始業式
9月1日、怒涛の夏休みを終えた私は、疲れた表情で2学期最初の日を迎えた。

あの後、映画の撮影を終えた私は、残りの夏休み期間全てをオフにしてもらった。このオフを使って、旅行に行って羽を伸ばすなりなんなりすればよかったんだろうけど、私にはやらなければいけない事があった。

それは、夏休みに入る時に出された課題の数々…要は、夏休みの宿題、ってやつだ。普段の私なら、夏休みに入ってすぐに片付けちゃうんだけど、今回は映画の撮影に追われて、最後まで宿題に手を付ける事が出来なかったのだ。

だから私は、このオフ期間を使ってどこかに旅行に行くでもなく、遊びに行くでもなく、家に籠って黙々と宿題を片付けたのだ。


「あー…眠い…あれだけ長い休みだったのに、全然遊びにも行けなかったし、休めもしなかった…」

「そうだな…この夏は、特に忙しかったからな…」


私とはるかは屋上に来ていた。体育館では今、始業式が行われている。私は疲れている事もあり、始業式なんて出る気力もなく、屋上でサボる事にしたのだ。


「あーあ…映画の仕事、引き受けなきゃよかったかなー……」

「そんな事言って…断ってたら断ってたで、後悔するんだろ?」

「うん…まあ…。でも、はるかと一緒にいる時間がなくなる事に比べたら、映画断った方がよかったかなー…なんて、ちょっとだけ思ったの。」

「…寂しかった?」

「寂しかったよ…一緒に住んでるはずなのに、はるかがすごく遠くに感じたもん…」


私ははるかに抱き付き、彼の胸へと顔を埋めた。それをはるかは抱き返し、優しく頭を撫でてくれた。


「僕はここにいる…ずっと、夏希の側にいるよ…」

「うん…」

胸に顔を埋めたままの私の頭に、はるかはそっと口付けた。それに気付いた私は、少し不満げな表情をし、胸に埋めていた顔を上げ、彼を見上げた。


「…そこなの?」

「どこがよかった?」

「そ、それは、察してよ…!」


はるかの質問に私は顔を赤くし、再び顔を隠した。恥ずかしくて仕方なかったからだ。


「僕のプリンセス…こっちを向いて?」

「…意地悪しない…?」

「しない。約束するよ…」


はるかのその言葉に、私は隠していた顔をゆっくり出した。するとはるかは、私が顔を出すなり、私の頬に手を添え、そっと口付けて来た。


「プリンセス、ご満足頂けましたか?」


数秒重なっていた唇を離すと、はるかは優しく微笑みながら私にそう問い掛けて来た。


「…バカ…」


そんなはるかの言動に、私は顔を赤く染め、照れ隠しに小さく悪態を吐いた。


「バカでもいいよ…こんなに可愛い夏希が見られるならな…」


そう言ってはるかは、私を腕の中に閉じ込めた。



―――――



あれから、暫く時間を潰した私達は、始業式が終わる頃を見計らって、それぞれの教室へと戻った。

私が教室に戻ると、既にいつものメンバーは教室に戻って来ていて、私の姿を見るなり駆け寄って来た。


「あー!夏希ちゃんだ!」

「もう、始業式サボって何処行ってたのよ!」

「ごめんごめん…はるかと一緒に屋上にいたの。始業式出る元気なくてさ…」


うさぎと美奈の質問に苦笑交じりで答えた私に、亜美とまことは心配そうに私に問い掛けて来た。


「夏希ちゃん、大丈夫かい?」

「顔色、あんまり良くないわよ…具合が悪いなら保健室に…」

「あー、大丈夫。夏休み忙しくて、全然休めなかったからちょっと疲れてるだけなの。だから心配しないで?具合悪いとかじゃないからさ…」


私の言葉を聞いて2人は安心したのか、ホッとした表情を見せた。


「全然休めなかったって…夏希ちゃん、夏休み中ずっと仕事だったの?」

「まあ…そんな感じかな?全くオフがなかったわけじゃないけど、休んだり、遊んだりしてる暇はなかったかな…」

「へぇー…そんなに忙しかったんだ…」

「うん…。夏休み中に映画の撮影やってたからさ、暫くは分単位のスケジュールだったんだ…」

「「「「えぇ!?分単位!?」」」」


私の話を聞いた4人は声を揃えて驚いた。


「映画撮りながら、他の雑誌の仕事とか、歌の仕事もやってたからさ…気付けば分単位のスケジュールになってて…」


私は苦笑を漏らしながら4人に話した。


「それだけ忙しかったんじゃ、そりゃ遊ぶ暇なんてないわよね…」

「ねぇねぇ、夏希ちゃん…そんなに忙しかったんじゃ、夏休み中はるかさんに会えなかったんじゃない…?」

「あー…うん…。まあ、毎日会ってたには会ってたけど、会えてないって言うか…」

「…?どう言う事?」


私の言葉に、うさぎは首を傾げた。それを見て、私は順に説明を始めた。


「えっとね、つまりは……一緒に住んでるから、毎日顔は合わすんだけど、スケジュールの都合で生活時間は合わないし、はるかも仕事でいなかったりしたから、擦れ違い生活…みたいな感じかな…?」

「はぁー…そうなんだ…」


どうやら、うさぎは私の下手な説明で納得してくれたらしい。

あんな下手な説明でも、伝わってよかったと安堵していたら、美奈が驚いたままの顔で私に問い掛けて来た。


「え…?夏希ちゃん…はるかさんと同棲してるの…?」

「え?うん、たまに自分の家に帰る事もあるけど、ほとんど私の家で一緒に生活してるよ?」


私が美奈の質問に平然と答えると、うさぎ、亜美、まこと、美奈は声を揃えて驚いた。


「「「「えぇえええええええ!?」」」」

「え…そんな驚く事?ってか、皆に言ってなかったっけ…?」

「「「「聞いてないわよ!!!」」」」

「えっと……ごめんなさい…?」


私は4人の勢いに驚き、そして(一応)謝った。



―――――



「それで?はるかさんとは、いつから同棲してるの?家ではどんな感じなの?2人はどこまで進んだの?まさか、もう大人の階段登っちゃった!?」

「あ、あの…出来れば、もう少し静かにして欲しいんだけど…」


美奈の勢いの良さに、私は苦笑を漏らした。あの後、すぐにHRが始まってしまい、私から何も聞き出せなかった美奈は、HRが終わり放課になるこの時間をずっと待っていたらしく、HRが終わり、放課になるとすぐに私の席まで飛んで来た。

それからはずっとこの調子で質問攻めにあっている。


「えっとー…?」

「2人はいつから同棲してるの!?」

「うーん……いつからって言われても、気付いたらいつの間にかって感じだから…」

「それじゃあ、寝る時はどうしてるの?」

「私のベッドで一緒に寝てるけど…」


私の答えを聞くなり、美奈を筆頭に皆がキャーキャー騒ぎ始めた。


「それじゃ、お風呂は!?」

「お風呂は……その日によるかな?1人の時もあるし、一緒に入る時も…」

「「「「あるの(ね)!?」」」」

「う、うん…まあ……」


私は皆の食い付きに苦笑を漏らした。その時、これまたタイミングよくはるかが教室まで私を迎えに来た。


「夏希、帰るぞ。」

「「「「はるかさん!!」」」」

「な、何だ…?」


はるかを見付けた瞬間、皆の標的は私からはるかへと変わった。先程よりも勢いのいい皆に、はるかの頬は若干引き攣っていた。


「夏希ちゃんと一緒に住んでるんですか!?」

「寝る時は一緒のベッドでって本当ですか!?」

「お風呂も一緒に入るって本当なんですか!?」

「ぶっちゃけ、2人はどこまで進んだんですか!?」


4人がそれぞれ、すごい勢いではるかに質問した。はるかはそれに苦笑しながらも1つ1つ応えていく。


「一緒に住んでるかって言われたら…まあ、イエス…かな?お風呂は、たまに一緒に入る事もあるけど、ほとんど1人だな。夏希が恥ずかしがって一緒に入ってくれないから…でも、寝る時は毎日一緒に夏希のベッドで寝てるよ…」

「ちょっと!余計な事は言わなくていい!」


はるかの回答に、私は顔を真っ赤に、皆は悲鳴に近い声を上げた。


「そ、それじゃあ、ずばり…!2人は一体、どこまで進んだんですか…!?」

「それは…」

「答えなくていい!!帰るよ!」


美奈の質問にはるかが答える前に、私ははるかの言葉を遮り、はるかの腕を引っ張って皆から逃げるように教室を後にした。


「いたたたた…っ…おい、夏希!そんなに引っ張るなよ…」

「うるさい!今日は優しくなんてしてやんないんだからね!」


顔を真っ赤にした私が何を言っても怖くなんてないんだろうけど、恥ずかしさでいっぱいな私は、ちょっと怒ったような口調ではるかに言った。

だけど、やっぱりはるかには、それがただの照れ隠しだって事がバレてて、可愛いなんて言われてしまった。


「か、可愛くなんかないし…!」

「可愛いよ。誰よりも、ね…」
「……バカ…」


嬉しさと恥ずかしさで、耳まで真っ赤に染まった顔を見られたくなくて、私ははるかから顔を逸らした。

そんな私を見て、はるかは小さく笑った。
to be continued...
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