記憶ノカケラ
あれから、私は授業に集中出来なくて、頬杖をついてずっと外を眺めてた。あの子達は何なのか、昔自分とは何かしらの関係があったのか、そんな疑問で頭の中はいっぱいだった。

暫くして授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響き、一時限目の授業が終わりを告げた。休み時間になると、私の周りには再び女の子達が集まってきて、仕事に関しての事や、私自身についての質問攻めにあっていた。

正直な所、そんな事に答える気分じゃないけど、もっと皆に私の事を知って欲しいと言う思いもあるから、一つ一つ丁寧に答えていた。

暫くしてチャイムが鳴り、二時限目の授業が開始される。私は漸く質問の嵐から開放され、小さく息を吐いた。


「(取材陣よりもすごかった…ちょっと疲れちゃったな…)」


そうして再び窓の外に目を向ける。雲一つない晴れ渡った空に浮かぶ太陽の光、見ていてとても気持ちがいい。幸い、授業内容は中学の時の延長線で、自分でも勉強していた範囲だったので、私はずっと青い空と、太陽を眺めていた。


「(暖かい…太陽見てると、優しい、穏やかな気持ちになる…)」


外を眺めてぼーっとしてると、先生に問題を解くように指名された私は、前に出てすらすらと問題を解いた。


「正解よ、素晴らしいわ」

「ありがとうございます。(授業聞かなくても、これくらい解けなきゃアイドルなんてやってないわよ…)」


そんな事を思いながら、自分の席に戻ると、私は真っ白だったページにすらすらとペンを走らせた。


「(こういう先生って、絶対抜き打ちで授業を聞いてるか確認する為に、ノート回収してチェックするのよね…)」


そんな事を思いながらノートにペンを走らせてる内に、私の中のモヤモヤは少しだけ薄れていった。

そして授業が終わり、担当の先生がノートを回収する。やっぱりね、と思いつつも自分の列のノートを回収して先生に渡すと先生はノートを持って教室を出て行った。

この時、私の周りには誰もいない。これをチャンスと思ったのか、お団子頭の女の子が話し掛けて来た。


「夏希ちゃん!今までどうしてたの!?大丈夫だった!?」

「え…?あの…一体、何の事…?あなた、私の事知ってるの…?」

「え…?」

「ごめんなさい…私、自分の名前や生まれた場所とか、そう言った事はわかるんだけど、2、3年前からここ最近までの事、何も覚えてないの…。だから、あなたが誰かとか、私とどう言う関係だったのかとか、何もわからないの…」

「そう、なんだ…」

「本当にごめんなさい…」

「あ…ううん!それじゃあ、改めて自己紹介するね!あたし、月野うさぎ!夏希ちゃんとは、中学の時同じクラスでお友達だったの!気軽にうさぎって呼んで?」

「…ありがとう、うさぎちゃん。これからよろしくね?」

「うん!」


そう言って差し出された彼女の手を取った瞬間、頭の中にビジョンが流れて来た。手を握ったまま固まってしまった私を心配に思ったらしく、月野さんが声を掛ける。


「!(何、今の…)」

「夏希ちゃん?どこか具合でも悪い…?」

「あ…ううん、大丈夫!気にしないで?」


私が咄嗟にその場を誤魔化したその時、ポケットの中の携帯が着信を知らせる。


「あ、ごめん…電話掛かって来たみたい…」

「ううん、気にしないで!また後で話そう!」

「ありがとう!」


そう言い残し、私はうさぎちゃんから離れ、廊下に出るとすぐに電話に出た。着信の相手は風音さん。私の事が心配で仕方ないらしい。ちゃんと友達は出来たかとか、クラスには馴染めたかなどいろいろ聞かれた。

風音さんと会ってまだそんなに時間は経ってないけど、まるで風音さんは本当のお母さん兼お姉ちゃんみたいな人だなって思った。

その一方では…


「うさぎちゃん、どうだった?」

「…夏希ちゃん、ここ暫くの記憶がないんだって…」

「「「!?」」」

「自分の名前とか、追い立ちとかは覚えてるみたいなんだけど…戦士だった事も、あたし達の事も、あの時、自分がどうなったのかとかも、何も覚えてないみたい…」

「そう…」

「……でも彼女は、あの夏希ちゃんで間違いなのよね?」

「それは間違いないと思う。夏希ちゃんがいつもしてたブレスレットしてたし、夏希ちゃんと同じ輝きを感じた…」

「…何かの拍子に記憶が戻るかもしれない。もう少し、様子を見ようよ」

「そうね…」


まことの言葉に、亜美、美奈子の2人が頷き、会話は一旦そこで終わった。


「(…夏希ちゃん……)」


それから4人は、廊下で風音と電話をしている夏希の後ろ姿をじっと、切なげに見つめた。



―――――



電話を終えたタイミングでちょうど休み時間も終わり、私は急いで教室に戻ると、次の授業の準備を始めた。


「(さっき見えたの、何だったんだろう……あんなの知らないはずなのに、他人事じゃないような…実際にあった事のような気がする…)」


授業が始まっても尚、私は先程見えたビジョンについて考えていた。


「(3つの神器…聖杯…心の結晶…月の戦士と、太陽の戦士…邪悪な影…沈黙……全部知ってる気がするのに、何も思い出せない…っ……私は一体、何者なの……!)」


それから1時間。たまにノートを取りつつも、ビジョンについて、そして自分は何者なのかについて、私はただひたすら考えていた。
to be continued...
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