約束の日
季節は冬。混沌との戦いが終わって、早くも1年と少しの時が流れた。外には雪がちらつき、街は薄っすらと雪化粧。そんな、冷え込みの強い1月のある日…


「そう言えば夏希ちゃん、もうプレゼント決めたの?明日なんでしょ?はるかさんの誕生日。」


今年も同じクラスになったうさぎが、休み時間の教室で、私にそんな事を問い掛けて来た。それに私は、苦笑を漏らしながら答える。


「それが、まだ……仕事が忙しくて、買いに行くどころか、見に行く暇すらなくて…」


そう、私は混沌との戦いが終わってから、再びアイドル業を再開した。しかし、復帰してからと言うもの、あちこちの番組にゲストとして呼ばれ、新曲と延期になっていたアルバムの発売だ、やれ新しいドラマの撮影だって…ありがたい事なんだけど、忙しくて大変な毎日を送っていた。そんな私の言葉に、うさぎは驚き、更に疑問を投げ掛ける。


「えぇ!?それじゃ、はるかさんへのプレゼントはどうするの!?」

「プレゼントは今日の放課後、買いに行こうかなって思ってる。昨日風音さんが、どうせプレゼント用意してないんでしょ?明日と明後日オフあげるから、ゆっくりしなさいって言ってくれて…」

「へぇー…そっか!風音さんが理解ある、優しい人でよかったね!」

「うん!」


うさぎの言葉に、私は微笑み、頷いた。


「プレゼント、見付かるといいなー…」

「もう、どんなのがいいか決めてるの?」

「全然!何もいい案浮かばなくて…。…うーん……何がいいかなー…アクセサリー…は、あんまり付けないし、香水って言うのも何か違う気がするし…」

「んー……あ、じゃあ時計なんかは?」


悩んでいた私に、うさぎが提案する。そんなうさぎの提案に、私は首を傾げた。


「時計?」

「うん!腕時計!アクセサリーだけど、腕時計ははるかさんいつも身に付けてるでしょ?」

「あ、本当だ…。…そっか、時計か……でも、腕時計買う時って、どこ行けばいいの?」

「えっ…?…う、うーん………と、時計屋さん…とか?」

「時計屋って……この辺にあったっけ…?」

「うっ………ない…」

「んー……あ、宝石店とか、ブランドの専門店とかみたらいいのかな?」

「宝石…ブランド……?」


私の言葉に、うさぎは目を点にして固まった。


「うさぎ?何固まってんの?」

「え?あ、いや、その〜…あたしみたいな一般庶民の世界とは、感覚が違うなーって…」

「え…?じゃあ、うさぎ達は、いつもどこでプレゼント買ってるの?」

「うーん……あたしは、バラエティーショップとか、雑貨屋さんとかが多いかなー…」

「バラエティーショップねー…お店の前を通った事はあるけど、行った事ないから、どんな所か全然わかんないや…」


私は苦笑しながらうさぎにそう告げた。


「それじゃ、今度一緒に行こうよ!いろんな物が、いっぱいあるんだよ?」

「うん!約束ね!」

「うん!」


そう言って私達は小指を絡め、指切りをすると笑い合った。



―――――



それから暫く時が経ち、放課後を迎えた私は、早速はるかに似合う腕時計を探しに、街へと繰り出した。ちなみに、今日ははるかもみちるも、各々の仕事があって学校を休んでいた。


「寂しい1日だったけど、プレゼント買いに行くには持って来いの日ね…。さてと、とりあえず宝石店にでも行ってみようかな…!」


目的地を決めた私は、ここから一番近い宝石店へと向かって足を進めた。


「いらっしゃいませ。」


暫くして宝石店へと着いた私は、店内へと入った。上にコートを着ているとは言え、制服姿の女子高生が宝石店にいると言う異様な光景に、店に宝石を見に来ていた人達は、その目を疑うような目で、私を見て来た。


「(うーん…どれがいいかなー…)」


私は時計売り場の前に立ち、はるかに似合いそうな時計を物色し始めた。


「いらっしゃいませ。本日は、どのような時計をお探しですか?」

「誕生日プレゼントに、彼にあげる時計なんですけど…」

「それでしたら、こちらの時計なんていかがでしょう…?人気ブランドの最新モデルで、売れ行きもトップクラスの、人気の商品なんですよ。」


そう言って店員さんは、ガラス越しに時計を差し、私にその時計を薦める。


「うーん…確かに、デザインは素敵だけど、彼のイメージとは、ちょっと…」

「でしたら、こちらはいかがですか?先程のデザインに比べて、よりクールな印象を与えるデザインになっていて、文字盤も見やすく、軽いと言う事で、こちらも大変人気な商品なんですが…」


私は店員さんに薦められた時計をまじまじと見つめた。


「んー……これもちょっと……」


そう言って、時計から目を外し、別の時計を見ようと顔を上げたその時、私の目に、ある1つの時計が目に入った。


「!…これ…」

「こちらの時計ですか?こちらの時計は、神話を元に、星をイメージして創られた物で…文字盤には太陽系の星々と、それを守る2つの光が12と6の対極の位置に刻まれているんです。値段も、他のブランドの物に比べたら手頃な値段ですし、一点物なので、お薦めの商品ですよ。」


店員さんの説明を聞きながら、私はじっとその時計を見つめた。


「(…この時計、私達みたい…プリンセスと、プリンセスを守る戦士達…)」

「こちらの商品になさいますか?」


時計をじっと見つめたままの私に、店員さんは微笑みながら、そう問い掛けて来た。


「…はい、これにします。」

「かしこまりました。」


私が店員さんにそう言うと、店員さんは再び微笑み、その時計をケースから取り出した。


「誕生日の贈り物でよろしかったですか?」

「はい、誕生日の贈り物で…」

「では、カードを一緒に添えるサービスも行っておりますが、どうなさいますか?」

「あ、お願いします。」

「かしこまりました。では、こちらの中から、お好きなカードを選んで頂いて、メッセージを書いてもらってもよろしいでしょうか?」


そう言うと店員さんは、カードの見本を取り出し、私の前に出した。


「えっと……それじゃ、このカードで!」

「こちらのカードですね?少々お待ち下さい。」


店員さんはそう言うと見本を仕舞い、ガラスケースの下の戸棚から、私が指定したカードを出すと、ペンと一緒に私に渡してくれた。


「では、メッセージの方をお願いします。こちらの商品は、只今お包みして持って参りますので、少々お待ちいただけますか?」

「はい、わかりました。」


私の言葉に、店員さんは店の奥へと入って行った。私はその隙に、はるかへのメッセージをカードに書き、ペンのインクが乾いたのを確認すると、カードを半分に折った。

それから暫くして、包装を終えた時計を持った店員さんが戻って来て、私の書いたカードをリボンの間へと挟み、時計を渡してくれた。その後会計を済ませ、私は宝石店を後にした。



―――――



そして翌日、1月27日土曜日。今日は休日で、はるかの18歳の誕生日だ。


「……んん…っ…」


私はカーテンの隙間から覗く光に、閉じていた目をゆっくりと覚ました。時間を確認すると、いつも起きる時間より、2時間近く遅い時間だった。


「(…8時過ぎてる…。昨日遅くまで起きてたからなー……)」


私は体を起こすと、1つ欠伸を漏らし、部屋の中の冷えた空気に体を小さく震わせた。


「寒っ…!暖房暖房…」


私はベッドからそっと抜け出すと、カーディガンを羽織り、家中の暖房のスイッチを押し、顔を洗いに洗面所へと向かった。

私が顔を洗い終え、洗面所から寝室へと戻って来ると、点いたばかりとは言え、暖房のおかげか、先程よりは、幾分か部屋の中が温かかった。


「はぁ〜…寒々…」


私は暖房の前にしゃがむと、冷えた手を暖房の温風で温めた。暫く温め、だいぶ冷たさも改善して来た所で、私はパジャマから服へと着替える為に立ち上がった。


「(えっと、今日は…)」


はるかを起こさないように静かに服を選んだ私は、寒いからと素早く着替えを済ませた。そこで再び時間を確認し、時計の針が8時半を過ぎているのを見て、私ははるかの眠るベッドへと近付いた。


「はるか…はるか起きて?もう8時半過ぎてるよ?」

「ん…っ…もう、そんな時間か…?」


そう言ってはるかは、寝起き特有の少し掠れた声を漏らした。そんなはるかに、私はそっと口付け、微笑んだ。


「うん。もう、そんな時間…起きて顔洗って来て?私はその間に、朝ご飯作るから。」

「わかった…」


はるかは私の言葉に頷くと、体を起こし、一度背筋を伸ばすとベッドから出た。そして、顔を洗いに行くのかと思いきや、朝食を作りに行こうとしていた私を後ろから抱きしめ、私の肩に頭を乗せて来た。


「……今年は、一番最初には言ってくれないのか?」

「一番最初に言って欲しい…?」

「もちろん…。愛する君に、一番に祝って欲しい…」


はるかの言葉に、私は小さく笑みを零すと、はるかの方へと向き直り、彼の首へと腕を回すとじっとはるかを見つめ、言った。


「誕生日おめでとう、はるか。大好き…」

「ありがとう、夏希…。僕も大好きだ…愛してる。」


そう言って私達は、数秒見つめ合い、そっと口付けを交わした。


「ん…っ……早く顔洗って着替えて来て?ご飯食べたら、デート行こ?久しぶりに、2人の休日が重なったんだし……ダメ…?」

「ダメじゃない…嬉しいよ。夏希からデートに誘ってもらえるなんてね…」


はるかは私の頬にキスを1つ落とし、優しい微笑みを残すと、顔を洗いに洗面所へと向かった。それに続き、私も朝食を作りにキッチンへと向かった。



―――――



あれから私達は2人で朝食を取り、出掛ける準備を済ませると、2人で家を出て、目的地も決めず、気の向くまま車を走らせた。

それから買い物をしたり、ゲームセンターに行ったり、水族館と冬の遊園地に行ってみたり…私達はいろんな所へ行き、そしていっぱい遊んだ。そして時刻は夜6時。私達が今いる場所は、最後に来ていた遊園地の観覧車の中。もうすぐ、私達が乗っているゴンドラも、ちょうど天辺へと到達する。


「…綺麗……街の光が、宇宙に広がる星々みたい…」

「そうだな…」

「あ、そうだ…はい、これ。私からの誕生日プレゼント。」


私は持っていた鞄の中から、昨日買ったプレゼントを出すと、はるかへと渡した。


「何かな……開けていい?」

「うん!」


私の了承を得たはるかは、早速プレゼントの包装を解き、箱を開けた。


「時計…?」

「そう。…それね、太陽系の星々と、それを守る2つの光が刻まれてるんだって。何だか私達みたいでしょ?」

「そうだな……で、こっちはメッセージカードか…」


カードを開き、そこに書いてある文を読もうとしたはるかを、私は慌てて止めた。


「そ、それはまだダメ!私が見てない時に読んで!」

「どうして?」

「だって…何だか、恥ずかしいから…」


そんな私に、はるかはクスッと笑いを零すと、メッセージカードをポケットの中へと仕舞った。


「わかった…。これはまた後で読む事にするよ……ありがとう、夏希。」


そして笑顔でお礼を言うはるかに、私は少し照れながらも微笑み、言葉を返した。


「どういたしまして……あ、もうすぐ天辺に着くよ?」

「…夏希。」

「ん?何…?」


私の言葉を聞いたはるかは私を呼び、外へと目を向けていた私は、はるかの方へと顔を向けた。するとそこには、いつになく真剣な表情のはるかが、じっと私を見つめていた。


「…一昨年の夏希の誕生日の夜の事、覚えてるか…?」

「うん、覚えてるよ…?忘れろって言われたって、絶対に忘れない。私の、絶対に忘れられない…忘れたくない、大切な想い出の1つだもの…」

「…それじゃあ、あの夜、僕が君に約束した事、覚えてる…?」

「…18になったら、プロポーズするってやつ…?」

「そう。そのプロポーズするってやつ…」


そう言ってはるかはふわっと微笑むと、優しく私の手を取り、再び真剣な表情に戻すと、ゆっくりと口を開いた。


「…今日で、僕は18になったわけだ…。だから、あの時の約束を果たしたい…」

「はるか…」

「本当は、もっとロマンチックに、クサイ台詞とか言うべきなんだろうけど、ストレートに言うよ…」


はるかのその言葉に、私もはるかも緊張した面持ちで、互いを見つめ合った。


「僕と、結婚して欲しい。」

「!…っ……」

「…返事は…?」

「…っ…はい…!」


そしてはるかは、プロポーズの言葉が嬉しくて泣き出してしまった私を、優しく包み込むように抱きしめた。


「…泣く程嬉しかった…?」

「ん…っ…」


はるかの問い掛けに、私は泣きながら小さく頷くと、はるかは微笑み、優しく私の涙を拭ってくれた。


「泣き顔も可愛いけど、今は笑って欲しいな…。…笑顔の夏希に会いたい…」


はるかの言葉に、私は涙を拭うとはるかに向かって笑った。そんな私に、はるかは今日何度目かわからないキスを、そっと私の唇へと落とした。


「愛してる…。ずっと側にいて欲しい……いや、僕がずっと夏希の側にいたいんだ…」

「ん…私も、ずっとはるかの側にいたいし、はるかに側にいて欲しい…。誰よりも、はるかを愛してるから…」

「僕もだ…。世界一…いや、この広い宇宙の誰よりも、銀河一、夏希を愛してる…」

「嬉しい…っ…!」


そう言って、私ははるかに抱き、はるかはそんな私をしっかりと抱き留め、そしてきつく抱きしめてくれた。


「ずーっと、一緒にいようね…?」

「あぁ…ずっと一緒だ。今も、これからも、そして遠い未来でも、ずっとな…」


こうして、前世から続く私達2人の歴史に、新たな1ページが刻まれた…。


「「愛してる、誰よりも…」」
fin...
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