- 休 息
- 球技大会の翌日、私は学校を休み、家に閉じ籠ってずっと考え事に耽っていた。
「(あの時、セイレーンが言った事…あれはやっぱり、セーラームーンの正体がうさぎだってバレたって事…?でもそれだったら、私達の正体だって、奴等にバレててもおかしくないはず…だけど、セイレーンが狙ったのはうさぎだけ……どう言う事…?)」
私は考えが纏まらず、訳が分からなくなってしまい、座っていたソファーに体を沈めた。その時、目の前のテーブルに、私専用のカップに入ったコーヒーが置かれた。
「少し休んだらどうだ?昨日からずっと考え事してて、まともに休んでないだろ?目の下、隈出来てるぞ…」
はるかはそう言うと、私の隣にそっと腰を下ろした。
「うん…ありがとう、はるか…」
「あんまり無理するな…決戦の時が近いなら、尚更な…」
「うん…」
そう言うとはるかは私の頭を優しく撫でてくれた。それがすごく気持ちよくて、私はそのまま目を閉じた。
―――――
それから暫くして私が目を覚ますと、いつの間にかはるかに膝枕されてて、私は慌てて飛び起きた。
「わぁああああ!!!!」
「何だ、もう起きたのか?」
「え?あ、うん…私、どれくらいの間寝てた…?」
「20分くらいかな…そんなに時間は経ってないけど、コーヒーは完全に冷めたかな…」
「あ……ごめん、せっかく淹れてくれたのに…」
私ははるかが淹れたコーヒーを飲む前に眠ってしまった為、眠っていた時間がほんの20分前だとしても、それだけ経てば、コーヒーはしっかり冷めてしまう。
「いいよ…。それに、コーヒーなんかより、夏希が休んでくれる方が僕は嬉しい…」
「…ごめんね、心配掛けて…」
「反省してる?」
「うん…してる…」
「じゃあ、許してあげようかな……おいで?」
はるかに呼ばれた私は、心配掛けてしまった反省の意も込めて、大人しく彼の腕の中に納まった。
私がはるかの腕の中に納まると、はるかは優しく、そして強く私を抱きしめた。
「せっかくアイドル業休んで、暫く暇が出来たんだ…たまにはゆっくり休んで、自分の体を大事にしてくれ…」
「ん……ごめん。…今日はもう、何もしない。はるかの言った通り、ゆっくり休むよ…」
私がはるかにそう告げた時、タイミング良く、この部屋に訪問者を告げるチャイムが鳴り響いた。
「?誰だろ…」
「僕が出るよ…夏希はここにいて?」
そう言うとはるかはドアフォンで、訪問者を確認すると、ロビーへと続く自動ドアのカギを開け、訪問者を招いた。
「せっかく夏希が休む気になったのにな…」
そう言うはるかだが、苦笑を漏らしつつも、何だか少し楽しそうに見えた。
「誰が来たの?」
「すぐにわかるよ…」
それから暫くして、今度は玄関の方から訪問を知らせるチャイムが部屋に鳴り響いた。
「はーい、どちら様…」
はるかが招き入れたって事は、怪しい人じゃないだろうと踏んだ私は、特に確認もせず玄関の扉を開けた。
「やっほー!夏希ちゃん!元気〜?」
「まこちゃんお手製の差し入れ、持って来たよ!」
「あと、今日の授業のノートのコピーと…」
「今日出された課題!これ、明後日提出だから!」
「レイちゃんからはこれ!お薦めのヒーリングCD!いい曲ばかりだから、疲れた時聞いて!」
「わっ…ありがとう、皆!」
「夏希ちゃん、何か悩み事?突然アイドル活動休んじゃうし、昨日からちょっと様子変だし…大丈夫?」
うさぎが心配そうに私に尋ねて来た。それを私は、これ以上心配を掛けまいと、笑って適当に誤魔化した。
「あはは…ごめん、ごめん!ずっと仕事と学校で休んでなかったから、ちょっと疲れが出ちゃってさ……それより、中入って?お茶くらい出すよ?」
「…それじゃあ…」
「遠慮なく!」
「「「「「お邪魔しまーす!!」」」」」
「どうぞ!大したおもてなしは出来ないけどね。」
皆をリビングへと招いた私は、ちょっと待っているように言い残すと、お茶を淹れにキッチンに向かった。
―――――
「急に賑やかになったな…」
私がキッチンに入ると、既にはるかが人数分のお茶の準備を始めていた。
「そうだね…でもま、たまには、こう言うのもいいんじゃない?」
「たまにならな…」
そう言って小さく笑みを漏らしたはるかと私は、はるかが用意してくれたお茶とお茶菓子を持って、皆の待つリビングへと戻った。
私達がリビングに戻ると、そこにはほんのり頬を赤く染め、ニヤニヤしている美奈が待っていた。
「あ、こんにちわ!はるかさん!」
「どうも!」
「こんにちわ。」
「お邪魔してます。」
うさぎに続いて、まこと、レイ、亜美が順にそれぞれ挨拶を済ませる。
「やあ、子猫ちゃん達。いらっしゃい。」
そう言ってはるかは皆に向かって微笑んだ。私はと言うと、お茶菓子と、人数分のカップをテーブルの上に置くと、皆と向かい会うように座った。それに続き、はるかも私の隣に腰を下ろした。
「ごめんね、大した物なくて。今日はまだ買い物行ってなくて…」
「気にしないで夏希ちゃん。私達が突然来たのがいけな…」
「そんな事より!今日は逃がさないわよ〜!じっくり、同棲生活について聞かせてもらうからね!」
亜美の言葉を遮り、そう少し興奮気味に話す美奈に、私とはるかは苦笑を漏らした。私達の事なんか聞いてどうするんだろうか…特に面白い事もないと思うんだが…。
「これ以上何を聞くの?もう特に話す事もないんだけど……ねぇ、はるか?」
「そうだな…。面白い話なんて何一つ出来ないと思うけど…それでも聞くか?」
「もちろん!」
「だ、そうだ…。どうする、夏希?」
「うーん…どうしようっか…」
美奈の返答に、私は再び苦笑を漏らした。
「はるかさん!」
「何かな?」
「ずばり聞きますけど、2人の関係はどこまで進んでるんですか!?」
「そうだな……どう言う意味かにもよるけど、まあ…それなりには進んだ関係かな?」
「それはどう言う意味ですか!?」
「さあ、どう言う意味かな…。僕達がどこまで進んだかは、子猫ちゃん達の想像に任せるよ。」
はるかが余裕を見せながらそう言うと、皆は顔を真っ赤に染めた。その反応で、皆が何を想像したのかわかった私は、また1つ、苦笑を漏らした。
何故、私が苦笑を漏らしたかと言うと、実際の私達は、まだそこまでの関係じゃないから。そりゃ、いつかはそうなりたいとは思うし、実際そうなるのも、そんなに遠くない未来な気がする。だけどまだ、少なくともこの戦いが終わるまではきっと、私達の関係に進展はないと思う…
「み、美奈子ちゃん…これ以上2人のプライベートについて踏み込むのは、さすがに止めた方がいいんじゃないかしら…」
「そ、そうね…聞きたい事は聞けたし、これ以上は止めとくわ…」
亜美は顔を真っ赤にしたまま、美奈に制止の声を掛ける。亜美、制止を掛けるなら、もっと早く掛けて欲しかった…。しかし、亜美の制止の声に大人しく美奈が引いてくれてよかったとも、同時に思った。
「あ、そうだ!皆、ご飯食べてく?」
「え!?いいの!?」
私の突然の提案でも、食に関わる事だとうさぎの反応は驚く程よくて、私とはるかはクスクスと笑いを漏らした。
この世に神様がいるかはわからないけど、もしも神様がいるのなら、この幸せを、この笑顔を、どうかこの世界から、私から奪わないで…。笑顔の裏で、私はそう願わずにはいられなかった。
「(私はもう…大切なモノを、何一つ、失いたくはない…。ここにある笑顔は、幸せな場所、未来は、何が何でも、絶対に守ってみせる…)」
to be continued...