歯車
深夜、私は静かに目を覚ました。


「(時が、動き始める…)」


いつ、どこで、何が起こるのかはわからない。だけど、夢の中で誰かが、私にこの地球(ほし)の、そして太陽系の危機を知らせる。


「はるか…起きて…」

「ん…っ…もう朝か…?」


私は隣で眠っていたはるかを起こした。はるかは眠そうに、寝起き特有の掠れた声を出した。


「ううん…違う。ごめんね、起こして…でも、大事な話があるの…」

「大事な話…?」


はるかは体を起こし、不思議そうに私を見た。


「そう、この星に…太陽系に関わる、大事な話…」

「!」


そう言って私はベッドから抜け出すと、日向夏希の姿から、太陽系を統べるクイーンの姿へと姿を変えた。そして、手に持っていたロッドを掲げ、部屋の中に太陽系の姿を映し出した。


「!地球が…!」


私ははるかの言葉に静かに頷いた。


「…太陽の黒点も広がってるし、地球も、間もなく黒い陰で覆い尽くされてしまう。そして、太陽の光が届かなくなり、地球が暗黒に包まれる時、この星に、終焉がやって来る…」

「!そんな…!」

「今すぐじゃないけど、今まで止まってた時がゆっくりと動き始めた…近い内に、私達戦士の運命に関わる重要な何かが、起こるのかもしれない…」

「僕達の運命に関わる、重要な何か…?」

「そう…終焉に向かうきっかけとなる、何か重要な事…」

「…一体、何が起ころうとしてるんだ…」

「わからない…ただ言えるのは、今まで止まっていた歯車が、ゆっくりと回り始めたって事だけ…」


そう言うと私は、太陽系の映像を消し、元の姿へと戻った。


「…星の終焉か…」

「ギャラクシアとの戦いが、近いのかもしれない……はるか、この間諦めるなって言ってくれたけど…もう、潮時かもしれない…」


私は苦笑を漏らし、そっとベッドの縁に腰を下ろした。


「…アイドル、辞めるのか…?」

「……うん…戦いが近いなら、その戦いに備えなきゃ…。この地球と、太陽系の運命が懸かってるんだもん…。クイーンとして、太陽系の危機に…悠長になんて、してられないよ…っ…」

「夏希…」


声を震わせ、俯いてしまった私を、はるかはそっと抱きしめた。



―――――



翌日、私は風音さんに連絡を取った。昨日見た夢の事、太陽系と地球の現状、そして敵の事…私は全てを彼女に話した。

私の話しを聞き終えた彼女の顔からは、いつもの明るく、優しい雰囲気なんて掻き消され、不安と恐怖で歪んでしまっていた。


「そんな…っ…」

「それでね、風音さん…私、アイドル辞めようと思うの…」

「!何で…?どうして、辞める必要があるの…?」


私の言葉を聞いて、今までの話しが嘘ではないと、現実なんだと感じたのか、風音さんは、今までの話は全て嘘だと言って欲しい…そんな感じで私に問い掛けて来た。

そんな風音さんに対し、私は静かに首を振ると、ゆっくり話し始めた。


「…太陽系を統べるクイーンとして、私がこの太陽系を、地球を守らなくちゃ…。アイドル、出来れば続けたいけどさ、そうもいかないの…私は、戦士だから…」

「!夏希…」

「クイーンは僕達外部戦士が…いや、夏希は僕が必ず守ります。何が何でも…例え、どんな手を使ってでも、必ず…」

「はるかくん…」

「戦いが終わったら、ちゃんと帰って来るから…だから、ね?私を…私達を信じて待ってて?」

「夏希…はるかくん…」


風音さんは私とはるかを交互に見ると、目を閉じ、拳を強く握った。そして静かに口を開く。


「……わかった…信じて待ってる…仕事の事も、無期限活動休止って事にしとくから、戦いが終わって落ち着いたら、いつでも帰って来なさい!」

「!…ありがとう、風音さん!」


私は嬉しさのあまり、風音さんに抱き付いた。


「よかったな、夏希…アイドル辞めないで済んで…」


はるかは微笑むと、優しく私の頭を撫でてくれた。


「うん!」


風音さんの顔から、不安や恐怖が消える事はなかったけど、彼女は強い人だ。最初に比べたら、幾分か表情が和らぎ、いつもの明るさや優しさが戻っていた。

それから暫くして風音さんと別れた私達は、かなり遅れて、私達の通う十番高校へと向かった。


「そう言えば、今日球技大会だっけ?」

「あれ…今日だっけ?」

私の質問に、はるかも忘れていたのか首を傾げた。


「もう…本当に、興味ない事は何も覚えないんだから…」

「仕方ないだろ?僕は、モータースポーツと、夏希にしか興味ないんだから…」

「っ…そ、そんな事言ったって…誤魔化されないんだからね!」

「そりゃ、残念…」


恥ずかしくて顔を赤くする私に対し、はるかは余裕な笑みを見せた。

それから少しして、学校に着いた私達は、教室には向かわず、熱の籠った実況アナウンスが聞こえる、グラウンドの方へと向かった。

私達がグラウンドに着くと、たくさんの生徒が見守る中、我がクラス1年1組と、3年生のチームが試合をしているようだった。


「おーっと、月野選手!またエラーです!」

「全く特訓の成果が見られませんねー。」


どうやら、実況アナウンスをしていたのはレイと美奈らしい。何故他校のレイが実況をしているのかは謎だが、2人の息の合ったアナウンスは、聞いていてとても楽しかった。

それに対し、試合に出ているうさぎはと言うと、頑張ってはいるものの、一向に球が捕れずにいるらしい。


「あ!おしい…!」

「お団子の奴、頑張ってるな…」

「うん、球技…と言うか、スポーツ全般苦手なはずなのに、チームの為に、苦手なりに一生懸命頑張ってる…。私、うさぎのああ言う頑張りやなとこ、好きだなー…」


私がうさぎの頑張っている姿を見ながら小さくそう呟くと、はるかがこんな事を問い掛けて来た。


「それじゃ、僕の好きな所は?」

「は、はるかの好きな所は……秘密!はるかには教えない!」



はるかの質問に素直に答えようと思ったが、答えるのを寸の所で止めた。

そして私の回答にはるかは首を傾げた。


「どうして?」

「だって…面と向かって言うの、照れ臭いって言うか…恥ずかしいんだもん…」


頬を染め、もじもじと照れながら言う私を見て、はるかは小さく笑うと私を引き寄せると抱きしめた。


「ちょっ、こんな所で…人が見てる!」


いつものメンバーだけならまだしも、ここには大勢の生徒が集まっている。そんな中抱きしめられた私は、恥ずかしさからはるかにちょっとだけ抵抗した。


「大丈夫だよ…皆試合に集中してて、こっちを見てないさ。もし、仮に見てる奴がいたとしても、見たい奴には、見せ付けておけばいい…」


はるかはそう言うと、更に腕の力を強めた。私を解放する気はさらさらないらしい。それをすぐに理解した私は、抵抗するのをそうそうに諦めた。


「もう…皆にからかわれたら、はるかのせいだからね!」

「いいよ…可愛い夏希を、僕の腕の中に閉じ込めていられるなら、何だっていい…」

「…バカ…」


私は小さくそう呟くと、彼の胸に顔を埋めた。可愛いって言われて、嬉しさでニヤけた顔を誰にも見られたくなかったから。

私とはるかがそんな事をしている間も、当然の事ながら試合は続き、0-0のまま、ついに最終回へと突入した。しかし、最終回に近付くに連れ、空模様は怪しいものへと変わっていく。


「おーっと!0-0のまま、ついに最終回に突入しました!」

「一体、どちらのチームの手に優勝が…!」


レイと美奈の熱の籠った実況は、最終回に突入した事で、更にヒートアップしていた。そんな時、2人の高まった熱を冷ますかのように、ポツポツと雨が降り出した。


「ん?ありゃ、雨が降って来ましたね…」

「これは一時休戦ですね〜…」


レイと美奈の声に、選手、そして試合を見ていたギャラリーは、すぐに屋根のある場所へと非難した。



―――――



校舎の中へと逃げ込んだ私とはるかは、みちると合流し、はるか達と音楽室へと向かった。


「遅かったわね、2人とも。」

「すまない、風音さんと会ってたんだ…」

「風音さんと…?夏希、仕事だったの?」

「ううん…風音さんに大事な話があって、それで会ってたの。みちるにも聞いて欲しい事だから、聞いてくれる?」

「まあ、何かしら…」


音楽室の扉に鍵を掛け、カーテンを閉め、私達以外誰もいない、静まり返った空間を作り出すと、私はクイーンの姿へと変身し、ロッドを掲げ、はるかに見せたように、みちるにも同じ太陽系の映像を見せた。


「!これは…!!」

「…時が動き始めた。これを見れば、わかると思うけど、もう間もなく、地球は闇に呑み込まれてしまう…」

「地球が完全に闇に包まれた時、この地球は終焉の時を迎える…夏希はそう言っていた。」

「地球の、終焉…?」


私はみちるの言葉に頷くと、昨晩私が見た夢の内容をゆっくり語り始めた。


「夢の中で、誰かが言うの…時の歯車が回り始めた。間もなく、終焉の時を迎えるだろうって…。それと同時に、眩い星の輝きが消え、地球は暗黒に包まれ、滅んで行く映像も見た…」

「時の歯車…一体、どう言う事なのかしら…」

「夏希は、僕達戦士の運命に関わる何かが、終焉に向かうきっかけになるんじゃないかって…」

「戦士の、運命に関わる何か……ダメだわ…情報が少な過ぎて、全然わからない…」

「やっぱりそうか…このままじゃ…」

「!!」


私はクイーンの姿から、一瞬にしていつもの姿に戻ると、勢いよく窓の方へと振り返った。


「夏希?」

「どうしたんだ…?」


私の行動を疑問に思ったのか、2人が不思議そうに私を見つめる。


「敵よ!また小さな輝きが1つ消えた!」

「「!!」」


私達はアイコンタクトを取ると、それぞれ変身スペルを口にした。


「ウラヌス・クリスタルパワー!メイクアップ!」

「ネプチューン・クリスタルパワー!メイクアップ!」

「コスモイノセントパワー!メイクアップ!」


変身を終えた私達は、すぐに敵の元へと走った。



―――――



私達が到着すると、既にセーラームーンとファージが戦闘を開始していた。しかしセーラームーンは攻撃を避けるのに必死で、敵の動きまで気が回らないようだった。

そんな時、この近くに隠れていたのか、ちびちびちゃんが姿を現した。ちびちびちゃんを発見したファージは、すぐに標的をセーラームーンからちびちびちゃんへと変更した。


「何してるのかな?お譲ちゃん…」

「危ない!ちびちびちゃん!!」

「ワールド・シェイキング!」


ウラヌスの攻撃がファージに当たった。その隙に、ネプチューンがちびちびちゃんを抱きかかえ、ファージから距離を取る。


「ちびちび!」


セーラームーンが慌ててこっちに駆け寄って来た。ネプチューンはそれを見て、ちびちびちゃんをセーラームーンに渡した。その瞬間、セーラームーンは温かい光に包まれ、ちびちびちゃんは戦士の姿へと姿を変えた。


「この光は…!」

「一体、何が起こっているんだ…?」

「なんて温かい光なの…」


「!ちびちび…あなた、セーラー戦士だったの…?」

「ちびちび!」


セーラームーンの問い掛けに、ちびちびちゃんが可愛らしく笑った時、セーラームーンの前にエターナルティアルが現れた。


「どうして、ティアルが…」

「!セーラームーン!ティアルを取って!私が変身出来なくなった時も、ちびちびちゃんのおかげでまた変身出来るようになったの!もしかしたら、セーラームーンにも新しい力が…!」

「!!わかった…!」


セーラームーンがティアルを手に取った瞬間、膨大なエナジーが、彼女の中に流れ込んだ。


「…強い、浄化の力…これなら!シャインちゃん!」


私は頷くとロッドを取り出し、浄化技のスペルを口にした。それとほぼ同時に、セーラームーンも、ファージに向かって浄化技を放った。


「イノセントハート・シャイン・リザレクション!」

「シルバームーン・クリスタルパワー・セラピー・キッス!」

「ビューティフォー!!」


私達の浄化技を食らったファージは、元の人間の姿へと戻った。それを見て一安心着いた所で、セーラーアルーミナムセイレーンが、セーラームーンに対し、攻撃を仕掛けて来た。


「見付けましたわ!まさか、あなたみいたいな人が、真のスターシードの持ち主だったなんて…!」

「!!」

「え…?」


セイレーンと取っ組み合いになっていたセーラームーンは、セイレーンの言葉に聞き返した。一方で私は、セイレーンの言葉を聞いて、夢で言っていたきっかけになる何かとは、この事なんじゃないかと考えた。

そんな時、セーラースターファイターの攻撃が、セイレーン目掛けて放たれた。


「スター・シリアス・レイザー!」

「!!」


攻撃にいち早く気付いたセイレーンは軽々と攻撃を避け、また日を改めると言い残し去って言った。


「「セーラームーン!」」

「大丈夫?」

「う、うん…平気…スターライツも、助けてくれてありがとう…」

「…一体、何があったの?」

「うん…それがさ、あたしにもよくわかんないんだよね!」

「「「はぁ!?」」」


そう言うとセーラームーンは笑って誤魔化した。そんなセーラームーンにスターライツの3人は呆れたような目を向け、苦笑するとさっさと去って行った。

そして3人が立ち去った後、誰もいない事を確認した私達は変身を解いた。変身を解いてすぐにうさぎはファージにされてしまった人の元へと駆け寄り、彼女に声を掛けた。

そんな姿を見ながら、私は小さくセイレーンの言った言葉を呟いた。


「…セーラームーンが、真のスターシードの持ち主…」

「夏希…?」


私ははるかの問い掛けに答えず、じっとうさぎを見つめた。


「(時が、動き始めた…)」
to be continued...
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