涙の温度
6月12日、私の16回目の誕生日の夜、私は風音さんが用意したパーティー用のドレスを着て、はるかの車でパーティー会場である風音さんの自宅に向かっていた。

このドレスは、学校が終わり、家に帰ると寝室のベッドの上に置いてあったのだ。


“これ着て、はるかくんと一緒にPM6:00に家に集合!遅刻しないようにね?”


と、何とも風音さんらしいメモと共に。私は指定の時間までまだ暫くあったので、一度シャワーを浴び、髪を乾かすと用意されたドレスに着替え、ドレスに合うメイクとヘアアレンジをし始めた。

準備が終わった頃、ちょうど黒いタキシードに身を包んだはるかが家に迎えに来てくれて、私達は一緒に風音さんの家へと向かった。

ちなみに他の皆は、準備があるとかで学校が終わってすぐに風音さんの家に向かった。

あの後、誤解を解く為とは言え、せっかく計画してくれたサプライズパーティーの計画を台無しにしてしまった私は皆に謝った。

しかし、皆はサプライズではなくなったけど、パーティーは出来るから、それに悪いのは自分達だから気にしなくていいと言ってくれたのだ。私は申し訳ないと思いつつも、皆に感謝の気持ちを伝えた。

それから時が経ち、今は夜の5時50分…

指定された時間の10分前だ。風音さんの住む高層マンションに着いた私とはるかは、駐車場に車を停め、車から降りると手を繋いで風音さんの部屋へと向かった。

風音さんの部屋はこのマンションの最上階にある。私達はここ数日間話せなかった分、色んな話をしながらエレベーターの前でエレベーターが来るのを待った。この感じなら、彼女の部屋に着く頃にはちょうどいい時間になっているだろうと思う。

そしてエレベーターが到着し、2人で乗り込んだ。私達はエレベーターの中でもずっと手を繋いだまま、たくさんの話をした。

はるかといるとあっという間に時間が経ち、いつもは長く感じるエレベーターの中も、今日はすごく短く感じた。

私達2人は時間を確認すると風音さんの部屋に向かった。思った通り、ちょうど6時に彼女の部屋の前に着いた。

私がインターホンを押すと、綺麗に着飾った風音さんが笑顔で出迎えてくれた。


「いらっしゃい、待ってたわよ!」

「「お邪魔します」」


私達は声を揃えて言うと、宝生家へと足を踏み入れた。そして、風音さんの後に続き、彼女の部屋の中にある小さな、それでも20畳以上あるパーティールームまで案内された。

風音さんの案内で部屋の中に入ると、皆が一斉にクラッカーを鳴らした。


「「「「「「「「お誕生日おめでとう!!」」」」」」」」

「わぁ〜…すごい…皆、ありがとう!!」


私は部屋の中を一通り見回すと、皆に笑顔でお礼を言った。

はるかは私の肩に手を回し、私を部屋の中心まで連れて行く。それを合図に、風音さんが大きなバースデイケーキを持って部屋の中に入って来た。


「さあ、夏希!ロウソクの火を消して!」

「うん!」


私は風音さんの言葉に笑顔で頷くと、ケーキに刺さったロウソクの火を消した。私が火を消し終えると、皆は拍手をしながら各々おめでとうと言ってくれた。


「皆、ありがとう!」

「よかったな、夏希…」


はるかが私の肩を抱き寄せ、微笑みながらそう言った。それに私も笑顔で頷く。

その後は風音さんの一言で、皆一気に騒ぎ出した。


「さあ、皆!今日は騒ぎまくるわよ!」

「「「「「「おー!」」」」」」


うさぎ達5人に混じって、ほたるも手を上げ叫んでいた。その様子を私とはるか、そしてみちるとせつなは微笑ましく見ていた。



―――――



パーティーが始まって早1時間程経った。今、この部屋の中は煩いくらい賑やかな声でいっぱいだ。

風音さんはお酒片手にせつなに絡んでいて、うさぎは用意されていたケーキや料理を次々お皿に取っては平らげ、亜美とまことはほたるの相手、レイと美奈は2人でマイクを取り合いながらカラオケ大会、そしてはるかとみちるは私を挟んで座り、私にご飯を食べさせていた。

私は2人に自分で食べられると言ったのに、たまにはいいじゃないかと言って2人は聞く耳を持たず、私の口元に次々と料理を運んで来たのだ。私はそれに苦笑しつつも、2人が運んで来る料理を食べた。


「ふふ…嫌だ嫌だと言っても、口元に運んだらちゃんと食べてくれるのね…」

「だって、料理美味しいし、目の前にあったらやっぱり食べたくなるし…」


みちるの言葉に恥ずかしくなった私の頬は、微かに赤く染まった。


「可愛いな…照れてるのか?」

「そ、そんなんじゃないもん…!」

「本当?」

「本当!」


私ははるかの言葉に更に顔を赤くし、必死に誤魔化した。しかし、ずっと昔から一緒にいたこの2人に、私の誤魔化しなんて利くはずもなくて、2人はただ私を見つめ微笑んでいた。

そんな時、ほたるが私の名前を呼びながら私の元へとやって来た。


「夏希お姉ちゃん!はい、これほたるからのプレゼント!せつなママに教えてもらいながら、一生懸命作ったの!」

「!ありがとう、ほたる〜!」

「えへへ…」


私はほたるから手作りクッキーを受け取ると、ほたるをギュッと抱きしめた。ほたるは可愛らしく笑いながら、私に抱き付く。

するとそれを見ていたはるかも、後ろから私を抱きしめて来た。


「ほたるばっかり狡いな…」

「もう、またほたるに嫉妬してるの…?」

「仕方ないだろう?誰よりも夏希を愛してるんだから…」


そう言ってはるかは私の顎に指を引っ掛けると自分の方へと向かせる。


「ちょっ、皆見てるからダメ!」

「いいじゃないか、もう何度も人前でしてる…」

「それでも今はダメ!恥ずかしい…」

「じゃあ、後で2人っきりになったらいいの?」

「それなら……まあ…」


私は再び顔を赤くしてそう答えた。


「仕方ないな…それじゃ、今は我慢するよ…」


そう言ってはるかは私から離れた。すると私の腕の中から話を聞いていたほたるが顔を上げた。


「お話終わった…?」

「うん、終わったよ。ごめんね、苦しかったでしょ?」

「ううん、平気だったよ!あ、そうだ!夏希お姉ちゃん、ほたる夏希お姉ちゃんにお願いがあるの!」

「お願い?なーに?ほたるのお願いって…」

「あのね、夏希お姉ちゃんのお歌聞かせて欲しいの!ダメ…?」


ほたるは首を傾げ、不安げに私を見上げる。


「(可愛い…!!)ううん、ダメじゃないよ。何がいい?」


私が笑顔でそう答えると、ほたるも途端に笑顔になり、私の質問に答えた。


「えっとね、Moonlight Destinyがいいな!」

「わかった、じゃあレイと美奈の所に行って、マイク貸してもらえるようにお願いして来よっか?」

「うん!」


そして私はほたると手を繋いでレイと美奈の元へと向かった。

私はレイと美奈にほたるからお願いされた事を話すと、2人は快くマイクを渡してくれた。ついでにあれとこれも歌ってとリクエストもされた。

彼女達はこんなに素敵なパーティーを私の為に開いてくれたのだ、それくらい何でもなかった私は、彼女達のリクエストも受け入れると、彼女達に機械の操作を任せた。

そして最初に流れて来たのは、ほたるがリクエストしたMoonlight Destinyだった。私はマイクを持って立ち、イントロが終わると目を閉じて歌い始めた。



不思議 あなたといると何故
時が優しく流れるの
人気ない 海に夜が 降りてきて最初の星
これは月から届く magic
声にしなくてもわかるの
私達 同じことを 想っているはず

moonlight destiny
いつまでも誰よりも そばにいたいの
この広い宇宙の下で めぐりあえたあなた

moonlight destiny
微笑みも 悲しみも わけあえるとね
胸でそう感じている あなたとなら



私が歌い終えると、部屋中に拍手が響いた。
それに驚き目を開けると、あれだけ騒いでいた皆は静かに私の歌を聴いていたのだ。私は目を閉じ、歌う事に集中していたせいかその事に全く気付いていなかった。


「ありがとう、夏希お姉ちゃん!」

「どういたしまして。」


私は笑顔でお礼を言って来たほたるに向かって微笑んで言った。


「はいはいはーい!それじゃあ、次は美奈子リクエストの曲〜!!」

「あ!狡〜い、美奈子ちゃん!」

「ふふふ…早いもん勝ちよ!」


そして美奈子リクエストの曲が掛かり、私は歌い始める。すると皆はやはり静かに私の歌声を聴いていた。はるかやみちるに至っては目を閉じ、完全に曲に入り込んでいた。

私が美奈子リクエストの曲を歌い終わるとすぐ、今度はレイがリクエストの曲が流れ始め、私は再び歌い始めた。

それがうさぎ、亜美、まことと続き、終わる頃にはプチリサイタルのみたいになってしまっていた。

全てのリクエストに応え終えた私は、少し外の空気吸って来ると言い残し、飲み物を片手に部屋の外に出て、リビングからベランダに出た。


「はぁ〜…連続で歌ったから、ちょっと疲れちゃった…」


私はベランダに出ると小さく独り言を漏らす。いくら6月に入ったと言えども、梅雨の時期だ。まだ少し肌寒い夜風が、今の私にはちょうどよく感じられた。

すると突然、ベランダの手擦りに肘を掛け、最上階からの夜景を見ていた私の肩に何かが掛けられ、そのまま後ろから抱きしめられた。

私の知る限り、こんな事をするのは1人しかいない。


「はるか…」

「そんな格好でずっといたら風邪引くぞ…」


私の肩に掛けられたのははるかが着ていたタキシードの上着だった。


「大丈夫だよ、今ははるかの上着も羽織ってるし、はるかが抱きしめてもくれてるから温かいもん…」


私ははるかの手にそっと自分の手を重ねた。するとはるかも抱きしめる力を少しだけ強めた。


「本当は、今みたいに2人っきりで、静かに過ごすはずだったんだけどな…」

「いいじゃない、たまには…パーティー楽しいし、皆に祝ってもらえて私も嬉しかったし…。…まあ、一番最初におめでとうって言ってくれたのがはるかじゃないのは、ちょっと残念だけど…」

「僕も悔しいよ…。夏希に一番最初におめでとうって言えなかったのが…」

「じゃあ、来年は絶対にはるかが一番最初におめでとうって言ってね?」


私は振り返って、上目遣いに彼を見た。すると彼は優しく微笑み、私に約束すると言った。

私達はそのまま暫く見つめ合うと、そっと静かに唇を合わせた。



―――――



あれから何度も唇を重ねた私達は、ゆっくり顔を離すと微笑みあった。


「そうだ、そう言えばまだ渡してなかったな…」

「?何を…?」

「僕からの誕生日プレゼント。」

「くれるの…?」

「もちろん…。少しの間、目を閉じててくれるかな?」

「わかった…」


私ははるかに言われた通り目を閉じる。すると微かに物音が聞こえた後、はるかに左手を取られ、薬指に何かが当たった気がした。


「もういいよ、目を開けて…」


はるかの言葉に私は目を開けると、すぐに自分の左薬指を確認した。するとそこには月明かりに光り輝くシルバーの指輪があった。


「!はるか、これ…!」

「一応、ペアリングなんだ…」


そう言ってはるかは自分の左手を見せる。するとそこにははるかの言った通り、私の指にはまる指輪と同じデザインの指輪が、彼の薬指にも嵌っていた。

驚いて固まっている私をはるかはそっと抱きしめ、耳元で囁き始めた。


「本当なら、今すぐプロポーズして結婚したいところだけど…僕はまだ16で、法律上結婚は出来ない。だから、その為の予約を、今からしておこうと思って…」

「…予約…?」


私は漸く意識を戻し、小さく声を漏らした。


「そう、予約…。この間の撮影で、ウエディングドレスを着た夏希を見て、実際に隣に立ってみて思ったんだ。この場所は絶対、他の誰にも渡さない。そして、夏希と一緒に幸せな家庭を築いて行きたいって…」


私は静かに彼の言葉に耳を傾ける。


「だから、僕が18になって、改めて夏希にプロポーズするその日まで…夏希には、僕の恋人でいて欲しい…。その日が過ぎれば、今度は婚約者として、そして最後は僕の妻として、ずっと側にいて欲しい…」


私ははるかの言葉が嬉しくて、昼間とは違う涙を流し始めた。そんな私をみてはるかは小さく笑って、そっと私の涙を指で拭う。


「今日の夏希は泣き虫だな…」

「だって…嬉しくて…っ…」

「…まあ、悲しくて泣かれるよりずっといいか…」


はるかは再び私を抱きしめた。強く、そして包み込むように優しく…


「待ってて…?僕が18になる、その日まで…」

「うん…!待ってる…。ちゃんと待ってるから、はるかもちゃんと、約束守ってね…?」


私は涙を流しながらも綺麗な笑顔を彼に向けた。


「もちろん…………夏希、愛してる…」


そう言って彼は微笑むと、今日何度目かわからない愛を囁いてくれた。

最初、朝目を覚ました時はなんて最悪な誕生日だと思った。だけど今は、はるかや皆のおかげで、今まで生きて来た中で一番の、最高に素敵な誕生日に変わったのだった…
to be continued...
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