覚醒の刻
災厄を秘めし者…敵の親玉がうさぎの前に姿を現したあの日から、数日が経った。あの後、私達3人はうさぎを呼び出し、何があったのかを彼女から聞き出した。

多少混乱はあったものの、彼女の話によれば、今回の敵……セーラーギャラクシアは、失敗続きのセーラーアイアンマウスは用済みだと、彼女達の前でアイアンマウスを跡形もなく消してしまったらしい。そして、こうなりたくなくば、このセーラーギャラクシアに逆らうな、そう言い残して去って行ったと…

私、はるか、みちるの3人は、私の家でうさぎから聞いた話について話し合いをする事にした。


「セーラーギャラクシアか…」

「そんな戦士、今まで一度だって聞いた事ないわ…」

「…私は、ある…」

「!ギャラクシアについて何か知ってるのか!?」

「…昔…まだ太陽にいた頃、セーラーギャラクシアについての伝説を聞いた事があるの…」

「その話、聞かせてくれるかしら…?」


私はみちるの言葉に頷くと、目を閉じ、自分の記憶を遡るようにゆっくりと話し始めた。


「…遥か昔、銀河創世期より続く、セーラー戦士と、人の負の感情から生れし、全ての悪を生み出す根源…混沌との戦い。その名を、セーラーウォーズと称す。この戦いは、長きに渡り続いた。人々は倒れ、星々は滅び、戦いに赴いた戦士も次々と倒れ、たくさんの犠牲を生み出した。しかし、その戦いも、銀河最強と謳われるある一人の孤独な戦士によって、漸く終結を迎えた。その戦士の名を、セーラーギャラクシアと称す…」

「「!!」」

「彼女は悪の根源、混沌を自らの体内に封印する事によって、この戦いを終結させた。しかし、混沌は封印されても尚、その力を増幅させ、彼女の体を蝕んでいった。それに気付いた戦士は、全てを蝕まれてしまう前に、例え自我を失っても、いつか自分を止めてくれる人へ、混沌に対抗出来る、唯一の希望の光を、宇宙の遥か彼方へ、大きな愛の力で全て包み込んでくれる人の元へと解き放った……」

「夏希…この話は一体…」


話し終えた私が目を開けると、はるかが私に問い掛けて来た。


「…私がはるかやみちると出逢う前、まだ、先代のクイーン…私のお母様が健在だった頃、お母様に聞かされた話よ…。最初は、おとぎ話か何かだと思った…。でも、違ってた。セーラーギャラクシアも、混沌も…確かに存在した。…伝説の戦士、セーラーギャラクシアは、混沌に体と意識を支配され、たくさんの悪を生み出し、たくさんの星を滅ぼした…。今回の敵はもちろん、デス・バスターズや、その親玉だったファラオ90も、元は全て混沌から生まれた存在…」

「!まさか…っ…」

「…じゃあ、この間お団子の前に現れたギャラクシアは…!」

「…体内に封印した混沌に呑まれ、支配されてしまったギャラクシアだと思う…」


私の話を聞いた2人は黙り込んでしまった。沈黙が続き、暫くして漸くはるかが口を開いた。


「……例えギャラクシアが、過去に銀河を救った伝説の戦士だとしても…」

「彼女が支配され、全ての悪の根源は混沌だとしても…!」

「「僕(私)達が必ず、プリンセスとこの地球(ほし)を守ってみせる!」」


この時、この2人は本当に逞しい戦士だと思った。普通の人なら、この話を聞くなり怯え、戦いを避けたがるだろう…でもはるかとみちるは、敵が誰であろうと、どんなに強くとも、この地球と、私達の為に戦い、必ず守ると力強く言った。


「はるか…みちる…私が言うのもなんだけど、無理はしないでね?」

「わかってる」

「大丈夫、私達を信じて…?」

「うん…!」


私の言葉に、はるかとみちるは優しく微笑むと無理はしないと約束してくれた。それにつられ、私も2人に向かって微笑んだ。



―――――



話し合いを終えた私達は、気分転換にと3人で外へと出て来た。人がいようが、暑かろうが、そんな事は気にも留めず、私とはるかは俗に言うカップル繋ぎで手を繋ぐと、私を真ん中にして、左にはるか、右にみちると言う並びで歩き始めた。

特に目的地も決めず、気の向くまま私達3人は住宅街を出て街中を歩く。自分で言うのも何だが、さすがに有名人が3人も揃っているとだと立ってるだけでも目立つのか、擦れ違う人皆が振り返って私達を見た。


「あっつーい…」

「夏だからな。」

「これだけ暑いと、水が恋しくなるわね…後で泳ぎに行こうかしら…」

「どこに泳ぎに行くの?」

「いつもの会員制のスポーツジムにあるプールよ。一緒に行く?」

「行きたい!はるかも一緒に行こうよ、プール!」

「そうだな…たまには泳ぎに行くか。」


こんな他愛ない話をして歩いていると、何かを探しているようなせつなの姿を発見した。


「あれ…?せつな…」

「あら本当…」

「何か探してるみたいだな…行ってみよう!」


はるかの一言に頷くと、私達はせつなの元へと向かった。せつなの近くまで行くと、彼女に声を掛ける。


「せつな!」


私の声に振り向いたせつなは、私達の登場に驚いた顔をしていた。


「!皆さん…!どうしてここに…」

「ちょっと散歩にね…」

「それより、何か探してるのか?」

「私達でよかったら手伝うわよ?」


私の言葉に、はるか、そしてみちるが続いた。


「ありがとうございます。私が探しているのは、ちびちびと言う小さな女の子なんです。ちょっと目を離した隙にいなくなってしまって…」

「わかった。小さい以外に、何か特徴とかある?」

「濃いピンクの髪をお団子に結んだ女の子です。たぶん、見ればすぐにわかります…あの子から、何か不思議な力を感じた…」

「不思議な力?」

「侵入者なのか?」

「わかりません…とにかく今は、その子を探して下さい!」

「「「わかった(わ)!」」」


せつなの言葉に、私とはるか、そしてみちるとせつなの二手に分かれてその女の子を探し始めた。


「小さなお団子頭の女の子…」

「…ここにはいないみたいだな…」


私達は今来た道を引き返し、大通りへと出た。


「!そうだ、警察!迷子の子供預かってないか聞きに行こう!」


私の提案にはるかは頷くと、私の手を引き警察署へと向かって歩き出した。

そして警察署に着き、中に入ると見覚えのあるお団子頭と、警察官の制服を着てはいるが、とても見覚えのある3人の男の子が小さな女の子と、うさぎのママさんを囲んで立っていた。


「!うさぎ!星野、大気、夜天も…!どうしてここに?」

「夏希ちゃん、はるかさん!夏希ちゃん達こそどうしてここに…?」

「せつなに頼まれて、迷子の女の子を探してたんだが……どうやら無事に見付かったみたいだな。」

「!ちびちびを、探してくれてたの…?ありがとう、2人とも…」

「いいの、気にしないで?それより、星野、大気、夜天…何で警察官のコスプレしてんの?」


私は最初に彼らを見た時から思っていた疑問をスリーライツの3人に尋ねた。


「別に、僕達だってしたくてこんな格好してるわけじゃないよ…」

「これも仕事ですよ。」

「俺達、今日1日、警察署長やってんだ!」

「へぇー……大気と夜天は兎も角、星野が警察署長って…何か似合わない…」

「夏希ちゃんもそう思う?やっぱそうだよねー!」


私の言葉に、星野とはるか以外の人間が笑った。はるかは鋭い目付きで星野を睨み、星野は私の言葉に凹んでいた。


「あ、別にその格好が変とかじゃないよ?ただ、星野は警察署長より、現場に出る刑事のが合ってるなかって思って…」

「刑事か……確かに、署内で書類整理とかよりは、現場に出て動き回る方がいいな!」

「でしょ?」


私と星野の話が落ち着いたところで、夜天が声を掛けて来た。


「それより夏希、彼氏放っといていいの?人1人殺せそうなくらいの目付きで星野の事睨んでるけど…」

「あはは…ごめん、気にしないで。はるか、帰ろっか?」

「…行くぞ。」

「じゃあね!また明日!」

「あー!待って!あたしも行く!!」


はるかは私の手を引き、足早に警察署から出た。それに続きうさぎも署内から出て来た。

警察署の中から出ると、そこにはせつなとみちるの姿があった。


「せつな!みちる!」

「あなた達…!」

「せつなさん達、どうしてここに…?」

「もしかしたらと思い来てみたのですが……どうやら無事見付かったようですね。」
せつなの視線の先にはいつの間に付いて来ていたのか、うさぎの後ろに隠れるようにしてちびちびちゃんがこちらを覗いていた。


「せつなさん、みちるさんも…探してくれてありがとう!」

「いいのよ、気にしないで?」

「ありがとう……あ!いっけない…皆の事忘れてた!レイちゃん達は…っ…」

「皆さんは何でも、スリーライツのパレードがあるとかで、そちらの方に…」


せつなの言葉に、はるか以外の人間が苦笑を漏らした。はるかはと言うと、まだ機嫌が直らないのかムスッとしたまま、表情を変えない。私はそんなはるかにも、小さく苦笑を漏らした。


「…ねぇ、はるか、こっち向いて?」


私の言葉に、はるかは素直に従った。私ははるかの頬に手を添えると、背伸びしそっと彼の唇に自分のそれを重ねた。


「!」


はるかは突然の私の行動に、驚き、目を見開いた。私はゆっくり顔を離すと、そのままはるかに抱き付いた。


「はるか、機嫌直して…?はるかがそんな顔してちゃ、せっかく一緒にいるのに、楽しくなくなっちゃうよ…」

「夏希…」

「…はるか、中で何があったのかは知らないけれど、あの夏希がここまでしてくれたんだから、もう機嫌直すしかなくてよ?」

「…わかった、機嫌直すよ…」


はるかは困ったようにそう言うと、抱き付いたままの私の頭を優しく撫でてくれた。


「うわぁああああああ!!」

「「「「「!!」」」」」


私達はアイコンタクトを取り、頷くと建物の陰に隠れて変身した。


「ネプチューン・クリスタルパワー!」

「ウラヌス・クリスタルパワー!」

「プルート・クリスタルパワー!」

「ブライトイノセンスパワー!」

「ムーン・エターナル!」

「「「「「メイクアップ!」」」」」


変身が終了し、敵の所に向かおうとした瞬間、何故か私の変身だけが解けてしまった。


「!どうして…!?」


私の異変に気付いた皆は、敵の所に向かおうとした足を止め、私の方へと振り返った。


「!夏希の変身が…!」

「そんな…!」

「何故こんな事が…」

「…っ…それよりも早く行ってファージを止めなくちゃ!」


セーラームーンは申し訳なさそうな顔をしながらも、敵の方へと向かって行った。私は動揺しながらも、ネプチューン、ウラヌス、プルートにもセーラームーンの後を追い、彼女のサポートをするよう言った。

彼女達は心配そうにしながらも、もう1人のプリンセスを守る為、セーラームーンの後を追った。それを見送った後、私は地面に力なく座り込んだ。


「…何で…どうして変身出来ないの…?今まで、こんな事一度も……!」


私は左手首のブレスレットを見た。そこで私はある事に気付いた。 いつもと何ら変わりないように見えるが、守護石であるクリアトパーズの力が弱く、かなり不安定なものになっていたのだ。


「そんな…どうしてこんな急に…!私は、この地球を、地球の人々を…皆を守らなきゃいけないのに…!!お願い、クリアトパーズ!輝きを取り戻して…!!」


私はブレスレットを胸の前で強く握り、願った。その瞬間、私は温かい光に包まれた。


「!?これは一体…」

「目覚めるのです…」

「誰!?」


私は突然聞こえた声に、勢いよく振り返った。そこにいたのは、戦士の格好をしたちびちびちゃんと、先代のクイーン…私の、エリカ時代のお母様だった。


「ちびちびちゃん……お母様!」

「大きくなりましたね、エリカ…私の可愛い娘…」

「お母様…」


私は懐かしい母の顔に、涙が零れた。お母様も、私を見つめながら、微笑み、涙を流していた。


「お母様……私、この美しい地球を、地球の人々を、愛する人達を守りたいのに…変身、出来なくなっちゃった…っ……」

「大丈夫よ、エリカ……私はその為に現れたのです。心を強く持って…今こそ、あなたが、真のクイーンとして目覚める時なのです。さあ、そのブレスレットを前に…」


私は、お母様の言う通りに、ブレスレットを前に差し出した。するとちびちびちゃんが私に近付いて来て、私のブレスレットにそっと触れた。その瞬間、とても温かいエナジーが私の中に流れ込んで来て、胸の奥が熱くなった。


「さあ、目覚めの時です!真の太陽系のクイーン、ネオ・クイーン・エリカ!」

「(…何て叫べばいいのか、自然と浮かんで来る…言葉が、力が込み上げて来る…!)」


私は立ち上がると左手を掲げ、太陽に向かって叫んだ。


「コスモイノセントパワー!メイクアップ!」


そう叫んだ時、今までに感じた事のないような輝きとエナジーを自分の中に感じた。


「「「「「「「!!」」」」」」」


ファージと戦闘中だったセーラームーン、ウラヌス、ネプチューン、プルート、スターライツは、一斉に振り返った。


「何!?」

「何だ、あの膨大なエナジーは…!?」

「っ…!ウラヌス!」

「大変!」

「向こうには夏希が!」


プルートの言葉に、ウラヌスとネプチューンは戦闘をセーラームーン達に任せ、エナジーが放出された場所へと向かって走り出した。


「…すごい…力が湧いて来る…ありがとう、お母…!」


変身を終え、私が振り向いた時には、もう既に母の姿はなかった。そこに残っていたのは、変身を解いたちびちびちゃんだけ…


「お母様…」


お礼を言う前に、母は消えてしまった。私は変身出来た喜びの他に、少しだけ寂しさを感じた。その時、ちびちびちゃんが近寄って来て、そっと私に触れた。


「だいじょーぶ。」


そう言ってちびちびちゃんは、可愛らしい笑顔を私にくれた。そんなちびちびちゃんを抱き上げ、私はお礼を言った。


「ありがとう、ちびちびちゃん…」

「ちびちび!」


ちびちびちゃんは再び可愛らしい笑顔を私に向けてくれた。その時、慌ててウラヌスとネプチューンがやって来た。


「「夏希!」」


私は突然後ろから声を掛けられ、驚いて振り返った。そこにいたのは、よく見知った2人。


「!ウラヌス!ネプチューン!」

「!そのお姿は…」

「ネオ・クイーン…」


2人は私の姿を見るなりその場に跪いた。


「真の太陽系のクイーンとして覚醒されたのですね…」

「御無事でよかった、我らがクイーン…」

「ちょ、ちょっと2人とも!そんな事しなくていいから…!!」


私はちびちびちゃんを下ろすと、慌てて2人を立たせた。そして立ちあがったウラヌスとネプチューンは、すぐに私を抱きしめて来た。


「本当に無事でよかった…また君を失うかと…」

「本当、寿命が縮んだわ…」


2人は私を抱きしめると、静かにそう言った。私は2人を抱きしめ返すと、彼女達に小さく謝った。


「ごめん、心配掛けて…」


2人は私の顔を見ると、漸く安心したのか小さく微笑んだ。


「!そんな事より敵は!?」

「それなら問題ありません。もう片付きました。」

「夏希ちゃん!」


私が慌てて2人に問い掛けた時、2人の後ろから現れたプルートが私の問い掛けに答えた。プルートの後から、セーラームーンも慌ててやって来た。

それを確認したウラヌス、ネプチューンは私から離れ、私を挟むようにして立った。


「!ネオ・クイーンとして覚醒なされたのですね…」

「そっか…無事でよかった…」

「ちびちび!」


プルートに続き、セーラームーンも安堵の息を漏らした。そしてセーラームーンの姿を確認したちびちびちゃんは、セーラームーンの元へと走って行った。


「ちびちび!あんた、どうしてこんな所に…」

「どーして?」


ちびちびちゃんは、ニコニコしながらセーラームーンの言葉を繰り返すだけで、何も答えなかった。

私はそんなちびちびちゃんを見て、心が温かくなるのを感じた。


「(本当に不思議な子…うさぎと同じようなオーラを感じる……あの子は一体、何者なんだろう…)」


私はそんな疑問を胸に抱きつつも、変身を解くと、はるかとみちるを連れてその場を後にした。
to be continued...
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