開 戦(1/2)
あれから私が目を覚ましたのは、数日後の事だった。私が目を覚ますと、そこには、私の両手をそれぞれ握り、眠ったままの私を静かに、そして心配そうな、どこか祈るような表情で見つめる、はるかとみちるの姿があった。


「ん…っ…」

「!夏希!!」

「夏希…!」

「…ここ……?」


目を覚ましたばかりで頭が働かない私は、今自分のいる場所がどこなのかわからなかった。今の私が、はっきり言える事があるとするなら、意識がなくなる前と今では、全く違う場所にいると言う事だけだった…

私は重たい体を何とか起こし、ベッドの背に寄り掛かった。


「僕の部屋だ…。あれから何日も、夏希はずっと眠ったままだったんだ…」

「とても心配したのよ…?いくら声を掛けても、体を揺すっても、ずっと眠ったままのあなたを見て、もう二度と目覚めないんじゃないかって…」

「本当に、心臓が止まるかと思ったよ…。頼むから、もうあんな無茶は止めてくれ…」


そう言うと、はるかは私をきつく抱きしめた。みちるも、目に薄っすらと涙を浮かべ、私の手を包むように握ると微笑んだ。


「ごめん…うさぎを守らなきゃって思ったら、咄嗟に体が動いちゃって…」

「うさぎも確かに大切だけれど…」

「僕達にとっては、お団子頭よりも、夏希の方が大切で、必要なんだ…」

「……プリンセスを守る守護戦士が、そんな事言っていいの…?」


はるか達の言葉を嬉しく思いつつも、私は2人をからかうように、小さく笑いながらそう言った。


「構わないさ…。お団子達もわかってくれてる。…それに夏希だって、僕達が守るべきプリンセスには変わりないだろ…?」

「彼女達、今回の一件で、私達にとって、あなたがどのくらい大切な存在なのかを、嫌と言う程肌で感じたんじゃないかしら…?」


2人はそう言うと、冗談交じりに小さく笑った。


「もう…そうやってすぐに茶化す…」

「茶化してなんかないさ…。僕達は事実を言ったまでだよ。な、みちる?」

「ええ……それより夏希、お腹、空いてない?」

「……ちょっとだけ…」


みちるの問い掛けに、私はほんのり頬を染め、答えた。そんな私の答えを聞いたみちるは、優しく微笑んだ。


「少し待ってて?今、消化のいい物を作って、持って来るわね…」

「ありがとう、みちる。」

「いいのよ…。私達の為にも、夏希はゆっくり休んでいて?」


そう言い残し、みちるは部屋を出て行った。部屋には、パジャマ姿の私と、はるかだけが残された。

はるかは、みちるが出て行った後も、一向に私を離す気配はなく、会話こそはすれど、抱きしめたままずっと動かずにいた。


「……ねぇ、はるか…そろそろ離して…?」

「どうして?」

「だって、このままじゃ、はるかの顔見えないし…」

「…見えなくていいよ…。今、すごく情けない顔してるから…」

「情けない顔…?」

「…夏希が目を覚ましてくれた事が嬉しくて、失わずに済むんだって安心したら、涙が出て来たんだ。…こんなの、とっくの昔に枯れ果てたと思っていたのに…っ……」


そう言うと、はるかは私を更にきつく抱きしめた。正直、少し苦しかったけど、私は何も言えなかった。どうやら今回の、私が取った浅はかな行動のせいで、私ははるかをかなり苦しめてしまったらしい。


「はるか……ごめん、ごめんね…。いっぱい、心配掛けて…」


私はそう彼に言いながら、いつもとは違い、とても小さくなってしまった彼の背中に腕を回し、抱きしめた。



―――――



その翌日、私は、はるかとみちるが止めるのも聞かず、2人と共に登校した。

私が教室に入ると、珍しく既に揃っていたいつものメンバーが、驚いた顔で私の元へと駆け寄って来た。


「夏希ちゃん…!」

「よかった…」

「目が覚めたんだね…!」

「もう、心配したんだから!!」

「ごめんね、皆…心配掛けて…。もう平気だから。」


皆に向かって私がそう言い、微笑むと、皆も安心したのか微笑み返してくれた。


「…スリーライツの3人は…?」

「来てないよ…。ここ暫く、TVとかでも、姿を見てない…」

「そう……仲良くなれたと、思ったんだけどな…」


私は、彼らの空いている席を見つめながら、小さくそう呟いた。



―――――



それから暫く時は流れ、ある雨の日の事…。大人気のアイドルグループ、スリーライツの突然の解散宣言に、日本中がどよめいた。今日はその解散前最後の、ファイナルコンサートの日。

私は、はるかとみちると一緒に、そのファイナルコンサートが行われる会場へと向かっていた。


「…あいつらに話って何なんだ…?」

「そんなムスッとしないの…!彼らのプリンセスが、私を助けてくれたんでしょ?それじゃ、私が彼らのプリンセスに挨拶…って言うか、お礼を言わないわけにはいかないでしょ?助けてもらったのも私だし、この太陽系の代表も、私なんだし…」

「しかし…!」

「あー、もう!はるかしつこい!会うって言ったら、何が何でも会うの!!」

「…っ……やれやれ…こうなったらもう、誰にも止められないな…」

「ふふ…そうね…」


私がちょっとキレ気味に言うと、はるかは大人しく引き下がり、みちるはそんな私とはるかのやり取りを見て笑っていた。そんな時、私達の歩く道の反対側、車道を挟んだ向こう側の歩道に、傘を差し、ちびちびちゃんと一緒に歩くうさぎの姿を見付けた。


「あ…」

「?どうした?」

「あれ…うさぎとちびちびちゃんだよね?」


私が指を差す方を、はるかとみちるは目で追った。


「あら、本当だわ…」

「何処行くのかな…」

「…コンサート会場だろ…。お団子頭も、あいつらと話したそうにしていたからな…」


私がポツリと零した疑問に、はるかが答えた。そんなはるかに、みちるは問い掛ける。


「今日は止めなくていいの…?」

「言ったってどうせ聞かないさ…。僕らのプリンセスは、2人とも強情だからな…」


はるかは冗談交じりに笑いながらも、諦めの言葉を口にした。


「ちょっと!それ、どう言う意味よ!」

「そのまんまの意味だよ…。ほら、行くんなら行くぞ?」


そう言うとはるかは、私の手を引き、少し強引に話を終わらせると、そのままコンサート会場まで向かった。



―――――



コンサート会場に着いた私達は、関係者用の入り口から、会場の中へと入った。普通なら、警備員に止められて絶対に入れないけど、それなりに有名人となっている私は、顔パスで通してもらった。ついでに、もう少し後から来るうさぎとちびちびの事も警備員に伝え、通してくれるよう口添えをしておいた。

会場の中へと入った私達は、警備員のおじさんから聞いた、スリーライツの楽屋があると言う場所へと向かった。


「ここか…」

「はるか、くれぐれも失礼のないようにね…!」

「はいはい…大人しくしてるよ…」


私は、はるかからそう返事を聞くと、少し緊張しながらも、楽屋の扉をノックした。


「どうぞ。」


中から聞こえた入室許可の声に、私はゆっくりとその扉を開いた。


「失礼します…」

「!夏希!?」


私が彼らの楽屋へと入ると、彼らは驚いた顔を見せた。


「おまっ…大丈夫なのかよ!?」


私に最初に声を掛けて来たのは星野だった。そんな星野に、私は微笑むと一言大丈夫だと返した。


「…目覚めたなら、連絡くらいくれればよかったのに…」


そんな事を少しムスッとした表情で言う夜天に、私はまた小さく笑みが零れた。


「ごめんね、夜天…心配してくれてありがとう…。でも、私の事なんて興味ないんじゃなかったの?」

「っ…!あれは………ごめん…」

「……まあ、いいけど…」

「それより夏希、どうしてここへ…?」

「…皆と話がしたかったの。あと、あなたにもお礼が言いたかった…」


私はそう言うと、この部屋の中心にあるソファーに座る。美しく、気品溢れる女性に向かって微笑んだ。そんな私に気付いた彼女は、席を立ち、私の元へとやって来た。


「ご無事で何よりです…太陽王国、シャイン・モナルのプリンセス、エリカ様…。いいえ、太陽系を統べる、ネオ・クイーン・エリカ様…」

「この度は、私共々、皆を助けて頂き、本当にありがとうございました。太陽系を統べる者として、改めて、あなたに感謝を申し上げます…」


そう言って私は、彼女に向かって頭を下げた。それを見た彼女は、少し慌てた様子で、私に頭を上げるように言った。その言葉に甘え、私も顔を上げると、彼女は優しい微笑みを見せてくれた。


「どうかお気になさらずに…私が勝手にやった事です。」

「そうだとしても、お礼を言わせて下さい。何もしないのは、私の気が済みませんので…」


私がそう言い微笑むと、彼女も少し困ったような、しかし嬉しそうな…そんな顔で微笑んだ。


「はー…こうやって見ると、夏希って本当にプリンセスなんだな…」

「本当…いつもは、あんな男勝りなのに…」

「それを言ったら、火球プリンセスも結構やんちゃ…」

「「星野、夜天、大気…今、何か言った…?」」

「「「いえ、何も…」」」


私と、火球と呼ばれた彼女が、彼らに向かって満面の笑みを向けながら聞くと、彼らは少し青ざめた顔で何でもないと言った。


「「「(2人とも目が笑ってなかった…)」」」

「申し遅れました…私、キンモク星系、キンモク星丹桂王国、第一皇女の火球と申します。この度は、この者達が皆様に大変失礼な事を……申し訳ありませんでした…」

「あ、いえ!どうかお気になさらず!こちらも、同じようなものですし…」


私が苦笑を漏らし、頭を上げるように彼女に言うと、火球さんはさっきとは逆ですね、なんて言って綺麗に笑った。
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