太陽と風
私が太陽系のクイーンとして覚醒して、早数日が過ぎた。夏休みも始まり、私は主演映画の撮影に、日々追われていた。


「はい、カーット!OK、次のシーン行こう!この調子だと、予定より早く撮り終われそうだな!」

「本当ですか監督!?やった!」


私は監督の言葉に素直に喜んだ。映画の撮影が早く終わると言う事は、それだけはるかと一緒に過ごす時間が増えるって事だ。これを喜ばずにどうすると言うのだ。

心配性なはるかは、警護との名目で自分の家には帰らず、今でもずっと私の家で生活してるから、一応毎日顔は合わせている。だけど、夏休み期間内に全てのシーンを撮り終えなければいけない私は、朝早くから、夜遅くまで仕事で、家に帰っても疲れてすぐに寝てしまう事が多く、はるかとの会話が減ってしまった。

今が夏休みとかじゃなくて、普通の休日や連休ならば、はるかも撮影現場に一緒に来るから会話が減る事はなかったんだろうけど、生憎今は夏休み期間中。はるか自身も、テストドライバーの仕事やらレースで忙しく動き回っていた。


「(はるかに会いたいな…近くにいても、顔を合わせるだけの関係じゃ寂しいよ…)」


私は空を見上げ、はるかを想った。



―――――



「!夏希…?」


僕はここにいるはずのない、愛しい恋人に呼ばれた気がして振り返った。しかし、そこにはやはり誰もいなくて、僕は小さく苦笑を漏らした。


「…幻聴が聞こえるなんて、そろそろ我慢も限界なのかもな…」


僕は暫くの間休んでいたテストドライバーの仕事を夏休みに入ってから再開した。その流れで、レースにも参加したりと、いろいろと忙しく動き回っている。

仕事があるのは有り難いと思うけど、夏希の側で、夏希の笑顔を見る事が出来ないのが残念で仕方ない。


「最後に夏希の笑顔を見たのはいつだったかな…」


夏休みに入ってからと言うもの、彼女は期間内に撮り終えなければいけない映画の撮影に追われ、朝早くから夜遅くまで頑張ってるせいか、家に帰って来てもすぐに寝てしまい、ろくに会話も出来ない状態がここ最近続いている。


「(抱きしめて、キスして、思いっきり甘やかしてやりたいな……夏希…今すぐ君に会いたい…)」


僕は愛しい恋人を想いながら、彼女の星である太陽を見上げた。



―――――



「Erikaさーん、撮影再開しまーす!」

「!はーい!」


私はスタッフに呼ばれ、撮影現場へと戻った。そしてテスト撮影の後、監督の合図で撮影が再開した。それから暫くして、再び監督の合図でカメラが止まった。

今撮ったシーンは、愛しい人に会いたくても会いに行けない、愛しさと切なさだけが残る…そんなシーンだった。今の私の心情に似ていたせいか、感情が入り過ぎてしまった。でも、そのおかげで監督にはいい画が撮れたと大絶賛された。


「お疲れさまでしたー!」

「お疲れさまでした。お先に失礼します!」


それから暫く時間が経ち、今日の撮影が終了した私は、風音さんの車で家まで帰った。今日はいつもより早く撮影が終わり、まだ明るい内に帰って来る事が出来た。


「ただいまー。」


この声に返事が返って来ない事から、はるかはまだ帰ってないのだと理解した私は、家の中に入ると部屋に荷物を置き、手を洗いとうがいを済ませると、エプロンを身に着けキッチンに立った。

せっかく早く帰って来たのだから、自分だって忙しいのに、文句1つ言わず、私の代わりに家事をしてくれているはるかの為に、何かしてあげたかったのだ。

そして私は冷蔵庫の中を確認すると、いくつか食材を取り出し、はるかの好きな物を作り始めた。

料理を始めて暫く経った頃、玄関の扉が開く音が聞こえ、はるかが帰って来たのだとわかった。それから少しして、はるかがリビングへと入って来た。


「おかえり、はるか。」

「ただいま。今日は早かったんだな…」

「うん!もうすぐご飯出来るから、ちょっと待ってて?」

「夏希と一緒に食事なんて久しぶりだな…」


そう言うとはるかは気のせいかもしれないが、嬉しそうに笑ったように見えた。ちなみに私は、はるかと一緒にいられるのが嬉しくて、最初からニヤけ顔全開。嬉しくて嬉しくて、止めたくてもニヤニヤが納まらない為そうそうに諦めた。


「随分と嬉しそうだな…何かいい事でもあったのか?」

「撮影が早く終わって、今はるかと一緒にいらえるのが嬉しく仕方ないの!」


私がそう言うと、はるかはすぐにキッチンまで来て私を後ろから抱きしめた。それと同時に、私は出来あがった料理を盛り付けていた手を止めた。


「せっかく料理の邪魔をしないように我慢してたのに、夏希が可愛い事を言うから邪魔したくなったじゃないか…」

「そんなの、私のせいじゃないし…私別に可愛い事なんて言ってないもん…」

「言ったじゃないか…その可愛い口で、僕と一緒にいらえられて嬉しいって…」


はるかは私の顔を自分の方へ向け、数秒見つめ合った後、そっと口付けて来た。それから何度も、啄ばむように短いキスを繰り返した。


「…まずいな…夏希に触れるのが久しぶり過ぎて、止まりそうにない…」

「私も、もっとはるかに触れたい…今まで寂しかった…」

「夏希…」


私ははるかの方に向き直ると、はるかに抱き付いた。それをはるかもしっかりと抱き留めてくれた。


「1秒だって君を離したくない…」

「うん…」

「愛してる…」

「私も…」


私達はキッチンで何度もキスを交わしては、何度も愛を囁き合った。

今まで一緒にいすぎたせいか、ほんの何週間か触れ合えない事が、話が出来ない事が、私達にこんなにも寂しさを募らせた。

私達はリビングに移動すると、ソファーに座って、今まで話せなかった分いろいろ話し始めた。


「ねぇ、はるか…」

「何…?」

「私さ、アイドル辞めた方がいいかな…?」

「どうしたんだ?急に…」


はるかは私の発言に驚いた顔をし、どうしたのかと尋ねて来た。それに私は素直に答える。


「覚醒したばっかとは言え、太陽系を統べる私が、こんな時にアイドルなんてやってていいのかな、って………それに、またいつギャラクシアが動き出すかわかんないし…戦士として、そしてクイーンとして、今何をすべきなのか…とか、いろいろ考えちゃって…」

「……そうだな…夏希はアイドルの仕事が好き?それとも嫌い?」

「?仕事は好きだよ…?確かに大変だけど、楽しい事いっぱいあるし、遣り甲斐があるもん。」

「そうか…それなら、まだ続けてもいいんじゃないか?」

「…どうしてそう思うの?」


はるかの言葉に、私はそう思った理由を彼に尋ねた。


「クイーンだからとか、戦士だからとか、そんなのただの逃げにしか過ぎない。本当に好きなら、我慢しないで、自分の気の済むまでやればいい…」

「!」

「…これ、1年前の夏希が僕に言った言葉。使命の為に、夢を諦めていた僕に、戦士だからって自分の夢を諦めるなって言ってくれたのは夏希だろ?使命感に囚われていた僕に、はるかの分まで私が頑張るから、はるかは好きな事していいよって言ってくれた事、覚えてない…?」

「……覚えてる…」


私の呟きにはるかは微笑むと、言葉を続けた。


「今度は僕が夏希の分まで、この地球と太陽系の為に頑張る。だから戦士だとか、クイーンだからって理由で、夏希が好きなアイドルの仕事を辞める必要なんてない…」

「はるか…」

「僕はいつまでも、夏希を応援してるよ…」

「!ありがとう、はるか…!」


私ははるかの言葉が嬉しくて、はるかにお礼を言うとそのまま勢いよく抱き付いた。はるかはそれをしっかりと抱き留めると、小さく笑みを浮かべ、優しく私の頭を撫でてくれた…


「(大好き、私だけの王子様…)」


私は心の中でそう呟くと、はるかの腕の中で、はるかの隣にいられる幸せを噛み締めながら目を閉じた。
to be continued...
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