想いが重なるとき
あの日から早、一週間程経った。うさぎちゃん達と一緒に過ごせば過ごすだけ、ビジョンはより鮮明に、長く見えるようになった。それが何なのかは、今でもわからない。でも、不思議と怖いとは思わない。むしろ、懐かしいとさえ思う…

そしてここ数日、同じ夢を見る。どこかの国、大きなお城のすぐ近くにある花畑で、ドレスを着た私を優しく抱きしめ、そっと耳元で愛を囁く人の夢。でも、それが誰だかはわからない。私は、この人物をよく知っているはずなのに、何も思い出せない…

その人に対して、こんなにも愛おしい気持ちが溢れているのに、顔も、名前すらも思い出せない…

どうしてなの…?

そんな事をぼーっと考えてたら、突然うさぎちゃんが目の前に現れて驚いた。


「夏希ちゃーん?」

「わっ!うさぎちゃん…どうしたの?」

「どったの?ぼーっとして…」

「ううん、ちょっと考え事してただけ。それより何かあったんじゃないの?」

「あのね、今日の放課後なんだけど、夏希ちゃんお仕事ある?」

「ううん、今日は一日オフだよ?」


私がそう言うとうさぎちゃんはとても嬉しそうな顔で笑った。こう言ううさぎちゃんを見ると、心がとっても温かくなる。


「ホント!?じゃあさ、じゃあさ、今日の放課後一緒にクラウン行かない?」

「クラウンって喫茶店の…?それともゲームセンターの方?」

「喫茶店の方!あそこのケーキ、すっごく美味しいんだよ〜」

「へぇ〜、そうなんだ…それは食べてみたいかも!うん、一緒に行くよ!」

「やった!じゃあ、また後でね!」

「うん、後でね!」


うさぎちゃんは上機嫌で自分の席に戻って行った。うさぎちゃんは本当に純粋で、可愛い女の子だと思う。もちろん、亜美ちゃんや、まこちゃん、美奈子ちゃんだってそうだ。皆とても綺麗な夢と心を持ってると思う。羨ましいくらい、彼女達が輝いて見えた。

そんな彼女達を微笑ましく見ていると、突然知らない女の子に声を掛けられた。


「あ、あの、Erikaちゃん…」

「?はい…?」


私が振り向くと、何人かのファンと思われる女の子がいた。その中の1人が頬を赤く染め、何やらもじもじしている。


「どうしたの?私に用事?」
「…あ、あの…!お、お弁当、Erikaちゃんに作って来たんですけど……よかったら、その…受け取って、貰えませんか…?」

「え…?私の為に、わざわざ作ってくれたの…?」

「は、はい…!」


余程緊張しているのか、お弁当を持ったその子の手は震えていた。それを見て、私は小さく笑い女の子が作ってくれたお弁当を受けり、感謝の意も込めて手を握った。


「ありがとう、大切に食べるよ。これからも応援してね?」

「は、はい!」


私のお弁当を渡した女の子は、一緒に来ていた女の子達を引き連れ、キャーキャー言いながら嬉しそうに去って行った。

その後、今のやりとりを見ていたらしい美奈子ちゃんが「女の子まで虜にするなんて、夏希ちゃんは魔性の女ね」とわけのわからない事を言っていた。

それから暫くし、放課後になった。帰りのHRを終えた私達は、うさぎちゃん達と一緒にクラウンへと向かった。ちなみに女の子からもらったお弁当は、自分のお弁当と一緒にお昼に美味しく頂きました。一緒にお弁当を食べていたうさぎちゃん以外の全員が、驚いた顔してたのは、敢えてスルーしよう。

クラウンに着き、いつもうさぎちゃん達が座ってるらしい席に行くと、綺麗な黒髪の女の子が座っていた。


「やっほー!」

「お待たせ、レイちゃん」

「遅れてごめんね、今日あたし掃除当番なの忘れててさ…」


上から順に美奈子、亜美、まことが話す。


「気にしないで?私も今来たところだから。夏希も久し振り!…って、記憶ないんだっけ…」


レイはそう言うなり、眉を下げ、苦笑を漏らした。そんな彼女の表情を見て、私は申し訳なさに襲われた。


「…ごめんなさい。自分の名前と、どうやって生きて来たかは何となく覚えてるんだけど……ここ最近…具体的に言えば、2、3年前からの記憶がないの…」

「そうなの……あ、私は火野レイ。改めてよろしくね、夏希。」

「うん!よろしく!」


私は差し出されたレイちゃんを握った。その瞬間、レイちゃんからも、うさぎちゃんや亜美ちゃん、まこちゃん、美奈子ちゃんから感じた、何か特別な力を感じた。


「(何だろう…レイちゃんからも、何か特別な力を感じる…)」

「?どうかした?」

「あ、ううん!うさぎちゃんの友達って、皆可愛い子だなーって思って…レイちゃんも美人さんだから、まじまじと見ちゃった。ごめんね?まじまじ見られるなんて、あんまりいい気しないよね…」

「大丈夫、気にしてないから。それより、一緒にケーキ食べて、美味しいお茶飲んで、楽しく過ごしましょ?」

「うん!」


それから私は、レイちゃんの隣に腰を下ろし、お茶やケーキと一緒に談笑を楽しんだ。うさぎちゃんの行ってた通り、ここのケーキは本当に美味しかった。
その後、皆と一緒に喫茶店の下にあるゲームセンターに行ったり、ウインドーショッピングをしたりと、普通の女子高生らしく遊んだ。


「(久しぶりだな、こういうの…)」


最近は仕事とレッスンばっかで、学校帰りにこんな風に、友達と一緒に遊んだ事なんて無かった。まぁ、仕事は嫌いじゃないからいいんだけど…


「暗くなって来たわね…」

「そうだね…この時期の夜はまだ冷えるし、そろそろ帰ろっか?」

「そうね…風邪引いたら大変だし。」

「そうね、夏希はうさぎとは違って、風邪引くかもしれないものね〜。」

「ちょっとレイちゃん、それどう言う意味!?」

「そのまんまの意味よ!ベー!!」

「むっきー!!レイちゃんの意地悪!!!!」

「あんたがバカなのがいけないんでしょ!」

「何をーっ!?」

「まあまあ、二人とも…」

「あはは…(また始まったよ…ほんと、いつもいつも飽きずによく…)」


そこで私は気付いた。いつも…?また始まった?おかしい…今日は今の今まで、レイちゃんとうさぎちゃんは言い合いなんかしてない。


「(私、何であんな事……無意識に、一瞬だけど、記憶が呼び起こされた…?)」


黙り込んだ私を不思議に思ったのか、亜美ちゃんが声を掛ける。


「夏希ちゃん?どうかした?」

「あ…ううん、何でもないの。気にしないで?」

「本当?何かあったらいつでも言ってくれていいのよ?」

「うん、ありがと亜美ちゃん…ごめん、私先に帰るね?バイバイ、また明日!」


そう皆に言って、私はうさぎちゃん達の元から走り去った。



―――――

うさぎちゃん達と別れ、私は無我夢中で走った。


「(私は何故、2人の言い合いをいつもの事だと思った?うさぎちゃん達といるといつも見えるビジョンは何?夢の中の私を抱きしめるあなたは、一体誰なの?私は一体何を忘れているの?とても大事な事なはずなのに、私の失われた記憶を、他の人にはない…うさぎちゃん達と関わる事で色々感じる事はあったのに、何で何も思い出せないの…!?)」


それから暫く走って、気が付けば風音さんと出逢った公園まで来ていた。私は近くのベンチに座り、一つ一つ考え始めた。


「(太陽と月、二大国家、2人のプリンセス、そのプリンセス達を守る7人の戦士、闇、沈黙、3つの鍵、聖杯、光と陰、そして愛しげに私をエリカと呼ぶ優しい声……私は一体、何を忘れているの…?)」


この時、私は深く考え込んでいたせいで、直ぐそこにいる敵の気配に気付く事が出来なかった。


「キィイイイイ!」

「!危ない!!」

「え?」


その声とほぼ同時に、金髪の男性が化け物から私を庇ってくれた。そして金髪の男性は、私をベンチの陰に隠しポケットから何かを取り出すと、それを掲げて叫んだ。


「ウラヌス・クリスタルパワー!メイクアップ!」


彼は私の目の前で変身した。外部太陽系、天空の星、天王星を守護に持つ飛翔の戦士、セーラーウラヌスに…

そのウラヌスは、私を守る為、1人で戦っている。

そんなウラヌスの変身を目の前で見て、彼の声を聞いて、“はるか”に触れて、何もかも、全てを思い出した。


「私……」

私は、太陽王国のシャイン・モナルのプリンセス、プリンセスエリカ。そして、太陽とこの太陽系を守護する使命を持つ、太陽系最強の戦士、セーラーシャイン…!

私は立ち上がり、変身アイテムであるブレスレットの付いた左手を空に掲げ叫ぶ。


「ブライトイノセンスパワー!メイクアップ!」

「!やっぱり、彼女は…」

「業火と光の戦士、セーラーシャイン!黄泉の国から、只今復活!!」

「シャイン……」

「ただいま、ウラヌス」


私はウラヌスに一度微笑むと、すぐに敵に攻撃を仕掛ける。


「フレイム・バースト!」


炎の光球が敵に当たり爆発する。しかし、敵は再び現れた。しかも数まで増えた。


「普通の攻撃じゃダメだ!奴等を倒す方法は浄化するしかない!」

「わかった!それなら…」


私はロッドを取り出し、敵に向けた。


「シャイン・ハート・キュア・エイド!」


ロッドから出た光で一匹残らず敵を浄化した。


「「「キィイイイイ」」」


浄化を終えると、私は変身を解いて地面に膝を着いた。それを見たウラヌスも変身を解き、私の方へと駆け寄って来た。


「夏希!!」

「えへへ…久しぶりだから、ちょっと疲れちゃった…」


そう言った私を、はるかは強く、強く、抱きしめてくれた。


「会いたかった…」

「うん、私も…」

「おかえり、夏希…」

「ただいま、はるか…」


そう言って私ははるかの胸に顔を埋めた。久しぶりのはるかの匂いに安心したのか、私はそのままはるかの腕の中で眠った。
to be continued...
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