愛のカタチ
5月下旬のある休日、私達は新しく開設された恋人公園へと来ていた。何故、私達がそんな所にいるのかと言うと、開設記念に行われる恋人達の愛情度コンテストに参加する為だ。


「…この公園、邪悪な気配が漂ってる…」

「きっとこの近くに、ダイモーンが現れるんだわ…」

「…タリスマンは、決して奴らには渡さない」


私とみちるは、はるかのその言葉に頷いた。


「あーあ……せっかくはるかの愛情を試そうと、コンテストの参加申し込んだのに…」

「試すって…夏希は疑ってるのか?こんなにも君を愛している僕を…」

「だって…ちょっと目を離したら、はるかったらすぐに女の子口説くんだもん…それも可愛い子ばっかり!」

「ふふ…そうね。それじゃあ、疑われても仕方ないわよね…」


私の言葉に、みちるはクスクスと笑いを零し、はるかは少し拗ねたような顔を見せた。


「だから今日のコンテストで、はるかが本当に私の事を想ってるのか、試してみようと思ったのに……ここに来てみれば、邪悪な気配漂ってるし…あー、もう!」


少しイラついた私を落ち着かせるように、みちるは私の頭を優しく撫でながら言った。


「大丈夫よ、夏希。まだ暫く、海が荒れる気配はないもの…せっかく参加の申し込みをしたんだし、思う存分、コンテストではるかの愛情を試してらっしゃいな。」


優しく微笑んで私にそう言ったみちるに、私は問い掛けた。


「…でも、そしたらみちるは…?」

「私は観客に紛れて、あなた達の活躍を見てるわ。」

「だってさ。…どうする?コンテスト、参加するか?」

「……参加する!はるかの愛情試して来る!」

「…それじゃ、このコンテストで、僕がいかに君を愛してるか、もう二度と疑われないように証明してみせるよ…」


はるかは私の言葉に小さく余裕の笑みを漏らすと、私の手を引き、受付へと向かった。

受付を済ませた私とはるかは、参加者が集まるステージ裏へと向かった。私はそこでよく見知った2人の姿を見付け、声を掛けた。


「!なるちゃん、海野くん…!」

「!夏希ちゃん!!」

「あ、あの、夏希さんも、このコンテストに参加するんですか?」
「うん!ここにいるって事は、2人も参加するんだよね?」

「え、ええ…まあ…」

「海野…」


私の問い掛けに、ガチガチに緊張しながらそう答える海野くんを見て、なるちゃんは苦笑を漏らした。


「夏希、知り合いなのか?」

「あ、うん!2人とは同じクラスなの。こっちの可愛い子が、大阪なるちゃん。で、こっちのガチガチに緊張してるのが、なるちゃんの彼氏で海野ぐりおくん!」


私ははるかの問い掛けに、2人を紹介をした。


「へー…お団子頭達以外にも、夏希にこんな可愛い友達がいただなんて知らなかったな……よろしく、彼女。」

「は、はい…!」

「……はるか…?」


微笑んでなるちゃんにだけ挨拶をするはるかに、私は冷やかな視線を向けた。そんな私の視線に、はるかは大人しく身を引いた。


「全く、さっき言ったばっかりなのに…!」

「あ、えっと……夏希ちゃんの、彼氏さん…だよね?」


少しイラついた様子の私に、なるちゃんは困ったような表情を見せながらも、私にはるかの事を問い掛けて来た。


「うん、まあ…一応、今のところはね。今日の結果次第では、別れるかもしんないけど…」


なるちゃんに向かってそう言って、私はジト目ではるかを見た。そんな私に、はるかは少し困ったような表情を見せ、私に言った。


「おいおい…笑えないぜ、その冗談…」

「あら、そう?」

「……本当、最近みちるに似て来たな…。それも意地の悪い所だけ…」

「へー…そんな事言うんだ…。…後でみちるにチクってやろ…」

「…それは是非とも、勘弁して欲しいな…」


私の言葉に、はるかは両手を上げ、降参の意を表した。そんな私達は見たなるちゃんと海野くんは、クスクスと笑いを漏らした。


「何だか、2人を見てたら緊張が解れちゃった…」

「はい…僕も、今ならやれそうな気がします!」

「そう?ま、とにかく、お互い頑張ろうね!」

「「はい(ええ)!」」


私の言葉に、なるちゃんと海野くんが返事を返したその時、イベントスタッフさんがコンテストの開始を知らせた。


「さ、お手をどうぞ、お姫様…」

「あら、珍しい。いつもは黙って私の手を取るくせに…」

「たまにはいいだろ?」


そう言って微笑むはるかの手に、私は自分の手を重ね、はるかは私の手を握ると、ステージへと向かって歩き出した。



―――――



あれからステージへと上がった私達は、司会進行を務めるおじさんの、ハイテンションなMCを聞きながら、みちるの姿を探した。


「…お、いたいた。お団子頭達と一緒にいるな…」

「本当だ。私は参加する事教えてないし…なるちゃん達の応援かな?」

「夏希が参加する事教えてないんなら、まあ、そうだろうな…」


私とはるかがそんな会話を交わした所で、司会者が第1のゲームの開始を知らせた。それにより、カップルは女性陣と男性陣に分けられ、私達女性陣は、スタッフさんが用意したセットの裏側へと回され、適当な順番に並び変えられ、ハート型に抜き取られたパネルの穴から手を出すように支持された。


「初めのゲームはほんの小手調べ!穴から出た恋人の手を当ててもらおう!わかった人からどうぞー!」


司会者のこの言葉に、一番最初に動いたのははるかだった。そして迷わず穴から出た手を1つ選ぶと、その手を優しく取った。


「お、これは早い!!さあ、君の恋人の名前を呼んでみよう!」

「何だって?」

「え?い、いや…君の恋人の名前を教えてくれないかな…?」

「随分、低俗な事をやらせるんだな…」

「(もう、はるかったら……どうして男相手だと、いつもこうなのかしら…)」


そんなはるかの言葉に、私は頭を抱え、司会者は困ったような表情で、台本通りだから頼むと、小声ではるかに伝えた。


「…仕方ないな…夏希。」


はるかに名前を呼ばれた私は、扉のように開閉可能となっていたパネルを開き、パネルの後ろから移動し、はるかの隣へと立った。


「やったー!当たったー!!」


そう一生懸命コンテストを盛り上げようとする司会者の後ろで、私ははるかに小さく説教を漏らした。


「はるか、いくら男嫌いって言っても、もう少し優しくしてあげなきゃダメでしょ!あの人だって、このコンテストを盛り上げようと頑張ってるんだから…わかった?」

「…わかったよ。次は気を付ける…」

「よろしい!…でも…」

「ん?」

「1番に見付けてくれたの、嬉しかったよ…?」


私はそう言ってはるかに微笑んだ。そんな私を見て、はるかも笑みを漏らすと、私の手をそっと握った。

それから何事もなくコンテストは進み、二人三脚、カラオケ、達磨落とし、いろんなゲームを経て、ついにコンテスト最後のゲームへと移った。ちなみに、言うまでもないと思うが、どのゲームをやっても1番は私達2人だった。


「あー…つまんない。もっと面白いかと思ってたけど…誰も相手になる人いないし…」

「そうだな…。そろそろ、風も騒いで来たし…この辺で止めておくか…?」

「…そうね。はるかがちゃんと私を見てくれてる事も、一番最初のゲームでわかったし…」

「…満足した?」

「うん、満足!」


私ははるかの問い掛けに、笑顔を返した。その間にもコンテストは進行し、たった今最後のゲームの説明が終わった。


「まずはこの2人からだ!さあ、彼から彼女への告白だ!!」


司会者はそう言うと、はるかにマイクを向けて来た。そんな司会者にはるかは小さく笑みを零すと口を開いた。


「Show is over.」

「え…?」


はるかの言葉に、司会者は再び困ったような表情を見せた。


「ショーは終わったって言ったのさ。僕らは降りるよ…」

「え?いや、あの、しかし…」

「元々、遊びのつもりで参加したんだし、このままだと優勝してしまいそうだし、それに何より、僕の気持ちが真実だって言うのは、ちゃんと彼女に伝わったみたいだし…」

「私達にはもう、これ以上このコンテストに参加する意味なんてないの。それにこれ以上、遊んでる暇はなさそうだし…?」

「じゃ、そう言うわけで。行こう、夏希…」

「うん。それじゃ、頑張ってね!なるちゃん、海野くん!」


そう言うとはるかは私の腰に腕を回し、私は人一倍真剣に、このコンテストに取り組んでる2人のクラスメイトに応援の言葉を掛けると、静かにステージから降りた。



―――――



それから暫くして、コンテストの優勝者が決まった。コンテストの優勝者は、会場を感動の渦に巻き込んだ海野くんとなるちゃんのカップル。


「笑顔を守る為なら死ねる、か…。ゲームの出来は最悪だったけど、いい事言うな、あいつ…」

「そうね…。確かにゲームの出来は、お世辞にもよかったとは言えないけれど…でも彼、気持ちは1番だったわ…」

「あんなくだらないゲームにだって、全力で取り組んで…なるちゃんに誠意と気持ちを見せた今日の海野くん…。何かかっこよかったなー…」


私はモニュメントの前に立つ海野くんとなるちゃんを見ながら、そんな事をポツリと呟いた。そんな私の言葉に、はるかは少し拗ねたような顔を見せると、私を後ろから抱きしめた。


「…僕より、あいつの方がよかった…?」

「さあ?どうかな…?ま、でも、純粋で、真っ直ぐなるちゃんだけを見てる海野くんみたいな人、私は好きだよ?」


私は意地悪くそう言って、小さな嫉妬から拗ねるはるかを見て、私とみちるはクスクスと笑いを漏らした。


「……はるか。」

「………何…?」

「大好きだよ?はるかが1番、この世界の…ううん、この宇宙に存在する誰よりも、はるかが1番好き…」


私はそう言ってはるかの方に体を向けると、はるかの頬に両手を添え、そっとはるかに口付けた。それとほぼ同時に、会場を漂っていた妖気が最高潮に高まったと思ったら、会場中が妖しい光に包まれた。


「「!」」

「ダイモーン…!」


私はモニュメントの方へと体を向けると、ハートのモニュメントがダイモーンへと変わって行くのを自分の目で確認した。


「!モニュメントが…!って事は、今回のターゲットは…!」

「さっきの彼ね!」

「夏希、みちる!変身だ!」


はるかの言葉に私とみちるは頷くと、観客やスタッフがいなくなったのを確認して、木の陰に隠れると変身アイテムを取り出し、変身スペルを叫んだ。


「ウラヌス・プラネットパワー!メイクアップ!」

「ネプチューン・プラネットパワー!メイクアップ!」

「ブライトイノセンスパワー!メイクアップ!」


そして変身を終えた私達3人は、すぐに心の結晶を取りに向かった。


「「「お待ちなさい!」」」

「!何者ハート!?」


私達の声に、心の結晶に手を伸ばしていたダイモーンは、一旦その手を引っ込め、私達の方へと視線を向けた。


「新たな時代に誘われて、セーラーウラヌス!華麗に活躍!」

「同じく、セーラーネプチューン!優雅に活躍!」

「同じく、セーラーシャイン!優美に活躍!」


私達の登場に、カオリナイトは余裕の笑みを見せながら下りて来ると、ダイモーンに向かって命令を出した。


「ダイハート、この子達にもダンスのお相手を…」

「悪いけど、ダンスの相手なら間に合ってるわ!」


私はそう言うとロッドを取り出し、ダイモーンへと向けた。


「シャインフレイム・レイザー!」


私の放った技がダイモーンへと当たり、ダイモーンの幻に惑わされていた内部戦士達は、漸く幻から解放された。


「幻に惑わされている場合じゃないだろう!」

「は、はい…!」


ウラヌスその声に、セーラームーンが驚きの表情を見せつつも、そう返事を返した。その時、カオリナイトは笑いながら私達の前へと下りて来た。


「あなた達がいくら倒したって、ダイモーンの卵はまだまだ作り出せるのよ…」

「ならば、お前を倒す!」

「勝負を付けさせて頂きますわ!」

「覚悟しなさい!」


カオリナイトの言葉に、私達3人は構えを取った。しかし、私達が攻撃を仕掛ける前に、カオリナイトが私達に向かって雷を落として来た。私達は左右、後方へと飛び、何とかそれを避けた。


「私の相手をするのは10年早いわ…またね。」


カオリナイトはそう言い残すと、私達の前から姿を消した。


「くっそ…!」

「ウラヌス、ネプチューン、そんな事よりも心の結晶を!」


私の言葉に2人は頷くと、私達は心の結晶を確認しに向かった。



―――――



「海野!海野!!海野しっかりして…っ…海野…!!」


私達は泣きながら倒れた海野くんを支えているなるちゃんに近付くと、海野くんの心の結晶がタリスマンかどうかを調べた。


「…違うな、タリスマンじゃない…」

「…誰なの…?」


心の結晶を調べる私達を見上げ、なるちゃんはそう問い掛けて来た。そんななるちゃんに、私達は微笑むと、海野くんにそっと心の結晶を返した。


「もう、大丈夫。直に目覚めるわ…」

「!本当!?」

「ええ…大事にしてあげてね?」


そう言うと、私達はなるちゃんと海野くんからセーラームーン達に視線を向けた。


「セーラームーン!」

「後始末は任せたぞ!」

「御機嫌よう。」


そう言い残し、私達は彼女達の前から立ち去った。そして木の陰に隠れ、変身を解いた私達は、誰にも見付からないように、静かに公園を後にし、私達は近くの喫茶店へと入った。

喫茶店に入った私達は、店員さんの案内で席へと座った。私の左隣にはるか、そしてテーブルを挟んだ私の向かい側の席にみちるが座った。


「夏希、お腹空いたでしょ?何か食べる?御馳走するわよ?」

「本当!?えっとね、それじゃー…」


私とみちるが喫茶店のメニューを見ながら、そんな事を話していると、今まで黙っていたはるかが突然口を開いた。


「…夏希。」

「ん?何…?」

「…さっき言った事、本当か?」

「?さっき言った事って…どの事?」

「宇宙一、僕が好きだってやつ…」

「!そ、それは…その…は、はるかの機嫌を、直す為に…」


私ははるかの言葉に、顔を真っ赤に染め上げ、吃りながらそう答えた。しかし、私の誤魔化しなんて、はるかやみちるに通用するはずなんてなくて、はるかとみちるは私の反応を見るなり、クスクスと笑いを零した。


「…そっか。それなら、その作戦は大成功だったな。」

「はるか、よかったわね。」

「あぁ…最高だよ。」

「ちょっ!だから、あれはただはるかの機嫌を直す為だけに…!」

「はいはい。」

「わかったよ。夏希の気持ちは、充分にね…」

「っ…もう!はるか、みちる!」


未だに誤魔化そうと必死になる私に、小さく笑みを浮かべたままそう言う2人に、私は恥ずかしさから赤かった顔を更に赤く染めた。
to be continued...
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