復活と始まり
冷たく、暗い静寂に包まれた世界に突然光が射し込んだ。


“目覚めなさい…”


「誰…?私の眠りを妨げるのは…」


“あなたの居るべき場所はここではないはず…”


「けど、私はもう…」


“大丈夫、心配しないで…?私が、あなたの世界まで案内してあげる。”


「え…?」


“さあ、その光に触れて。行きましょう、あなたの居るべき場所へ…”


突然射し込んだ光にそっと手を伸ばし、触れた。その瞬間、光が私を包み、私は意識を飛ばした。


「ん…っ…」


次に目を覚ますと目の前には見知らぬ天井。私は体を起こして、何があったのか思い出そうとする。しかし、自分がどうしてここに居るのか、何があったのか何も思い出せない。思い出そうとすると酷く頭が痛む。

辛うじて思い出せるのは、自分が日向夏希と言う名前の学生である事、両親や兄弟は居ないと言う事、エリカと言う名前、そして顔も名前も思い出せないが、私の名前を優しく囁く人の声…

その人の事を考えると、胸が締め付けられるかのように、とても苦しくて、それと同時に愛おしさが胸の中に溢れた。


「お、目覚めた?よかった…」


私が考え込んでいると、突然扉が開き、そこから知らない女の人が入って来た。きっとここは、彼女の家なんだろうと瞬時に理解した。


「あの、ここ…」

「あぁ、私の家。家に帰る途中で、近くの公園で倒れてるの見付けてね。」

「そうなんですか…ご迷惑をお掛けしてしまってすみません。助けて下さってありがとうございました。」

「いいのよ、気にしないで?」


そう言って彼女は優しく微笑んでくれた。とても心の優しい、温かい人なんだと思った。


「あ、私こう言う者です。よろしくね?」


私は彼女がバッグの中から取り出した彼女の名刺を受け取る。そこには…


「宝生風音……芸能プロダクションの社長さん…?」

「そ!これでも、そこそこ大きなプロダクションの社長なのよ?」

「へ〜…お若いのにすごいですね!」

「まーね♪それで、あなたは?」

「あ、申し遅れました…私は、日向夏希と申します。この四月に、高校に入学する予定で…」

「って事は、夏希ちゃん今15歳かー…若いな〜」

「ふふ…宝生さんだって十分お若いじゃないですか…」

「いやいや、これでも結構歳行ってんのよ?あ、それと、そんな堅苦しく宝生さんなんて呼ばないで、気軽に風音さん、って呼んで?」

「わかりました…ありがとうございます、風音さん。」


風音さんはフレンドリーでとても話しやすい。さっき会ったばかりなんだけど、昔からの友達みたいに話せるような素敵なお姉さんだ。


「ところで、何であんな所で倒れてたの?」

「…それが、自分に何があって、どうして倒れてたのか、何も思い出せないんです…」

「……それって所謂記憶喪失ってやつ?」

「多分…でも、自分の名前とか、どこの学校の学生だったとかは覚えてるんです…。けど、どうしても思い出せない事もあって…思い出したいのに、思い出そうとすると頭が割れそうに痛くて…」

「そっか…ちなみにご両親とかの事は?」

「…私、両親はいないんです。私がまだ小さい時に、二人とも事故で…」


そう、私に両親はいない。二人とも、私にすぐ帰って来るからねって家を出たっきり、二度と帰って来なかった。いや、帰れなくなった、が正しいかな…


「そう、ごめんなさい…」

「いえ、気にしないで下さい。正直、両親の事あんまり覚えてないし、一人なのが当たり前で過ごして来ましたから…」

「じゃあ、今までずっと一人暮らし?」

「数年前までは、昔からお世話になっていた人達と一緒に暮らしてたんですけど…その人達も病気で亡くなってからは、ずっと1人で暮らして来ました。」

「そうなの…」


風音さんは私の話を聞いて、何かを考えてるみたい。人差し指を唇に当てて、じっと私を上から下まで見ながら唸ってる。


「あの…風音さん…?」

「うん、いい!絶対売れる!!」

「え?あ、あの…」


私は話が見えなくて戸惑っていると、風音さんは急に立ち上がって私にこう言った。


「夏希ちゃん!あなたアイドルになる気はない?」

「えぇ!?あ、アイドル…ですか?」

「そう!アイドルとして、うちの事務所入らない?」

「アイドル…」


この時、私はアイドルになって有名になれば、記憶の中の優しい声のあの人が私に会いに来てくれるかもしれない。そしたら、どうして倒れていたのか、自分に何があったのか、Erikaとは誰なのか、それらの事を全部思い出せるかもしれないと思った。

それに、この先生活していく為には、何か仕事をしなければいけない。所詮高校生がアルバイトした所で、どんなに働いても一ヶ月分の家賃と生活費を稼ぐ事はまず出来ないだろう。それだったらと、すぐに考えは纏まった。


「風音さん、私アイドルやります…!」

「本当!?よ〜し、それじゃ早速明日、一緒に事務所行こっか!」

「はい!よろしくお願いします!」


こうして、私はアイドルとして新たな道を歩み始めた。


必ず記憶の中のあの人を見付け出そう、そんな決意を胸に抱いて…
to be continued...
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -