- 離れ行く心
- 「夜間飛行…?」
「そうなの!皆あたしに言ったら、あたしも行くって駄々捏ねるからって、秘密にしてたんだよ!?酷いよね!?お友達だと思ってたのに…!!」
昼休み、遅れて登校して来た私は、教室に入るなり涙目のうさぎに掴まった。
うさぎの話しによると、どうやら亜美、レイ、まこと、美奈の4人が、うさぎに内緒で、スリーライツのファンクラブ限定、夜間飛行イベントに行くと言う計画を立てていたらしい。それをうさぎがたまたま耳にし、仲間外れにされたと怒っている…と言うか、拗ねているらしい。
「あはは……でも、うさぎ…皆の予想通り、私も行くって駄々捏ねたんじゃないの?」
「う…っ…それは、その…」
「全く、うさぎったら…」
「あは、あははは…」
うさぎは笑って誤魔化しすうさぎに、私は小さく溜め息を吐いた。
「…そんなに行きたいの?スリーライツのイベント。」
「…だって、皆で飛行機に乗って楽しく映画の試写会なんて、楽しそうじゃない?」
「そりゃ、楽しいかもしれないけど……飛行機じゃなくて、ヘリで優雅に夜の東京の街を遊覧飛行ってのはダメ?」
「へ?ヘリで、遊覧飛行…?」
「うん!実は今日、はるかの新しいヘリが届く予定で…。学校が終わってから、みちるも一緒に、3人で試運転も兼ねた、遊覧飛行をしようって話してたの!」
「わぁ〜!楽しそう!」
「スリーライツのイベント行けなくて拗ねてるなら、私達と一緒に遊覧飛行する?」
「!ありがとう、夏希ちゃん!!大好き!!」
私の誘いに、ほんの数秒前まで拗ねていたのが嘘のように、うさぎは元気を取り戻し、勢いよく私に抱き付いて来た。
「ふふ……それじゃ、今日の夕方の6時、家のマンション来てくれる?」
「うん、わかった!」
私にそう言い残し、元気に跳ねて行くうさぎを見て、私は小さく笑みを零した。しかし、それはすぐに真剣な顔付きに変わり、何も知らずに浮かれているうさぎを見つめた。
「(…もしもうさぎの正体が敵にバレてるのなら、敵は必ず、うさぎに何らかの形で接触して来るはず…。注意しなきゃ…)」
それからと言うもの、私は出来るだけうさぎの周りを警戒しながら1日を過ごした。
そして放課後、HRを終えた私はうさぎに声を掛けた。
「うさぎ!どうせ家に来るんだったら、このまま一緒に帰らない?」
「うん!あ、でも1回家寄っていい?ママに出掛けて来る事言っておかなきゃ!」
「いいよ。それじゃ、うさぎん家寄ってから家行こっか?」
「うん!ありがとう、夏希ちゃん!」
私は気にしないでってうさぎに笑いかけた。その時、タイミング良く、はるかとみちるが私を迎えに教室までやって来た。
「夏希、帰る準備出来たか?」
「あ、はるかさん!みちるさん!」
「ごきげんよう、うさぎ。」
「あ、ねぇ、はるか。今日の遊覧飛行、うさぎもヘリに乗せて上げて?」
「別に構わないが…どうしたんだ?」
「それがね、皆に仲間外れにされちゃったみたいで…」
「まあ、うさぎだけ仲間外れだなんて可哀想に…」
「そうだな…。それじゃ、僕達も皆には内緒で、一緒に遊覧飛行しながら、楽しい時を過ごすか…」
「あは、賛せーい!」
はるかの言葉に、うさぎは手を上げて賛同する。よっぽど秘密にされてたのを根に持っているらしい。
「そろそろ行きましょ?軽食も用意するんでしょう?」
「うん。あ、でも…私達、うさぎん家寄ってから帰ろうと思ってたんだけど…はるか達はどうする?」
「僕達も行くよ。僕達の大切なプリンセス達に何かあったら困る。騎士が側でしっかり守らないとな…」
そう言うとはるかは私の手を取り、手の甲にそっと口付けた。
「はいはい、行くよ?」
「あぁ、そうだな…」
はるかが自然な流れで私の手を取ると、私達は月野家へ向かって歩き出した。
―――――
月野家に着いた私達は、うさぎの後に続き、家の中へと入った。家の中に入ると、ちびちびちゃんが可愛らしくお出迎えしてくれた。
「ちびちび!」
「やあ、おちびちゃん。」
「こんにちわ。」
「こんにちわ、ちびちびちゃん。」
「ただいまー、ちびちび!」
うさぎがちびちびちゃんの頭を優しく撫でると、ちびちびちゃんは嬉しそうに顔を綻ばせた。その時、うさぎがちびちびが手に持っていた封筒に気付いた。
「ん?あんた、何持ってんの?」
ちびちびから封筒を受け取ったうさぎは、誰宛の封筒なのか確認する。
「えーっと…月野うさぎ様……ってあたし宛て?」
「誰からなの?」
「誰だろう……差出人の住所も名前も書いてない…」
私の質問に答えたうさぎは、不思議そうに封筒を開け、中身を確認した。すると中から出て来たのは、スリーライツのファンクラブ限定イベントの航空チケット。
「あー!これ、スリーライツのチケット!星野の奴、もうないとか言ってちゃーんと用意してくれたんじゃん!…えーっと、何々……親愛なるセーラームーン様…」
「「「「!!」」」」
うさぎが受け取った手紙の内容に、その場にいたちびちび以外の全員の表情が変わった。
“親愛なるセーラームーン様、特等席を空けてお待ちしております。必ず来て頂けるものと信じております。かしこ。セーラーアルーミナムセイレーン”
そう書かれていた手紙の内容に、私、はるか、みちるはアイコンタクトを取る。
「どうして…私の正体が……っ!皆が危ない!皆に知らせなきゃ…!」
そう言ってうさぎは家を飛び出した。私達もすぐにうさぎの後を追う。
「待ってうさぎ!」
「1人じゃ危ないわ!」
「僕達も一緒に…!」
「…うん!ありがとう、3人とも!」
それから私達は、急いではるかの車で空港へと向かった。空港に着いた私達は、一旦うさぎと別れ、チケットを持っていない為、従業員用の入り口から機内へと忍び込んだ。
有名じゃなきゃ、客になりすます事も出来たんだけど、それなりに顔を知られている私達は、CAの目を盗み、上手く隠れながら機内の様子を窺った。
「ダメ…どこにもうさぎがいない!」
「ここじゃないとしたら、2階かしら…?」
「行ってみよう!」
はるかの言葉に頷くと、私達は素早く、他の客やCAに見付からないように2階へと上がった。
「いた!」
「…あいつの隣か…」
「はるか、今は抑えて…」
気配を消し、上手く隠れながら私達はスリーライツとうさぎの様子を窺う。その時、私は小さな星の輝きいくつか消えるのを感じた。
「!!」
「どうした?」
「小さな輝きが消えた…それも3つも…!」
「!ついに現れたのね…」
私はみちるの言葉に小さく頷くと言葉を続けた。
「…たぶん、もうすぐファージを何体か連れて姿を現す…!来た!」
私の言葉に、みちるとはるかはそれぞれリップロッドを構えた。それに続いて私も、いつでも変身出来るようにと構えた。
―――――
「!星野!大気さん!夜天くん…!!」
「っ…くそ…!!」
ファージによってシートに固定されたスリーライツを見て、星野達スリーライツの正体を知らないうさぎは、顔色を変えた。
「スリーライツと乗客の皆さんの命と引き換えに、あなたのスターシード、頂戴致します!月野うさぎさん、いいえ、セーラームーン!」
「「「!?」」」
「…っ……」
「!やっぱり……っ…とにかく、皆を助けないと…!」
私の言葉にはるかとみちるは頷くと、私達は各々の変身アイテムを掲げ、変身スペルを口にした。
「ウラヌス・クリスタルパワー!メイクアップ!」
「ネプチューン・クリスタルパワー!メイクアップ!」
「コスモイノセントパワー!メイクアップ!」
変身を済ませた私達は、隙を見て敵に攻撃を仕掛けようと、陰に隠れながらタイミングを窺った。
「あなたのスターシード、頂戴!」
セイレーンがブレスレットを構えたその時、拘束されていた星野が、力尽くで拘束を解いた。
「!止めろぉおおおおお!」
「!ダメだ、星野!」
星野は夜天の制止の声も聞かず、ポケットの中からあるものを取り出すと、それを耳に装着し、変身スペルを唱えた。
「ファイター・スターパワー!メイクアップ!」
「え…?」
「(やっぱり、星野が…)」
星野の変身に驚きを隠せないでいるうさぎに対し、私は冷静にそれを陰から見ていた。
「……言ったはずよ…。どんな事からも、あなたを守るって…」
「全く、星野は…」
「仕方ありませんね…」
ファイターの言葉に続き、夜天と大気がポツリと何かを言うと、2人も力尽くで拘束を解き、ポケットから変身アイテムを取り出し、変身した。
「メイカー・スターパワー!メイクアップ!」
「ヒーラー・スターパワー!メイクアップ!」
「…嘘…スリーライツの3人が、スターライツだったの…?」
「えぇええ!?…っ…セーラースチュワーデスさん達、何とかしちゃって下さい!」
「「「はーい!」」」
セイレーンの言葉に、ファージ達はスターライツ目掛けて攻撃を繰り出す。
「スター・センシティブ・インフェルノ!」
しかし、ファージの攻撃を難なく避けたスターライツは、技でファージに応戦する。
「スター・シリアス・レイザー!」
「スター・ジェントル・ユーテラス!」
「スター・センシティブ・インフェルノ!」
スターライツとファージが戦っている隙に、うさぎからスターシードを奪おうと、セイレーンは再びブレスレットを構えた。
「改めて…あなたのスターシード、頂きます!」
「そうはさせない…!フレイム・バースト!」
「ディープ・サブマージ!」
「!!」
私とネプチューンが、セイレーンに向かって攻撃を繰り出した。しかし、セイレーンはそれをあっさりと避けてしまった。
「ウラヌス、今の内にうさぎを…!」
私達が攻撃を繰り出す事で出来た隙を狙い、ウラヌスがうさぎをセイレーンから引き離す。
「ウラヌス!」
「うさぎ、大丈夫?」
「シャイン!ネプチューンも…皆、助けてくれてありがとう!」
「うさぎ、あなたも変身するのよ!」
ネプチューンの言葉にうさぎは頷くと、変身スペルを叫んだ。
「ムーンエターナル!メイクアップ!」
そして、セーラームーンへと変身を遂げたうさぎを見て、ファイターが小さく呟いた。
「…やっぱり、あなたがセーラームーンだったのね…」
「な、何なんですか、この数は〜!こんなにセーラー戦士がいるなんて、聞いてません!」
セイレーンは床に座り込み、私達を前に後退る。
「さあ、どうする?」
「まだセーラームーンのスターシードを奪おうと言うのなら…」
「私達がお相手するわ。」
「「「あたし達の事もお忘れなく!」」」
私達の言葉の後に、スターライツの3人が続いた。
「っ…ギャラクティカー、ツナミー!」
そう言うとセイレーンは、手近にあったジュースや水を私達に向かって投げて来た。
「ワールド・シェイキング!」
それに対し、ウラヌスが技を繰り出し、対抗した。それによって、宙へと放り投げられた飲み物は床へと落ちて行った。
「っ……、また日を改めます。それでは…」
そう言うと、セイレーンは私達の前から姿を消した。その場に残された私達の空気は、重く苦しいものだった…。
―――――
あれから私とセーラームーンが、ファージにされてしまった3人のスターシードを浄化し、戦闘が終わった所で、私達はスターライツのメンバーの前で、変身を解いた。私達の正体を見て、スターライツの3人は驚いていたけど、何処か納得した、そんな表情を見せた。
それから暫くして、私達の乗っていた飛行機は、空港へと戻って来た。
「スリーライツが、スターライツだったなんて……夏希ちゃん達は、星野達の正体に気付いてたの…?」
「うん……ごめん、今まで黙ってて…」
「…詳しい話しは後だ。周りが夏希に気付き始めた…騒ぎになる前に、ここを出よう…」
「そうね…」
「……行こう、うさぎ?」
「うん…」
それから私達は、足早に空港を後にした。
帰り道、はるかが運転する車の中は、終始無言状態が続いた。皆、それぞれ思う事があったのだろう…
「(また、星の輝きが遠ざかって行く…皆の心を、1つにしなきゃいけないのに…)」
互いに正体を知った今、本当ならば心を1つにして戦わなければいけないのに、私達の距離は、今までよりも更に遠く、離れて行ってしまった。
「(…また、嵐が来る…)」
私は夜空を見上げ、1人心の中でそう呟いた。
to be continued...