月の憧れ(2/2)
あの後、車で迎えに来てくれていたはるかのおかげで、私達は思っていたよりも早く会場に着く事が出来た。


「よかった…間に合って…」

「車で来て正解だったな。」

「ふふ…そうね…」


私達は指定された2階席に着き、そんな会話をしながら、開演の時を待った。


「あ、そう言えば、うさぎ達来てるかな?」

「さあ…探してみるか。」


はるかの言葉に、私達3人はオペラグラスを取り出すと、下の客席を覗き込み、うさぎ達の姿を探した。


「お、いた。へー…結構いい男じゃん。」

「えー…どこ?」

「ほら、ここだ…」


そう言うとはるかは、私を抱き寄せ、膝の上に座らせると、自分のオペラグラスを覗かせた。


「あ、本当だ。いた!」

「いいわね、若い人は…」

「…おい、年寄り臭いぜ、そりゃ。」

「あら、そう?」

「そうだよ…」


そう言うとはるか達はオペラグラスを仕舞い、ステージの方へと向き直った。私も自分の席に戻ろうと、立ち上がろうとするが、はるかにガッチリ腰をホールドされてしまい、私は動く事が出来なくなってしまった。


「……はるか…これじゃ私、自分の席に戻れないんだけど…」

「いいじゃないか、別に…。それとも、僕の膝の上じゃ不満か?」

「そう言うわけじゃないけど……誰かに見られたら、恥ずかしいじゃない…」

「大丈夫だよ。もうすぐ会場の電気も消えて、演奏も始まる。そしたら、誰もこっちなんて見ないさ…」


そう言ってはるかは、更に抱きしめる力を強めた。


「もう…!強引なんだから…」

「強引にされるの、嫌いじゃないくせに…」


そう言うとはるかは私の項にそっと口付けた。


「ひゃっ…もう、はるか!」

「しっ!演奏が始まるわ…」


私はみちるの言葉に、はるかに言おうとした言葉を呑み込んだ。そしてムスッとした様子の私を見て、はるかは小さく笑いを零した。

それから間もなく演奏が始まり、会場の中は、素敵なヴァイオリンの音色に包まれた。しかしその一方で、演奏が進むに連れ、会場を包んでいた妖気が増して行くのを感じた。


「……はるか、みちる…」

「ええ、感じているわ…」

「…風が騒ぎ出した。どうやら、ゆっくり演奏を聴いている暇はなさそうだな…」

「そうね…残念だけれど…」


みちるがそう呟いたその時、ヴァイオリンが奇怪な音を出しながら、持ち主の手を離れるとダイモーンへと姿を変えた。


「はるか、みちる!変身よ!」

「全く…少しくらい、ゆっくりさせて欲しいものだな…!ウラヌス・プラネットパワー!メイクアップ!」

「ネプチューン・プラネットパワー!メイクアップ!」

「ブライトイノセンスパワー!メイクアップ!」


そして変身を終えた私達は、ピュアな心を奪い、外へと逃げた敵を追って、会場の外へと出た。



―――――



「スパークリング・ワイドプレッシャー!」


私達が身を隠しながら外に出ると、ジュピターがちょうどダイモーンに向かって技を放った所だった。しかし、ダイモーンはジュピターの技を簡単に避け、ダイモーンに当たる事のなかった彼女の技は建物に当たり、入り口を一部破壊してしまった。


「おいおい…」

「あれじゃ、会場の中にいる人達も危険だわ。」

「そうね…ダイモーンの始末は任せようと思ってたけど………フレイム・バースト!」


私はそう叫ぶと、敵に向かって技を放った。それは見事ダイモーンへと当たり、ダイモーンは地面へと倒れた。


「!あなた達…!」


そしてその技に、私達の存在に気付いた内部太陽系のセーラー戦士は、私達の方へと視線を向けた。


「新たな時代に誘われて、セーラーウラヌス!華麗に活躍!」

「同じく、セーラーネプチューン!優雅に活躍」

「同じくセーラーシャイン!優美に活躍!」

「ウラヌス、ネプチューン、シャイン!君達は一体…!」


私達の姿を捉えた地球国のプリンスが、私達にそう問い掛けて来た。


「おっと、無用な詮索は遠慮して欲しいな。」

「私達の目的は、タリスマンを探し出す事…」

「それ以外は、関わりのない事よ。」


この私の言葉に、内部系セーラー戦士達は私達を睨むように見つめた。


「関わりがないですって…!?」

「ふん…味方かと思ったけど、どうやらかなりの分からず屋らしいな…!」


私達はそんな睨むように見つめる彼女達をただじっと、感情を完全に隠した表情で見つめ返した。


「!危ない!」

「!!」


その時、そんなセーラームーンの声と共に、ダイモーンが私へと向かって攻撃を放って来た。突然の事に対応しきれなかった私を、セーラームーンが庇ってくれた。


「っ……ありがとう、セーラームーン。」

「あ…どう、いたしまして…」


私は庇ってくれた彼女に微笑んでお礼を言うと、彼女もまた少し照れたような表情を見せ、そう言った。


「…本当は、同じプリンセス同士、あなたと仲良くしたいんだけど…」

「え…?」

「ううん…何でもない……」

「「シャイン!!」」


私がそう言って立ち上がった時、ダイモーンへと放った技が当たったのを確認したウラヌスとネプチューンは、すぐに私の元へと駆け寄って来た。


「シャイン!怪我はないか…!?」

「うん、セーラームーンが庇ってくれたから平気。」

「よかった……彼女を庇ってくれてありがとう、セーラームーン…」

「どういたしまして!シャインに怪我がなくて、本当によかった…!」


ネプチューンの言葉に、セーラームーンはそう言うと微笑んだ。


「シャイン、敵が怯んでる今の内に…!」

「うん!」


ウラヌスの言葉に頷いた私は、ダイモーンの前へと移動すると、ロッドを取り出し、浄化技を放った。


「シャイン・ハート・キュア・エイド!」

「ぅあぁああああ!ラブリぃいいい!!」


私の放った浄化技を食らったダイモーンは、元のヴァイオリンの姿へと戻り、寄生していたダイモーンの卵は2つに割れた。そして私はピュアな心を手に取ると、ウラヌス達の元へと向かった。


「ウラヌス、ネプチューン…」

「…違う、タリスマンじゃないわ…」

「また無駄足だったな…」

「ウラヌス!ネプチューン!シャイン!」

「あんた達、何者なんだ…!」

「タリスマンって、一体…!」


少し離れた場所から、私達に向かってそう問い掛けて来た内部太陽系戦士達に、私達は視線を向けると、小さく笑みを浮かべ、彼女達の質問に答えた。


「それほど私達の事、タリスマンの事を知りたければ…」

「自分の力で、探り出す事だな。」


そう言い残し、私達3人は彼女達の前から姿を消した。



―――――



それから私達は、持ち主に心の結晶を返すと、変身を解き、誰にも怪しまれないように、自分達の席へと戻った。しかし、結局あの後リサイタルは中止となり、私達は夜の街を3人並んで歩いていた。


「残念…。素敵な演奏だったのに…」

「そうね…」

「……まだ少し時間は早いが、気晴らしに夜の海にでもドライブに行くか?」


リサイタルが中止になって、少ししょんぼりしてた私に、はるかはそう提案した。


「うん!行きたい!みちるも一緒に行くよね?」

「ええ…」

「やった!あ、そうだ!みちる、演奏会、最後まで聴けなかった代わりって言ったらなんだけど…みちるのヴァイオリン、聴かせてくれない…?」


私は隣を歩くみちるの顔を見つめ、首を傾げた。そんな私に、みちるは小さく笑みを零すと、了承の言葉を口にした。


「…いいわよ。それじゃ、一度ヴァイオリンを取りに戻りましょ?それから、海までドライブに行って…」

「どこかレストランにでも入って、久しぶりに3人で食事でもしよう…」

「うん!」


私は、はるかとみちるの言葉に笑顔を見せると、2人の腕を取り、自分の腕と絡めた。


「2人とも、だーい好き!」
to be continued...
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