた全員が頷き、それぞれの教室に向かって走り出した。
―――――
あれから暫く経ち、1時間目の授業が終わり、休み時間に入った。私は教科書やノートを仕舞い、教室から出ると、人目に付かない場所に身を隠し、はるかに通信機で連絡を取った。
『どうした?』
「放課後、はるか達とドライブに行くって事で、まことを連れ出す事に成功したわ。」
『それじゃ、一旦車を取りに行かないといけないな…』
「ごめんね?面倒な事言っちゃって…」
『いや、いいさ。これくらい何でもないよ…それより、そっちに変わった様子はないか?』
「うん、今のところは…。ダイモーンの出現によって、妖気があちこちに充満してるから、安全かどうかって聞かれたら、よくわかんないけど…」
『僕達も同じだ。既にダイモーンが出現しているせいか、風が騒ぎっ放しで、いつもみたいにどこに、どのタイミングで現れるのかまでは感知出来ない…』
「そうなんだ…」
『…夏希?』
「?何、みちる…?」
『何かあったら、すぐに連絡して来るのよ?どんな時だって、私達は必ず駆け付けるから…』
「うん、わかってるよ…。ありがとう、みちる…それじゃ、また放課後にね?」
私はそう言って、通信を切り、通信機をポケットに仕舞った。そして残り休み時間を確認すると教室へと戻った。
「あ、おかえり、夏希ちゃん!はるかさん達に、まこちゃんの事伝えて来たの?」
「うん!電話するにも、ここじゃちょっと煩いから、少し教室から離れた所でね」
「ねぇねぇ、あたしの事も言ってくれた?」
私の言葉に、うさぎは目をキラキラさせながらそう訪ねて来た。
「うさぎの事はまだ言ってない。放課後、まことのいる前で言って、ちゃんとはるかに伝えたかどうかの証人になってもらおうと思って…」
「そっか!それじゃ、明日になったらまこちゃんに聞いてみよっと!」
うさぎがそう言葉を零した所で、2時限目の始業を告げるチャイムが鳴り、それとほぼ同時に先生が教室に入って来て、私達の会話は終わった。
その後も、学校にいる間は特に変わった事はなく、無事放課後を迎える事が出来た。帰りのHRが終わった所で、私は6組の教室までまことを迎えに行った。
「まことー?」
「あ、日向さん!木野さんから、あなたに伝言を頼まれたの。少し寄りたい所があるから、先に行ってるね…ですって。」
「!…そっか、ありがと!」
私はその女の子の言葉を聞いて、すぐに走り出した。
「(迂闊だった…!はるか達との待ち合わせ場所と時間を教えたりしたから…!)」
玄関で靴を履き変えた私は、学校を飛び出し、まことを探しながらはるか達に連絡を取った。
『どうした?』
「ごめん!まことを見失っちゃった!私のクラスのHRが終わる前に、寄りたい所があるとかで、どこかに行っちゃったみたいなの!」
『まずいわね…。今彼女を1人にしたら、敵の思うつぼだわ…』
『タリスマンが敵の手に渡るのだけは、何としてでも阻止しなければならない!』
「わかってる!そう遠くへ行ってないと思うし、私は暫く、学校の近くを探してみるから、2人は今朝まことがいた辺りから待ち合わせ場所までの間を探してみて!」
『『わかった(わ)!』』
そして私は通信を切ると、まこと探しに集中した。
「(まこと…一体、どこに…!)」
それから暫く学校の近くをあちこち探し回った所で、通信機ではなく珍しく携帯が着信を知らせた。私は足を止め、その場に立ち止まると電話に出た。
「はぁ…はぁ……っ…もしもし?」
『夏希?あなた今どこにいるの?』
「今?今は…」
『お、あれじゃないか…?』
『あら、本当だわ……夏希、もう答えなくていいわよ。もう見付けたから…』
「え…?」
電話の向こうで微かに聞こえたはるかの言葉に続き、みちるがそう言うと同時に、後ろから車のクラクションの音が聞こえ、私は振り返った。
「お待たせ、子猫ちゃん。」
「!はるか、みちる!それに、まことも…!」
「ここに来る途中で見付けたから、あなたを迎えに行くついでに拾って来たのよ。」
「夏希ちゃん、ごめんね…あたしの事探してくれてたんだって?」
「そうだよ、もう…!まことったら、一緒にドライブ行くって言ったのに、教室に迎えに行ってもいないから…」
「あはは…ごめんごめん。今朝、大事なもの失くしちゃって…それで探しに行ってたんだ。」
「…それならそうと言ってくれれば、私も探すの手伝ったのに…」
そう言って謝るまことに、私もそう言葉を返すと、大人しくはるかの車の助手席に乗り込んだ。
「それじゃ、出発するか。」
私がシートベルトを締め終わった所で、はるかはそう呟くと車をゆっくりと発進させた。